ブックレビュー 高橋郁夫ほか『デジタル法務の実務Q&A』

「スマートコントラクト」「API」「FinTech」といった、法務として分かっていないとそろそろ業務に差し障るIT系最新キーワード・トピックスについて55のQ&Aで検討を加える一冊。日本におけるクラウド契約の証拠力について、具体的に評価したはじめての書籍ともなっています。

書籍情報

デジタル法務の実務Q&A
  • 著者:高橋郁夫/編著
  • 出版社:日本加除出版
  • 出版年月:20181105

法務業界のIT系最新キーワード・トピックスを総ざらい

スマートコントラクト、API、FinTech、ブロックチェーン、仮想通貨、ICO、AI、GDPR、チャットボット、デジタル証拠・デジタル遺品、内部不正調査、裁判手続等のIT化…。

このように次々と登場する企業法務のIT系最新キーワード・トピックスを、目の前の仕事に忙殺される中で正確にキャッチアップしようとすると、時間がいくらあっても足りません。そんな課題を抱える法務部員や弁護士のために、第一東京弁護士会総合法律研究所IT法研究部会の先生方が、知っておくべき法的知識を民事・刑事両面からQ&A形式でまとめたのがこの『デジタル法務の実務Q&A』です。

出版社目次より https://www.kajo.co.jp/book/40742000001.html

タイトルにどこか懐かしい響きを感じるかもしれませんが、それもそのはず、このメディアでも以前ご紹介済みの『デジタル証拠の実務Q&A』の続編となります。

クラウド契約の有効性について詳細に言及

2018年IT系最新トピックスの一つとして、「契約書の電子化」が9ページにもわたって取り上げられているのは、率直に言ってうれしいもの。特に本書は、ここ数年で急激に普及が進むクラウド型電子契約について、その証拠力を具体的に評価したはじめての書籍となっています。

署名者は、メールアドレス(とクラウドサービスへのログイン時のIPアドレス)により特定され、契約交渉の過程でメールを交換しているであろうこと、企業は通常固有のドメインのメールアドレスを持っていること、も考え合わせると、その時点でのそのメールアドレスの保有者のみだけが行うことができる、という意味では、「本人だけが行うことができる」と言うことができるかもしれません。
(中略)
ただ、本人だけ要件を満たさず電子署名法3条の推定が及ばないとしても、メールアドレスやクラウドサービスが提供するクラウドサービス上の電子文書へのアクセスに用いたIPアドレスやアクセス時刻の記録、契約締結にいたる当事者間の電子メールのやり取りなどから、成立の真正を立証することは、比較的容易と考えられます。(P332)

契約実務において、クラウド契約を具体的に利用した経験を持ち合わせていない専門家が評価をすると、本人名義の電子証明書を用いていない点を指摘し、電子署名法における本人性要件を立証できないのではと表層的な指摘にとどまるものがほとんど。

本書は、電子証明書が電子署名の瞬間だけスナップショット的に用いられるものであり、かつ発行後には企業内で共用することすら珍しくないという、印鑑とも共通する「弱点」があることを指摘した上で、

というメールアドレスを用いたクラウド契約の特徴が、立証活動において有利に働くことになるかという本質を理解した上で検討・分析がなされています。

契約書の電子化への現実的ハードルからも目をそらさない

本書は、電子契約業界によるポジショントーク本ではありません。ですので、メリットばかりでなく、契約の電子化にあたり乗り越えなければならない「ハードル」があることも真摯に指摘しています。その点は読者にはかえって安心できる点でしょう。

高橋郁夫ほか『デジタル法務の実務Q&A』P328-329

契約書を電子契約に移行する際のハードルとして、チェック観点から漏れてしまいがちなポイントが、書面の保存を求める税法の存在です。そうしたハードルを指摘した上で、どのようにすれば対応ができるかが、具体的に記載されています。

具体的には、まず、関係書類の備付け(電子帳簿保存法施行規則(以下「規則」という。)3条1項3号、見読性の確保(規則3条1項4号)及び検索機能(規則3条1項5号)の要件を満たす必要があります。
次に、以下のいずれかの要件を満たす必要があります。
① タイムスタンプを付すとともに、当該取引データの保存を行う者又はその者を直接監督する者に関する情報を確認することができるようにしておくこと(規則8条1項1号)
② 当該電磁的記録の記録次項について正当な理由がない訂正及び削除の防止に関する事務処理の規程を定め、当該規程に沿った運用を行うこと(規則8条1項2号)。
②の規程の例が「電子帳簿保存法一問一答」に載っており(問58)、データ改ざん等の不正を防ぐものとされていますが、電子署名は、そもそも作成された電子文書に対する改ざんが行われていないことを確認できるものであることが要件になっていますので、電子署名による契約書については、適切に電子署名が付されていれば、問題になることは少ないと考えられます。(P333-334)

このメディアでは電子契約の部分を中心にご紹介しましたが、冒頭挙げたとおり、「スマートコントラクト」や「API」といった法務の最前線の各キーワードについて、楽観的過ぎず・悲観的過ぎずのニュートラルなスタンスでコンパクトに検討を加える本書。

法律分野の守備範囲を広げていきたい専門家にとって、この2-3年は何かと役に立つことの多い一冊になるでしょう。

(橋詰)