契約マネジメント

企業が契約書を管理すべき4つの理由—契約書管理に関する法律上の義務まとめ

契約管理入門—企業が契約書を管理すべき理由と法律上の義務

この記事では、企業がなぜ契約書を管理すべきなのか、その理由について4つの観点から整理して解説します。事業リスクをコントロールする手段であり、営業活動から発生する収益と業績の源泉ともなる契約書は、書面や電磁的記録として保存すべき法律上の義務があることを理解することが最も重要です。

企業が契約書を管理すべき4つの理由

① 法律上の義務を果たすため

企業にとって、なぜ契約書の管理が重要となるのか?それはやはり「経営者は、法律により、契約管理義務を課されているから」という点が大きな理由となります。

詳しくは後述しますが、経営者には、内部統制の一環として「その職務の執行に関する情報を管理する義務」が課されています(会社法362条4項6号および会社法施行規則100条)。また、会社に対しては、経理上・税務上の正確性の担保や取引の安全保護を目的とした保存義務(法人税法・電子帳簿保存法等)も課されています。

ふだんは法務部門が当たり前のように契約書を管理していることもあり、あまり意識されることのない法的義務ですが、コンプライアンス徹底のためにも、その根拠となる法律および条文の存在を認識しておくことが重要となります。

② 適正なリスクマネジメントのため

契約管理がリスクマネジメントの遂行に重要であることは、言うまでもありません。企業は、あらかじめ想定されるトラブルにスムーズに対処できるように契約書を作成し締結しているわけですから、これを保存していつでも契約上の権利義務を確認できるようにしておくことが重要です。

実際にトラブルが発生した場合には、自社および取引先は、契約書記載の処理ルールがどのようなものであったかを確認し、そこに記載された処理を遂行するとともに、ペナルティを課す(時に課される)こととなります。たとえば、秘密保持契約を締結しているにもかかわらず、相手方が秘密を漏えいした場合には、

漏えい、紛失、盗難、盗用等の事態が発生し、又はそのおそれがあることを知った場合は、直ちにその旨を相手方に書面をもって通知する。

に従って、会社の公式見解として書面通知を請求すべきですし、

>秘密情報等を開示するなど本契約の条項に違反した場合には、甲又は乙は、相手方が必要と認める措置を直ちに講ずるとともに、相手方に生じた損害を賠償しなければならない。

といった契約条件に従い、秘密を漏えいしたことによる被害の最小化と賠償を請求することになります(関連記事:経済産業省公式「NDA(秘密保持契約書)ひな形」2022年版の解説【Wordファイル無料DL付】)。もし、契約が管理されていなければ、こうした事態において相手方に何を要求すべきかを検討しているうちに、被害が拡大してしまうかもしれません。

③ 業務効率化のため

次に、業務効率化の要請が挙げられます。企業法務の契約管理実態を見ると、まだまだ

  • Microsoft Excelのスプレッドシート管理
  • 紙の契約書のキャビネット・書庫保存

に依存している現状があります。営業等のフロント部門から過去の契約書の閲覧・確認を要望された際に、システム化してこれをすぐに取り出し提供できる企業は多くありません

企業法務ポータル「BUSINESS LAWYERS」の調査によれば、導入しているリーガルテックサービスとして、電子契約締結が約60%に達しているのに対し、契約書・文書管理サービスは35%と、システム化が浸透しているとは言えない状態であることが分かっています(関連リンク:業務効率化やリーガルテック導入への取組状況は? 読者アンケートに見る2022年重要トピック(1))。

電子契約と比較すると、契約書・文書管理サービスを利用している企業はまだ多くない

電子契約と比較すると、契約書・文書管理サービスを利用している企業はまだ多くない

④ 契約書を経営資源として活用するため

そして、これからの時代に必要となるのが、契約書を情報(データ)という経営資源として捉え、活用する視点です。

これまでの契約管理といえば、トラブルが発生したときに閲覧する、フロントが取引上必要になったときに確認するといった「受け身」の利用がほとんどであり、1件ごとに閲覧・確認するのがせいぜいでした。

しかしこれからは、契約書に記載された情報をデジタル化し、ビッグデータとしてこれに横串を刺して分析し、当社独自の傾向や取引先ごとのクセや法則性を見出すなど、経営資源として活用していく時代を迎えます(関連記事:契約管理の方法とポイント—データで管理すべき20の契約項目)。

ここまで、契約管理の必要性について理解できたところで、最も重要である契約管理に関する法律上の義務を確認しておきましょう。

なお契約書を管理・保存する際に押さえておきたいポイントは「契約書管理とは?管理する上でのポイントやシステム導入のメリットを解説」でも詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。

契約書管理に関する法律上の義務

(1)会社法および会社法施行規則が定める体制整備義務

企業における契約管理の義務を定める条文が、会社法および会社法施行規則に規定されています。まず前提となるのが、取締役会の職務としての内部統制義務を定めた会社法362条4項6号です。

取締役の職務の執行が法律及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制の整備

この会社法362条4項6号にある「法務省令で定める体制」としての契約管理義務が、会社法施行規則100条において、以下のとおり記載されています。ここでいう「情報」の際たるものが、取引先と締結する契約情報であることは、異論はないでしょう。

取締役の職務の執行に係る情報の保存及び管理に関する体制

会社法は、株式会社の経営責任を司る法律だけに、その本体条文では抽象的な義務にとどまっていますが、施行規則と合わせ読むと、日々当たり前のこととして実施している業務が重要なものとして詳細に位置付けられていることがわかります。

(2)法人税法および法人税法施行規則が定める文書保存義務

青色申告法人は、法人税法126条1項および法人税法施行規則59条1項3号の定めにより、取引時に相手方から受け取った契約書と自社で作成したその写しを、7年間保存する義務を負います。

以下、法人税法施行規則より抜粋します。

青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。
(一項および二項略)
三 取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し

契約書は何年間保存する義務があるか、という質問がよくありますが、後述する業法規制などもあり一概には言えないものの、「7年間」が契約書の最低保存年数のラインと言われる理由は、この法人税法の定めがあるためです。

(3) 電子帳簿保存法および電子帳簿保存法施行規則が定める文書保存義務

紙の契約書ではなく、電子契約を締結した場合は、電子帳簿保存法および電子帳簿保存法施行規則に従うことになります。

以下、電子帳簿保存法施行規則4条より抜粋します。

法第七条に規定する保存義務者は、電子取引を行った場合には、当該電子取引の取引情報(略)に係る電磁的記録を、当該取引情報の受領が書面により行われたとした場合又は当該取引情報の送付が書面により行われその写しが作成されたとした場合に、国税に関する法律の規定により、当該書面を保存すべきこととなる場所に、当該書面を保存すべきこととなる期間、次に掲げる措置のいずれかを行い、第二条第二項第二号及び第六項第六号並びに同項第七号において準用する同条第二項第一号(略)に掲げる要件(略)に掲げる要件(略)に従って保存しなければならない

この当該書面を保存すべきこととなる期間も、法人税法と同様7年間です。

(4)各種業法が定める文書保存義務

(1)〜(3)までは、すべての株式会社に関係のある法的義務でしたが、それ以外にも、各種業法が定める特別な文書保存義務があります。

一例として、建設業における契約書があります。建設請負工事の契約書は建設関係図書にあたりますが、その保存年限について建設業法施行規則28条を見ると、

第二十六条第五項に規定する図書(同条第八項の規定による記録が行われた同項のファイル又は磁気ディスクを含む。)の保存期間は、請け負つた建設工事ごとに、当該建設工事の目的物の引渡しをしたときから十年間とする。

と、法人税法等よりも長い10年間の保存が義務付けられます。

業種によっては、こうした特別な保存年限を定めた業法がありますので、不明であれば、監督官庁や関係業法に詳しい弁護士に確認を求めるとよいでしょう。

特殊な業法上の義務等については、弁護士への確認も

特殊な業法上の義務等については、弁護士への確認も

契約マネジメントプラットフォームを活用した契約書管理

電子契約システムとAIを活用した契約書管理

このような法律上の義務を、リスクマネジメントや業務効率化をも達成しながら果たすのは、紙の契約書を手作業で物理的に管理する方法ではおのずと限界があります。

そこで考えられる対策の一つが、電子契約への移行です。契約管理を締結段階からデジタル化することにより、物理的な紛失や毀損リスクがなくなることに加え、有効な契約だけを抽出したり、契約期間満了と更新タイミングを見落とさないようにアラートを設定したりといったマネジメントが可能となります。

さらに、クラウドサインのようなAI契約管理機能を有する契約マネジメントプラットフォームを利用すれば、契約書名や取引先社名だけでなく、

  • 契約締結日
  • 契約開始日
  • 契約終了日
  • 自動更新の有無
  • 解約通知期限
  • 取引金額

といった基本情報もAIが自動的に抽出し入力してくれるので、大量に締結する契約書の管理も効率化できます(業務委託・請負契約書に対応しています)。

紙で締結した契約書のデジタル化とデータ活用

契約マネジメントプラットフォームの導入は、「これから」締結する契約の管理をかんたん・安全にしてくれるものです。一方で、「これまで」締結してきた大量の契約書の管理も、効率化したいものです。

そのために活用したいのは、紙の契約書を、袋とじ等もそのままに非破壊でまとめてデジタル化するスキャンサービスを統合したサービスです。PDFファイルにデータ変換された契約書が、電子契約とともに一元管理されることにより、社内のフロント部門からの問合せにも迅速に対応できるようになり、経営者にレポーティングする際の分析対象データとしても活用できるようになります。

契約書のスキャンサービスは、実際に発注するまで価格が不明瞭なサービスも少なくありません。クラウドサインでは、貴社の契約書保管状況に応じてコスト概算見積もり金額が算出できる「クラウドサインSCAN簡易試算ツール」を用意し、大量の契約書のデジタル化に必要な予算をすぐに把握することができます。

まとめ

  • 契約管理は法律上の義務であるとともに、リスクマネジメント・業務請負効率化・データ活用の面でも重要となっている
  • 契約管理を義務付ける法律は会社法であり、その他文書としての保存を義務付ける法律として法人税法、電子帳簿保存法、業法等がある
  • 契約マネジメントプラットフォームを活用することにより、紙と手作業で行っていた契約管理を高次元かつ低コストで実現できる
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この記事を書いたライター

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弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司

弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。

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