電子契約の基礎知識

電子契約に関する法令の全体像—電子契約関連法令マインドマップ


電子契約を支える法令には、電子署名や認証制度を支える電子署名法以外にも、契約の電子化を禁じたり、特定の電子署名に限定したり、相手の承諾を必要としたりするなどの制約を課す法律が多岐に渡って存在し、それらを発見して整理するだけでも大変です。そこで、一般的な事業会社が抑えておきたい電子契約関連法令をマインドマップ形式で一覧にしてみました。

電子契約に関する法令の全体像

IT革命が叫ばれた2000年、当時の森喜朗内閣がIT戦略会議を立ち上げ、「日本新生プラン」としてIT基本戦略を初めて策定して以降、電子契約の有効性を規律する法令は多数整備されてきました。

その中でも、電子署名とは何かを定義し、契約としての有効性を支えるもっとも重要な法律は、2001年に施行された「電子署名法」です。加えてそれ以外にも、書面による契約を強制し電子化を規制する法令や、電子データの保存方法を規律する法令など、電子契約に関係する法令はたくさん生まれています。

しかし、「脱ハンコ」で 契約の電子化を迫られた企業のみなさまからは、「現状ある電子契約関連法令を整理して理解するだけでも大変」というお声をいただくようにもなりました。

「電子契約関連法令マインドマップ」と読み方のポイント

押印を電子署名に置き換え、紙の契約書を電磁的記録に置き換える。作業自体はかんたんなことですが、このかんたんなことを法的に有効と認めるための法令を、業法レベルまで細かく見ていくとかなりのボリュームがあり、漏れなくすべて列挙することは難しいかもしれません。

しかし、「民間の一般事業会社がビジネスを行うにあたり、抑えておきたいレベル」だけでも一覧化・体系化・構造化してお見せできないか?

そんな試みとして、電子契約に関する法令の全体像をマインドマップ形式でまとめてみました。

電子契約関連法令マインドマップ(クリックして拡大)
電子契約関連法令マインドマップ(クリックして拡大)

以下、この「電子契約関連法令マインドマップ」の中でも、特に抑えておきたい法令と読み方のポイントについて、簡単にご紹介をしておきます。

電子署名と電子契約の定義

電子契約を理解する上でまず抑えておきたいのは、押印に代わる措置としての「電子署名」の定義 です。これはその名のとおりの電子署名法2条1項に定められています。

2020年、この定義条項の理解が不正確な専門家が存在したことで、電子契約の有効性に関する混乱が生じ、これを解消するために政府がわざわざ解釈を公表したのは記憶に新しいところです(「電子契約サービスに関するQ&A」三省連名発表の意義)。その意味で、この電子署名法2条1項を理解することは基本の「き」と言えます。

一方、「電子契約」そのものを真正面から定義する法令は実は少なく、かろうじて電子委任状法2条2項に定義があるぐらいなのは、意外に思われるかもしれません。

契約の有効な成立

電子契約にとって、電子署名法と同じくらいに重要な法令といえば、契約を規律する一般法としての民法 です。2020年4月に施行された改正民法民法522条2項により、契約の方式は書面(紙)でなくとも良く、原則として自由であることがようやく明文化されました。

そして、この契約方式自由の原則に対し、電子契約における例外を条文に定めた特別法 として、

  • 借地借家法
  • 下請法
  • 特定商取引法
  • 建設業法
  • 地方自治法

などがあり、これらの法律が契約の電子化を禁じたり、特定の電子署名に限定したり、相手の承諾を必要とするなどの制約を設けています。こうした電子契約規制法を挙げ出すとキリがないのが実務家の悩みのタネで、「だから電子契約はやめておいたほうが安全」という乱暴なアドバイスをする専門家も、一部にいらっしゃったようです。

しかしながら、昨年の「脱ハンコ」以降は、ほとんどの契約書が電子化可能となり、いまも現在進行形で法令が変わりつつあります(電子化に規制が残る文書と契約類型のまとめリスト)。

さらに、会社議事録のような内部文書での電子署名の利用について言及した会社法などにも、目を配っておく必要があります。

電子署名と認証制度

電子署名の世界で厄介なのは、「認証」の概念と法令が定める認証制度と電子署名の関係 を理解しなければならない点です。

2020年の電子署名法の解釈に関する混乱が生まれたのは、特に電子署名法3条との関係において、認証局等による第三者認証が必須であり、これがない電子署名は無効であるかのような解釈をしていた事業者が存在したことが挙げられます(関連記事:「電子署名法第3条Q&A」の読み方とポイント—固有性要件と身元確認・2要素認証の要否)。このような誤った解釈が蔓延したのも、認証制度を規律する法令について正確に解説する文献が少なかったというのが、その理由の一つかもしれません。

なお、電子署名法はその正式名称を「電子署名及び認証業務に関する法律」と言い、実のところ条文の90%はこの認証制度について述べられているものであることは、いまだに知られていません。

また、これとあわせて、

  • 商業登記法
  • 公的個人認証法
  • 電子委任状法

をここでは挙げています。法人の実印・個人の実印に代わる電子署名を施すための公的な認証制度を理解するには、これらの法令が定める認証制度と電子署名とを立体的に理解することが必要となります。

登記に利用できる電子署名

加えて、法律専門家が電子署名を取り扱う際には、商業登記における電子署名の利用範囲 を理解しておくことも、必要となります。

この点については、これ以上なく詳しく解説した書籍を刊行していますので、せひこちらをお読みください。

書籍情報


alt無指定

会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A―電子署名・クラウドサインの活用法


  • 著者:土井万二/編集 尾方宏行/著 新保さゆり/著 内藤卓/著 大塚至正/著 重松学/著 橋詰卓司/著
  • 出版社:日本加除出版
  • 出版年月:20210408

電子契約の証拠化と保存

電子契約を締結後、契約の証拠として保存するフェーズでは、準文書を定義する民事訴訟法と、押印に代わる推定効を電子署名に認めた電子署名法 が重要です。

加えて、議事録の保存義務を定めた会社法も抑えておきたいところですし、税務上は

  • 印紙税法
  • 法人税法
  • 電子帳簿保存法

なども抑えておかなければなりませんが、このあたりは詳しい専門家が限られているのが現状ですので、国税庁や管轄の税務署に確認したほうが確実でしょう。

専門家を選んで相談するためにも、法令の全体像を把握することが重要

2021年9月には、新法のもとデジタル庁が設置され、この分野でのさらなる立法や法改正が行われていくことが予想されます。電子が原則・紙が例外となる「デジタルファースト」になることは、もはや規定路線です。

「脱ハンコ」が加速した2020年以降、電子契約関連法令に対する知識は新聞等大手メディアでも解説されるようになりました。この分野は、本来は法律のみならずこれを支える具体的技術についても理解する必要があるのですが、この認識が欠けた不正確な知識や誤解が蔓延してしまいがちなところでもあります。今後のデジタル化の進展に伴って、ますます本物の専門家を選ぶ目を養う必要が出てくるはずです。

本メディアをご覧のみなさんが、ここに列挙した法令のすべてを理解する必要は無いと思いますが、一方で、こうした 電子契約に関する法令の全体像を頭に入れた上で、必要に応じてその分野に詳しい弁護士等専門家に相談できる体制を日頃から作っておく ことが大切です。 

(橋詰)

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら

こちらも合わせて読む

電子契約の国内標準
クラウドサイン

日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスです。
さまざまな外部サービスと連携でき、取引先も使いやすく、多くの企業や自治体に活用されています。