SLAとは?SLOとの違いや必要性、作成・策定時の注意点を解説
「利用しているクラウドサービスが突然遅くなった」「障害発生時の補償内容があいまいで困った」といった事態は、ビジネスの現場で起こり得る問題です。あるいは「毎月の利用料金に見合った品質のサービスが提供されているか、客観的な基準がなくて不安」「システム障害が起きたとき、どこまでがサービス提供者の責任範囲なのか明確にしたい」と感じている方もいるかもしれません。
こうした品質に関する認識のズレやトラブルを防ぐため、提供者と利用者の間で結ばれる「品質に関する約束事」がSLA(Service Level Agreement)です。SLAは、たとえば「サービスの稼働率は常に99.9%以上を保つ」といったように、提供するサービスの品質レベルを具体的な数値で約束するものです。
当記事では、SLAの基本的な概念から、混同されがちな「SLO」との違い、実際の企業で用いられているSLAの具体例、そして契約書作成時の注意点まで詳しく解説します。
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目次
SLA(サービス品質保証)とは?
SLAとは「Service Level Agreement」の略称で、日本語では「サービス品質保証」または「サービスレベル合意書」と訳されます。
SLAは、ユーザーがサービスを提供する者との間で、サービスの品質について合意する契約のことを言います(影島広泰『法律家・法務担当者のためのIT技術用語辞典〔第2版〕』(商事法務、2021年)より)。具体的には、「サーバーの稼働率を月間99.9%以上とする」「問い合わせには24時間以内に一次回答する」といった内容を明確に定義し、もしその基準を達成できなかった場合の対応(利用料金の減額など)までを取り決めます。
ベンダーが仕様を決定して制作したソフトウェアをサービスとして提供するSaaSやクラウドサービスなどでは、その品質・機能・性能等について、ユーザーとの間で認識に齟齬が発生し、トラブルになることも少なくありません。
そうしたトラブルを未然に防ぎ、発生したとしても問題解決を容易にするために定められる文書がSLAです。口頭の約束ではなく、書面による契約として締結されることで、SLAは当事者間における法的な拘束力を持つ場合があります。
SLAはなぜ必要なのか?
SLAは、サービス提供者と利用者の間の健全な関係を築くうえで大事な役割を担っています。ここでは、SLAが必要とされる主な理由を解説します。
サービス品質の共通認識を形成するため
「高品質なサービス」という言葉の解釈は、人によって異なります。SLAは、稼働率や応答時間といった客観的な指標でサービスの品質レベルを具体的に定めます。これにより、提供者と利用者の間で「どのような状態が正常で、どこからが品質低下なのか」という共通の認識を持つことができます。
責任範囲を明確にし、トラブルを未然に防ぐため
サービスの障害が発生した際、その原因や責任の所在が曖昧だと、問題解決が遅れ、トラブルに発展しがちです。SLAは、提供者が保証する品質の範囲と、保証が適用されない免責事項を明確に定めます。これにより、万が一の事態が発生しても、契約に基づいて冷静かつ迅速な対応が可能になります。
利用者と提供者双方にメリットがあるため
SLAの締結は、一方だけに利点があるわけではありません。利用者側にとっては、支払う対価に見合ったサービス品質が保証され、事業を安定して運営できます。品質が基準を下回った場合には、料金の減額などの補償を受けられるため、リスクを低減できます。そして、提供者側にとっては、品質基準を明示することで、顧客からの信頼を得やすくなります。また、責任範囲が明確になることで、過剰な要求やクレームを防ぐことにも繋がります。
SLAとSLOの違い・関係性
SLAを理解する上で、SLO(Service Level Objective)との違いを把握しておきましょう。ここでは、それぞれの用語の意味と関係性について解説します。
SLO (サービスレベル目標)は、サービスの提供者が達成すべき品質に関する「目標」です。これはあくまで内部的な目標値であり、法的な保証を伴わないケースが多く見られます。
一方、SLA (サービスレベル合意)は、SLOの中から、特に利用者との間で公式に合意し、達成できなかった場合にペナルティなどの対応を伴う「契約」のことを指します。
一般的に、サービスの品質を測るための様々な指標(SLI:Service Level Indicator、たとえばサーバーの稼働率、応答時間、エラー率など)の中から、達成すべきSLO(目標)が設定され、その中でも特に重要なものがSLA(契約)として定められる、というピラミッド型のような階層構造になっています。
実際のSLA・SLOはどのように定められているのか
実際のサービスでは、SLAとSLOはどのように使い分けられているのでしょうか。ここでは代表的なクラウドサービスの例を見てみましょう。
Amazon Web Services (AWS)のSLA
百聞は一見にしかずということで、クラウドサービスのSLAを実際に見てみましょう。以下は、Amazon Web Servicesが提供するサービスの中でも代表的なクラウドストレージサービス「Amazon S3」のSLAの抜粋です。

Amazon S3のSLA(一部抜粋)
このSLAでは、表に書かれた月間稼働率を下回らないようにAWSが商業的に合理的な努力を払うことが約束されています。その上で、もし実際の月間稼働率を下回るような品質でしか提供できなかった場合には、顧客が支払うサービス利用料の中から、下回った度合いに応じて返金(サービスクレジット)を受け取ることができると書かれています。
具体的には、月間稼働率が95%を下回った場合には、100%の返金が受けられることが、この表により定められています。
サイボウズのSLO
日本のクラウドサービスはどうでしょうか。サイボウズは、SLAではなくSLO(Service Level Objective、サービスレベル目標)として、以下のように定めています。

サイボウズのSLO(一部抜粋)
SLOとして数値を掲げるサービスでは、その値は法的な保証ではなく、あくまで達成を目指す努力目標として扱われます。この場合、サイボウズの利用規約に別途定めがあるように、サービスの停止が連続24時間を超えた場合に返金等の対応を行う、といった形で保証の範囲がSLOとは別に規定されていることが一般的です。
サイボウズの利用規約第20条を以下に引用します。
サイボウズは、本サービスの提供にあたり、本規約第 17 条(サービスの停止)に定める場合を除き、サイボウズが設置したサービス網の異常により、連続 24 時間を超えて本サービスが停止しないことを、お客様に対して保証するものとします。サイボウズが保証事項に違反したことを確認できた場合であって、お客様からの請求があった場合には、
サイボウズの選択により、違反事実が発生した月の翌月以降のサービス料金の減額、サービス期間の延長または違反事実が発生した月のサービス料金の全部もしくは一部の返金を行うものとします。この場合のサービスの減額料金、延長期間または返金額は、本サービスの停止時間について連続 24 時間停止毎に日数を計算し、その日数相当分から最大1ヶ月分までの間でサイボウズが決定するものとします。
と、SLOとは異なる連続24時間単位での返金保証規定を別途定めています。
SLAに記載する必要がある項目とは
SLAを契約書として機能させるためには、サービスの特性に応じて、以下のような項目を網羅的かつ具体的に記載する必要があります。
- SLAの対象範囲どのサービス、どの機能にSLAが適用されるか。(例:クラウドストレージサービスのファイルアップロード機能とダウンロード機能)
- 役割と責任範囲提供者と利用者の責任範囲。
- 合意内容(品質項目と目標値)サービスの稼働率、レスポンス時間、障害回復までの時間など。(例:月間稼働率99.9%以上)
- 測定方法と期間品質の測定方法(監視ツール、計算式など)と測定期間。
- 報告体制測定結果の報告頻度や形式。
- ペナルティ(救済措置)目標未達の場合の対応。(例:稼働率99.9%未満〜99.5%の場合、月額利用料の10%を返金)
- 免責事項提供者が責任を負わないケース(天災、利用者側の過失など)。
- 見直し規定定期的にSLAの内容を見直すためのルール。
SLA作成・策定時の注意点・ポイント
SLAを実際に作成・策定する際には、どのような点に注意すればよいのでしょうか。ここでは、特に重要なポイントを解説します。実際に契約を締結する際は、弁護士などの専門家にご相談ください。
定型約款としてのSLAの変更手続きに注意
SLAにおいて、AWSの例のように「月間稼働率が⚪︎⚪︎%を下回った場合、利用料の⚫︎⚫︎%を返金する」といった条項を定めると、当該SLAは利用規約と一体の文書として、民法上の定型約款として取り扱われる可能性があります(民法548条の2第1項)。 定型約款に該当する場合、その内容を変更するには、以下の要件を満たす必要があるため注意が必要です(民法548条の4)。
- 変更の効力発生時期を定めること
- 変更する旨、変更後の内容、効力発生時期をインターネット等で周知すること
失敗しないためのポイント
実効性のあるSLAを締結するためには、以下の点を確認しておくことも重要です。
- 目標値は現実的か
達成が極めて困難な目標や、逆に低すぎる目標はSLAの意味を失わせます。 - 測定方法は明確か
品質の測定方法が不明確だと、目標達成の判断で争いが生じる原因となります。 - 責任範囲は明確か
責任分界点が曖昧だと、障害発生時に責任の所在で揉めることになります。 - ペナルティは機能するか
ペナルティが軽微すぎると、品質改善のインセンティブが働きません。 - 定期的な見直しは可能か
ビジネスの実態とSLAの内容が乖離しないよう、定期的な見直しが必要です。
SLA締結に電子契約は利用できる?
SLAは契約の一種であるため、書面だけでなく電子契約によって締結することも可能です。日本の法律においては、一部の例外を除き契約の方式は自由であり、当事者間の合意があれば電子データ上での契約も有効に成立します。 特に、電子署名法は、本人による電子署名が行われた電子契約書が真正に成立したことを法的に定めており、紙の契約書における押印と同様の証拠力が認められています。
当社の提供する「クラウドサイン」のような信頼性の高い電子契約サービスを利用することで、誰が・いつ合意したかの証拠(ログ)が残り、SLAの有効性をより強固に担保することができます。
まとめ
SLAは、単なる障害時の保険ではありません。それは、提供者と利用者がサービス品質という共通の目標に向かい、健全なパートナーシップを築くための『戦略的なコミュニケーションツール』なのです。
SLAとSLOの違いを正しく理解し、自社が利用するサービスのSLAがどのような内容になっているかを確認することは、安定した事業運営のために極めて重要と言えるでしょう。
なお、SLAをはじめとする重要な契約業務の効率化には、電子契約サービスが最適です。電子契約の簡単な仕組みやクラウドサインが選ばれる理由などについて、以下の資料でわかりやすくご紹介しています。無料でダウンロードしてご利用ください。
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参考文献
- 電気情報技術産業協会ソリューションサービス事業委員会『民間向けITシステムのSLAガイドライン〔第4版〕』(日経BP、2012年)
- 経済産業省『SaaS向けSLAガイドライン』(2008年)
この記事を書いたライター

弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部