請負契約における下請法3条書面の電子化実務

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請負契約を電子化することにより、工事やサービスの受発注がスムーズになるのに加え、印紙税コストも削減できます。ただし、下請事業者に対する発注書面を電子化する際には、下請代金支払遅延防止法の遵守が必要です。

下請事業者に対する請負契約の「書面交付義務」

工事やサービスの受発注の際に締結する請負契約は、ビジネスにおいてどの業界でも頻出する契約です。あまりに頻度が多いだけに、契約金額が低い場合などには、口頭や簡単なメールでのやりとりで済ませてしまいたいこともあるかもしれません。

しかし、企業規模(資本金の額)に差がある事業者が請負契約を締結して下請取引を行う場合、下請代金支払遅延防止法(下請法)3条の定めにより、親事業者となる発注者が下請事業者に対し、書面を交付する義務 を負います。

第三条 親事業者は、下請事業者に対し製造委託等をした場合は、直ちに、公正取引委員会規則で定めるところにより下請事業者の給付の内容、下請代金の額、支払期日及び支払方法その他の事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。ただし、これらの事項のうちその内容が定められないことにつき正当な理由があるものについては、その記載を要しないものとし、この場合には、親事業者は、当該事項の内容が定められた後直ちに、当該事項を記載した書面を下請事業者に交付しなければならない。

ここでいう「親事業者」「下請事業者」の該当基準は、資本金と取引の内容に従い、下図のとおり定められています。

https://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukegaiyo/gaiyo.html

下請法3条書面に定めるべき具体的項目とは

下請法で交付が義務化されているこの書面は、通称「3条書面」と呼ばれています。そして、この3条書面に規定すべき具体的項目は、「下請代金支払遅延等防止法第3条の書面の記載事項等に関する規則(3条規則)」の第1条に、以下のとおり定められています。

  1. 親事業者及び下請事業者の名称
  2. 製造委託,修理委託,情報成果物作成委託又は役務提供委託をした日
  3. 下請事業者の給付の内容(委託内容を明確に記載)
  4. 下請事業者の給付を受領する期日(役務提供委託の場合、役務が提供される期日又は期間)
  5. 下請事業者の給付を受領する場所
  6. 下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,検査を完了する期日
  7. 下請代金の額(具体的な金額又は算定方法)
  8. 下請代金の支払期日
  9. 手形を交付する場合は,手形の金額(支払比率可)及び手形の満期
  10. 一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
  11. 電子記録債権で支払う場合は,電子記録債権の額及び電子記録債権の満期日
  12. 原材料等を有償支給する場合は,品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日,決済方法

項目名だけを見ると面食らってしまいますが、公正取引委員会が発行する「下請取引適正化推進講習会テキスト」に書式例が掲載されていますので、基本的にはこれを踏襲するかたちで書面を作成すればよいでしょう。

https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/H30textbook.pdf

3条書面を電子化(電磁的交付)する際の注意点

この書式に従って発注書を電子ファイルで作成し、電子契約サービスを使って送信することにより下請契約の電子化が可能となりますが、この時にいくつか注意していただきたいポイントがあります。

(1)電磁的方法が限定されている

3条規則第2条1項によれば、書面の交付に代えることができる電磁的方法 として、以下いずれかの方法によるべきことが定められています。

さらに、この具体的方法について、公正取引委員会より平成23年6月23日付「下請取引における電磁的記録の提供に関する留意事項」が発出されており、

2 電子メール等による電磁的記録の提供に係る留意事項
(1) 書面の交付に代えて電子メールにより電磁的記録の提供を行う場合は,下請事業者の使用に係るメールボックスに送信しただけでは提供したとはいえず,下請事業者がメールを自己の使用に係る電子計算機に記録しなければ提供したことにはならない。例えば,通常の電子メールであれば,少なくとも,下請事業者が当該メールを受信していることが必要となる。また,携帯電話に電子メールを送信する方法は,電磁的記録が下請事業者のファイルに記録されないので,下請法で認められる電磁的記録の提供に該当しない。
(2) 書面の交付に代えてウェッブのホームページを閲覧させる場合は,下請事業者がブラウザ等で閲覧しただけでは,下請事業者のファイルに記録したことにはならず,下請事業者が閲覧した事項について,別途,電子メールで送信するか,ホームページにダウンロード機能を持たせるなどして下請事業者のファイルに記録できるような方策等の対応が必要となる。

と記載されています。これは例えば ショートメッセージ(SMS)やチャットツールで送信したり、ファイルを送付しない・ダウンロードできない閲覧型システムでは、この要件を満たさない可能性が高い ということになります。

この点、クラウドサインをご利用いただいた場合は、①全当事者同意後に電子メールで電子ファイルが配信され、かつ②ダウンロードも可能であるため、問題なく電子化が可能です。

また、電子署名も何もないままファイルを電子メールで送信し交付しただけでは、改ざん等の不安も残ります。クラウドサインのように電子署名・タイムスタンプの両方が付されるサービスを利用することで完全性が担保され、訴訟対応時にも安心というメリットがあります。

(2)下請事業者による事前承諾が必要

下請法の3条の条文を見てみると、さきほどみた1項で書面の交付義務が規定された後、2項で書面に代えて電磁的に交付する方法でもよいことが規定されているのですが、

2 親事業者は、前項の規定による書面の交付に代えて、政令で定めるところにより、当該下請事業者の承諾を得て、当該書面に記載すべき事項を電子情報処理組織を使用する方法その他の情報通信の技術を利用する方法であつて公正取引委員会規則で定めるものにより提供することができる。この場合において、当該親事業者は、当該書面を交付したものとみなす。

この政令にあたる「下請代金支払遅延等防止法施行令」の2条を見ると、以下のとおり詳細が規定されています。

第2条 親事業者は,法第3条第2項の規定により同項に規定する事項を提供しようとするときは,公正取引委員会規則で定めるところにより,あらかじめ,当該下請事業者に対し,その用いる同項前段に規定する方法(以下「電磁的方法」という。)の種類及び内容を示し,書面又は電磁的方法による承諾を得なければならない
2 前項の規定による承諾を得た親事業者は,当該下請事業者から書面又は電磁的方法により電磁的方法による提供を受けない旨の申出があったときは,当該下請事業者に対し,法第3条第2項に規定する事項の提供を電磁的方法によってしてはならない。ただし,当該下請事業者が再び前項の規定による承諾をした場合は,この限りでない。

つまり、下請事業者との間で、請負契約の受発注を電磁的に行うことについて事前に承諾を得ておく必要がある、ということです。

(3)事前承諾は電磁的方法で取得しても問題なし

事前承諾自体は書面でなくてよいのか?これもよくご質問を頂く点です。

施行令第2条に「書面又は電磁的方法による承諾」と規定されているので、承諾書そのものは書面である必要はなく、電磁的方法で回収しても適法 です。

クラウドサインであれば、相手方に同意ボタンを押していただいた記録を、電子署名とタイムスタンプによって残しておくことが可能です。

(4)事前承諾書の書式(フォーマット)例

この電磁的方法に係る下請事業者の承諾書の書式例についても、「下請取引適正化推進講習会テキスト」P146に書式例が掲載されています。

https://www.jftc.go.jp/houdou/panfu_files/H30textbook.pdf

書式については、基本的にこれを踏襲しておくのが安全です。

3条書面をはじめとする請負契約の電子化のメリット

以上のとおり、下請事業者から事前に承諾を得ることで、3条書面を適法に電子化することができます。

電子化により、ビジネスのスピードと効率がアップすることはもちろん、証拠も担保でき、さらに書面保管手間とスペースの両コストが削減できます。その上、電子契約では印紙税が不要となるため、下請事業者と受注書や承諾書を取り交わした場合も、印紙税コストを負担せずにすむメリットもあります(関連記事:収入印紙が電子契約では不要になるのはなぜか?—根拠通達と3つの当局見解)。

なお関連法として、建設業法においても請負契約の書面化原則がありますが、これについても、クラウドサインを用いた電子化が適法であることを確認しています(関連記事:グレーゾーン解消制度を活用して、クラウドサインによる契約の適法性を確認しました

電子契約を活用した、下請法3条書面をはじめとする請負契約の全面電子化をおすすめします。

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画像: aijiro / PIXTA(ピクスタ)

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