電子契約システム選びで失敗しないためのチェックリスト—導入稟議が書きやすいシステム選択5つのポイント

電子契約システム選びで失敗しないためのチェックリスト—システム選択5つのポイント

この記事では、電子契約システムの導入を検討する際に、システム選びで失敗しないために知っておきたい知識を、チェックリスト形式で解説します。法務・総務・情シス担当者が本記事を読むことにより、経営者への稟議や導入趣旨説明の場面で自信をもって説明できるようになります。

法務・総務・情報システム担当者が電子契約システム選びで失敗しないためのポイントとは?

企業にとって、電子契約システムの導入は、

  • 管理部門にとっては、社内の業務フローの組み立て
  • 営業・技術部門にとっては、取引先とのコミュニケーション

いずれにも大きな影響を与えるものとなります。それだけに、システムの選択に失敗は許されません。さらに、締結した契約に万が一のことがあれば、訴訟にも発展しかねない不安があることも考えると、経営者から導入の承諾を得るのも一苦労です。

電子契約システム導入プロジェクトの中心メンバーとなる法務・総務・情報システム部門のみなさまは、電子契約業者から提供される情報を整理しながら、「本当にこの電子契約システムを導入しても問題ないのだろうか」という不安に、日々悩んでいることと思います。

そこで本記事では、ここさえ抜け漏れのないように抑えておけばシステム選びに失敗しない、5つのチェックポイントを伝授します。

法務・総務・情報システム担当者が電子契約システム選びで失敗しないためのポイントとは?

電子契約システム5つの抜け漏れチェックリスト

1. 自社だけでなく取引相手方(受信者)に費用が発生するシステムとなっていないか

電子契約システムを検討するにあたり、必ず比較検討の主な要素として挙げられるのが、システム導入にかかるトータルコストです。業務効率化が実現されても、費用が当初の見積もりよりもかさむようでは、導入担当者の責任が問われてしまいます。

この点、「送信者(主に自社)が負担する1通あたりの電子契約送信コスト」だけに目を奪われがちですが、抜け漏れのない検討のためには、「受信者(主に取引先)に負担いただくコスト」にも配慮することが必要です。

特に、「当事者署名型」や「ハイブリッド型」と呼ばれるシステムは、送信者だけでなく、受信者にも電子証明書の発行手数料が必要となります。電子証明書の発行コストは1通あたり年間で1万円弱ですが、送信/受信に関わる人数分の発行手数料に加え、その電子証明書を毎年更新する際の手数料、それぞれコスト負担が発生することとなります。

たとえば、取引先1社あたり①担当者・②部長・③社長の3名分の電子証明書の発行コストを負担していただくとして年間3万円、取引先の社数分掛け算で負担を強いることを想像すれば、いかに非現実的か分かるのではないでしょうか。

2. 面倒な設定・わかりにくい操作画面等で取引相手方(受信者)に手間や負担をかけるシステムになっていないか

電子契約システムを導入してしばらく運用を続けていると、必ず遭遇するのが「現場が思ったほど電子契約に移行しようとしてくれない」という悩みです。

この原因はさまざまですが、その最も重要なポイントは、「自社都合だけで電子契約での締結を依頼しても、取引の相手先が面倒がってシステムの利用を受け入れてくれなければ、勝手には電子契約に移行できない」という点です。

具体例を一つ挙げてみましょう。たとえば、電子契約システムの中には、電子契約にもかかわらず紙の契約書と同様の発想を引きずって「印影(押印した跡として残る赤い印)」を残せるよう、画面上もしくは印刷面上表示するための印影を設定することができるシステムがあります。ちなみに、こうした印影の有無は、電子契約の法的な効果にはなんら意味はありません(関連記事:電子契約ではハンコの印影が法的に不要となるのはなぜか—押印による二段の推定と比較して解説)。

法的に意味はないとはいえ、電子契約を紙の契約書の感覚に近づけるにはよい仕組みのように思えます。しかし実際は、自社側のシステム利用者から「印影設定の手間が大きい」と不評を買うだけでなく、取引先にもその設定の手間を関与する人数分強いることは、忘れてはいけません。

しかも、その設定方法等について説明を求められるフロント部門からすれば、取引先に電子契約システムの利用をお願いしたくなくなってしまう、大きな理由になりえます。

3. 電子署名法上のシステム要件である「2要素認証」を取引相手方(受信者)に対してもリクエストできるか

2020年9月、総務省・法務省・経済産業省が連名で発出し、デジタル庁に引き継がれた「電子署名法3条Q&A」によれば、クラウド型電子署名が電子署名法上も有効となるためには、2要素認証などにより、十分な水準の固有性を担保することが必要であると整理されました(関連記事:安全な電子契約を実現する「2要素認証」とは?2段階認証との違い・SMS認証のリスク)。

ここで見落としのないよう注意したいのが、電子契約システムにおいて、送信者だけでなく受信者(取引先)側が2要素認証を行っていない場合、「電子署名法3条Q&A」の解釈上、契約の真正な成立を推定させる効力(推定効)が発生しなくなる、という点です。

リスク回避のために自社側が2要素認証を実施できるかは当然に確認が必要ですが、それだけでなく、受信者となる取引先に2要素認証の実施をリクエストできるかどうかも確認が必要です。

4. 脆弱性のあるSMS送信のみで契約が締結できてしまうシステムとなっていないか

上記の認証リスクに関連して、近年問題となりはじめているのが、SMS(ショートメッセージサービス)の脆弱性です。

近年、メールアドレスを持たない・利用したくないユーザー向けに、SMSを契約締結依頼の宛先に指定できる電子契約サービスが増えています。一見すると、特定個人との結びつきが感じられる携帯電話番号を利用したSMS電子契約は、法的な有効性が強そうに思われるかもしれません。しかし、こうしたSMS電子契約には、一般的な電子契約とは異なったのっとりリスク・なりすましリスクが存在します。

SMSを利用した認証の脆弱性については、数年前から大きく取り上げられるようになりました。米国NIST SP800-63-Bの「5.1.3.3 公衆交換電話網を使用した認証」では、将来SMS-OTPが多要素認証から非推奨となる可能性があると記載しています。

マイクロソフト社も、多要素認証(MFA)の認証においてはSMS(OTP)の使用を停止した方が良いと注意喚起しているほか、ヤフオクでは、2022年6月から配送業者を装ったSMSによる被害が多発していることから、対策を強化しています。

5. グレーゾーン解消制度の認定を受けているだけでなく、商業登記にも使える電子契約システムか

デジタル庁のウェブサイトで確認できるグレーゾーン解消制度の認定を受けているかどうかは、電子契約システムの法的有効性を確認する手段として広く知られるようになりました。

しかし、グレーゾーン解消制度の確認だけで安心できるかと言えば、そうではありません。一般事業会社が利用する電子契約システムとしては、法務省の商業登記申請でも利用できる電子契約システムであるか、抜け漏れのないようリストを確認しておくことをおすすめします。会社議事録作成にも電子契約システムを利用する場合、このリストに載っていない電子契約システムを利用すると、登記申請が認められなくなります(関連記事:改正商業登記規則と法務省通達によるクラウドサイン登記の拡大

なお注意点として、サービス名だけでなく、添付する電子証明書が法務省の指定するものであるかの確認が重要です。サービス名がリストに掲載されていても、実際の契約締結時や会社議事録作成時に法務省の指定する電子証明書が添付されない方法でサインをしてしまい、登記申請が受け付けられないという事故が発生しています。

グレーゾーン解消制度の認定を受けているだけでなく、商業登記にも使える電子契約システムか

どのような電子契約システムを選べば、自信をもって導入稟議書を作成できるか?

決裁者となる経営者に分かりやすい安心材料が提供できる電子契約システムであること

チェックリストで検討に抜け漏れがないことを確認できれば、いよいよシステム導入稟議の起案となります。法務・総務・情シス担当者の腕のみせどころです。

全社にかかわる電子契約システムの導入は、経営者にとっても関心事です。しかし、担当者と違い、限られた時間しかない経営者にとっては、電子契約システムの細かい仕様の違いには興味はなく、

  • 法令に準拠しているか
  • 大手企業が導入・利用している実績はあるか
  • 実際に署名作業を行う経営者にとっても分かりやすいシステムか

こうした大まかなポイントについて、経営者にもわかりやすいエビデンスを添えて、安心材料が提供できるかがポイントとなるでしょう。

この点、大企業での具体的な活用事例が実名で公開されている電子契約システムであれば、経営者も首を縦に振ってくれる可能性は高いことは間違いありません(参考:クラウドサイン導入事例集

取引先(顧客)にとって負担がない・受け入れられやすい電子契約システムであること

加えて、電子契約を受け取る取引の相手方と直接接するフロントからも評価される電子契約システムを選べるかも、重要な視点です。

苦労して商談を勝ち抜いて受注に結びつけたお客様に対し、余計な負担を発生させるような電子契約システムは、営業部門としては絶対に受け入れられません。取引先にコスト負担を発生させないことは当然の前提ですし、加えてシステムの操作面でも、誰にでもカンタンに扱えるシステムであることが求められます。

フロントが取引先に対し別途説明を要するような電子契約システムは、取引先に嫌われる前に、社内から嫌われ、結果として利用されずに宝の持ち腐れとなります。クラウドサインが印影アップロード機能を取り入れないのも、取引先に印影画像をアップロードしていただくその手間の重さを理解しているからこそです。

決裁者・経営者の目線だけでなく、その先にいる取引先の利益を第一に考えた視点を持つことこそが、失敗しない電子契約システム選びの最大のポイントであり、導入稟議書にも、そのことを積極的にアピールするとよいでしょう。

どのような電子契約システムを選べば、自信をもって導入稟議書を作成できるか?

まとめ 電子契約システム選び5つのチェックポイント

最後に、電子契約システム選びに失敗しないためのチェックポイントをまとめました。

  1. 自社だけでなく、取引相手方(受信者)に費用が発生するシステムとなっていないか?
  2. わかりにくい操作画面・面倒な設定等で、取引相手方(受信者)に手間や負担をかけるシステムになっていないか?
  3. 電子署名法上のシステム要件である「2要素認証」を取引相手方(受信者)に対してもリクエストできるか?
  4. 脆弱性のあるSMS送信のみで契約が締結できてしまうシステムではないか?
  5. グレーゾーン解消制度の認定を受けているだけでなく、商業登記にも使える電子契約システムか?

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