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電子化すべき契約書トップ5—電子契約実態調査で分かった契約書電子化成功のセオリー

電子化すべき契約書トップ5—電子契約利用実態調査にみる契約書電子化のはじめ方とセオリー

弁護士ドットコムの契約に関する企業アンケート調査結果から、企業において電子契約化がすすんでいる契約類型と、これから電子化予定の契約類型を、それぞれ分析します。本記事を読むことで、企業がどのような順番で契約DXを実現しようとしているのかがわかります。

1. 契約書電子化のはじめ方にセオリーはあるか

電子契約の導入を検討中のお客様からよくいただく質問の1つに、「どの契約書から電子化を始めるのがよいか?」があります。

これには、お客様が所属する業界や企業ごとの特性もあり、一概には申し上げられない部分もあるものの、この契約類型から電子化をスタートすれば間違いなしというセオリーもあるようです。

以下では、過去弁護士ドットコムが実施した「電子契約サービスの利用実態に関するアンケート」結果から、

  • すでに電子化済みの契約類型
  • これから電子化を行う予定の契約類型

のデータを分析した上で、契約DXによる生産性の向上を成功させるために、企業がまず最初に電子化すべき契約類型とは何かを探っていきます。

 「法務のDXはスモールスタートがセオリー」は本当か?
どの契約類型から電子化を進めるべきか?

2. 企業の契約書電子化作業はどこまで進んでいるか?契約類型別ランキングをチェック

2.1 企業がすでに電子化済みの契約書ランキングトップ5

まず、アンケート回答企業がすでに電子化を済ませている契約類型から見てみましょう。トップ5には、以下の契約類型が並びました。

  1. 取引基本契約41.4%
  2. 秘密保持契約(32.1%)
  3. 請負契約(24.7%)
  4. 準委任契約(22.2%)
  5. 売買契約(15.8%)
弁護士ドットコム「日本のリーガルテック 2021」電子契約サービスの利用実態に関するアンケートより
弁護士ドットコム「日本のリーガルテック 2021」電子契約サービスの利用実態に関するアンケートより

一般には最も通数が多く、リスクが少なく、電子化承諾の交渉もしやすい秘密保持契約書からはじめるのが契約電子化のセオリーと語られることも多いのですが、意外にも、電子契約の導入障壁が高そうに思われる「取引基本契約」が1位となりました。

その理由についてユーザー企業にお尋ねしてみると、

「取引基本契約書は、社内規程に基づきすべての取引先と締結しなければならず必然的に通数が多くなるので、これを電子化することによる効果も大きい」
「印紙税法により基本契約書に貼付が必要となる4,000円×2通分の印紙税コストが、電子契約導入により削減でき、導入コストを上回る直接の経済的メリットが得られる」
「その企業と今後取り交わす契約を電子化することの合意をしっかりと残すためにも、取引基本契約書から電子契約に移行した」

このようなコメントからも分かるように、当初の導入のしやすさ・交渉ハードルの低さだけを優先するのは正しくないことを思い知らされます。

実際に電子契約サービスを導入しいち早く契約DXを進めている企業は、導入のしやすさにこだわらず、当初からさまざまな類型の契約電子化にチャレンジしている ことがわかります。

2.2 これから電子化を予定している契約書ランキングトップ5

次に、これから電子契約の導入を予定している契約類型についても、質問をしてみました。

  1. 取引基本契約(49.4%)
  2. 秘密保持契約(39.2%)
  3. 請負契約(37.6%)
  4. 雇用契約(33.3%)
  5. 売買契約(32.1%)
弁護士ドットコム「日本のリーガルテック 2021」電子契約サービスの利用実態に関するアンケートより
弁護士ドットコム「日本のリーガルテック 2021」電子契約サービスの利用実態に関するアンケートより

特に上位は先に挙げた「すでに電子契約化済みの契約類型」と1〜3位までは変わり映えしないようにも見えますが、4位に「雇用契約」が大きくジャンプアップ(電子化済み7.8%→これから電子化予定33.3%)しているのが特徴的です。

3. 本当は電子契約に移行したいが、まだできていない契約類型の共通項

3.1 電子化の「理想と現実」のギャップから契約DXの課題を読み解く

この2つのデータをもとに、契約類型ごとに「これから電子化予定」の割合から「すでに電子化済み」の割合を引き算し、そのギャップが大きい順に上位10類型を並べてみた のが、以下の表です。ここにギャップが大きく現れた契約類型は、「企業が電子契約を導入したいと本当は思っているが、まだ電子化できていない契約類型」と言ってよいでしょう。

契約類型 電子化予定(a) 電子化済み(b) ギャップ(a-b)
雇⽤契約 33.3% 7.8% 25.5P
売買契約 32.1% 15.8% 16.2P
派遣契約 21.7% 5.7% 16.0P
システム・ソフトウェア開発委託契約 24.1% 8.4% 15.6P
請負契約 37.6% 24.7% 12.9P
ライセンス契約 21.3% 8.6% 12.7P
データ提供契約 14.6% 3.0% 11.6P
賃貸借契約 14.3% 3.0% 11.4P
業務提携契約 17.9% 7.2% 10.8P
リース契約 11.0% 1.7% 9.3P

こうした電子化ギャップが現れた表の上位を眺めて目に入るのは、

  • 雇用契約(25.5ポイント)
  • 派遣契約(16.0ポイント)

といった、労働関係の契約書類が並んだ点です。

これらの類型の共通点は、いずれもが 2019年以降の法改正によりようやく完全電子化が認められ、これから徐々に電子契約への移行が進むと期待 されている契約類型であるということです。

3.2 電子化ランキング分析から導かれるセオリーは「印紙税負担が重い契約から電子化をスタートせよ」

他方で、その他分野で上位を占める契約類型には、一見すると共通した特徴はなさそうにも見えます。

  • 売買契約(16.2ポイント)
  • システム・ソフトウェア開発委託契約(15.6ポイント)
  • 請負契約(12.9ポイント)
  • ライセンス契約(12.7ポイント)

ところが、この点について企業にヒアリングをしてみると

「印紙税法1号課税文書となる不動産売買契約で電子化が認められれば、金額的メリットは大きい」
「請負でも、工事の契約書であれば収入印紙を反射的に貼るが、システム・ソフトウェア開発では請負(2号課税文書)と準委任(不課税文書)の解釈で迷ったり、貼り忘れたりすることもある」
「準委任型のシステム開発契約やライセンス契約の中に、知的財産権の譲渡やアサインバックに関する条項が入っているケースもあり、1号文書該当の判断に迷う」

というように、電子契約化により印紙税判定にかかわる手間が解消できること、費用対効果の計測が容易であることを理由として挙げる企業が、無視できない数いらっしゃる のです。たかが印紙税、されど印紙税、というわけです。

4. コストメリットが確実に計測できる契約書からスタートするのが電子化成功のセオリー

契約業務のデジタル・トランスフォーメーションは、

  • これまで出来なかったリモートワークや時短勤務など、多様な働き方を実現する手段となる
  • 紙資源や輸送にかかる燃料の削減により、環境サスティナビリティに貢献できる
  • 契約書データの利活用につながり、新しいイノベーションを産む力になる

このような効果も期待できるものであり、必ずしも、コストメリットだけを追求して推進すべきものではありません。

そうは言っても、社内外のステークホルダー全員にとってわかりやすい直接的コストメリットがあり、それが効果として計測できるからこそ、社内でDXへの推進力と賛同が生まれその後の「弾み車」になるというのも、厳然たる事実です。

契約DX推進に成功している企業は、導入のしやすさだけで易きに流れることなく、導入したことの効果が確実に計測できる契約類型を当初から合理的に選択し、本丸からDXに取り組んでいることが、このような調査からも実証できます。

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