善管注意義務とは?取締役による違反例や違反防止対策などを弁護士が解説

株式会社の取締役は、会社に対して「善管注意義務」を負います。取締役の地位や職責に応じて必要な注意を払い、適切に職務を遂行しなければなりません。
善管注意義務に違反した取締役は、会社や株主などから責任を問われるおそれがあります。個々の取締役がコンプライアンス意識を高めることに加えて、企業としても組織的な対策を行い、善管注意義務違反のリスクを防止しましょう。
本記事では善管注意義務について、概要や取締役による違反例、企業がとるべき違反防止対策などを弁護士が解説します。
善管注意義務とは
「善管注意義務」とは、その地位や職責に応じて必要な注意を払い、適切に事務などを行う義務をいいます。「善管注意」とは「善良な管理者の注意(民法644条など)」を略したものです。
他人の所有物を管理している人や、他人から事務を委託された人などは、その管理や事務の遂行について善管注意義務を負います。
善管注意義務は、自分の財産を管理する際に払うべき義務よりも高度のものと解されています。相手方に不当な損害を与えることがないよう、十分な注意を払いながら事務などを行わなければなりません。
善管注意義務を負う人の具体例
善管注意義務を負うのは、たとえば次に挙げる人です。
②賃貸借契約の賃借人(借主)
③成年後見制度の後見人等
④株式会社の役員・会計監査人・執行役
委任契約・準委任契約の受任者
「委任契約」は法律行為の受委託、「準委任契約」は法律行為でない事務の受委託を内容とする契約です。
たとえば、弁護士と依頼者が締結する契約は委任契約、医療行為について医療機関と患者が締結する契約は準委任契約に当たります。エンジニアが客先常駐をする契約も、準委任契約に当たるケースが多いです。
委任契約・準委任契約の受任者は、委任者に対して善管注意義務を負います(民法644条)。受任者は契約の趣旨に従い、その職責にふさわしい注意を払って事務を行わなければなりません。
賃貸借契約の賃借人(借主)
「賃貸借契約」は、物を有償で貸し借りする契約です。たとえば、土地や建物を他人から借りて賃料を払う契約や、所有している土地や建物を他人に貸して賃料を受け取る契約が賃貸借契約に当たります。
賃貸借契約の借主は、その契約期間中、貸主が所有する目的物を使用します。貸主に返還するまでの間、借主は善良な管理者の注意をもって目的物を保存しなければなりません(民法400条)。
目的物の通常の使用に伴って生じる損耗(通常損耗)や、時間の経過に伴って生じる変化(経年変化)については、借主は責任を負いません。
これに対し、通常の範囲を超える使用や不注意によって目的物に損傷が生じたときは、借主は貸主に対して損害賠償責任を負います。
成年後見制度の後見人等
「成年後見制度」とは、判断能力が低下した本人のために、後見人等が契約などの法律行為をサポートする制度です。
家庭裁判所の審判によって開始される「後見」「保佐」「補助」と、契約に基づく「任意後見」があります(後見・保佐・補助については、補助に一本化する等の内容を含む改正民法が2026年6月に成立しており、2028年中までに施行されることが決まっています)。
成年後見制度において、本人をサポートする後見人等は、その事務について本人に対する善管注意義務を負います(民法869条、876条の5第2項、876条の10第1項、民法644条)。
後見人等は本人の意思を尊重し、かつその心身の状態や生活の状況に配慮しながら事務を行わなければなりません。
株式会社の役員・会計監査人・執行役
前述のとおり委任契約の受任者は、委任者に対して善管注意義務を負うところ、株式会社と次に挙げる者との関係は委任に関する規定に従うものとされています(会社法330条、402条3項)。
・会計参与
・監査役
・会計監査人
・執行役
したがって上記の者は、会社に対して善管注意義務を負います。それぞれその地位と職責に従い、善良な管理者の注意をもって職務を遂行しなければなりません。
特に取締役は、コンプライアンス違反による不祥事が発生した際に、善管注意義務違反の責任を問われる可能性が高いので注意が必要です。本記事ではこれ以降、株式会社の取締役が負う善管注意義務を中心に解説します。
株式会社の取締役の善管注意義務違反が問題となるケース
株式会社の取締役が善管注意義務違反の責任を問われるケースとしては、次の例が挙げられます。
②十分な情報収集や検討を行わずに、不適切な経営判断をした場合
③会社の利益を犠牲にして、自分や第三者の利益を図った場合
④経営管理上必要な安全対策を怠った場合
⑤ほかの取締役に対する監督義務を怠った場合
法令上禁止されている行為をした場合
取締役が自ら法令違反に当たる行為をした場合は、善管注意義務違反の責任を問われる可能性がきわめて高いです。たとえば、次のようなケースが挙げられます。
・粉飾決算をした
・インサイダー取引をした
・カルテルや入札談合に関与した
・景品表示法に違反する不当表示(優良誤認表示や有利誤認表示など)を指示した
など
取締役によるこれらの法令違反は、会社が行政処分や刑事罰を受ける原因となるほか、監督官庁による企業名の公表や報道によってレピュテーションへの悪影響も懸念されます。収益の減少などに繋がった場合は、取締役は会社に生じた損害を賠償しなければなりません。
十分な情報収集や検討を行わずに、不適切な経営判断をした場合
経営判断の適否は会社の業績に直結するため、取締役は状況に応じて必要な注意を払い、適切に経営判断をするよう努めなければなりません。
不確実な状況でリスクをとるべきケースもあるため、経営判断が会社の損失に繋がったからと言って、直ちに取締役が善管注意義務違反の責任を問われるとは限りません(=経営判断の原則)。
しかし、十分な情報収集や検討を怠ったまま不適切な経営判断をした場合は、取締役が会社に対して損害賠償責任を負うこともあり得ます。
会社の利益を犠牲にして、自分や第三者の利益を図った場合
取締役は会社の利益を追求すべき立場にあるため、会社の利益を犠牲にして自分や第三者の利益を図ることは許されません。
たとえば、取締役が通常よりも不利な条件で身内の会社に業務を発注したり、会社の承認を得ることなく協業取引を行って事業機会を奪ったりした場合は、善管注意義務違反の責任を問われるおそれがあります。
経営管理上必要な安全対策を怠った場合
会社が健全に事業を運営するためには、さまざまなリスクに対する安全対策を講ずることが欠かせません。
たとえば、サイバー攻撃や人為的ミスによる情報漏えいを防ぐためのセキュリティ対策、労災事故を防止するための安全設備の導入・点検、ハラスメントを防止するための措置などが挙げられます。
これらの安全対策の導入・運用は、会社のトップに立つ取締役が主導して行うことが求められます。適切な安全対策を講じなかったことが原因で事故や不祥事が発生したときは、会社や被害者に生じた損害につき、取締役が善管注意義務違反の責任を問われる可能性があります。
ほかの取締役に対する監督義務を怠った場合
取締役の職責には、ほかの取締役が適切に職務を執行しているかどうか監督することも含まれています。そのため、ほかの取締役の違法行為や著しく不適切な経営判断を見過ごし、指摘や是正対応を行わなかった場合は、善管注意義務違反の責任を問われる可能性があります。
取締役間のコミュニケーションが円滑に行われていないと、ほかの取締役がどのような職務を行っているのか分からず、監督義務違反が生じるリスクが高まってしまいます。
取締役会の場ではもちろん、日頃から職務の状況について、取締役間でこまめにやり取りすることを心がけましょう。
取締役が善管注意義務に違反するとどうなる?
取締役が善管注意義務に違反すると、主に次に挙げるリスクが生じます。
②会社のレピュテーションが損なわれる
③損害賠償を請求される
④刑事罰を科される
会社が行政処分を受ける
取締役の善管注意義務違反により、会社に適用される業法に違反することとなった場合は、監督官庁から行政処分を受けることがあります。
行政処分の例としては、措置命令や業務停止命令、課徴金納付命令などが挙げられます。これらの行政処分は、会社の業績に大きな悪影響を及ぼす可能性が高いので要注意です。
会社のレピュテーションが損なわれる
取締役の善管注意義務違反に起因して生じた不祥事が、報道やSNSなどを通じて社会に拡散されると、会社のレピュテーション(評判)が大きく損なわれてしまいます。
顧客離れや取引の打ち切り、人材採用への悪影響、株価の下落などに繋がるケースが少なくありません。一度失った社会的信頼を取り戻すのは難しく、大変な努力が求められます。
損害賠償を請求される
行政処分やレピュテーションの毀損によって会社に生じた損害は、善管注意義務違反を犯した取締役が賠償する責任を負います(会社法423条1項)。
会社の規模が大きいほど、善管注意義務違反による損害賠償責任は多額となる傾向にあります。状況によっては、数億円以上の損害賠償を請求されることもあるので注意が必要です。
また、善管注意義務違反について取締役の悪意または重大な過失が認められる場合は、会社以外の第三者に生じた損害も賠償しなければなりません(会社法429条1項)。具体的には、取引先・債権者・株主などから損害賠償を請求される可能性があります。
刑事罰を科される
取締役が自己もしくは第三者の利益を図り、または会社に損害を加える目的で任務に背く行為をし、会社に財産上の損害を加えたときは「特別背任罪」によって処罰されます(会社法960条1項)。
また、会社の資金を横領した場合は「業務上横領罪」によって処罰されるほか(刑法253条)、各種業法の罰則規定に抵触した場合も処罰の対象となります。
違反行為が悪質である場合や、被害金額が多額に及ぶ場合は、前科がなくても実刑判決を受ける可能性があるので十分注意してください。
取締役が善管注意義務に違反しないための対策は?
取締役が善管注意義務に違反しないようにするためには、取締役個人がコンプライアンス意識を高めることに加えて、企業としての組織的な対策も求められます。具体的には、次に挙げる対策などを行いましょう。
②契約書などの重要書類の管理体制の整備(電子契約による締結・保管)
意思決定プロセスの整備(稟議・議事録の作成等)
取締役が適切な経営判断を行うためには、意思決定のプロセスを社内ルールとして整備することが大切です。
特に重要な案件については、稟議書を回して情報やリスクを整理し、最終的には取締役会において十分な審議を行ったうえで決定するといった慎重なプロセスが求められます。取締役会における議事については、内容や賛否、反対意見などを議事録に残し、後から検証できるようにしておきましょう。
契約書などの重要書類の管理体制の整備(電子契約による締結・保管)
契約書など、取引に関して作成した重要な書類は、後からスムーズに参照できるように管理することが重要です。過去の取引との整合性などを検証できるようにしておけば、これから行う取引についての不適切な判断を避けやすくなります。
また、前述の経営判断の原則との関係でも、契約書の管理体制は重要な意味を持ちます。ある経営判断が後から問題視された際、取締役が十分な情報収集や検討を行ったうえで契約を締結したことを示せるかどうかは、善管注意義務違反の有無が判断される際の重要な考慮要素となり得るためです。
電子契約サービスを利用すれば、契約の締結日時や締結に至るプロセスがシステム上に記録されます。稟議書や議事録と同様に、後から意思決定の経緯を検証できる材料として活用しやすくなる点は、電子契約ならではのメリットといえるでしょう。
まとめ
取締役は会社に対して善管注意義務を負い、その地位と職責にふさわしい注意を払って職務を遂行することが求められます。
取締役が善管注意義務に違反すると、会社に対する行政処分やレピュテーションの毀損に加えて、取締役自身が多額の損害賠償を請求されたり、刑事罰を受けたりするおそれがあるので要注意です。
取締役の善管注意義務違反を防ぐには、会社として組織的なコンプライアンス強化に取り組む必要があります。意思決定プロセスの整備や、電子契約サービスを活用した重要書類の管理体制の整備などを検討してください。
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ダウンロードする(無料)この記事を書いたライター
阿部 由羅
弁護士
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
