【弁護士監修テンプレートあり】債務承認弁済契約書とは?主な記載事項・チェックポイント・収入印紙の要否などを解説

借金などの存在を認めて、弁済(支払い)の約束をする際には「債務承認弁済契約書」を締結することがあります。弁済の条件などを明確に定めて、トラブルの予防に努めてください。
本記事では債務承認弁済契約書について、主な記載事項やチェックポイント、収入印紙の要否などを弁護士が解説します。
債務承認弁済契約書とは
「債務承認弁済契約」とは、借金などの債務(=お金を支払う義務)の存在を確認したうえで、その弁済方法(支払方法)を定める契約です。「債務承認弁済契約書」は、債務承認弁済契約の内容を記載した書面に当たります。
債務承認弁済契約書を作成する目的としては、主に以下の2点が挙げられます。
- 既存の債務の状況や、支払方法を明確化する
- 既存の債務について、債務者(=支払う義務を負う側)の負担を軽減する
たとえば、何回にも分けてお金を借りていて、借金の全体像を把握するのが難しくなっているとします。この場合は、借金の状況を整理したうえで債務承認弁済契約書を作成することが、明確化の観点から効果的です。
また、すでに借りているお金が、もはや返し切れないほど多額に及んでいるとします。この場合は、返済すべき金額を軽減したうえで、少しずつでも返済することを約束させるために、債務承認弁済契約書を作成するケースもあります。
なお本記事では、債務を支払う義務を負う側を「債務者」、支払いを受ける権利を持つ側を「債権者」と呼称します。
債務承認弁済契約書の主な記載事項|例文も紹介
債務承認弁済契約書に記載すべき主な事項は、以下のとおりです。
②債務の弁済方法
③利息
④遅延損害金
⑤期限の利益の喪失
⑥連帯保証
⑦清算条項
⑧合意管轄
各事項について、条文例を示しながら解説します。
債務の内容・支払義務を認める旨
(例)
第1条 (債務の内容及び承認)
甲は、乙に対して下記の債務(以下「本債務」という。)を履行する義務を負っていることを認める。
記
債務の種類:貸金返還債務
元本の金額:○○円
債務者が支払うべき債務の内容を明記します。債務の種類や元本の金額を記載するのが一般的です。
債務の弁済方法等
第2条 (本債務の弁済方法等)
- 甲は乙に対し、本債務を下記の方法によって弁済する。弁済に要する費用は甲の負担とする。
記
弁済期日:○年○月以降、毎月○日に、元本のうち下記の弁済額を支払う。
弁済額:1回の弁済期日につき、○円
弁済方法:乙が別途指定する口座への振込 - 前項の定めにかかわらず、甲は乙の事前の承諾を得て、本債務を弁済期日より前に弁済することができる(以下「期限前弁済」という。)。期限前弁済に係る弁済額は、次に掲げる順序で充当するものとする。期限前弁済に要する費用及び弁済方法については、前項を準用する。
① 期限前弁済の時点において未払いである、第4条に定める遅延損害金
② 期限前弁済の時点において未払いである、次条に定める利息
③ 期限前弁済の時点以降に到来する弁済期日において支払うべき元本(早く到来する弁済期日から順に充当するものとする。)
債務の弁済方法(支払方法)などを明記します。具体的には、弁済期日・弁済額・弁済方法(口座への振込など)・弁済に要する費用を負担する人などを記載しておきましょう。
上記の例では、元本を毎月分割返済としています。そのほか、期日一括返済とすることも考えられます(例:「甲は乙に対し、本債務の全額を、○年○月○日までに、乙が別途指定する口座へ振り込む方法によって弁済する。弁済に要する費用は甲の負担とする」など)。
期限前弁済(=弁済期日よりも前に債務を支払うこと)を認める場合はその旨と、弁済額の充当方法も記載します。
利息
第3条 (利息)
- 本債務の利息は、元本の金額に対して年5%の割合で、本契約締結日の翌日以降1日ごとに発生する。「元本の金額」とは、利息が発生する日が開始する時点(午前0時)における本債務の元本の額とする。
- 甲は乙に対し、第2条第1項に定める弁済期日において、前項に基づき当該弁済期日(同日を含む。)までに発生している未払いの利息全額を支払うものとする。当該利息の支払いに要する費用及び支払方法については、第2条第1項を準用する。
債務について利息を生じさせる場合は、利息の計算方法と支払方法を記載します。無利息とする場合は、その旨を記載してください(「本債務の利息は、無利息とする」など)。
利息については、計算方法を明確化して疑義のないようにすることが大切です。たとえば上記の例では、1日が始まる時点(午前0時)における元本額に対して、年5%の利息が発生することを明記しています。
利息の支払いに要する費用を負担する人や、支払方法についても定めておきましょう。元本を分割返済としている場合は、元本とまとめて支払う形で調整するのが一般的です。
なお貸金返還債務(=借金を返す義務)については、利息制限法によって利息の金利の上限が設けられている点にご注意ください。利息の上限金利は下表のとおりです(同法1条)。
| 貸金返還債務の元本額 | 利息の上限金利 |
| 10万円未満 | 年20% |
| 10万円以上100万円未満 | 年18% |
| 100万円以上 | 年15% |
遅延損害金(例)
本債務の元本又は利息の支払いが弁済期日に遅れたときは、甲は乙に対し、当該弁済期日の翌日(同日を含む。)から支払済みの日(同日を含む。)まで、年14.6%の割合による遅延損害金を支払うものとする。当該遅延損害金の支払いに要する費用及び支払方法については、第2条第1項を準用する。
債務の支払いが弁済期日に遅れた場合に発生する、遅延損害金について定めます。金利(利率)などの計算方法や、支払いに要する費用の負担、支払い方法などを定めておきましょう。
なお貸金返還債務(=借金を返す義務)については、利息制限法によって遅延損害金の金利の上限が設けられています。
営業上貸し付けたお金の場合、遅延損害金の金利は年20%が上限です(同法7条)。そうでない場合の遅延損害金の上限金利は、下表を参照してください(同法4条)。
| 貸金返還債務の元本額 | 遅延損害金の上限金利 ※営業的金銭消費貸借の場合は、一律年20% |
| 10万円未満 | 年29.2% |
| 10万円以上100万円未満 | 年26.28% |
| 100万円以上 | 年21.9% |
また、貸金返還債務以外の債務についても、債権者が事業者で債務者が消費者(個人)の場合は、遅延損害金の金利は年14.6%を超えてはなりません(消費者契約法9条1項2号)。期限の利益の喪失(例)
第5条 (期限の利益の喪失)
- 甲が乙に対する本債務の元本又は利息の支払いを怠ったときは、乙は甲に対し、3日間以上の期間を定めて、当該支払いを催告することができる。
- 前項の期間が経過してもなお、甲が乙に対して当該催告に係る債務を支払わないときは、甲は期限の利益を喪失し、乙に対して直ちに未払いの本債務の元本及び利息全額を支払わなければならない。
- 前項に基づいて甲が期限の利益を喪失したときは、当該喪失日の翌日(同日を含む。)から支払済みの日(同日を含む。)まで、前条に定める遅延損害金が発生するものとする。
債務者が債務の支払いを怠った場合(=債務不履行)、その後の支払いも滞る可能性が高いので、債権者としては早急に債権回収へ着手する必要があります。
期限の利益喪失条項は、債務不履行後に所定の手続きをとることで、まだ弁済期日が来ていない分も含めて、債務全額の支払いを請求できるようにするものです。債務者が期限の利益を喪失する条件や、債権者側でとるべき手続きなどを定めましょう。
連帯保証(例)
第5条の2(連帯保証)
- 丙は、本契約に基づき甲が乙に対して負担する本債務の元本、利息及び遅延損害金を連帯保証する。
- 前項の保証に係る極度額は○円とする。
債務の支払いについて連帯保証人を設ける場合は、連帯保証人を債務承認弁済契約書の当事者に含めたうえで、連帯保証に関する条項を定めます(債務承認弁済契約書とは別に、連帯保証契約書を作成することも考えられます)。
連帯保証に関する規定では、保証の対象となる債務の範囲を明記しましょう。また、連帯保証人が個人であり、保証の範囲に特定されていない債務が含まれている場合は、極度額(=保証の上限額)の定めが必要です(民法465条の2第2項)。
清算条項(例)
甲及び乙は、本契約に定めるものを除き、甲乙間には何らの債権債務関係が存在しないことを相互に確認する。
清算条項では、契約の当事者間において、契約に定められたもの以外の債権や債務が存在しないことを確認します。
債務承認弁済契約書を作成する際には、あらかじめ債務者と債権者の間に存在する債権・債務を調べ上げ、そのすべてをカバーする弁済条件を定めたうえで、清算条項を設けることが望ましいです。そうすれば、後で予期せぬ債務(債権)が判明して請求が行われるなどのトラブルを予防できます。
合意管轄(例)
本契約に関連して紛争が発生し、訴訟の必要が生じた場合には、○○地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
債務承認弁済契約について紛争(例:債務の未払いなど)が発生した際に、訴訟を提起する裁判所を定めましょう。債権者や債務者の住所が変わっても、訴訟を起こす裁判所を固定できるメリットがあります。
弁護士監修の債務承認弁済契約書ひな形ダウンロード債務承認弁済契約書のひな形を、以下のリンクからダウンロードできます。弁済の条件などを調整したうえでご利用ください。
債務承認弁済契約書を締結する際のチェックポイント
債務承認弁済契約書を作成・締結する際には、元本・利息・遅延損害金を含めた債務の金額や計算方法、弁済期日や弁済方法などの条件を明確に特定することが大切です。
利息を例に挙げると、利率は何パーセントか、いつの時点の元本に対して発生するのか、いつどのような方法で支払うのかなど、決めるべきことがたくさんあります。元本や遅延損害金についても、疑義のない文言で条文を定めなければなりません。
さまざまなケースを念頭に置いて、弁済条件が疑義なく一つに定まるかどうかをシミュレーションしてみましょう。
債務承認弁済契約書に収入印紙は必要?
債務承認弁済契約書を紙で作成する場合、債務の種類によっては収入印紙を貼る必要があります。一方、電子契約として締結する場合は、収入印紙を貼る必要はありません。
紙の契約書の場合、債務の種類によっては収入印紙を貼る必要がある
債務承認弁済契約書を紙で作成する場合において、債務の種類が以下に挙げるものなどであるときは、原則として収入印紙を貼る必要があります。
・不動産の売買代金
・土地の賃料
・運送料
・借金の返済
など<第2号文書>
・請負代金
貼付すべき収入印紙の額は、以下のとおりです。
<第1号文書>
| 契約金額 | 印紙税額 |
| 1万円未満 | 非課税 |
| 1万円以上10万円以下 | 200円 |
| 10万円超50万円以下 | 400円(200円) |
| 50万円超100万円以下 | 1000円(500円) |
| 100万円超500万円以下 | 2000円(1000円) |
| 500万円超1000万円以下 | 1万円(5000円) |
| 1000万円超5000万円以下 | 2万円(1万円) |
| 5000万円超1億円以下 | 6万円(3万円) |
| 1億円超5億円以下 | 10万円(6万円) |
| 5億円超10億円以下 | 20万円(16万円) |
| 10億円超50億円以下 | 40万円(32万円) |
| 50億円超 | 60万円(48万円) |
| 契約金額の記載のないもの | 200円 |
※カッコ内は不動産の譲渡に関する契約書の軽減措置が適用される場合
<第2号文書>
| 契約金額 | 印紙税額 |
| 1万円未満 | 非課税 |
| 1万円以上10万円以下 | 200円 |
| 10万円超50万円以下 | 400円 |
| 50万円超100万円以下 | 1000円 |
| 100万円超500万円以下 | 2000円 |
| 500万円超1000万円以下 | 1万円 |
| 1000万円超5000万円以下 | 2万円 |
| 5000万円超1億円以下 | 6万円 |
| 1億円超5億円以下 | 10万円 |
| 5億円超10億円以下 | 20万円 |
| 10億円超50億円以下 | 40万円 |
| 50億円超 | 60万円 |
| 契約金額の記載のないもの | 200円 |
なお、元となる契約書(原契約書)があって、その契約金額を変更しない場合は「契約金額の記載のないもの」となり、印紙税額が200円となります。
電子契約なら収入印紙は不要紙の契約書とは異なり、電子契約によって債務承認弁済契約を締結する場合は、輸入印紙を貼る必要がありません。電子契約のファイルは、印紙税法上の課税文書に当たらないと解されているためです。
債務承認弁済契約に限らず、他の種類の契約についても、電子契約で締結すれば収入印紙が不要になります。
まとめ
債務承認弁済契約書を作成する際には、元本額や利息・遅延損害金の計算方法、弁済期日や弁済額などの条件を明確に定めることが大切です。条文が2通り以上の意味に解釈されることがないように、さまざまなケースをシミュレーションしながら条文を作成してください。
債務承認弁済契約は、電子契約によって締結することもできます。収入印紙を貼る必要がなく、管理がしやすいなどのメリットがあるので、未導入の企業は電子契約の導入をご検討ください。
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ダウンロードする(無料)この記事を書いたライター
阿部 由羅
弁護士
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。