電子契約の有効性が争われた判例はあるか?民事訴訟法における電子署名入りデータの証拠力

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電子契約・電子署名の有効性が争われた判例はあるか?民事訴訟法における電子データの証拠力


「電子契約・電子署名の有効性が実際に争われた裁判例はないのか?」押印から電子署名への移行を検討する法務担当者であれば知っておいて損はない裁判例が、ついに現れはじめました。本記事では、電子契約に関する判例の状況と、民事訴訟における電子署名の有効性について解説します。

電子契約のデータは民事訴訟法上「準文書」として有効に扱われる

まず前提として抑えておきたいのは、民事訴訟の際に契約の証拠として提出できるものは、紙の契約書に限定されていない、という点です。

ビデオテープなどに収録された映像や、磁気ディスクに保存された電子データも、証拠として実際に提出できます。改ざんできない「電子署名(デジタル署名)付き電子ファイル」を出力できる電子契約も同様です。

電子データも証拠として提出できる
電子データも証拠として提出できる

こうした情報を表すために作成された物件は、民事訴訟法上「準文書」といい、電子署名によって締結された電子契約のデータも、文書と同様に証拠として取り扱われます(民事訴訟法231条、大阪高昭和53年3月6日高民31巻1号38頁ほか)

民事訴訟における事実認定に関する専門書である司法研修所編『民事訴訟における事実認定』72頁(一般社団法人法曹会、2007年)にも、文書以外の証拠も制限なく扱えることについて、以下のように説明があります。

現行民訴法には証拠能力の制限に関する一般的な規定はおかれておらず,自由心証主義の下,(略)証拠調べの客体となり得ない文書(証拠として用いられるための適格を欠く文書)は基本的に存在しないと解されている。
「自由心証主義は、裁判の基礎として必要な事実の存否の確定について,法定の証拠法則から裁判所を解放し,証拠の採否及び証拠その他の資料の証拠価値の判断を裁判所の自由な心証に委ねる主義であるとされている(略)。したがって、自由心証主義の下では,証拠能力の制限はないのが原則である。」

クラウドサインのような、事業者が署名する事業者署名型電子契約も、この準文書として扱われることとなります。

電子契約を訴訟で証拠提出する方法

電子契約・電子署名に関しその真性性が実際に訴訟で争われた場合、どのように証拠提出することになるのでしょうか。

電子契約によって電磁的記録(PDFファイル)が残りますが、裁判手続きは紙や物を証拠として直接裁判所に提出する方法で行われているため、

  1. 紙に印刷して提出
  2. CD-R等のメディアに電磁的に記録して提出

のいずれかの方法をとることが一般的です。

万が一、電子契約の成立自体について争いがあった場合は、追加的に電子署名の検証画面、契約締結にいたる交渉経緯を示した電子メール等を証拠提出することとなります。

このような実務上の手続きについては、「ビジネス法務」2020年4月号に掲載された 圓道至剛先生の論稿「電子契約の民事訴訟上の取扱い」にわかりやすくまとめられています。さらに、この論稿のさらに詳細・発展版として、本メディア向けに同論稿著者が圓道至剛先生が執筆くださった「電子契約入門—第9回:電子契約締結後の対応・訴訟になった場合の対応・まとめ」もありますので、ご確認ください。

なお現在、裁判手続きのIT化が裁判所および法務省によって進められています。将来的には、インターネット経由でかんたんに証拠提出ができるようになることが期待されます。

電子契約・電子署名の有効性について争われた裁判例(東京地裁令和1年7月10日貸金返還等請求事件)

さて、理論上このように証拠として採用されうるとして、年間数十万件以上締結されている電子契約について、 具体的に有効性を裁判所で争った判例はあるのでしょうか?

平成の間、日本においては電子契約・電子署名の有効性や真正性について具体的に争われた裁判例は存在しないとされていました。しかし 令和に入り、電子契約に施した電子署名の真正性を争った裁判例が現れはじめています。その一つが、東京地裁令和1年7月10日 貸金返還等請求事件判決です。

東証一部上場企業H社とその取引先であるM社が、9億9千万円を貸付上限とする相互極度貸付契約を双方電子署名を用いて締結し、貸付を実行。その後、貸付金返済に関する準消費貸借契約およびコンサルティング契約を両当事者の実印を用いて締結したものの、M社が 利息の支払いを怠ったことで期限の利益を喪失し、H社が支払いを求めた事件です。

東京地裁令和1年7月10日貸金返還等請求事件では、電子署名の真正性が争われた
東京地裁令和1年7月10日貸金返還等請求事件では、電子署名の真正性が争われた

裁判においてM社は、相互極度貸付契約の電子署名について、

本件相互極度貸付契約書上の被告M名下の電子署名は、原告(H)が被告Mに無断で行ったものである

と、原契約債務の不存在を主張しましたが、裁判所は以下のように述べ、相互極度貸付契約はM社の意思に基づく電子署名により有効に締結され、債務が存在することを認定 しました。

被告Mは、太陽光発電を行うための資金として、原告(H)から合計7億1205万2275円の送金を受け(略)、その後、同送金に係る金員が本件相互極度貸付契約に基づく貸金であることを前提とする本件清算合意に応じた上、上記アのとおり、上記金員の残金である本件旧債務を目的とする本件準消費貸借契約の締結に応じたものであって、本件相互極度貸付契約が存在することを前提とした行動を一貫して取っていたのであるから、本件相互極度貸付契約書上の被告M名下の電子署名は、被告Mの意思に基づくものであると認めるのが相当である。

本訴訟の被告M社は、設立後に原告H社に子会社として買収され、M社の法務機能もH社の法務部門が一体的に担っていたものの、その後相互の信頼関係を失い資本関係の解消に至ったという特殊事情があります。

この点に鑑みれば先例としての価値は限定的ですが、電子署名を用いた契約締結前後の文脈(コンテクスト)から、電子証明書等の検証を求めることもなく電子署名の真正性を裁判所が認めた のも事実であり、貴重な裁判例と言えます。

電子署名のない電子メール契約の有効性が認められた裁判例(東京地裁平成25年2月28日業務委託料請求事件)

また、私たちが日々ビジネスで利用している 通常の電子メールが証拠として提出され、それにより契約の意思があったことが認められた裁判例も存在 しています(東京地裁平成25年2月28日業務委託料請求事件)。

この裁判例では、メールによって広告の発注がなされたと主張する原告(広告業者)と、当該メールは改ざんされたものであると主張する被告(発注者)との争いでしたが、各メールが偽造されたことをうかがわせる証拠はないこと等を理由として

成立に争いがある原告を作成者とするメールの写しについては、成立の真正が認められるというべきである

と断じています。なお、この裁判例については、本メディアでもご紹介した高橋郁夫ほか『デジタル証拠の実務Q&A』(日本加除出版,2015)でも解説されています。

上記のように 一般的な電子メールが証拠採用されている裁判例が存在することに照らせば、デジタル署名技術等を用い非改ざん性が証明容易な電子契約が証拠として問題視されるケースは考えにくい と言えます。

クラウドサインによる電子契約を証拠・疎明資料として提出した実例

クラウドサインユーザーの代理人となった弁護士の方から、裁判所にクラウドサインで締結した電子契約を証拠や疎明資料として提出した実例 についても、複数のご報告をいただいています。

一例として、債権の仮差押申立てのプロセスで行われる裁判官との審尋で、クラウドサインによって締結された契約に基づく請求債権について説明する際、電子契約の仕組みについて説明がなされた上で裁判官にご理解をいただき、仮差押の発令に至ったという事案があったことを確認しています。

その訴訟や保全手続きの中で直接的にその有効性や証拠力について争われたものではないとはいえ、このような事例が積み重ねられていくことで、電子契約に対する信頼性も確固たるものになっていくでしょう。

すでにクラウドサインが裁判の証拠として提出・利用されている事例はある
すでにクラウドサインが裁判の証拠として提出・利用されている事例はある

裁判所に対する電子契約サービスの仕組みと証拠力の主張方法

民事訴訟において、電子契約を証拠として提出する際には、自社が利用する電子契約サービスについて裁判官に正しく理解していただくことが重要です。

優秀な裁判官といえども、電子署名やクラウドといった先端技術に必ずしも明るい方ばかりではありません。そんな中で合理的なジャッジをしていただくためには、

  • 契約にあたり利用した電子契約サービスの仕組み
  • ハッシュ関数等の技術的な説明を含めた電子署名(デジタル署名)の詳細
  • 民事訴訟法や電子署名法との関係

などについて論理的かつ正確に、しかもわかりやすく説明できるかが、訴訟をスムーズに進行できるかのポイントとなります。

クラウドサインでは、実際に裁判所において裁判官としての任官経験も有し、訴訟実務に詳しい 島田法律事務所 圓道至剛弁護士の監修のもと、クラウドサインの仕組みと証拠力を裁判官向けに説明する「訴訟サポート資料」を準備 し、お客様に提供しています(参考記事:クラウドサイン訴訟サポート資料最新版を提供開始)。

クラウドサイン訴訟サポート資料 https://www.cloudsign.jp/pdf/litigation_support_documents.pdf
クラウドサイン訴訟サポート資料 https://www.cloudsign.jp/pdf/litigation_support_documents.pdf

デジタル庁電子契約サービスQ&Aから読み解く電子契約・電子署名の証拠力

2020年7月および同年9月、総務省・法務省・経済産業省の連名で、クラウドサインのようなクラウド型の電子契約サービスに関する法的解釈を示す「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子契約サービスに関するQ&A)」が公表されました。

「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A」(令和2年7月 17 日付)

「利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法第3条関係)」(令和2年9月 14日付)

この電子契約サービスに関するQ&Aにより、クラウド型電子署名サービスについても押印のある契約書と同等の法的効力が確認され、政府を挙げての電子契約の普及促進が進んでいます。

電子契約サービスと電子署名法2条との関係

電子契約サービスQ&Aでは、クラウドサインのようなクラウド型の事業者署名型電子契約サービスについて、電子署名法2条1項1号の要件である「当該措置を行った者の作成に係るものであることを示す」との関係でその解釈適用が問題となるものの、

技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる場合であれば、「当該措置を行った者」はサービス提供事業者ではなく、その利用者であると評価し得るものと考えられる。

と述べ、電子署名法2条が定める電子署名に該当することを述べています。

電子契約サービスと電子署名法3条との関係

さらに、電子契約サービスQ&Aでは、電子署名法3条が規定する電子署名に真正推定効を認める要件が、クラウド型の電子契約サービスにも認められるかについて論じています。

電子署名法3条の条文が適用されるためには、電子署名が本人すなわち電子文書の作成名義人の意思に基づき行われたことが必要となりますが、クラウド型電子契約サービスが本人でなければ行うことができないものであること、すなわち、十分な水準の固有性を満たしていること(固有性の要件)が求められるとして、以下のように述べています。

あるサービスが電子署名法第3条に規定する電子署名に該当するか否かは、個別の事案における具体的な事情を踏まえた裁判所の判断に委ねられるべき事柄ではあるものの、一般論として、上記サービスは、①及び②のプロセス【編集部注:①利用者とサービス提供事業者の間で行われるプロセス及び②①における利用者の行為を受けてサービス提供事業者内部で行われるプロセス】のいずれについても十分な水準の固有性が満たされていると認められる場合には、電子署名法第3条の電子署名に該当するものと認められることとなるものと考えられる

なお、この電子契約サービスQ&Aが定められた経緯および内容の詳細を解説した記事として、「デジタル庁の「電子契約サービスQ&A」を解説 —電子署名が法律上有効となる条件の政府見解とは」がありますので、こちらもご参考ください。

まとめ

  • 電子契約のデータも、民事訴訟法上「準文書」として証拠提出でき、実際に弁護士がクラウドサインを証拠として提出した実例もある
  • 電子契約・電子署名の有効性が認められた裁判例も実際に現れ始めている
  • 技術に明るくない裁判官にも電子契約の仕組みを誤解なく理解いただけるよう、クラウドサインでは、裁判所にそのまま提出できる説明文書をお客様に提供している
  • 2020年にクラウド型の電子契約サービスを電子署名法上も適法・有効と認める政府見解が出て以降、急速に普及が進んでいる
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