【弁護士監修テンプレートあり】入社承諾書とは?主な記載事項や雇用主側の注意点などを解説

採用活動が終盤に差し掛かると必要になるのが「入社承諾書」です。入社承諾書の提出をもって内定が成立するため、企業が採用選考を経て内定者を決定したときには、内定者に入社承諾書を提出してもらう必要があります。
入社承諾書には、内定後のトラブルや事情変更などを想定して、内定が取り消され得るケースなども書き込んでおくことが望ましいです。
本記事では入社承諾書について、主な記載事項や雇用主側の注意点などを弁護士が解説しますので、人事・採用担当者の方はぜひ参考にしてみて下さい。
なお、クラウドサインでは入社承諾書のひな形をご用意しました。下記のリンクからダウンロードできますので、社内の方針等にあわせて適宜調整したうえでご利用ください。
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目次
入社承諾書とは
「入社承諾書」とは、企業側の内定オファーを内定者側が承諾する書面です。
【入社承諾書の見本】

入社承諾書のテンプレート例
先に企業側が「採用内定通知書」などを送付し、それに返答する形で内定者が入社承諾書を提出します。
内定者に入社承諾書を提出してもらうメリット
内定者に入社承諾書を提出してもらう主なメリットは、内定の成立時期や条件が明確になる点です。
「内定」とは、将来のある時期から使用者が労働者を雇用する旨の「契約」であると解されています。契約は、当事者のうち一方が申込みを行い、他方がその申込みを承諾した場合に成立します。
内定に関しては、企業側が送付する採用内定通知書が「申込み」に当たり、内定者が返送する入社承諾書が「承諾」に当たります。つまり、入社承諾書を企業が受け取った時点で内定が成立することになります。
書面をやり取りせず、口頭でも内定は成立しますが、成立時期や条件などが曖昧になってしまう点に注意が必要です。採用内定通知書と入社承諾書を互いに取り交わせば、内定の成立時期や条件などが明確になり、トラブルの予防に繋がるため、書面を提出してもらうのがよいでしょう。
入社承諾書を提出してもらうべきタイミング
入社承諾書は、企業側が内定者を決定し、採用内定通知書を送付した後のタイミングで、速やかに送付してもらいましょう。
入社承諾書の返送期限は、採用内定通知書の発送日から2週間後程度に設定するのが一般的です。
入社承諾書の主な記載事項|例文も紹介
入社承諾書には、主に以下の事項を記載します。
②入社を承諾する旨、入社日
③内定者の確認・誓約事項、違反した場合は内定が取り消され得る旨
④内定者の住所、署名、押印
⑤身元保証人に関する事項
各事項について、記載例を示しながら解説します。
宛先(雇用主の名称)、日付
株式会社○○ 御中
○年○月○日
入社承諾書の提出先(雇用主)の名称と、作成日を記載します。
入社を承諾する旨、入社日
私は、下記の事項につきいずれも確認又は誓約したうえで、×年×月×日付で貴社に入社することを承諾いたします。
入社を承諾する旨と、入社予定日を記載します。次の項目で記載する確認・誓約事項につき、内定者が確認または誓約する旨も明記しておきましょう。
内定者の確認・誓約事項、違反した場合は内定が取り消され得る旨
記
- 本書作成日以降、正当な理由なく貴社への入社を拒否しません。
- 本書作成日の前後を問わず、貴社に対し、学歴、経歴、資格その他一切の事項につき、虚偽の申告をしておらず、又は重要な事実を隠していません。
- 病気、事故その他貴社における労働に支障を生じ得る事由が発生したとき、又は住所を変更したときは、直ちに貴社に対してその旨を通知します。
- 本書作成日の前後を問わず、犯罪行為その他の違法行為、又は貴社の社員としての品位を害する行為をしません。
- 次に掲げる事由の一にでも該当したときは、採用内定を取り消され、又は解雇されても異存ありません。
① 前三項の規定に違反したとき。
② 病気、事故その他の事由により、貴社における勤務が困難になったと貴社が合理的に判断したとき。
③ ○年○月までに、本書作成日において在籍している大学を卒業し、又は大学院の課程を修了できなかったとき。
以上
内定者が確認または誓約する事項を明記します。
上記の例では、正当な理由なく入社を拒否しない旨、学歴や経歴などを詐称していない旨、病気・事故や住所変更などは直ちに通知する旨、違法行為等をしない旨を記載しています。
また、雇用主側が内定を取り消すことができる事由も明記しましょう。
上記の例では、確認・誓約事項の違反が判明した場合に加えて、病気・事故などによって入社が困難になった場合と、学校を卒業(修了)できなかった場合を内定取消事由に挙げています。
内定者の住所、署名、押印
(本人)
住所________________________氏名__________________印
内定者本人の住所と氏名を記載し、さらに押印をしてもらいます。
自書による署名と押印には、文書の真正な成立を推定させる効果があります(民事訴訟法228条4項)。住所は印字しても構いませんが、氏名は空欄にしておき、内定者に自書してもらいましょう。
身元保証人に関する事項
(身元保証人)
住所________________________氏名__________________印
(本人との関係:____)
「身元保証人」とは、労働者が使用者に与えた損害を賠償する責任を負う人です。そのほか、労働者本人がきちんとした人物であることを証明する役割や、労働者本人に何かあったときの緊急連絡先としての役割を担います。
身元保証人の指定を求める場合は、入社承諾書に身元保証人の住所・氏名と本人との関係を記載してもらいましょう。なお、身元保証書を別途提出してもらうのが一般的です。
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弁護士監修の入社承諾書ひな形ダウンロード
入社承諾書のひな形は、下記のリンクからダウンロードできます。社内の方針等にあわせて適宜調整したうえでご利用ください。
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従業員の入社に関してやり取りするその他の書類
従業員の入社に当たっては、入社承諾書以外に以下の書類などをやり取りします。それぞれ適切に作成して、人事・労務に関するトラブルの予防を図りましょう。
②労働条件通知書
③雇用契約書
④秘密保持誓約書
⑤身元保証書
採用内定通知書
「採用内定通知書」は、企業が採用候補者に対して内定の申込みを行う書面です。主に以下の事項などを記載します。
・内定者が返送すべき書面の一覧、提出期限
・内定を取り消すことがある場合
・採用内定に関する問い合わせ窓口
など
採用内定通知書は、入社承諾書と対になるものです。特に内定を取り消すことがある場合については、採用内定通知書と入社承諾書の内容を揃えるようにしてください。
労働条件通知書
「労働条件通知書」は、使用者が労働者を雇い入れる際に交付する書面です。以下の事項を記載する必要があります(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条3項・6項)。
(b)有期労働契約を更新する場合の基準(通算契約期間または更新回数の上限がある場合は、その上限を含む)
(c)就業の場所、従事すべき業務(これらの変更の範囲を含む)
(d)以下の事項
・始業、終業の時刻
・所定労働時間を超える労働の有無
・休憩時間
・休日
・休暇
・就業時転換(労働者を2組以上に分けて就業させる場合)
(e)以下の事項
・賃金(退職手当及び臨時に支払われる賃金を除く。以下同じ)の決定、計算、支払の方法
・賃金の締切り、支払の時期
・昇給
(f)退職(解雇の事由を含む)
(g)以下の事項(有期労働契約の期間内に、無期転換申込みができるようになる見込みの場合)
・無期転換の申込み
・無期転換後の労働条件に関する事項
なお、労働者が希望した場合に限り、労働条件通知書に記載すべき事項をファクシミリや電子メールなどで明示することも認められます。
雇用契約書
「雇用契約書」は、雇用の条件を記載した契約書です。使用者と労働者がそれぞれ調印して作成します。
雇用契約書には、雇用の条件を細かく定めます。ただし、労働条件通知書に記載すべき事項については、同書を添付して引用する形とすることも考えられます。また、就業規則に定められている事項は「就業規則に従う」などと記載することもあります。
雇用契約書は紙で作成するケースが多く見られますが、電子契約の方式で締結することも可能です。電子契約には、管理や検索がしやすいなどのメリットがあります。
秘密保持誓約書
「秘密保持誓約書」は、労働者が使用者に関する秘密を第三者に漏らさない旨を誓約する書面です。以下の事項などを記載します。
・第三者に対する開示、漏洩の禁止
・目的外利用の禁止
・不必要な複製の禁止
・退職時の秘密情報の返還
・有効期間
など
顧客情報やノウハウなどが競合他社へ流出すると、企業にとっては大きな痛手となります。内定を出す段階から、内定者には秘密保持誓約書を提出させることが望ましいです。
身元保証書
「身元保証書」は、労働者が使用者に対して損害を加えた場合に、その損害を賠償する旨を身元保証人が誓約する書面です。以下の事項などを記載します。
・損害賠償責任の内容と極度額
・身元保証の期間と更新の方法
・使用者の身元保証人に対する通知の方法
身元保証には、「身元保証ニ関スル法律」のルールが適用されます。
身元保証の有効期間は最長5年間で、自動更新は不可です(身元保証書の再提出による更新は可能)。身元保証人の責任が発生しそうな場合や、その責任が重くなりそうな場合には、身元保証人に対する通知が必要とされています。
また、身元保証は「根保証(=対象となる債務が特定されていない保証)」に当たるため、個人が身元保証人になる場合は極度額の定めが必要です(民法465条の2第2項)。極度額の定めがないと、身元保証が無効になってしまいます。
身元保証書の提出を求める際には、上記のような注意点を踏まえて様式を準備してください。
入社承諾書に関する雇用主側の注意点
入社承諾書に関して、雇用主である企業は特に以下のポイントにご注意ください。
②正当な理由のない内定取り消しは認められない
入社承諾書の提出後でも、内定を辞退される可能性がある
入社承諾書を企業側が受け取った時点で内定(=労働契約)が成立しますが、内定者側は2週間前に企業側へ通知すれば、いつでも内定を辞退することができます(民法627条1項)。
入社承諾書に「正当な理由なく貴社への入社を拒否しません」などと記載されていても、2週間前の通知による内定辞退を制限することはできないと考えられます。
企業側としては、できる限り内定を辞退されないように、従業員と内定者が交流する機会を設けるなどのケアを行うことが望ましいです。また、人件費に余裕がある場合は、内定辞退を見越して多めに内定を出しておくことも考えられます。
正当な理由のない内定取り消しは認められない
一度内定が成立すると、企業側が一方的な都合で内定を取り消すことはまず認められません。
企業側が内定を取り消すためには、以下の2つの要件を満たしている必要があります(最高裁昭和54年7月20日判決)。
(b)解約権留保の趣旨および目的に照らして、内定取り消しが客観的に合理的であり、かつ社会通念上相当として是認できること。
入社承諾書に列挙されている内定取消事由についても、上記の2つの要件を満たしていなければ、内定取り消しの理由として認められないので要注意です。
内定取り消しは内定者に与える不利益が大きいため、従業員の解雇に準じてその有効性が厳しく審査されます。内定取り消しは基本的に難しいと認識したうえで、採用選考を慎重に行ってください。
採用関連書類は電子契約でも送付できる
採用関連書類は、全て電子化が可能なため、オンラインのみで契約業務を完結する「電子契約サービス」を利用できます。電子契約サービスとは、電子署名を施した電子ファイルをインターネット上で公開して、企業が保有するサーバーやクラウドストレージなどに保管しておくサービスのことです。
【電子契約サービスのイメージ図】

書面での交付が法律で義務化されていた労働条件通知書も電子化が解禁され、入社関連書類について、電子契約を導入している会社も増えてきています。
採用関連書類は種類が多く、提出期限がシビアなものなども含まれますが、各種書類を電子化して一元管理することで、提出漏れや紛失のリスクなどを防げます。
今後の法改正などのタイミングで、さらに入社手続きに必要な書類に変更があった場合なども、書類の管理フローが電子化されていれば迅速かつ適切なアップデートが可能です。ぜひ入社手続きをDX化して、業務の効率化を図ってみてはいかがでしょうか。
まとめ
採用内定通知書と入社承諾書を取り交わすことにより、内定の時期や条件が明確になり、内定者とのトラブルのリスクを軽減できます。採用内定を出す際には、内定者に入社承諾書を提出してもらいましょう。
採用内定通知書や入社承諾書のほか、従業員の入社に関しては、労働条件通知書や雇用契約書などさまざまな文書をやり取りします。従業員とのトラブルを予防するため、各文書の目的を踏まえて適切に内容を検討することが大切です。
電子契約サービスで書類を電子化することで、入社関連書類の管理や検索がしやすくなるため、電子契約をまだ導入していない企業は、自社に合った導入の形を検討することをおすすめします。
なお、クラウド型電子契約サービス「クラウドサイン」では電子契約をこれから検討する方に向け、「電子契約の始め方完全ガイド」をご用意しています。下記フォームから無料でダウンロードできますので、今後採用関連書類などの紙の書類を電子化したいという方はぜひ参考にしてみてください。
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この記事を書いたライター
阿部 由羅
弁護士
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
