法律・法改正・制度の解説

トラストサービス法制の行く末を占うキーワードは「DFFT」


G20で提唱され、2019年版IT政策大綱にも刻まれた新たなキーワード「DFFT」により、20年近く改正されないままだった電子署名法が、新時代のトラストサービス法へと生まれ変わる可能性が高まってきました。

総務省による「トラストサービス」法制化中間取りまとめ

平成31年1月31日から令和元年8月8日まで、月1回以上のペースで精力的に開催されたトラストサービス検討ワーキンググループ。この会議の成果物として、中間取りまとめ文書およびパブリックコメントの結果が公表され、一部報道でも取り上げられていました。

▼ 総務省、「トラストサービス」の法制度化に向けた中間取りまとめを公表

報告書は、紙への押印や対面のやりとりからデータのやりとりに移行するためには、トラストサービスが必要だと指摘した。電子署名のほか、法人が作成したデータの正当性やWebサイトを認証する仕組みに加え、データの存在証明や改ざんされていないことを保証するタイムスタンプなど、5つのサービスについて検討した。
(日経 xTECH https://tech.nikkeibp.co.jp/atcl/nxt/news/18/05717/ 2019年8月12日最終アクセス)

紙への押印からの脱却、そしてデジタルトランスフォーメーションへの道すじを支えるために必要となる5つのサービスの法制化 とそれぞれの相互関係が、報告書にまとめられています。

総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ中間取りまとめ」P4
総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ中間取りまとめ」P4

特に、クラウドサインのような電子署名・電子契約サービスとの関係では、

  • 解釈のグレーゾーンに陥っていたクラウド上での「リモート署名」に正式対応するための電子署名法の改正
  • 代表取締役ではなく法人が組織として電子データを発行し保証するための「eシール」法制化
  • 国税庁が税務運用上認めた制度に過ぎなかった「認定タイムスタンプ」の法的保証

これらによって、「法的な裏付けが不明確」という理由で利用を避けていたユーザーも、安心してサービスを導入できる環境が整う ことになります。

G20およびIT政策大綱が掲げるキーワード「DFFT」とは

この中間取りまとめに到るまでに、WGの公式会議だけで2時間×9回に渡る会議が重ねられました。当編集部でも、すべての回についてオブザーブをしています。

特に印象的だったのは、当初は「電子署名法は完結しており、改正はきわめて難しい」(第3回WGでの総務省幹部発言)とため息まじりの発言がでるほど現行法改正に消極的だったWGが、ある時期を境に、法制化の方向に大きく舵を切った点です。

その背景・原動力となったのが、6月に日本で開催されたG20で採択されたキーワード「DFFT」 の影響です。

内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「デジタル時代の新たなIT政策⼤綱(案)」の概要 P6
内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「デジタル時代の新たなIT政策⼤綱(案)」の概要 P6

DFFTとは、「Data Free Flow with Trust」の略で、信頼性のある自由なデータ流通のこと 。トラストサービスにより信頼性を裏打ちされたデータが国境を超えて自由に流れ、各国の経済成長を支えるというコンセプトです。

G20の成功を受け、今年6月に発表された新しいIT政策大綱にもこの「DFFTの実現」がはっきりと刻まれました。政府が取り組むべき課題として、トラストサービス法制化に高いプライオリティが置かれ、拍車がかかったのは間違いありません。

内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「デジタル時代の新たなIT政策⼤綱(案)」の概要 P4
内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「デジタル時代の新たなIT政策⼤綱(案)」の概要 P4

令和元年度中の結論にこだわればEU/eIDASを踏襲する方向へ

今回策定された2019年版IT政策大綱では、トラストサービス法制化の道すじについて令和元年度中に決定 する旨が宣言されています。

デジタル手続法により官民の手続きについてデジタル化を徹底していく中で、民間における文書保存等についても一層のデジタル化が期待されている。安心・安全なデータ流通を支える基盤となるトラストサービス(データの存在証明・非改ざん性の確認を可能とするタイムスタンプや、企業や組織を対象とする認証の仕組みなど)の活用のための制度の在り方を含め、関係省庁間で連携し、法令に基づき民間企業等が行う文書保存等の一層のデジタル化に向けた取組について検討を行い、令和元年度内に結論を得る。
(内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室「デジタル時代の新たなIT政策大綱(案)」 P29-30)

20年近く変わらなかった電子署名法を改正するだけでも一大事ですが、短い期間でこれだけの横断的テーマに関する法制化を推進するにあたり、政府の事務方をもっとも悩ませることになるであろう問題が、この分野で大きく先行するEUとの国際協調です。

総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ中間取りまとめ」 P7
総務省「トラストサービス検討ワーキンググループ中間取りまとめ」 P7

実は、日本がこれから法制度化を行おうとしている5つのトラストサービスは、上図にもあるとおり、そのいずれもがEUではすでにeIDAS(イーアイダス)として法制化が済んでいるテーマでもあります。EUの後を追う日本がeIDASと全く異なる制度を導入すると、データのスムースな流通を唱える「DFFT」に逆行する結果ともなりかねない ことから、WGではeIDASを踏襲することを前提に議事が進行されてきました。

一方で、eIDASをそのまま踏襲することに対しては、制度として厳格すぎる点や日本の商慣習になじまない点に対し、懸念の声もあります。中間報告書とともに取りまとめられたパブリックコメントでも、盲目的なeIDAS追従に警鐘を鳴らす意見が多く寄せられています

「プラットフォームサービスに関する研究会 トラストサービス検討ワーキンググループ」中間取りまとめ(案)に対する意見募集結果 P13
「プラットフォームサービスに関する研究会 トラストサービス検討ワーキンググループ」中間取りまとめ(案)に対する意見募集結果 P13

こうした大きな論点が残る中、安倍首相率いる内閣官房の強力なリーダーシップに、ルール整備の実務を担う事務方のスピードが追いつくのか?

懸念はありますが、いずれの形をとるにせよトラストサービスの法制化自体は時間の問題といえるでしょう。

画像:
経済産業省 metichannel https://www.youtube.com/watch?v=e9b0SrmfHJY 2019年8月12日最終アクセス

(橋詰)

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