契約に関する事例・判例・解説

メルペイの利用規約に学ぶ利用者保護の新セオリー


スマホ決済サービスのメルペイが、不正利用時の補償ポリシーを変更しました。利用規約がユーザー保護のスタンスを積極的に表明するものへと変わりつつあります。

メルペイが不正利用時の補償ポリシーポリシーを変更

スマホ決済サービスのメルペイが、2019年8月15日付で利用規約の変更を通知しています。

メルペイ利用規約第17条・メルペイ電子マネー特約第8条の定めにより、端末・アカウントの不正利用によって発生したユーザーの損害について、「不正利用については一切の責任を負わない」としていたそれまでのスタンスを改め

  1. ユーザーの故意・過失によらずに生じた不正利用であること
  2. ユーザーがメルペイに対し直ちに不正利用を届け出て書類を提出していること
  3. ユーザーが不正利用について警察署への申告等を行ったこと

以上すべてを満たすことを条件に、メルペイが適当と認める範囲で補償を行うことを明記 したものです。

メルペイ利用規約 https://www.mercari.com/jp/merpay_tos/ 2019年8月18日最終サクセス
メルペイ利用規約 https://www.mercari.com/jp/merpay_tos/ 2019年8月18日最終サクセス

7Pay事件で注目を浴びたスマホ決済サービス各社の補償スタンスの違い

通常、企業が利用規約を大きく変更するのは、そのサービスにおいて事件・トラブルがあったケースがほとんどです。しかし今回のメルペイについて、そうした炎上騒ぎのようなことは発生していません。にもかかわらず、なぜメルペイはこのような規約変更を行ったのでしょうか?

そのきっかけとなったのは、7月に発生したセブンイレブングループ「7Pay」で起きた不正利用事件です。

登録ユーザーのアカウントが不正利用されてしまった同サービスは、2019年9月30日にサービスを終了することがすでに発表されています。しかし、この 7Pay事件の発生とそれを伝える連日の報道によって、他のスマホ決済サービスのユーザー不安が高まったことが背景 にありました。

▼ スマホ決済の不正被害、「補償」8割明記なし 主要10サービス調査、救済基準あいまい

買い物代金などをスマートフォンで決済するサービスで、第三者に不正利用された時の補償対応が割れている。主要10サービスの利用規約を調べたところ、補償の明記があったのはLINEペイとみずほ銀行のJコインペイだけだった。PayPay(ペイペイ)や楽天ペイなど8サービスは明記がなかった。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47686670T20C19A7EE9000/ 2019年8月18日最終アクセス)

日本経済新聞 2019年7月24日掲載記事 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47686670T20C19A7EE9000/ 2019年8月18日最終アクセス
日本経済新聞 2019年7月24日掲載記事 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO47686670T20C19A7EE9000/ 2019年8月18日最終アクセス

当時、競合他社に劣後したサービス水準のように報じられてしまったメルペイ。それから1ヶ月足らずでスピーディに利用規約の変更をまとめ上げたのは、ベンチャー企業ならではの対応です。

免責一辺倒だったサービス利用規約のあり方に変化の兆し

こうして、LINEペイ・Jコインペイと肩を並べる水準へとスピーディに変更されたメルペイの利用規約。企業側の免責範囲を縮小するだけにとどまらず、ユーザーに対し補償する責任を積極的に背負いにいくという180度の方針転換をした 点にも特徴があります。

メルペイ利用規約第17条 2019年2月13日制定版と2019年8月15日改訂版をdifffで比較
メルペイ利用規約第17条 2019年2月13日制定版と2019年8月15日改訂版をdifffで比較

今回のメルペイの対応は、7Pay事件がスマホ決済サービス市場全体に与えた不安感を払拭しようという戦略に加え、責任逃れに走りがちな企業姿勢に対する批判を敏感に汲み取ったものでもありました。実際、前述の7月24日付日経新聞記事はそうした利用規約に対するユーザーの不安を代弁したものであったところ、これを真摯に受け止め方針転換をしたメルペイの対応について、報道・ネット上でも高く評価する声が見られます。

内容を読まずに「同意」ボタンを押してしまう消費者行動につけ込み、企業の法的責任を免除する文言ばかりを並べていた利用規約のあり方に、利用者保護のスタンスを明記する新しい変化の兆し が見えてきました。

(橋詰)

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら

こちらも合わせて読む

電子契約の国内標準
クラウドサイン

日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスです。
さまざまな外部サービスと連携でき、取引先も使いやすく、多くの企業や自治体に活用されています。