契約書は誰がどこで管理すべきか—契約書保管・保存方法の選択肢と注意点

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事業が拡大してくると、ある相手方との現在有効な契約書はどれか、その保存場所はどこか、管理するのは難しくなります。本記事では、実務経験を踏まえた押印・電子署名後の契約書の保管と保存のノウハウ、選択肢の選び方、注意点を整理します。

契約書を誰がどこで管理するかー集中管理か分散管理か

契約書管理には、法務経験が長いほど実感するセオリーがいくつかあります。

筆者の経験上、契約書管理についてあとで後悔しないための最大のノウハウは、契約書を「誰が」「どこで」保管するかの選択 にポイントがあると考えます。

その選択肢には、おおまかに「集中管理」か「分散管理」かの2つがあります。

集中管理パターン1:本社の文書管理部門

最も基本的な管理方法は、本社の文書管理部門での集中管理です。

創業から一定規模に成長するまでは、どの企業もこの方法でしょう。具体的には、押印対応、税務対応、契約書確認といった近接業務との関係から、総務、財務、法務のいずれかで管理 することが一般的です。

一箇所で集中管理すれば契約書原本にすぐアクセスできるので、「契約書が見たい」という依頼にも迅速に対応できます。

しかしながら、本社にすべての契約書を保管するスペースが必要で、事業規模や締結件数が一定以上になると、この方法は取りにくくなります。また、管理スペースコストも高額になりがちです。

集中管理パターン2:シェアードサービス部門

大企業には、自社内やグループ企業の事務を効率的に行うために、管理業務を一箇所で取り扱うシェアードサービス部門を設けて管理 しているところがあります。

契約書もこの部隊が在席する事業所に集中管理することが増えているようです。

集中管理パターン3:外部倉庫

本社やシェアードサービス部門が都市部にある場合、契約書の保管スペースを確保するのは簡単ではありません。特に事業所を賃借している場合には、保管スペースがデッドスペースに見えてきます。

そこで、外部倉庫を利用 することも考えられます。倉庫だけでなく、有効期限管理などの周辺業務ごと外部委託するケースもあるでしょう。

ただし、すぐに契約書原本を確認することが難しくなるので、自社でもデータを保有しておく必要があります。

各部で分散管理

どこか一箇所で集中的に管理するのではなく、各部署で事業所ごとに分散して管理する という方法もあります。契約の締結権限が部門に委譲されている場合には、この方法になりやすいのではないでしょうか。

この場合、各部に契約書管理担当を置くことになり、管理状況がその担当者の処理能力に依存する可能性があります。

筆者の場合ー各部×シェアードサービス×外部倉庫

筆者の所属先では、契約の締結権限が各部に委譲されていることから、締結された契約書は原則として各部で管理 しています。

ただし、実務面に配慮して、以下の例外があります。

例外1:契約締結数が多い営業部門のものはシェアードサービス部門で管理

所属先にもシェアードサービス子会社があり、営業部門の事務を一手に担っています。営業部門では日常的に多くの契約書が締結されますが、「契約書を締結したらシェアードサービス子会社に送る」ことで従業員の負担を減らしています。

子会社では、契約書をスキャンした上で所定の管理システムに契約情報を入力します。

例外2:不動産賃貸借契約書は管理業務ごと外部に委託

事業所や社宅の不動産賃貸借契約書については、管理対象が相当数あるため、賃料支払や貸主・管理会社とのやりとりなども含めて 外部倉庫に管理を委託 しています。

具体的な保管方法は企業により異なるものの、本社での集中管理が限界を迎えて見直しを迫られるのはどの企業も同じではないでしょうか。

契約書保管方法に関するノウハウと注意点

法務経験が長くなり、契約書を取り出して見返すことが増えるほどに、「ああ、最初からきちんと保管・保存しておけばよかった」と後悔することが多々あります。

そんな後悔をしないですむよう、以下では契約書を保管する方法論について、「基本のき」のノウハウと注意点を紹介します。

注意点1:契約書原本に穴をあけたり、製本をほどいたりしない

紙の契約書原本をファイリングする際のもっともオーソドックスな方法は、クリアポケットに入れてリングファイルに綴じていく 方法です。ほかにも、クリアファイル+ボックスという保管方法を採用される企業もあるようです。

なぜわざわざそうするかといえば、原本を傷つけないように保管するためです。

原本に穴あけパンチで穴をあけ、そのままリングファイルに保存したり、100頁を超える大部のためスキャンが面倒で製本をほどいてしまったりする例を見たことがあります。しかし、有事の際に以下のようなリスクがあります。

せっかく締結した契約書でそうしたトラブルに遭わないよう、原本は丁重に扱うべきです。

注意点2:保管場所の安全性を確保する

どこで保管する場合でも、契約書は施錠可能なキャビネットに保管するのが一般的です。しかし、それで安全でしょうか。

地震、火災、水害などに見舞われる可能性もありますし、悪意の侵入者や持ち出しがないとも限りません。重要な契約書は、水没の可能性がある地下や1階には保管しない、耐火金庫を利用するといった工夫 も検討すべきでしょう。BCP(事業継続計画)としてすでに検討・対策済みの企業も多いかもしれません。

筆者の場合、ハザードマップやビルの耐震性などを確認したところ現在の保管場所に大きな懸念はなく、耐火金庫での保管はスペースの問題から現実的ではありません。そこで、自社やシェアード子会社で保管する契約書は、役職員しか入室できないエリアで施錠可能なキャビネットに保管しています。

注意点3:綴じ方は五十音順か締結(受領)順か

契約書原本は、相手方の名称の五十音(アルファベット)順か、締結して管理担当者に回ってきた順かのいずれかで綴じることになります。

五十音順保管のメリットは、ある企業との契約書がすべてまとまっており、契約書を後から確認したい人にとって親切 なことです。変更契約や付随契約を一緒に綴じられるので、「この企業との契約書を全部見たい」というリクエストに応じることもできます。デメリットは、ファイリングする管理担当にとっては負担が大きくなることでしょう。

他方、締結順のメリットは、受け取ったものをどんどん一つのファイルに綴じればよく、管理担当の負担が小さいことです。しかし、検索性が落ちるため、どのファイルにどの契約書を保存しているか という台帳管理が欠かせません。

筆者は、できるなら五十音順がよいと考えますし、誤解を恐れずに断言すれば、管理能力が高い企業・部署は経験上そうしています。

注意点4:スキャナ保存と原本廃棄の可否

集中管理でも分散管理でも、契約書原本を確認しようとすると、次のような不都合が発生します。

契約書を探したり、コピーをとって送付したりする時間は率直に言って無駄です。契約締結後は、PDFにとって全社共通のプラットフォーム上で一元的に管理し、必要な人がいつでも見られるようにすることが望ましい です。

この場合、ただ共有サーバーにPDFファイルを保管するだけでなく、次のような機能を備えた文書管理システムが不可欠になってくるでしょう。

契約書をスキャンしてPDFに変換しておけば、原本を見る機会はなくなります。では、原本を廃棄してしまってもよいでしょうか?

紙で締結した契約書を「スキャナ保存」し原本を廃棄する場合、電子帳簿保存法の要件を満たす必要があります。2022年より規制緩和が予定されていますが、現状は所轄税務署長の事前承認や真実性の確保など複数の電帳法要件 のハードルがあります。さらに、裁判においては、原本がないことが不利に働く可能性 もあります(関連記事:契約書の「スキャナ保存」に関する法務と税務—契約書をスキャンして保存する場合)。

増え続ける契約書を適切に管理するために

契約書の中には法令で保存期間が定められているものがありますし(関連記事:その契約書、法律上の保存期間は何年間?)、多くの企業は、文書管理規程で保管期間を定めているはずです。増え続ける契約書を適切に管理するためには、これらのルールとサイクルに従って、保存期間が経過したものは廃棄 していかなければなりません。

しかし、それらのルールを確実に運用できているところは多くないでしょう。そもそも、現在有効な契約がどれか、保存期間はいつまでかを把握する仕組みを持たない企業も珍しくありません。

また、「なんとなく契約書は廃棄しづらい」という心理もあるようです。これについては適切に廃棄することで保管スペースを確保できますし、手元の契約書が現在有効か無効かわからないという無用の混乱も防げます。

電子契約&スキャンサービスで管理の効率化

改めて、このように紙の契約書の保管方法を考えてみると、

  1. 保管場所の問題
  2. 保管責任部門の問題
  3. 検索コストの問題
  4. 廃棄サイクルの問題

課題がいくつもあることがわかります。これらの契約書保存の課題に対する根本的解決手段として考えられるのが、電子契約の導入 です。

電子契約なら保管場所やスキャンの手間といった煩わしさから解放されますし、文書管理システムを併せて利用すれば、契約書を探すこともなくなります。当初より電子契約で締結すれば、原本廃棄による訴訟上の問題も発生しません。

紙の契約書のウェイトが大きければ、クラウドサインSCANのようなスキャンサービス、そしてクラウドサインAIで相手方の名称や契約期間といった情報を自動読み取りで記録し、台帳入力の手間もなくなり、一層の効率化を図ることができます。

契約の有効期間や契約書の保存期限の管理まで確実に行おうとすると、少なくともその情報を一元的に管理する必要があります。紙の契約書と電子契約に対応できる適切な管理体制を構築するには、マンパワーだけに頼らず、定評のあるツールを使うべきでしょう。

(文・イラスト:いとう)

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