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【2023年10月最新】不動産取引の電子契約化はいつから?宅建業法改正で重要事項説明書等の押印廃止・電子交付が可能に

不動産取引の電子契約化はいつから?宅建業法改正により重要事項説明書等の押印廃止・電子交付が可能に

10デジタル社会形成整備法により、改正宅地建物取引業法が2022年5月18日に施行され、不動産取引の電子契約化が可能となりました。本記事では、不動産契約電子化を検討される事業者様が知っておくべき宅建業法改正のポイント、電子契約移行によるメリット、導入成功事例、注意点等を解説します。

2022年5月18日の宅建業法改正により不動産取引における電子契約利用が可能に

「デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律」(令和3年法律第37号)において、行政手続・民間手続における押印を不要とするとともに、民間手続における書面交付等について電磁的方法により行うことなどを可能とする見直しが行われました。

この整備法による改正規定のうち、公布から1年以内に施行することとされていた宅地建物取引業法等の改正が、令和4年5月18日に施行されました(国土交通省発表:「『宅地建物取引業法施行令及び高齢者の居住の安定確保に関する法律施行令の一部を改正する政令』等を閣議決定」)。

以上の経緯により、不動産取引の電子契約利用が可能になりました。

なお、宅建業法の改正に伴ってガイドラインも変更されています。法改正後の実運用について詳しく知りたい方は国土交通大臣自身が宅地建物取引業法の解釈・運用を行う際の基準を示すガイドラインとして作成した資料「宅地建物取引業法の解釈・運用の考え方」を参考にしてみてください。

2022年5月の宅建業法改正でなぜ不動産取引の電子契約化が可能になる?

宅地建物取引士による押印義務が廃止される

2020年以降各法令で進められてきた押印廃止の流れに沿って、不動産取引において欠かせない、

  • 重要事項説明書(いわゆる35条書面)
  • 宅地建物の売買・交換・賃貸借契約等締結後の交付書面(いわゆる37条書面)

これら2つの書面について、宅地建物取引士の押印が不要とされ、記名のみで可(直筆署名も不要、氏名を印字・電磁的記録する)となりました。

重要事項説明書等の書類の電子化が認められる

これまで、不動産取引で発生する以下4つの書面は、必ず書面により交付する必要がありました。

  • 媒介・代理契約締結時の交付書面
  • 指定流通機構(レインズ)登録時の交付書面(登録証明書)
  • 重要事項説明書(いわゆる35条書面)
  • 宅地建物の売買・交換・賃貸借契約等締結後の交付書面(いわゆる37条書面)

これらについて、相手方の承諾を条件として、電磁的記録(電子ファイル)での交付が認められることとなりました。

この2つの改正により、これまでどうしても手続きの一部に押印や書面の発行が必要だった不動産取引について、電子契約を活用したデジタル化が図ることができます。

重要事項説明書等の書類の電子化が認められる

不動産取引を書面契約から電子契約に移行するメリット

高額な印紙税の節約

不動産の売買契約を書面で締結した場合、その取引金額に応じて、印紙税額一覧表に定められた金額の印紙を貼付することにより、印紙税を納付する義務があります。

この金額はかなり高額になりますが、電子契約の場合、この印紙税納付義務が発生せず、収入印紙コストを節約することができます。

取引の省力化・円滑化・早期化

売主にとって、遠方にある不動産を所有している場合、スピーディに売却したい場合、対面で契約したくない場合など、電子契約を採用することで、物理的な書面の作成や郵送も発生しなくなるため、取引の省力化・円滑化が図れます。

ウェブ会議で面談をし、その時間中に遠隔にいながら両者で契約締結を完了することも可能です。

保管スペースや管理コストの削減

不動産取引においては、さまざまな書面のやりとりが発生し、そのすべてを一覧化できるように保管するだけでもスペースが必要です。売買対象物件が多数ある不動産オーナーであれば、それらを物件ごとに検索できるようファイリングする手間や、保管場所を確保するためのコストもかかります。

電子契約化することにより、物理的な保管スペースが不要となることに加え、買主名や契約締結日等ですべての文書を検索することが可能になり、管理コストも削減できます。

不動産取引における電子契約の活用成功事例

不動産売買契約・重要事項説明書等のテレワーク対応・業務効率化成功事例

株式会社日本ユニスト様では、主にテレワークへの対応と業務効率化を目的として、電子契約クラウドサインを導入いただきました(日本ユニスト様導入事例「導入をきっかけに書類管理の見直し・オフィス省スペース化に貢献。不動産業での電子契約活用事例」)。

電子契約導入にあたっては、書類の取交相手となるのが仲介業者様が多く、ITツールに不慣れな方が多いことに注目。法的に問題ないシステムであることに加え、操作の分かりやすさの観点からクラウドサインを含め他のサービスもテスト利用してみたところ、社内でクラウドサインが一番説明し易い、操作方法もシンプルで分かりやすいとの評価をいただきました。

不動産管理業務のコスト削減成功例

1万戸を超える賃貸物件の管理業を営む株式会社明和住販流通センター様には、内装工事の管理業務における書類の電子化のために、クラウドサインを導入していただきました(株式会社明和住販流通センター様導入事例「契約書をFAXしてたのが、電子契約でスムーズに」)。

それまで、見積書や注文書をすべて紙で印刷し、FAXで送信したりスキャナーで取り込んでPDFでメール添付してやりとりした上で、最後に紙で保管していた業務プロセスを改革。契約書のファイル検索も簡単にでき、保管した書類を探す手間もなくなったことに加えて、開封確認の機能をご評価いただいています。

これにより、書類送付の都度FAXやeメールの着信確認を電話等でしていた手間が削減され非常に助かった、とのお声を頂戴しました。

不動産の売買契約等を電子契約に移行する際の注意点

不動産の売買契約等を電子契約に移行する際の注意点として、登記所(法務局)の不動産登記実務が、まだ電子化を認めた今回の法改正に十分に対応していない点が挙げられます。

不動産を売買した場合、所有権移転登記の手続きにおいて、契約書面と印鑑証明を添付書面として提出申請を行っていたところ、電子署名を利用する場合は、この印鑑証明に代えて法務大臣が指定する電子証明書を添付する必要があります。この指定の電子証明書については、法人の場合は原則商業登記に基づく電子証明書(商業登記電子署名)を、個人の場合は公的個人認証に基づく電子証明書(マイナンバーカード署名)を、それぞれ添付しなければなりません。

民間の電子契約サービスを利用して売買契約を締結しようとする場合は、この点に注意し、事前に登記所(法務局)や司法書士等専門家への確認が必要となります(関連記事:不動産契約の電子化と不動産登記手続きの実務—登記所は電子契約に対応できるか)。

宅建業法改正が電子契約の導入チャンス

2022年5月の改正により、

  1. 媒介・代理契約の締結
  2. 重要事項説明書の交付
  3. 売買・交換・賃貸借契約等の締結
  4. 37条書面の交付

といった一連の不動産取引の流れを電子化できます。高額な印紙税を節約できる、郵送・受け渡しにかかるコストが削減できるといったメリットが得られることからも、今後は電子化が進んでいくことは間違いありません。

宅建業法改正は、これまで「紙の交付」が義務とされ電子化が進まなかった不動産業界において、確実な効率化が図れるチャンスです。同業他社との競争優位性確保、顧客満足度の向上のために、ぜひ電子契約の早期導入をご検討ください。

不動産売買契約等の電子契約化に関するよくある質問

不動産売買契約等の電子契約化はいつから?

改正宅建業法が施行された2022年5月18日の0時0分に、電子契約を利用した日本初の不動産売買契約の事例が誕生しています。

クラウドサインを利用して、実際の区分所有マンションの個人取引において、不動産売買契約書および37条書面の電子契約締結が締結された実例があるのです(関連記事:【日本初の不動産電子契約事例も紹介】デジタル法改正で始める不動産契約電子化のメリットとデメリット)。

これまで取引のリードタイムの長さや工数負荷が高いとされてきた不動産取引が、電子契約によって大きく効率化されていくことが予想されます。

不動産取引の電子契約化の流れは?

不動産取引を電子契約化する際は、以下の手順に従っていただくとよいでしょう。またクラウドサインでは、不動産取引DXのサポート経験を持つコンサルタントが契約業務電子化のお手伝いもさせていただきますので、ご相談ください。

(1)契約書と重要事項説明書をPDFで準備する

まず、従来の紙の契約書と重要事項説明書を、電子ファイル(PDF)に変換します。重要事項説明書のテンプレートを探している方は、国土交通省が公開している「別添3・重要事項説明の様式例(PDF形式)」を参考にしてみるのがよいでしょう。

(2)IT重説を行う

IT重説、すなわち重要事項説明書の内容をオンラインで説明します。テレビ会議用やウェブ会議用のなどのITツールを使って重要事項の説明を行います。

IT重説を行う際には、

  1. 事前に相手方の承諾を得て、承諾の記録を残すこと
  2. 承諾後であっても書面に変更が可能であることも併せて説明すること
  3. 重要事項説明書に電子署名を施し、電子メール等で相手方に送付しておくこと
  4. 相手方が書面について改変されていないことが確認できる状態とすること

が必要です(関連記事:国土交通省『重要事項説明実施マニュアル』にみる不動産電子契約・IT重説のポイントと注意点)。

(3)契約書を電子交付する

電子契約の文案を契約当事者間で確認します。IT重説を行うときに電子契約を送付して、同時に内容を説明することも考えられます。

(4)契約書に電子署名をする

契約当事者が電子署名を行います。これが、従来の紙の契約書への押印にあたります。電子署名する方法を詳しく知りたい方は「電子署名する方法とは?3つの具体的なやり方とメリットや注意点を解説」も参考にしてみてください。

不動産取引の電子化を実現するなら電子契約サービスの利用検討を

不動産取引における業務プロセスを電子化することで、業務の効率化やコスト削減を期待できます。電子契約サービスは、契約書の作成から締結までの業務プロセスを効率的に進めることができる上、業務効率化の手段として一部の業務や部署のみでお試しでの導入がしやすいため、これからDXの推進を検討している方のはじめの一歩としてもおすすめです。

紙の契約書とは異なり、電子契約はクラウド上で管理・保存するため、契約書を紛失することがなくなり、情報漏洩のリスクも低減することができます。さらに、過去の契約にすばやくアクセスできるため、業務プロセス全体のスピードアップにもつながります。これらのメリットを享受するために、電子契約サービスの導入を検討してみてはいかがでしょうか。

なお、クラウドサインでは契約書の電子化を検討している方に向けた資料「電子契約の始め方完全ガイド」も用意しています。電子契約を社内導入するための手順やよくある質問をまとめていますので、電子契約サービスの導入を検討している方は以下のリンクからダウンロードしてご活用ください。

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この記事を書いたライター

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弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司

弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。

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