押印義務・書面化義務の原則廃止へ—デジタル社会形成関係整備法案の国会提出

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日本のデジタル化を阻んできた押印義務と書面化義務を原則廃止するための「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律案」が閣議決定、国会に提出されました。施行予定日は令和3年(2021年)9月1日です。

デジタル改革関連6法案を国会に提出

行政のデジタル化を推進する司令塔として期待されるデジタル庁設置法案を含む デジタル改革関連6法案が、2021年2月9日付で閣議決定され、国会に提出 されました。

この6法案が可決成立されることにより、

  1. 行政手続きや民民取引において義務化されていた押印および書面化が原則廃止に
  2. マイナンバーカード所持者を対象とする電子証明書機能のスマートフォン搭載が可能に
  3. 個人情報保護に関する法律3本が統合されシンプルに

なり、行政はもとより、民間企業活動や一般市民生活におけるデジタル化が次のステージへと進展、生産性・利便性の向上が期待されます。

今回はこのうち、デジタル社会形成関係整備法(案)が定める 主要なビジネス領域に関わる押印義務の廃止と、これと合わせて改正される書面化義務の廃止について触れた条文について、改正のポイントとビジネス面への影響を解説 します。

デジタル改革関連6法案のうち、デジタル社会形成関係整備法(案)を解説 https://www.cas.go.jp/jp/houan/210209_3/siryou1.pdf 2021年2月10日最終アクセス

押印義務の廃止

まず、押印義務の廃止についてです。

2020年までに労働法領域や国・地方自治体における押印手続きの廃止が進められてきたのに対し、最後の砦のごとく立ちはだかっていた 不動産ビジネス領域における「押印義務」の撤廃 が、一気呵成にすすめられます。

これとあわせて、公認会計士等の専門家領域に一部残っていた押印義務も廃止される予定です。

対象となる法律 対象条文 現行 改正案
宅地建物取引業法 35条5項・7項 記名押印しなければならない
/記名押印させなければならない
記名しなければならない
/記名させなければならない
マンション管理適正化
推進法
72条5項ほか 記名押印させなければならない 記名させなければならない
不動産特定共同事業法 24条2項,
25条2項ほか
記名押印させなければならない 記名させなければならない
不動産鑑定評価法 39条2項 署名押印しなければならない 署名しなければならない
建物区分所有法 42条3項ほか 署名押印しなければならない 署名しなければならない
建築士法 20条1項,
20条の2第3項
記名及び押印をしなければならない 記名しなければならない
公認会計士法 34条の12 自署し、かつ、自己の印を押さなければならない 署名しなければならない
社会保険労務士法 17条3項 記名押印しなければならない 記名しなければならない

書面化義務の緩和

押印義務の撤廃に歩調を合わせる形で、特に不動産領域において多く残されていた「書面化義務」の緩和 も進められることとなりました。

これまで、書面による契約締結義務または書面交付義務が定められていたことにより、結果として押印も必須となっていた各種文書について、以下のとおり電磁的記録による代替措置が認められることとなる見込みです。

また、民法486条2項が新設され、金銭等支払い時の領収書・レシートなど受取証書を、電磁的記録で交付するよう受領者に請求できる権利 が認められます(ただし書きにより、受領者に不相当な負担を課す場合には、電磁的記録交付を拒否可能)。紙でレシートを渡されても経費精算のたびにスキャンしなければならず面倒、といったことが無くなっていくでしょう。

対象となる法律 対象条文 現行 改正案
民法 486条2項 新設 前項の受取証書の交付に代えて、
その内容を記録した電磁的記録の提供を請求することができる
借地借家法 22条2項,
38条2項
新設 特約/契約が
その内容を記録した電磁的記録(略)によってされたときは、
書面によってされたものとみなして、
前項後段/同項の規定を適用する
宅地建物取引業法 34条の2 11項,
35条8項・9項,
37条4項・5項
新設 書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、
依頼者の承諾を得て、
当該書面に記載すべき事項を電磁的方法(略)であって
同項の規定による記名押印に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより
提供することができる
マンション管理適正化
推進法
72条7項ほか 新設 書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、
当該管理組合の管理者等の承諾を得て、
管理業務主任者に、
当該書面に記載すべき事項を
電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であって
第五項の規定による措置に代わる措置を講ずるものとして国土交通省令で定めるものにより
提供させることができる

新たな論点としての「記名義務」

ところで、今回のデジタル社会形成関係整備法(案)による改正前後の条文を見ていると、

のように、押印の義務を徹底的に廃止する一方、記名義務・署名義務が残されています

ここであらためて「記名」の定義を確認しておくと、

署名と区別し、他人が代わって書いたり、印刷したり、ゴム印を押したりして氏名をしるすこと

を言います(有斐閣法律用語辞典)。

そして「記名押印」には、「署名」に代わるものとしての法律上の効果が認められています(商法32条「この法律の規定により署名すべき場合には、記名押印をもって、署名に代えることができる」など)。したがって、署名押印→ 署名へと変更されることに関しては、法律専門家も特に異論はないところでしょう。

一方で、記名押印 → 記名へと変更される点について、これは 「記名」のみがなされた文書に対し無記名文書とは異なる効果を与える、つまり記名が法的な意思表示手段の一つとなる ことを意味します。

新たな論点としての「記名義務」と「署名義務」

今回、署名の代替手段として電子署名等の電磁的方法を指定しなかった点については、若干の疑問も残ります。真の意味でのペーパーレス社会を早期に実現するため、必要な中間ステップとして、押印義務の廃止を優先したのかもしれません。

脱ハンコ・ペーパーレスへのファイナルカウントダウンがはじまった

本法案は早期の国会審議が予定されており、施行予定日は令和3年(2021年)9月1日 となりました(施行までに一定の準備期間が必要なものを除く)。

本記事では触れていないものの、このデジタル社会形成関係整備法案には、個人情報保護関連法令3法を一つにまとめる大工事を伴う改正も含まれています。私たちがようやく見慣れた個人情報保護法の条文番号もガラッと変更になる等、ビジネス上、それなりのインパクトをもった改正案となっています。

こうした法案が提出から半年経たずに施行される時代へ。デジタル化は、単に行政手続から押印や紙をなくすだけにとどまらず、我々民間にもこれまで以上のスピード感をもった変化に対する適応力が求めるようになっていくはずです。

(橋詰)

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