電子契約の運用ノウハウ

電子契約利用の同意書作成方法とひな形—書面の電磁的交付におけるスムーズな事前承諾の取り方

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この記事では、電子契約を利用する際に、契約の相手方から取得すべき同意書の作成方法とひな形を紹介します。ほとんどの法的書面が電子化できるようになったとはいえ、一部の契約では、電子契約を利用する際に相手方の承諾が必要となるので、注意が必要です。

電子契約を利用して電磁的交付する際に「相手方の同意・承諾」を必要とする書面

2020年に電子署名法が解釈変更され、そして2022年にデジタル改革関連法が施行されたことにより、日本でもほとんどのビジネス契約書が電子契約で締結できるようになりました。

しかしながら、一部の契約書については、電子化を望まない下請事業者や消費者の保護などを目的として、法律で電子契約を利用することについての同意・承諾を取得することが義務付けられています。

このような電子化にあたって相手方の同意・承諾が必要となる主な契約書をリストすると、以下の通りです。

文書名 根拠法令 必要な手続き
建設工事の請負契約書 建設業法19条3項、施行規則13条の2 承諾
設計受託契約・工事監理受託契約の重要事項説明書 建築士法24条の7第3項 承諾
設計受託契約・工事監理受託契約成立後の契約等書面 建築士法24条の8第2項 承諾
下請会社に対する受発注書面 下請法3条2項 承諾
不動産売買・交換の媒介契約書 宅建業法34条2第11項、同12項 承諾
不動産売買・賃貸借契約の重要事項説明書 宅建業法35条8項、同9項 承諾
不動産売買・交換・賃貸借契約成立後の契約等書面 宅建業法37条4項、同5項 承諾
定期借地契約書 借地借家法22条2項 承諾
定期建物賃貸借契約書 借地借家法38条2項 承諾
定期建物賃貸借の説明書面 借地借家法38条4項 承諾
取壊予定建物の賃貸借契約における取壊事由書面 借地借家法39条3項 承諾
マンション管理業務委託契約書 マンション管理適正化法72条6項、同7項、73条3項 承諾
不動産特定共同事業契約書面 不動産特定共同事業法24条3項、25条3項 承諾
投資信託契約約款 投資信託及び投資法人に関する法律5条2項 承諾
貸金業法の契約締結前交付書面 貸金業法16条の2第4項 承諾
貸金業法の生命保険契約等に係る同意前の交付書面 貸金業法16条の3第2項 承諾
貸金業法の契約締結時交付書面 貸金業法17条7項 承諾
貸金業法の受取証書 貸金業法18条4項 承諾
割賦販売法の契約等書面 割賦販売法4条の2、割賦販売法35条の3の8・同条の3の9第1項、同3項 承諾
旅行契約の説明書面 旅行業法12条の4、12条の5、施行令1条等 承諾
労働条件通知書面 労働基準法15条1項、施行規則5条4項 希望
派遣労働者への就業条件明示書面 派遣法34条、施行規則26条1項2号 希望

これらの法律に関わる書面を電子化する際には、以下に解説するポイントを抑えた同意書・承諾書を作成し、相手方から取得しておく必要があります。

電子契約利用の同意書・承諾書作成にあたり押さえるべき注意点

電子化の対象となる書面について明示する

電子化の同意を相手方から取得する文書を作成する際には、第一に、電子化の対象とする書面を特定し、相手方の認識と齟齬のないようにすることが重要です。

たとえば、不動産の賃貸借契約における重要事項説明書の電磁的交付を行うのであれば、

「宅地建物取引業法第35条に規定する重要事項説明について」

といったように、

  • 交付義務を定めた根拠法令
  • 条文番号
  • 文書の内容

を明示して特定するとよいでしょう。

電子化承諾文言をはっきりと記載する

その上で、相手方によるその文書の電子化に対する同意・承諾する意思を文言ではっきりと記します。

たとえば、あなたの会社(甲)が電子化を提案し、相手方(乙)がこれを承諾するケースでは、

「乙は、電磁的方法により契約を締結することを/交付を受けることを承諾します。」

のように、承諾者が誰であるか、主語をはっきりと記載するようにします。

相手方(承諾者)にかかるコスト負担の有無を明らかにする

電子化の承諾を得る過程で、最もトラブルとなりやすいのが、電子化コストを承諾者に負担させる場合です。

特に、当事者署名型の電子契約サービスを利用する場合、承諾者にも電子証明書の取得コスト等の負担があることを伝えないまま承諾を取ったために、後で「コスト負担が有るなら承諾しなかった」といったクレームを受け、契約無効を主張されるリスクも残ります。

法的に義務付けられていなくとも、相手方(承諾者)のコスト負担の有無について、同意書上で明らかにしておくと安心です。

次に、これらの注意点を踏まえて、実際の取引で用いられている電子契約利用・電子書面交付の同意書ひな形を見ていきましょう。

官公庁が作成する電磁的書面交付の同意書・承諾書ひな形

公正取引委員会・中小企業庁が定める電子受発注承諾書ひな形

まず最初に、多くの会社で利用されている、下請事業者と請負契約を電磁的方法で締結する場合に必要な承諾書のひな形を紹介します。

こちらは、公正取引委員会・中小企業庁が「下請取引適正化講習会テキスト」に掲載している同意書の書式例です。上記2で述べた要素が記載されていることがわかります。費用負担の内容のみならず、

  • 実際に用いる手段(電子メール形式なのか、Webからファイルをダウンロードする形式なのか)
  • ソフトウェアのバージョン

も記載し、受信者となる相手方にあらかじめ配慮している点が特徴です(関連記事:下請法の書面交付義務と3条書面の電子化実務—公取・中小企業庁による承諾書ひな形)。

https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/shitauketextbook.pdf

https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/shitauketextbook.pdf

国土交通省が作成する重要事項説明等の電磁的交付同意書ひな形

2022年5月に改正宅建業法が全面施行され、売買・賃貸借ともに完全電子化が可能になりましたが、その検討にあたり、国土交通省が賃貸借契約における重要事項説明書の電子化について社会実験を行った際の書式例です。

費用負担について書式例上明記されていない点は留意が必要ですが、電子契約システムを利用する際に相手方から取得する同意書については、これにならう形でひな形を作成し相手方から取得するのがよいでしょう。

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000160.html

https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/const/sosei_const_tk3_000160.html

なお、国土交通省が新たに公開した「重要事項説明実施マニュアル」11ページには、承諾を得るための具体的方法として、

  1. 承諾する旨を記載した書面(紙)を受領
  2. 承諾する旨を電子メール等で受信
  3. Web ページ上で、重要事項説明書等の電子書面を提供する方法(表1におけるいずれかの方法)及び重要事項説明書等の電子書面のファイルへの記録の方式を示し、Web ページ上で承諾する旨を取得
  4. 承諾する旨を記録した CD-ROM や USB メモリ等の受領

の4つのうち、いずれかを選択するよう求めています(関連記事:国土交通省『重要事項説明実施マニュアル』にみる不動産電子契約・IT重説のポイントと注意点)。

民間企業による電子契約利用同意書・承諾書の参考事例

金融機関の電子契約締結に関する同意書の事例

続いて、民間事業者の電子契約実務で取り交わされている同意書の事例を見てみましょう。

下記例の金融機関では、融資契約の電子化にあたり、当事者署名型の電子契約サービスを利用することの同意を、相手方にわざわざ署名捺印をさせて確認しています。

なお当事者署名型の電子契約サービスを利用する場合のデメリットとして、相手方(この事例の場合、融資の申込人・連帯保証人・担保提供者の全員)が、電子証明書発行手数料やシステム利用料を負担しなければならないという欠点があります。そのため、この同意書第4条では、「ご利用料金」として、電子契約事務取扱手数料が発生する旨の同意を求めています。

クラウドサインのような事業者署名型(立会人型)の電子契約サービスを利用する場合には、こうした相手方が負担する費用が発生しないため、その分同意取得もスムーズになります。

https://www.netbk.co.jp/contents/resources/pdf/doc_hl_electronic_contract.pdf

https://www.netbk.co.jp/contents/resources/pdf/doc_hl_electronic_contract.pdf

また、クラウドサイン公式サイトでは約1,000件の同意書をほぼ100%電子化したりそなデジタルハブ株式会社の導入事例も掲載しています。運用面での工夫についても伺っていますので、同意書の電子化を検討している方はぜひ以下のリンクをご一読ください。

>「約1,000件の同意書をほぼ100%電子化。金融機関系ならではのアナログ業務から脱却を進めるメリットとは?」

不動産特定共同事業の電磁的書面交付に関する同意書の事例

こちらは、不動産特定共同事業で取り交わされる書面の電磁的交付に関する同意書の事例です。

また、電子化の対象となる書面が8つ箇条書きされています。このように、取り交わす書面が多い取引であるほど、電子化の恩恵は大きくなります。

また、電子交付の手段を公表または通知により将来変更する可能性を含めて同意を取得しているのが特徴的です。

https://www.pressance.co.jp/crowdfunding/index.php?app_controller=download&type=agree_doc&mid=ADM001&m=dl

https://www.pressance.co.jp/crowdfunding/index.php?app_controller=download&type=agree_doc&mid=ADM001&m=dl

まとめ—相手方から利用についてスムーズに同意を得られる電子契約サービスを選ぶ

以上、電子契約システムを利用した電磁的な契約締結・書面交付に関する同意書・承諾書を取得するにあたり押さえておくべき注意点と、実務で用いられる同意書・承諾書のひな形について解説しました。

  • 過去書面化義務があった文書も、法改正により、現在はほとんどが電磁的手段を利用できるようになっている
  • 同意書・承諾書を作成する際には、電子化の対象となる書面、相手方の承諾の意思、コスト負担をはっきりと記載する
  • 官公庁や民間企業の事例も参考にする

契約書面の完全電子化によって目指す業務効率化と生産性向上は、自社だけでなく相手方にも電子契約の利用を気持ちよく・スムーズに受け入れていただくことで、はじめて実現します。相手方が電子契約を受け入れてくれず、署名や押印での契約を求められてしまえば、せっかくの電子契約も宝の持ち腐れです。

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