米国におけるクラウド型電子署名の有効性について—サウスゲイト法律事務所 米山先生・ミンディ先生インタビュー

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この度クラウドサインでは、電子契約を活用してグローバルに事業を展開される大企業のお客様向けに、オリジナルホワイトペーパー「米国におけるクラウド型電子署名の有効性について」を作成しました。

そこで、ホワイトペーパーを執筆いただいたサウスゲイト法律事務所・外国法共同事業 米山 岳先生、ミンディ・アレン先生に、本ホワイトペーパーの見どころをインタビューしています。

電子署名判例の豊富な米国での実務を解説

—この度、米国の電子契約法制に精通されたサウスゲイト法律事務所の先生方に、ホワイトペーパー「米国におけるクラウド型電子署名の有効性について」を執筆していただきました。クラウドサインの米国での有効性についてもわかりやすく解説してくださり、ありがとうございます。

米山 岳先生:
私たちも、あらためて整理するよい機会をいただきました。

ミンディ・アレン先生:
この機会をいただき、ありがとうございました。

—先生方は、商事法務より出版されている『電子契約導入ガイドブック[海外契約編]』も共著され、この電子契約の実務に大変詳しい弁護士でいらっしゃいます。早速ですが、今回のクラウドサインユーザー様向けホワイトペーパーならではの見どころ・注目すべきポイントについて、教えてください。

米山:
大きく2つあります。1つ目は、アメリカは電子署名が広く普及しており、また電子署名の歴史も長いため、法令や裁判例等のインフラが日本以上に整っているという点です。

アメリカでは、20世紀の終わりにe-Sign法が制定され、それ以来多くの裁判例が蓄積されており、クラウド型についてもこれまで様々な論点が議論されています。電子署名を使うことについての予測可能性・法的安定性はすでに高く、クラウド型も含めて、契約締結の方法の一つとして確立していると言えます。

こうしたアメリカでの議論や裁判例は、日本を含む他の国においても参照される可能性は高く、アメリカを見ることで、他国でのリスクなり争点もわかるので、そういったところもご参考になると思います。

2点目として、そうはいってもいくつか留意しなければいけない点やリスクもある、ということです。

後ほど触れさせて頂きますが本人確認の問題もありますし、電子署名が使えない書類が存在する、州法・連邦法等複数の法令がありますので、これらの点は十分に注意が必要です。

サウスゲイト法律事務所・外国法共同事業 米山 岳先生

ミンディ:
私の場合、弁護士になった頃からずっと、アメリカではハードコピーサインよりも電子署名が使われていました。日本に来てそれがほとんど使われていないことに、逆にびっくりしました(笑)。それぐらい、アメリカでは当たり前の技術になっていたんです。

しかし、新型コロナをきっかけに、日本でも大企業で特に電子署名の導入が進みましたね。

押印のような単純な作業時間が減りますし、きちんと使えばそれほどリスクを恐れる必要はないと思います。このホワイトペーパーが、その点のご理解と不安の解消の一助となれば幸いです。

サウスゲイト法律事務所・外国法共同事業 ミンディ・アレン先生

米国での当たり前「サインページPDFのメール交換」をクラウド型電子署名が置き換えた

—先生方のお客様において、クラウド型(事業者署名型)の電子署名の活用は広がっているのか、どのような取引で電子契約の利用が見られるか、傾向などもあれば教えてください。

米山:
クラウド型電子署名は、スタートアップや外資系企業をはじめとして、かなり広がってきていると感じます。 特に、NDAや業務委託、弊所でいうエンゲージメントレターなどの定型的なもの、金額がそれほど大きくないものは、受け入れにあまり抵抗がなくなっているという印象です。

ただし、弊所はM&Aやジョイントベンチャー等を手がけることが多いのですが、株式譲渡契約や株主間契約書等、金額が大きい、またはクライアントにとって重要な契約は、まだ現状では紙ベースの締結が中心です。例えばクロスボーダーの取引では直筆サインのPDF化、国内では記名押印がいまだに主流です。

やはり大事な契約ではこれまでの方法を踏襲する心理が働くこと、サイナーがマネジメント層になる場合が多いこと等が理由と思われます。とはいえ、今後は徐々にクラウド型電子署名の利用も広がってくるのではないかと思います。

—株主間契約は契約当事者も多く、さらに株主の所在国が外国企業であったりして、電子化によるメリットが大きいと考えていたのですが、現実には移行は難しいのでしょうか。

米山:
そのとおりなんですが、現状ではまだ直筆サインをPDFにして交換する方法を選ぶクライアントが多いですね。

—直筆サインをPDFで交換する方式ですか。てっきり、電子署名にできないものは紙の原本を郵送しているのかと思いましたが、サインページをスキャンしてPDFファイルでメール交換する方式(関連記事:インターネットを利用する契約締結方式の比較)が、実務では紙の契約書並みに信頼されているんですね。

米山:
クロスボーダーのM&A等では、当事者が一堂に会してサイニングセレモニーを行う場合等を除いて、署名したサインページのPDFをメールで交換して締結することが一般的で、実務上確立した方法と言えます。物理的に原本にサインして郵送する方法は、あまり見かけないですね。

他方で、米国内の取引では、記名押印した原本を物理的に交換する場合が依然として多いです。

ミンディ:
スキャンしたPDFを交換する方法については、アメリカでは20年以上前から実務として定着していましたから、一般的にリスクがあるとは考えられていません。

逆に、コロナ禍で在宅勤務になってみなさん困っているのが、直筆サインしようとしても、プリンターが自宅にない点です。ハードコピーにサインしスキャンすることができない。それを理由にクラウドサインのような電子契約サービスに移行する例も増えています。

クラウド型電子署名のリスク最小化にどこまでこだわるか

—ところで、先生方の顧問先がクラウド型電子署名を利用される場合に、どのようなリスクに気をつけるようアドバイスされていますか。

米山:
クラウド型電子署名では、電子署名用のメールが本人以外に転送された場合には、本人以外が成り代わって電子署名できてしまうという問題があります。

本人が面前で署名するのを確認できるわけではない以上、完全に避ける事が難しいリスクではありますが、米国での裁判例もこの本人確認が争点になっている事例が多いとの認識です。そのため、この点については、意識はしたほうがよいとアドバイスはします。

ただし、実際問題としてそれでトラブルとなることは少なく、また別の方法である程度補完は可能と思います。

たとえば、CEOにクラウド署名を求めた場合、念のため電子署名が完了した後に別途CEOから「署名した」というメールを送るよう要請する等、本人が電子署名した事実と意思を確認しておけば、後になってから「自分はサインしていない」と主張されることを防ぎ、実質的なリスクを限定することはできると思われます。アクセスコードや2要素認証などを活用する方法も、もちろん有効だと思います。

その他に、準拠法や、電子署名が使用できる書類なのか、という点についても注意が必要です。契約の準拠法によって電子署名の有効性や要件は異なりますので、都度確認が必要ですし、例えば米国の場合、連邦法と州法のいずれが適用されるか、また各州法の内容についても把握しておく必要があります。

また、不動産、遺言関連や、国内では登記用の書類等、電子署名を使用できない・使用に適さないタイプの書類もありますので、初めて電子署名を使用する場合は、事前に必ず確認することを勧めています。

—その点についてなのですが、米国の電子契約実務で、メール認証に加えてアクセスコードや2要素認証まで行なっているケースは、実際にありますか?

米山:
実務上は、多くのケースではメール認証のみで、厳格にアクセスコードや2要素認証をしている場合は限られると思います。但し、今後重要な契約にも活用の場面が広がってきたら、より厳格な認証方法も普及していく可能性もあります。

ミンディ:
先ほども話題になったとおり、もともとがハードコピーへのサインをスキャンして、電子署名のないPDFをメールで送り合う、といった程度のセキュリティでしたから。メール認証でも十分、従来の方法よりむしろ安全だと考えられていますね。

正直なところ、秘書の方が、ボスの手書き署名を画像に保存しておいて、サインすべき契約書に画像で貼り付けてPDFファイルに出力して提出する、という実務も広く行われていました。もちろん、ボスの許可は得てやっていることですけれども。

—社長のハンコを社員が代理で押している日本のやり方に似てますね(笑)。

ミンディ:
他のドキュメントからボスのサインをデジタルコピーして、PDFに画像として貼り付けるのは、秘書の方でも簡単にできます。それよりは、メール認証の方がよっぽど安全ですよね。

クラウドサインホワイトペーパー「米国におけるクラウド型電子署名の有効性について」

就労環境のDXが進むかがカギ

—さて、今回のホワイトペーパー末尾のQ&Aコーナーでは、「米国企業は権限委譲が進んでおり、社内稟議がない」「VPなどの決裁者自身がクラウド型の電子署名に慣れているため、代行させることは少ない」といった、日本独特の契約締結プロセスや押印慣行の実態との決定的な違いについても、教えていただきました。日本も今後、欧米のように権限委譲がすすみ、代理ではなく本人が操作をして電子署名をするという本人サイン型スタイルに変わっていくと思いますか。それとも中央集権の押印型のまま変わらないと予想されますか。

米山:
海外企業との契約では、当然ですが記名押印ではなく、直筆の署名で契約を締結します。そのため日常的な契約や重要度がそれほど高くない契約だと、都度マネジメント層に手書き署名をさせるのはハードルが高い場合も多いため、日本の大企業も署名者は部長・ゼネラルマネージャークラスがなる場合も多く、その意味での権限移譲は既に行われていると思われます。

マネジメント等自身による電子署名については、現状ではケースバイケースという印象です。社長自身が問題なく電子署名に対応している場合もある一方で、やはりプリントアウトして紙で署名を頂きにいかなければいけない、という企業もまだ多いです。今後は、マネジメント層がよりデジタルリテラシーの高い世代に移行するにつれて、徐々に本人が行なっていくかたちになっていくかと思います。

一方、国内企業との契約のプラクティス、つまり記名押印の押印作業を、総務部長などが代理していたケースで、これが欧米のようにマネジメント自身が電子署名をするようになるかというと、個人的には、完全なシフトはおこらず、当面はDX推進派とそれ以外で分かれていくのではないかと予想しています。

オフィスに集まるスタイルを前提にすると、いままでのハンコ的やり方のほうがラクなところはあります。この場合、電子署名に移行するインセンティブがあまり働かないので、就労環境のDXが進まない企業では、今までの方法がある程度残っていくでしょう。

他方で、リモートワーク・ペーパーレス化を推進している企業では、徐々に電子署名に置き換わって行き、各社の対応に差が出てくると思います。

ミンディ:
大企業ですと、リモートワークの定常化に積極的ですが、中小企業では新型コロナ感染症が少し落ち着いたらまたオフィスワークに戻っている傾向が見られます。

なお、大企業では、既に社内稟議等は「e決裁」システム等で電子化されている場合も多いので、署名の電子化についても心理的な抵抗は少ないように思われ、その観点からは紙ベースの記名押印からの移行は、一般的には中小企業よりも容易かもしれませんね。

日本が電子契約大国になるチャンス

—最後に、本ホワイトペーパーにご興味をもっていただいている読者の方へのメッセージをお願いします。

米山:
私たちサウスゲイト法律事務所でも、日々クラウド署名は使っていますし、日本企業の生産性を高める上では欠かせないインフラになっていくと思います。

政府も普及を後押ししているこのタイミングに、みなさんで活用を進めていければ、社会全体にとってもよい効果をもたらすだろうと期待しています。

ミンディ:
今回のホワイトペーパーのために、改めて判例リサーチを徹底してみたのですが、クラウド署名の有効性を争っても、「電子署名のAuthentificationは認められない」という判決はほとんど見つかりませんでした。リスクはないとは申し上げませんが、恐れるようなリスクは現実的にはなかなか発生しないのでは、とお伝えしたいです。

それと、これは余談ですが、クリントン大統領が米国e-Sign法に署名した際、大統領署名を電子署名でしていたんですよ。大統領が重要な法案の署名に使っているぐらいですから、私たち民間企業は、もっと自信を持って電子署名を利用してよいのではないでしょうか。

—確かにそうですね(笑)。本日は、米国の電子署名の実務について、たくさんの興味深いお話を伺うことができました。インタビューのお時間をいただき、ありがとうございました。

(聞き手 橋詰)


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