電子契約の基礎知識

米国裁判例に学ぶクラウド型電子契約の成立の争われ方


電子契約の紛争事例が豊富な米国の裁判例から、「クラウド型電子契約だからこそ合理的なコストで締結できしかも訴訟にも通用する」ことがよくわかる具体例をいくつかご紹介します。

メール認証をベースとするクラウド型電子契約に対する疑問と不安

お客様にクラウド型電子契約の仕組みをご説明する際、電子メールをベースとした認証方法とその証拠力について、よくご質問をいただきます。

特に法務部門の方にとっては、金庫等に鍵をかけて大切に保管している印章(ハンコ)を用いた契約と違い、日常的に利用している電子メールを認証に使う仕組みで本当に法的に効果が及ぶのか?権限者本人が同意したことを立証できるのか?という疑問や不安 がどうしても先立つようです。

この点、日本において電子契約の真正な成立が争われた裁判例が出現しはじめた(関連記事:電子契約・電子署名の有効性が争われた判例はあるか)ところですが、電子契約大国である米国では、すでに複数のクラウド型電子契約サービスについて、その成立の真正を争った裁判例が存在しています。

すでに電子契約がメジャーな契約手段となった米国では、クラウド型電子契約の証拠力が認められた裁判例が多数存在する
すでに電子契約がメジャーな契約手段となった米国では、クラウド型電子契約の証拠力が認められた裁判例が多数存在する

米国のメジャーな電子契約サービスに関する裁判例

そうした米国のクラウド型電子契約に関する裁判例の中でも、特に日本企業のお客様が心配される2つの典型的紛争事例について、取り上げてみたいと思います。

(1)電子契約を利用して合意したこと自体を本人が否認した事例

一つ目は、EchoSign(のちにAdobeSignが買収)を利用して締結した契約の一方当事者が、電子契約を利用して合意したこと自体を否認し、成立を争った事例Schrock v. Nomac Drilling, LLC, 2016 WL 1181484 (W.D. Pa. 2016))です。

この事件では、2009年から6年間雇用関係にあったSchrock氏が、雇用主NOMAC DRILLINGとShorock氏と電子契約で締結した仲裁合意(紛争について訴訟に持ち込まない旨の契約)について、「署名に使われたメールアドレスは私(Shrock氏)個人のものではなく職場の共用メールアドレスであり、その電子契約に同意したのは私ではない」と主張しましたが、裁判所は、

  • 契約書ファイルにデジタル署名する際に必要な本人の社会保障番号下4桁が入力されていた記録があること
  • Shrock氏が書類に署名した時点で就業中であったこと

などから、文書の真正な成立を認めました。

(2)電子契約の利用者が無権代理であったことを主張した事例

二つ目は、Docusignを利用して締結した契約の一方当事者が、無権代理を主張し、成立を争った事例IO Moonwalkers, Inc. v. Banc of America, 814 S.E.2d 583 (N.C. Ct. App. 2018))です。

この事件では、契約無効を主張した会社代表者Hassan氏が「会社のメールアドレス宛に送信された契約に、締結権限のない従業員Kanterman氏がアクセスし、Hassan氏の名前を使ってデジタル署名した」と主張しましたが、裁判所は、

  • 契約締結用メールアドレスへのアクセス権限がある人物が、締結前の契約書ファイルおよび締結後の署名済み契約書ファイルを閲覧したログが残っていたこと、
  • 締結済み契約書を代表者含む社員が閲覧できる状態にあり、その後も数ヶ月間取引先とのメールのやりとりが継続したにもかかわらず、拘束力がないことを主張せず、サービスの提供を受けていたこと

等を理由に、契約は真正に成立したものと認めています。

取引過程のデジタルな証拠が複数残るクラウド型電子契約の強み

以上、クラウド型電子契約の有効性について争われ、結果有効と認められた近年の米国裁判例をご紹介しました。

これらの裁判例から分かることは、クラウド型電子契約は、デジタル署名技術そのものが担保する電子ファイルの非改ざん性に加え、契約の締結前後のやりとり、メール認証に付加する本人識別符号の入力、その他サーバーへのアクセスログを含めたデジタルな証跡がいくつも残ることから、こうした紛争においても十分な証拠力が発揮される という点です。

電子的に行われる取引のコミュニケーションでは、契約プロセスの証拠が複数残る
電子的に行われる取引のコミュニケーションでは、契約プロセスの証拠が複数残る

認定認証局による本人確認を経ないクラウド型電子契約は、証拠力が低いのではないか?そう誤解されているお客様が多いのですが、第三者であるクラウド事業者が公証人のように契約のプロセスに立ち会い、複数の連続する証跡を残している点はむしろ強みとなります。

双方に時間と手間を要するにもかかわらず印影の推定効だけが頼りであり、その推定が破られると書面上は他の証跡が残らず争いようがない紙の契約書と比べ、スピーディで安全に、かつ合理的なコストで取引先との合意を証拠化することができます。

日本においてクラウド型電子契約の成立に関し同じような争いが起こった場合も、メールとクラウドを用いる点では基本的な仕組みは世界共通であることから、同様の立証・反証活動を行うことになります。

参考文献

  • The American Bar Association “Electronic Signatures: Not So Fast” (December 17, 2019)
  • Fenwick & West LLP “Using E-Signatures in Court — The Value of an Audit Trail” (May 13, 2020)

画像:ungvar / PIXTA(ピクスタ), Leonid Andronov / PIXTA(ピクスタ), ZARost / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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