電子契約の基礎知識

議事録の電子化に関する法的規制と株主総会、取締役会で電子署名する方法

株主総会議事録および取締役会議事録には、作成にあたり署名・押印が必要なものがあります。これを電子化する場合の法的規制と電子署名の要件についてまとめました。株主総会議事録や取締役会議事録で電子署名したい方は参考にしてみてください。

株主総会議事録の電子化を規律する法令

まず会社の中で代表的な議事録のひとつである株主総会議事録の電子化についてです。

意外なことに、株主総会の議事録については、書面で作成した場合であっても、原則として記名押印義務はありません(会社法318条1項)。よって、これを電子化する場合についても、後述する登記時の例外を除き、押印に代わる電子署名をする義務はありません

なお、株主等から閲覧又は謄写の請求があった場合のために、プリントアウトまたは映像として表示できるようにしておく必要があります(会社法施行規則226条1項17号)。

法第三百十八条 株主総会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成しなければならない。
(略)
4 株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、次に掲げる請求をすることができる。
(略)
二 第一項の議事録が電磁的記録をもって作成されているときは、当該電磁的記録に記録された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写の請求

施行規則第二百二十六条 次に掲げる規定に規定する法務省令で定める方法は、次に掲げる規定の電磁的記録に記録された事項を紙面又は映像面に表示する方法とする。
(略)
十七 法第三百十八条第四項第二号(法第三百二十五条において準用する場合を含む。)

例外として、取締役会を設置していない会社が代表取締役を定める場合は、定款の定めに基づく取締役の互選による場合を除き、株主総会の決議が必要となり、これを登記する際の証明に株主総会議事録を用いるときは、議長および出席取締役全員の記名押印と印鑑証明書、またはこれに代わる電子署名が必要となります(商業登記規則61条4項1号、平成18年3月31日法務省民商第782号)。

取締役会議事録の電子化を規律する法令

これに対し、取締役会議事録については、出席取締役・監査役が署名または記名押印することが義務として定められており(会社法369条3項)、そうした 取締役議事録を電子化する場合には、各出席役員は記名押印の代わりに電子署名をすることが求められます(同条4項、会社法施行規則225条)。

法第三百六十九条 (略)
3 取締役会の議事については、法務省令で定めるところにより、議事録を作成し、議事録が書面をもって作成されているときは、出席した取締役及び監査役は、これに署名し、又は記名押印しなければならない。
4 前項の議事録が電磁的記録をもって作成されている場合における当該電磁的記録に記録された事項については、法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置をとらなければならない。

施行規則第二百二十五条 次に掲げる規定に規定する法務省令で定める署名又は記名押印に代わる措置は、電子署名とする。
(略)
六 法第三百六十九条第四項(法第四百九十条第五項において準用する場合を含む。)
(略)
2 前項に規定する「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

取締役会議事録に用いることが可能な電子署名と利用上の注意点

以上から、

  • 株主総会議事録を電子化するにあたっては、通常の電子ファイルで
  • 取締役会議事録を電子化するにあたっては、参加取締役および監査役が電子署名した電子ファイルで

議事録を作成しておけば問題ない、ということになるはずなのですが、ここで特に 取締役会議事録に用いる電子署名を選択するにあたり、ご注意いただきたいチェックポイントが2点あります

署名者表示機能を備えた電子署名か

まず、取締役会議事録に必要となる会社法施行規則225条の「電子署名」の定義について、正確に把握しておく必要があります。もういちど会社法施行規則225条2項を確認しましょう。

施行規則第二百二十五条 (略)
2 前項に規定する「電子署名」とは、電磁的記録に記録することができる情報について行われる措置であって、次の要件のいずれにも該当するものをいう。
一 当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること。
二 当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができるものであること。

この「電子署名」を定義する条文は、実は以下の電子署名法2条1項をコピーして作られた条文です。

電子署名法における「電子署名」の定義
電子署名法における「電子署名」の定義

この電子署名法2条1項2号の要件「当該情報について改変が行われていないかどうかを確認することができる」は、改ざん検知機能を備えた電子署名のことをいい、いわゆる公開鍵暗号方式を用いる一般的な電子署名であれば、問題なく充足すると考えられています。

一方で、1号の要件「当該情報が当該措置を行った者の作成に係るものであることを示すためのものであること」、つまり署名者表示機能を備えた電子署名とは何か については、2020年5月29日付経済団体宛て法務省見解を丁寧に読み解く必要があります(関連記事:取締役会議事録もクラウド型電子署名で—2020年5月29日付法務省新解釈の解説)。

会社法上,取締役会に出席した取締役及び監査役は,当該取締役会の議事録に署名又は記名押印をしなければならないこととされています(会社法第369条第3項)。また,当該議事録が電磁的記録をもって作成されている場合には,署名又は記名押印に代わる措置として,電子署名をすることとされています(同条第4項,会社法施行規則第225条第1項第6号,第2項)。
当該措置は,取締役会に出席した取締役又は監査役が,取締役会の議事録の内容を確認し,その内容が正確であり,異議がないと判断したことを示すもの であれば足りると考えられます。したがって,いわゆるリモート署名(注 サービス提供事業者のサーバに利用者の署名鍵を設置・保管し,利用者がサーバにリモートでログインした上で自らの署名鍵で当該事業者のサーバ上で電子署名を行うもの)や,サービス提供事業者が利用者の指示を受けて電子署名を行うサービスであっても,取締役会に出席した取締役又は監査役がそのように判断したことを示すもの として,当該取締役会の議事録について,その意思に基づいて当該措置がとられていれば,署名又は記名押印に代わる措置としての電子署名として有効なものである と考えられます。

つまり、参加した取締役・監査役お一人おひとりの判断の記録が当該電子ファイルに記録されている必要があり ます。クラウド型の電子契約サービスの中には、事業者が電子署名を施す際に指図者が誰であるのかがPDF署名パネルに明示されないものも存在しますので、注意が必要です。

登記添付書類の要件を満たすものとして法務省の指定を受けた電子署名か

さらに注意が必要なのが、登記事項に関わる取締役会の議事録 についてです。

法務省は、上記(1)の要件を満たすもののうち商業登記に利用可能な電子署名(電子証明書)を限定列挙でリスト指定しており、
クラウドサインもこの指定を受けています
(関連記事:法務省が商業登記に利用可能な電子署名サービスにクラウドサインを指定)。

この指定を受けていない電子署名で議事録を作成すると、登記添付書類として利用できませんので、こちらも注意が必要です。

商業登記の添付書類に用いることができる電子署名とその場合わけについて、詳しくは法務省のウェブサイト「商業・法人登記のオンライン申請について」にまとめられていますので、ご確認ください。

クラウドサインを利用して取締役会議事録に適法な電子署名を施す具体的な方法

クラウドサインを用いて議事録に電子署名を施していただくにあたり、登記添付書類としても通用する議事録電子ファイルを作成する具体的な方法をご案内いたしますので、ご参考ください。

(1)各取締役・監査役のメール認証により本人が指図した記録を残して電子署名を施す

上記(b)でも説明したとおり、クラウドサインにより議事録の内容を確認した方が誰なのか、登記官が視認できるようにする必要があります。

そのため、電子署名を行う際は必ず 各取締役・監査役が普段業務でご利用になっているご本人のメールアドレス宛てにクラウドサインを送信し、ご本人による署名指図を行なう ようにします。

法務局(登記所)の実務においても、下図のように議事録の記名欄と署名パネルを対照し、本人による電子署名がなされていることを確認します。

法務局(登記所)による署名パネルの確認作業
法務局(登記所)による署名パネルの確認作業

なお、議事録をクラウドサインにアップロードし各役員に送信する事務局ご担当者の氏名・メールアドレスが署名パネルに記録されることについては、「余事記載」として扱われ登記審査上問題とならないことを確認済みです。

(2)法務省指定の申請用総合ソフトを使用し商業登記署名を付与する

商業登記のオンライン手続きにおいては、申請者である代表取締役の実印に代わるものとして、商業登記電子証明書による電子署名(以下「商業登記署名」といいます)を電子ファイルに併せて付与 します。

※ 念のため、登記申請に用いない議事録や契約書等についてはクラウドサイン署名だけでもちろん有効で、以下は必要のない作業です。登記が必要になった際にあとで行えばよいものですので、ご安心ください。

代表者を含む参加取締役・監査役がクラウドサイン署名した電子ファイルに、法務省が提供する「申請用総合ソフト」を使って商業登記署名を上書きする作業となります。

http://www.moj.go.jp/content/001314623.pdf 2020年6月18日最終アクセス
http://www.moj.go.jp/content/001314623.pdf 2020年6月18日最終アクセス

商業登記電子証明書(有料)の取得方法および申請用総合ソフト・マニュアルのダウンロード(無料)は、法務省のウェブサイト「商業・法人登記のオンライン申請について」に案内があります。試しに弊社法務担当者にもこの作業をやってもらったところ、商業登記電子証明書の入手さえ事前にしておけば、あとはマニュアル通りに進めて15分程度で作業が完了できました。

なお、法務省指定の申請用総合ソフトがWindows対応しかしていない点は、つまずきポイントかもしれません。クラウドサインは署名者がWindowsでもMacでも問題なく署名できるのですが、法務省にもOSに依存しないWebサービス化をご検討いただきたいところです。

クラウドサインを利用して社外取締役に議事録を送る際の注意点

クラウドサインでは、社外取締役に取締役会議事録を送る際、先方の所属する組織の書類管理者に議事録の内容を閲覧されないよう、社外取締役に対して自社のメールアドレスを発行することを推奨しています。

社外取締役に取締役会議事録を送る際の注意点” height=

クラウドサインの仕様上、セキュリティ観点からメンバーが送受信したすべての書類(親展書類を除く)を「書類管理権限」を持つ管理者が閲覧できるようになっています。そのため、社外取締役の所属する組織のメールアドレスに取締役会議事録を送付した場合、そのチームの管理者が書類を閲覧できるようになってしまい、経営に関する重大な情報が流出するリスクが発生します。

クラウドサインの導入による取締役会議事録の電子化を準備されている方は、社外取締役に対して自社のメールアドレスを発行し、社外アドレスと使い分けてもらうようにしましょう。

なお、取締役会議事録のような「秘匿性の高い書類」の電子化を検討されている方は、以下リンクにある当社のヘルプセンターや参考資料もご一読ください。

クラウドサイン ヘルプセンター「複数チームで運用する場合の注意点」
クラウドサインにおける「秘匿性の高い書類」のご利用ガイド

参考:その他会社法が定める法定議事録

鈴木龍介ほか著『議事録作成の実務と実践』P22に、会社法における各種議事録の作成・署名(記名押印)義務がまとめられています。書籍とあわせご紹介させていただきます。

議事録 署名義務者 条文
創立総会 なし 81条1項
株主総会 なし 318条1項
種類株主総会 なし 325条(318条1項準用)
取締役会 出席取締役・監査役 369条3項
監査役会 出席監査役 393条2項
監査等委員会 出席監査等委員 399条の10 3項
報酬委員会 出席報酬委員 412条3項
指名委員会 出席指名委員 412条3項
監査委員会 出席監査委員 412条3項
清算人会 出席清算人・監査役 490条5項(369条3項準用)
債権者集会 なし 561条
社債権者集会 なし 731条1項

書籍情報

議事録作成の実務と実践


  • 著者:鈴木龍介/著 稲垣裕行/著 西岡祐輔/著 早川将和/著 平石悠亮/著
  • 出版社:第一法規
  • 出版年月:20171017

画像:mits / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら

こちらも合わせて読む

電子契約の国内標準
クラウドサイン

日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスです。
さまざまな外部サービスと連携でき、取引先も使いやすく、多くの企業や自治体に活用されています。