ブックレビュー 山本孝夫『英文ビジネス契約フォーム大辞典』

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英文契約実務者のバイブル『契約書大辞典』の姉妹編。手厚い秘密保持契約の解説だけをとっても、やはり手元に置いておきたい一冊。一方で高額な専門書であるだけに、前著との関係を把握されてから購入されることをおすすめします。

書籍情報

英文ビジネス契約フォーム大辞典
  • 著者:山本孝夫/著
  • 出版社:日本経済新聞出版社
  • 出版年月:20190222

『英文ビジネス契約書大辞典』の姉妹編

契約法務のためのブックガイド2019」でも紹介した『英文ビジネス契約書大辞典』。1300ページを超える圧倒的なボリューム、サンプル条項の量を有し、また英文契約書を読み書きするのに必要な契約基礎知識の一切が詰め込まれた、英文契約実務に欠かせない一冊です。

それに対し、今回ご紹介する『英文ビジネス契約フォーム大辞典』は、タイトルから、ただひたすらフォーム(書式)がたくさん収録されている本なのだろう、と期待したのですが、開いてみると若干様子が違いました。

『英文ビジネス契約書大辞典<増補改訂版>』(日本経済新聞社)を2014年2月に上梓して5年が経過した。その上梓の際に、書籍のボリュームの大きさ、執筆・編集時間などの制約により、増補改訂用に執筆した原稿で収録しきれなかったものや、執筆・編集途中で収録を断念した原稿があった。(中略)本書は、そのような2014年の増補改訂時に収録しきれなかった原稿、領域、分野を中心に、その姉妹編として上梓するものである。(Pi〜ii)

このはしがきにもあるとおり、前著『契約書大辞典』を補充するものというのが、本書の正しい位置付けになります。

秘密保持契約例とRECITALS(契約締結に至る経緯)の記載例が手厚い

本書の最大の見どころは、英文秘密保持契約論が述べられた第1部にあります。全体800ページ弱のうち、冒頭130ページがこれに割かれています。

このパートに相当な労力を費やしたであろうことは、整然とした目次を見ても一目瞭然。

山本孝夫『英文ビジネス契約フォーム大辞典』目次

著者山本孝夫先生が、法律専門誌での連載でもしばしば触れられていた、日本的な「善管注意義務」がそのままでは通用しない英米圏において、それに近い義務を契約上どのように設定するかといった各論についても、豊富な条項のバリエーションとあわせて整理・解説がなされていました。

山本孝夫『英文ビジネス契約フォーム大辞典』P94-95

また、通常の契約書書式集では省略されてしまいがちな、契約書冒頭のRECITALS(契約締結に至る経緯)のサンプルが多数収録されているのも、山本先生の本の特色です。

本来、「契約に至る経緯」は千差万別であるはずで、ひな形からコピー&ペーストすべきものではないわけですが、ただでさえ英語が不得手な日本人が慣れない英文契約書を書き始めようとする際に、ガイドが何もないのは心細いもの。日本の実務者のRECITALSの水準を知る貴重な資料でもあります。

秘密保持契約書は、初学者が契約書をドラフティングできるようになるまでのトレーニング教材としてもよく使われます。その際の参考になるような、日本語ベースでまる一冊集中的に秘密保持契約を取り上げた実務書としては、森本大介ほか著『秘密保持契約の実務』(中央経済社、2016)があります。それに対し、英文版NDAを集中的に取り上げた実務書が少ないことが、長らく悩みでもありました。

本書の第1部は、そうした初学者に秘密保持契約を通して英文契約の基礎を徹底的に学んでもらう教科書的ニーズにも対応できる厚みを備えています。

純粋なフォーム(書式)集ではないことに注意

一方で、冒頭でも述べたように、本書はあくまで『契約書大辞典』に収録できなかった要素を補充するものであって、純粋なフォーム(書式)集ではない点は注意が必要だと思います。

一応タイトルに配慮されたのか、もっとも力が入った秘密保持契約書のほか、

については、ほぼ通しに近い契約フォームが収録がされています。しかしながら、以下画像のような「対訳付き条項例」がブロック状に並べられたものにとどまっており、そのデザインやレイアウトは必ずしも見やすいとはいえず、率直に言ってこの点は期待とは違うものでした。

山本孝夫『英文ビジネス契約フォーム大辞典』P8-9

前著『契約書大辞典』が1300ページ弱で24,000円、それに対し本書『契約フォーム大辞典』が800ページ弱で28,000円。ほぼ2倍近くに跳ね上がったページ当たり単価も、気になる点です。

あくまで前著『契約書大辞典』を購入し読破した上で、さらに自らの手控えとして貯め込む条項パターンや言い回しを立体的に増やしたい英文契約実務者のための超専門書、といった位置付けになると思います。

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(橋詰)