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契約書の「保存」と「保管」の違いとは?契約書管理の場面では「保存」が法的に正しい用語法である理由

契約管理入門—契約書の「保存」と「保管」の違いとは?法律上の正しい用語法を解説

この記事では、契約管理業務で用いられる「保存」と「保管」の語句について、その定義の違いや使い分けの方法を解説します。「契約書を保存する」が正しいのか、それとも「契約書を保管するが正しいのか。法令辞典や文書管理に関する法令上での使われ方を確認した上で、根拠とともに正しい用法を確認しておきましょう。

1. 「契約書を保存する」と「契約書を保管する」、法的にはどちらが正しい?

ビジネス上はあまり使い分けを意識しないものの、文書を扱う際に頻出する語句に「保存」と「保管」があります。ではみなさんは、契約書を机・キャビネット・書庫等にしまっておく際、「保存」と「保管」のどちらの用語を使っているでしょうか?

ふだんの日常生活でも用いる語句だけに、多くの方が特に意識をせずどちらかの語を使っていることと思います。しかし、この2つの語の定義や使われ方を調べていくと、その違いや使い分けの方法が見えてきます。そこで以下では、

  • 一般的な日本語の辞典として、広辞苑第七版の定義
  • 専門的な辞典として、有斐閣法律用語辞典の定義
  • 法令上登場する定義

をそれぞれ確認した上で、契約書においてはどちらを使うのが正しいのかを確認していきます。

2. 広辞苑第七版における「保存」と「保管」の定義と用例

2.1 保存とは

まず、一般的な日本語としての「保存」について、広辞苑第七版を確認してみましょう。

【保存】 そのままの状態を保って失わないこと。原状のままに維持すること。
「遺跡の—」「—がきく」「パソコンに—する」

対象の状態に重きを置いた語であることが解説されています。そして、用例として「パソコンに保存する」が示されています。

そう言われてみれば、「パソコンに(契約書/契約書データを)保管する」とは言いません。紙の契約書だけでなく、データとしての電子契約をもカバーする語としては、保管の定義を確認するまでもなく、保存を使ったほうが適切なように思われます。

2.2 保管とは

では、「保管」の定義・用例はどうなっているでしょうか。

【保管】 大切なものを、こわしたりなくしたりしないように保存すること。
「書類を金庫に—する」

こちらは、対象をこわさない・なくさないことを目的化した語であることがわかります。その用例として、「書類を金庫に保管する」が示されています。

契約書は書類の一つですから、「保管」でも間違いではないように見えます。そして、金庫に入れておく契約書も(特に高額な金銭債権証書のように重要なものなど)存在します。

とはいえ、どんなに大きな金庫が会社にあったとしても、すべての契約書を金庫に入れようとはしないはずです。それは、契約書はそこに書かれた情報にアクセスできてこそ、価値を発揮するものだからです。いちいち金庫にしまっていては、情報としての活用はおぼつかなくなります。

こう並べてみて違いを比較すると、「保存」は状態が損なわれないことを前提としながら、その活用や展開を想定している語であるのに対し、「保管」は滅失・毀損されないこと自体が目的化されるために、よほどのことがない限りは触らないでおくことを前提としている語であると考えられます。

書籍情報

広辞苑


  • 著者:新村出/編集
  • 出版社:岩波書店
  • 出版年月:20171229

3. 有斐閣法律用語辞典における「保存」と「保管」の定義と用例

次に、法律用語辞典では、どのような定義の違いがあるのでしょうか。有斐閣から出版されている法律用語辞典をひもといてみましょう。

見出し語としては「保管」のみが採用されていますが、その解説の中で、「保存」との差異についても説明があります。

【保管】 ある物(主として他人の物)を保持して、滅失、毀損を防ぐこと類似の語に「保存」があるが、これは、物を保管するという消極的なものにとどまらず、財産の現状維持のために積極的な行為を行うことをも含む点に差異がある。

契約書は、その物体(書面や電磁的記録)そのものに価値があるのではなく、そこに書かれた情報を活用することに価値がある文書です。

法律用語辞典の定義は、広辞苑での説明と一致しており、これに照らしても情報活用を前提とする法律文書である契約書については、「保管」ではなく「保存」を使用するのがより適切と考えられます。

書籍情報

有斐閣法律用語辞典〔第5版〕


  • 著者:法令用語研究会/編集
  • 出版社:有斐閣
  • 出版年月:20201223

4. 法律上の条文用語法では、契約書に関しては「保存」を使用

4.1 e-文書法では「保存>保管」

実際に日本で制定され公布・施行されている現行法令を調べてみると、条文上でも保存と保管の用語法には使い分けがあるようです。

その代表的なものとして、契約書等の法的文書に関し、それまでの書面に加えて電磁的記録の活用を推進するきっかけをつくった法律である「e-文書法(民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律)」を確認してみます。

e-文書法の2条1項5号には、以下のような定義の記載があります。

五 保存 民間事業者等が書面又は電磁的記録を保存し、保管し、管理し、備え、備え置き、備え付け、又は常備することをいう。ただし、訴訟手続その他の裁判所における手続並びに刑事事件及び政令で定める犯則事件に関する法令の規定に基づく手続(以下この条において「裁判手続等」という。)において行うものを除く。

この定義によれば、「保管」は「保存」の中の一要素にすぎず、活用まで含む文書の本来の役割のすべてをカバーしている語は「保存」であることがわかります。

4.2 法令名中、文書に関して「保管」の語が使われるのは遺言書のみ

実際の法令名で「保管」の語が使われているものを探してみると、以下のような法令が検索結果に現れます。

  • 自動車の保管場所の確保等に関する法律
  • 自動車の保管場所の確保等に関する法律施行令
  • 法務局における遺言書の保管等に関する法律
  • 法務局における遺言書の保管等に関する政令
  • 国の債権者代位権の行使に伴う現金又は有価証券の保管に関する政令
  • 外国政府の財産の処分等に伴つて生ずる現金の保管に関する政令
  • 保管金取扱規程
  • 日本銀行保管貴金属等取扱規則

これらの中で、文書に関して保管の語を使っている法令は、遺言書だけというのが特徴的です。遺言書は、作成すれば死亡するまで開けないという意味では、確かに保管の語が適している数少ない文書といえます。

辞典類でも確認してきたように、対象文書の活用を前提とする「保存」と違い、「保管」の語は、契約書の記載内容を情報として活用する前提にない、物としての完全性維持を優先した静的状態を指す限定的な語句と捉えるべきでしょう。

5. 契約書ストレージ業者が語る「保存」と「保管」の定義の違いは根拠が不明

ところで、インターネットで「保存 保管 違い」のようなワードで検索すると、契約書等ストレージ業者のオウンドメディアによる解説記事が、検索結果のトップにいくつも出現してきます。

そうした記事の多くで、保存と保管の語句の定義について、以下のような違いがあると解説されています。

「保管」とは
・活用中の書類(非原本を含む)が対象
・事務室内のキャビネットを保管場所とする
・原則1年間

「保存」とは
・あまり活用しなくなった書類(原則原本のみ)が対象
・オフィス外の文書庫や外部倉庫などに保存
・法令で定められた保存期間等に従う

しかし、このような解説を述べるストレージ業者の記事には文献や法令等で根拠が示されたものはめったに見当たりません。「保管」が正しく「保存」の語は通常用いないとする結論を書くものも多く、上記例などは、保管と保存の定義が本来の語義と完全に逆転してしまっています。

このような誤った解説には惑わされないように注意したいところです。

6. まとめ—契約書に関しては「保管」ではなく「保存」を用いるのが本来の用語法

以上をまとめると、「締結して終わり」ではなく、必要に応じてその文書に記載された情報を活用して相手方との取引関係を見直したり、紛争を予防・解決する契約書に関しては、「保存」を用いるのが適切です。

一方、同じ法的文書であっても、契約書ではなく、遺言書のように情報としての活用機会が極めて限定的な文書については「保管」を用いたほうが適切な場合もある、と整理できます。

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