契約に関する事例・判例・解説

東芝 VS ウエスタンデジタル間で紛争のタネになっている英文契約書の探し方(追記あり)

本日の日経新聞のコラム「法務インサイド」に、東芝vsWD 契約書の中に「こじれたI(アイ)」 と題する興味深い記事が掲載されています。

詳細は当該記事にアクセスしていただければと思いますが、契約書の中で特別に定義した意味で用いた語句であることを表した大文字Iの“Interest”と、そうした特別な定義語ではないことを表す小文字iの“interest”の解釈について、東芝とウエスタンデジタルとの間で争いが発生しており、この解釈の争いが仲裁廷にもちこまれそうだ、という内容。同記事にコメントを寄せている弁護士の先生方の見解も、二分されているようです。

一般の方々にとっては「大文字・小文字かなんて細かいところで喧嘩になるの?」という感覚かもしれません。しかし、法務担当者にとって大文字・小文字の差異が大きな意味をもつことは、英文契約の教科書にも必ず書いてあるポイントであり、また契約書を作成する際には最後に確認して整えるべきものであることは常識でもあります。これが法務担当者のミスだったとしたら・・・と思うと、決して人ごととは思えないニュースです。

ところで、当該記事では、問題となっている契約書が写真と文字で一部だけ引用されているのですが、こんな大きな事件で実際に問題になった契約書ならぜひ全文を読んでみたい と思うのが人情ではないでしょうか?

日本の感覚では、契約書は当事者間における秘密のものであって、それを覗き見るなんて・・・というところですが、米国では、上場企業における重要な契約はEDGARと呼ばれるシステム上でデジタルデータで開示されてしまいます。さらに、この開示された契約書のデジタルデータをかんたんに検索できる専門検索エンジンもいくつか存在します。

今回ご紹介するのが、私もよく利用している、Lawinsiderという無料サービスです。

企業や法律事務所で英文契約書を作成・レビューする担当者の多くが、条文作成の参考にしているサイトでもあります。検索を繰り返すと会員登録を強制されますが、お試しに数度検索するぐらいなら登録も不要です。

“TOSHIBA”などの契約当事者名や、報道で引用されていた契約書の一部文言を手がかりに探してみたところ、これらに一致する契約書にヒット。ご参考までに、直リンクも張っておきます。

▼FLASH FORWARD MASTER AGREEMENT Dated as of July 13, 2010 by and Among TOSHIBA CORPORATION, SANDISK CORPORATION and SANDISK FLASH B.V.
https://www.lawinsider.com/contracts/5Ht5cQ5WFapgIys4fMA98h/sandisk/1000180/2010-11-12

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なお、記事には「契約書の冒頭ではInterestを会社の株式持ち分などと定義する箇所があり、東芝の主張に分がありそう」といったコメントがありましたが、私が契約書をざっとみた限りでは、“capital interests (mochibun) of Flash Forward (the “FF Interests”) ”という“FF Interests”についての定義はあっても、“Interest”単体での定義は見当たらず、争点となっているとされる“it shall not Transfer or permit any of its Affiliates to Transfer all or any portion of its FF Interests (or all or any portion of its interest in any Affiliate through which it beneficially owns its FF Interests) to any Person without the consent of the other Party.”のカッコ書き内のits interestが「株式」の意味に限定されるとする(東芝側の)主張は、明確な定義がないだけに分が悪そうにも見えました。

裁判例のデジタルデータのオープン化もまだまだこれからという状況の日本。こうした契約書に関する情報のオープン化がなされるのは、果たしていつごろになるでしょうか。

2017/11/17追記

Interestの定義に関して、この記事をご覧いただいたとあるご高名な先生にご指摘をいただいたのですが、「契約書の冒頭」には無かったものの契約書末尾につくAppendix Aに

“Interests” means the issued and outstanding interests (mochibun) in Flash Forward.

との定義が記載されているんですね。

問題となっているカッコ書き内のits interest(小文字・単数形)がここで定義されたInterests(大文字・複数形)と同一、というのが東芝側の主張だとすれば、先日の印象よりもさらに分が悪いもののように見えてきます。

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら

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