電子契約の「そもそも」論—法務パーソンなら知っておきたい電子契約5つのポイント

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コロナ禍に端を発した「脱ハンコ」の大きなうねりを受け、電子契約が脚光を浴びています。

総務専門誌『月刊総務』を発行する株式会社月刊総務の2020年6月調査では、「総務がリモートワークをするために会社に導入してほしいITツール」の1位が電子契約でした。電子契約は業務効率化に役立つという認知が、法務パーソン以外にも広がっていることがうかがえます。

じわじわと普及しつつある電子契約ですが、これから勉強したい、あるいは社内への説明方法に悩んでいるという法務パーソンに、「そもそも電子契約とは?」を知る基本的な5つのポイントをご紹介します。

ポイント①:電子契約とは「契約書の代わりにコンピュータネットワークを利用して作成する電子データ」

そもそも、「電子契約」とはどんな契約のことをいうのでしょうか。

電子委任状法に定義された「電子契約」

電子委任状法(電子委任状の普及の促進に関する法律)では、電子契約が次のように定義されています(電子委任状法2条2項)。

この法律において「電子契約」とは、事業者が一方の当事者となる契約であって、電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法により契約書に代わる電磁的記録が作成されるものをいう。

電子情報処理組織とはコンピュータネットワークのことであり、電磁的記録とは電子データのことですから、平たくいえば、「事業者が契約書の代わりにコンピュータネットワークを利用して作成する電子データ」といえます。


この定義は、改ざん防止措置などを求めておらず、電子契約をかなり幅広く捉えています。たとえば、以下のような形式で締結されるものも含まれることになるでしょう。

実務上は改ざん防止措置が重要

契約は、合意の事実と内容を証拠化するために締結されるものです。一度締結されたら、当事者の合意なしに内容が変更されるようなことがあってはなりません。

そこで、現在普及している電子契約サービスでは、企業が安心して利用できるよう何らかの改ざん防止措置が講じられています。これにより、電子契約とは「オンラインで締結する改ざん防止措置が講じられた契約」をいうと広く認知されているように思われます。

しかし、法務パーソンならこのように広く認知されている意味と電子委任状法の定義の存在、そしてその違いを知っておいて損はありません。

ポイント②:電子契約では「誰が・いつ・何に」合意したかが記録される

現在普及している電子契約サービスでは、「誰が・いつ・何に」合意したかがデジタルに記録されます。紙の契約書よりも「正確に」記録されるため、改ざんは事実上不可能です。

電子契約は、電子署名とタイムスタンプにより支えられている

繰り返しですが、契約(書)の重要な役割は、合意の事実と内容を証拠化することにあります。

したがって、偽造や改ざんが容易では役に立ちませんが、電子契約では「誰が・いつ・何に」合意したかをデジタルに記録することで改ざんを防止できます。このうち、「誰が・何に」を電子署名によって、「いつ・何に」をタイムスタンプによって、それぞれ記録 しています。

電子契約は契約内容を「正確に」記録し、改ざんもできない

紙の契約書では、「誰が」「いつ」押印したかは記録されません。そのため、法務部門で押印していても、バックデートであっても、契約者として記載された人が契約日に押印したとする暗黙の慣習があります。これは、偽造や改ざんの可能性を残します。

一方、電子契約では、その契約の内容が記載された電子ファイルに、電子署名とタイムスタンプを施した当事者と時刻が秒単位まで正確に記録され、変更はできません

また、紙の契約書では、締結後に加筆される可能性があります。実際、押印後に契約期間や契約日を記入したために、一方の当事者が保管する契約書では日付が記入されているが他方は空欄のままというように、双方で保管する契約書の内容に齟齬が発生する経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

電子契約では、締結後の加筆修正は不可能 なので、このような事態は発生しません。万一契約期間など重要な事項に誤りや漏れがあれば、再締結か変更の合意をすることになります。

ポイント③:電子契約と契約書の証拠力は同等

電子契約の導入を検討する上で、上司や他部門から必ずあがるのが「電子契約の証拠力に問題はないのか。紙の契約書に劣らないか。」という質問です。

結論から言えば、一定の条件はあるものの、証拠力は紙と同等、または紙よりも電子契約の方が上 だと考えられます。

紙の契約書には「二段の推定」がある

証拠力とは、争いになったときに証拠として機能するかどうかです。

私人間の争いを扱う民事裁判において求められる証拠力は2種類あります。ひとつは 文書が真正に成立したものか(形式的証拠力)、もうひとつは その内容が事実の証明に役立つか(実質的証拠力) です。証拠として機能するためには、いずれも備える必要がありますが、締結の形式が問題になるのは形式的証拠力です。

書面と押印による契約の形式的証拠力については、民事訴訟法と判例によりいわゆる「二段の推定」が働くことが確立しています。「二段の推定」とは、押印がされた私文書について、本人のハンコで押印されていれば本人の意思に基づいて押印されたものと推定され(一段目の推定)、本人の意思に基づいて押印されたのであれば真正に成立したものと推定される(二段目の推定)ことをいいます。
したがって、紙の契約書に契約者の押印があれば、反論のない限りその契約書は真正に成立したものと取り扱われます。

電子契約でも「推定」の定めはある

電子契約についても、一定の要件を満たす電子署名が施されていれば真正な成立が推定されます(電子署名法3条)。

2020年までは、市場で普及しつつある「事業者が電子署名を施すタイプの電子契約サービス」がこの一定の要件を満たすかどうかが明確ではありませんでした。しかし、2020年9月に所管省庁より、そのようなサービスについても「十分な水準の固有性が満たされていると認められる場合には、電子署名法第3条の電子署名に該当するものと認められることとなるものと考えられる」との見解が示されました(令和2年9月4日付「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」Q2)。

現時点ではこの論点について具体的に争われた裁判例が存在しないと言われており、最終的に裁判所がどのような判断をするか不明ではありますが、この政府見解を受けて形式的証拠力の可能性に関する議論は節目を迎えています。今後はさらに電子契約の普及が加速していくでしょう。

もっとも、導入にあたっては真正な成立の推定が働く要件を満たし得るか、電子契約サービス事業者への確認が必要です。

改ざんの難しさは電子契約が勝る

紙の契約書にしても電子契約にしても、一定の要件を満たせば真正に成立したことが推定されるにすぎません。真正な成立を否定し、偽造や改ざんがあったと主張することは可能です。紙の契約書であれば、ハンコは管理が不十分なら誰でも押せてしまいますし、3Dプリンターを使った偽造や調達も可能です。

この点、偽造や改変が事実上不可能な電子契約の形式的証拠力は、紙の契約書より上 と評価しても良いかもしれません。

しかし、電子契約でもなりすましのリスクは考えられます。そのリスクを回避するため、電子契約サービスでは様々な対策が提供されています。たとえば、クラウドサインでは、メール受信者だけがアクセスできるユニークなURLの生成、アクセスコードによる2段階認証、スマホを用いた2要素認証といった対策が用意されています。導入検討にあたっては、この点もしっかり確認しましょう。

ポイント④:利用するサービスによって契約相手の負担は異なる

電子契約の導入に自社がコストをかけるのはやむを得ませんが、契約の相手先への負担は極小化したいものです。

利用するサービスによって、一切準備がいらないものから、時間とお金をかけて事前に登録してもらわなければ利用できないものまであります。企業においてよく利用されているのは、やはり相手先の負担が少ないクラウド型電子契約サービスのようですが、事前に登録してもらうタイプのほうが、証拠力が高くて良いという考え方もあります

この点は、サービス選定時の重要な比較ポイントです。

ポイント⑤:電子契約にできないものがある

契約自由の原則により、ほとんどの契約は電子契約で締結できます。

しかし残念ながら、法律の制約により、すべての契約を電子契約に移行させることはできず、未だ紙の契約書でなければならないものが存在します。一般企業が締結する可能性のある契約では、たとえば定期借地契約や定期建物賃貸借契約は、2021年3月現在の借地借家法においては、相手方の同意があっても電子契約は利用できません。

しかし、2021年9月1日施行予定で審議が進められているデジタル改革関連法案では、これらの契約についても電子契約での締結が可能になります。同法案では、押印・書面に関する制度が大幅に見直され、一気に48もの法律で「脱紙」「脱ハンコ」が実現される見込みです(関連記事:押印義務・書面化義務の原則廃止へ—デジタル社会形成関係整備法案の国会提出)。

電子契約普及の鍵を握るのは、各企業の法務パーソン

電子契約への理解を深めるには、ここでお伝えした基本ポイント5つをまずは押さえることが重要です。

法律により書面によらざるを得なかった契約や文書についても、大幅な緩和が実行されようとしています。この流れを受けて、電子契約の普及はより加速していくでしょう。

企業が電子契約を本格的に取り入れるには、長年の「紙とハンコ」の慣習から脱却し、新しいツールを導入する周到な準備が欠かせません。その先頭に立たなくてならないのが法務パーソン です。社内で丁寧に説明できるよう「電子契約とは何か?」をしっかり理解しておきましょう。

(イラスト・文 いとう)

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