電子契約の基礎知識

法的に正しく隙のない法人代表者電子署名を行う方法

法的に正しく隙のない法人代表者電子署名を行う方法

この記事では、法的に正しく隙のない法人代表者電子署名を行う方法について解説します。押印の場合は、法務局に届け出ている代表者の実印による押印が最も信用のあるものとされていますが、実印に代わる代表者の電子署名は、どのように行えばよいのでしょうか?

法人代表者の実印に代わる電子署名を行う方法

企業が書面(紙)で契約書や文書を作成する際に、最も重要な道具・ツールの一つが、法人代表者の実印です。

2021年までは、会社・法人の代表者である代表取締役は、本店の所在地を管轄する法務局に対して、印鑑を届け出なければなりませんでした(改正前商業登記法20条。現在は削除)。こうして届け出た会社・法人の代表者の印章のことを、会社実印・代表者印・届出印などといいます。

法人代表者の印鑑を届け出て、官公署である法務局から印鑑証明書の発行を受けることによって、取引先など第三者に代表者による押印が行われたことを信じてもらえるようになるわけです。

デジタル社会へと移行する今後は、電子ファイルで文書を作成する際、このような法人代表者の実印押印に代わる法人代表者の電子署名が重要となることは間違いありませんが、では、法務局のような官公署によるお墨付きが得られる電子署名を行うには、どのような方法があるのでしょうか?

電子署名法により法人代表者の資格証明が認められていない民間電子署名サービス

民間認証局には法人代表者の資格証明サービスの提供は認められていないことに注意

電子署名法により、民間認証局には法人代表者の資格証明サービスの提供は認められていないことに注意

電子署名についてよくあるユーザーの誤解が、「代表者の本人確認(身元確認)を行った当事者署名型の電子署名であれば、法的に正しく隙のない法人代表者の電子署名として利用できる」という誤解です。

実際、電子契約事業者の中には「法人代表者の実印相当」をうたってセールスしている企業が存在するのも事実なのですが、法令によれば、最も厳格な本人確認を行って発行された認定認証事業による電子証明書を用いても、法人代表者の実印を完全に代替する電子署名とはならない点、注意が必要です。

その根拠となる条文が、電子署名法およびその下位法令である電子署名法施行規則にあります。

電子署名法6条
主務大臣は、第四条第一項の認定の申請が次の各号のいずれにも適合していると認めるときでなければ、その認定をしてはならない。
一 申請に係る業務の用に供する設備が主務省令で定める基準に適合するものであること。
二 申請に係る業務における利用者の真偽の確認が主務省令で定める方法により行われるものであること。
三 前号に掲げるもののほか、申請に係る業務が主務省令で定める基準に適合する方法により行われるものであること。
(2項省略)

電子署名法施行規則6条
法【編集部注:電子署名法】第六条第一項第三号の主務省令で定める基準は、次のとおりとする。
(一〜七 省略)
八 電子証明書に利用者の役職名その他の利用者の属性(利用者の氏名、住所及び生年月日を除く。)を記録する場合においては、利用者その他の者が当該属性についての証明を認定認証業務に係るものであると誤認することを防止するための適切な措置を講じていること。

これらの条文によれば、国の認定を受けて認証サービスを行う場合であっても、発行する電子証明書に法人の「代表者」等の役職名を記録する場合には、ユーザーが国によって認められた基準を満たしたサービスで保証されたものであるかのように誤認させてはならず、その旨の注記を施さなければなりません。認定認証事業(認証局)発行の電子証明書であっても、法人代表者の資格証明付き電子署名としては利用できないのです。

この注記の具体的な例を確認してみましょう。適法な認定認証事業の電子署名サービス事業者と契約する際には、一般的に契約時に「認証業務規程」への同意を求められます。そこには、

当サービスでは、利用者に発行する電子証明書において、当該利用者の保持する特定の資格や属性(以下「資格情報という」)を示す記載を行う場合があります。ただし、資格情報については、電子署名法に規定された認定制度における認定の対象外です。

といった、電子署名法施行規則に則った誤認防止のための注意書きがあるのが通常です。

国(法務省)が認める法人代表者の電子署名は「商業登記電子署名」

わざわざ当事者署名型を利用し、認証局による厳格な本人確認を行っているのに、なぜ法人代表者の実印を代替できないのでしょうか?それは、法人の商業登記を唯一管理しているのが法務局であるためです。

民間認証局は、利用者から住民票に加えて法人の商業登記簿等の提出を求め、法人代表者の資格を確認しています。この確認に基づき電子証明書を発行しているわけですが、電子証明書の発行後に発生する代表者や法人に関する登記事項の異動・変動は、法務局のようにタイムリーにフォローできません。

日本における法人データベースの原簿管理人である法務局が、法人の電子認証局となって商業登記電子証明書を発行する機能を独占しており、民間ではこれを代替できません。従って、法的に隙のない法人代表者の資格証明付き電子署名を実施したければ、この商業登記電子証明書を用いた電子署名(いわゆる商業登記電子署名)を行う必要があります。

このことは、商業登記電子証明書のメリットを紹介する法務省リーフレットにおいても、

マイナンバーカードの電子証明書や民間事業者が発行する電子証明書が、いずれも「個人」を証明しているのに対して、【商業登記電子証明書は】「法人」の代表者を証明しています。

と、明確にその差異がうたわれています。

商業登記電子証明書リーフレット令和4年2月版 https://www.moj.go.jp/content/001364325.pdf

商業登記電子証明書リーフレット令和4年2月版 https://www.moj.go.jp/content/001364325.pdf

民間の当事者署名型・事業者署名型(立会人型)が電子署名が法的に無効というわけではない

とはいえ、民間の当事者署名型や事業者署名型等、民間企業が発行する電子証明書を用いた電子署名が法的に無効というわけではありません。

政府が公表した押印に関するQ&Aや電子署名法Q&A等にも記載されているとおり、押印が必ずしも官公署に届出された実印による必要がなく、認印によっても法的に有効なのと同様、電子署名も、本人によって行われたことが確認できる仕組みを備えたものであれば、当事者署名型・事業者署名型の種類の違いに影響されず、いわゆる推定効を得ることができるためです(関連記事:デジタル庁の「電子契約サービスQ&A」を解説 —電子署名が法律上有効となる条件の政府見解とは)。

国が管理する法人データベースとしての商業登記に連動した法人代表者資格証明付きの厳格な電子署名が必要な場面では商業登記電子署名を、その必要がない場面では民間サービスの電子署名を、それぞれ使い分けていただければ問題ありません。

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この記事を書いたライター

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弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司

弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。

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