契約書の表題(タイトル)の付け方を再考する

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契約書で最初に目に飛び込んでくる表題(タイトル)について、リ・デザインの必要がないか、考えてみました。契約書を読んでいるだけだとあまり気にならなくても、自分が作成をする立場になると、どう名付けたらいいか悩んでしまうものです。

とりあえず「覚書」にしておこうという風潮

契約書は、表題(タイトル)がどうあれ、中身に書かれた合意内容で法的効果が決まる。
「覚書」と書いてあっても「契約書」と法的効果は同じなのだ。

書籍・ネットにかかわらず、契約書の作成ノウハウについて書かれたものを調べると、大概どこにでも書いてあるのはこういった話です。

それなら、一見すると軽い内容の契約書に見えるような、無難なタイトルをつけておこう。そのほうが契約交渉・合意もしやすくなりそうだ。そう思うからか、世の中には「覚書」と名付けられた契約書がたくさん流通しています。むしろ、「覚書」とされているものこそ重要な権利義務を定めている、というケースも少なくありません

実際、そういった“不意打ち”を意図するようなタイトルも少なくないから気をつけたほうがいい、と忠告する実務書もありました。

契約書の表題が「覚書」「合意書」といったものであっても、内容が当事者間に権利義務を生じさせるに十分なものであれば、その締結によって契約の効力を生ずることになる。したがって、相手方から署名捺印してもらいやすいよう表題を工夫することはしばしば行われる。逆に言えば、相手方から契約書等の提示を受けた場合には、表題にとらわれることなく、内容を精査することが必要となる。(阿部・井窪・片山法律事務所編『契約書作成の実務と書式』P6)

私自身、法務を担当している中で、「覚書」というタイトルで数千万円を超える単位の取引の条件を定めたことが何度もありますし、相手方から「秘密保持契約書」の中に未来永劫の競業を禁止する文言や特許ライセンスを可能にする文言を入れられ、あやうく見逃しそうになった経験は、何度となくあります。

法的効果はなくても表題(タイトル)が原因で揉めることも

一方で、法的には意味がないとはいえ、取締役同士が直接話し合い取り決めた内容を書き起こして署名した文書のタイトルが「メモランダム・オブ・アンダスタンディング(memorandum of understanding)」、つまり日本語で言う「覚書」であったことも一因となり、正式な契約が成立したか否かを争う裁判にまで発展してしまった事件(東京高判決平成12・4・19判時1745号96頁)も実際に存在しています。

本件メモは、両社間において以後本件ソフトのソースコードに関するライセンス契約の締結を目指して協議を進めるために、その基礎となるべき基本的な事項について了解に達した事項をメモ書きにしたものに過ぎず、以後この基本的了解事項をベースとして協議をした上で必要な条項を盛り込んだ契約書の成案を得るとの予定の下に作成署名されたものと認めるのが相当であって、ラグナーソン及びリーらにおいて、法的拘束力を有するものとしての契約を締結するとの意思をもって作成し、署名したものと認めることはできないというべきである。

(中略)

第一審原告は、後日詳細な契約書を作成することを予定したものであっても、契約が成立するためには当事者の意思表示の合致が存すれば足りるのであり、本件メモの内容は明確であってライセンス契約において最も重要な事項が定められており、その後の交渉によっても何ら変更のなかった事項であるから、本件メモによる合意は契約としての効力を有するものである旨を主張する。

 しかしながら、本件メモの記載内容は、ライセンス契約における基本的な事項を示すものであるということができるとしても、それのみをもって契約により生ずる当事者間の権利義務関係を確定するに足りるものということができないことは明らかであり、そしてそれを確定するに必要な事項については更に協議をした上で契約書を作成することを予定していたものである以上、そこにその時点において了解に達した事項が記載されているからといって、その事項のみについて直ちに契約としての効力を発生させる意思をラグナーソン及びリーらにおいて有していたものと推認することはできないというべきである。

(中略)

また、第一審原告は、リーが本件書簡において本件メモを指して「the contract」と呼んだことなどをもって、被告会社において本件メモにより契約が成立したものと考えていたことの証左である旨を主張する。 たしかに、前記二5(三)のとおり、リーは、本件書簡等において、本件メモを指して「the contract」又は「agreement」と呼び、またその効力発生の延期を求める旨の意思表明をしている。

 しかしながら、右1、2に述べたところに照らすと、リーが書簡中で「the contract」等の用語を用いたことから、直ちに、同人において本件メモの記載内容が契約としての効力を有し、後日契約書の調印に至ると否とにかかわらず被告会社においてその記載の支払義務を負うものとの認識の下に本件メモに署名したものと認めることはできないというべきである。

ここまで揉めることはそうそう無いにしても、いざ契約書をつくり締結する段階になると、意外に悩んでしまうのが、契約書の表題(タイトル)なのです。

ポイントは端的であることプラス探しやすさへの配慮

私が普段意識している、契約書の表題(タイトル)を付けるにあたって特におさえておくべきと考えるポイントは、以下2点です。

(1)端的に契約の内容を表現する

タイトル自体に法的効果はなく、中身に書かれた契約の条件こそ重要があるというならば、逆にその内容を端的に言い表したタイトルをつけること。当たり前ですがこれがまず基本になります。

法律専門家の間で定評のある書籍にも、こう書かれています。

表題(タイトル)は、単に「契約書」とするのではなく、当該契約内容を反映していて、当該契約の特質を一言で把握することができるようなものにするのが適切です。典型契約の場合には「売買契約書」、「金銭消費貸借契約書」、「請負契約書」、「委任契約書」などとし、非典型契約の場合には「製作物供給契約」、「販売店契約」などとします。(田中豊著『法律文書作成の基本』P342)

ここで言及されている「典型契約」「非典型契約」は、大学の民法の教科書に出てくるような、普段法律に触れていない方にはあまり縁のない専門用語です。もしネットで軽くでも知っておきたいということであれば、国民生活センターのテキスト(PDF)などを参照してみてください。

少なくとも、冒頭でご紹介したような、とりあえずとってつけたような「覚書」や、不意打ち的にビジネス条件を紛れ込ませておきながら「秘密保持契約書」と名付けるのはやめるべき、と考えます。

(2)探しやすさに配慮する

契約書は、将来認識の不一致や紛争になった際に読み返し、過去に合意した条件をお互いに確認できるようにしておくことにこそ、その作成の意義があります。したがって、読み返したいというときにすぐに取り出せるようになっているかも重要です。

自社内で管理のために契約管理番号をふっておくのも一考ですが、相手方との話し合いの中でたくさんの契約書の中から該当の契約書を探すとき、検索キーとして使われるのは、主に以下3つの情報になると思います。

1 誰と =契約当事者名
2 いつ =契約締結日
3 何を =契約の表題(タイトル)

この「何を」合意したのかが検索キーとして使えるものになるような情報・キーワードを入れることがポイント。単なる「覚書」や「契約書」としたのでは、これがまったく分からなくなってしまい見つけにくくなるからです。

具体的には、さきほど挙げた(1)の「端的に」というポイントにプラスして、「誰と=契約当事者名」「いつ=契約締結日」以外の、検索に引っかけやすい付加的な情報を足しておくとよいでしょう。多少長くなっても、1〜2行で収まるボリュームであれば、内容をしっかりと書き込んでおいて損はないはずです。

例:
「会社保養施設建築請負契約書」
「◯◯◯プロジェクト遂行サポートのための業務委託(準委任)契約書」
「2017年11月1日付売買契約書で合意した金額に関する変更契約書」

もちろん、クラウドサインでも、契約当事者や日付に加えて契約の表題(タイトル)でも検索ができるようになっています。その他の検索項目も随時追加していきます。締結済みの契約書をクラウド上で一括管理できるメリットを生かすためにも、タイトルの付け方にこれまで以上に気を使ってみることをおすすめしたいと思います。

(橋詰)