競業避止義務とは?違反例や問題点などを弁護士が解説

「競業避止義務」とは、相手方と競合する事業を自ら行い、または競合事業を行う企業などに就職してはならない義務です。ノウハウや顧客情報などの保護を目的として、法令や契約に基づいて課される場合があります。
特に退職する労働者(従業員)に対して競業避止義務を課す例がよく見られますが、過度に広範な競業避止義務は無効となることがあるので注意を要します。法律上の取扱いを念頭に置きつつ、競業避止義務を課すことの是非やその範囲を慎重に検討しましょう。
本記事では競業避止義務について、概要・違反例・退職する従業員に課すことの問題点などを弁護士が解説します。
目次
競業避止義務とは
「競業避止義務」とは、自らが所属する会社や契約の相手方などと競合する事業を営んだり、競合他社に就職したりしてはならない義務をいいます。
競業避止義務を課す目的は、企業が有する顧客情報・技術情報・ノウハウなどの営業秘密の流出や不正利用を防ぐことです。
これらの情報等を業務上開示した相手が、自社と競合する事業活動を自由に行うことができるとすれば、その情報等が流用されて不測の損害を被るおそれがあります。そのため、法令や契約に基づいて競業避止義務を課すことにより、営業秘密の保護を図ります。
競業避止義務違反に当たる行為の具体例
競業避止義務違反に当たる行為としては、主に次の例が挙げられます。
②競合他社への就職
競合する事業の起業・運営
相手方と競合する事業を自ら起業して運営することは、競業避止義務違反に当たる行為の典型例です。
たとえばソフトウェア開発会社の取締役が、在任中に自ら別のソフトウェア開発会社を設立して運営することは競業避止義務違反に当たります。
競合他社への就職
相手方の競合他社に就職することも、競業避止義務違反に該当します。
たとえば、コンテンツ制作に関する業務委託契約に基づいて競業避止義務を負う者が、相手方と同種のコンテンツを制作する会社に雇い入れられた場合は、競業避止義務違反に当たる可能性が高いです。
ただし後述するように、退職後の労働者に対して競業避止義務を課す場合は、職業選択の自由による制約についての検討を要します。
競業避止義務を負う者の具体例
競業避止義務を負うのは、たとえば次に挙げる者です。
②株式会社の取締役・執行役、持分会社の業務執行社員
③在職中の労働者(従業員)
④取引先に対して契約上の競業避止義務を負う者
事業譲渡をした会社
事業を譲渡した会社は、当事者の別段の意思表示がない限り、同一の市区町村(政令指定都市の場合は区・総合区。以下同じ)の区域内およびこれに隣接する市区町村の区域内においては、譲渡日から20年間は同一の事業を行ってはなりません(会社法21条1項)。
当事者間に特約がある場合は、事業譲渡に伴う競業避止義務の期間を最長30年まで延長することができます(同条2項)。
また、事業を譲渡した会社が不正の競争の目的をもって同一の事業を行うことは、区域や時期を問わず禁止されています(同条3項)。
株式会社の取締役・執行役、持分会社の業務執行社員
株式会社の取締役が、自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするときは、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)において、その取引について重要な事実を開示して承認を受けなければなりません(会社法356条1号、365条1項)。
取締役による競業取引が一律に禁止されるわけではないものの、その適否を株主総会または取締役会が判断することになっています。
なお取締役会設置会社においては、取締役が競業取引を行った後、遅滞なくその取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社法365条2項)。
指名委員会等設置会社の業務を執行する執行役も、取締役と同様に競業が制限されています。
執行役が自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をしようとするときは、取締役会において、その取引について重要な事実を開示して承認を受けなければなりません。また、競業取引を行った後、遅滞なくその取引についての重要な事実を取締役会に報告しなければなりません(会社法419条2項)。
持分会社(=合名会社・合資会社・合同会社)の業務を執行する社員についても、競業が制限されています。業務執行社員は、ほかの社員全員の承認を受けなければ、自己または第三者のために会社の事業の部類に属する取引をすることや、競合他社の取締役・執行役・業務執行社員となることができません(会社法594条1項)。
在職中の労働者(従業員)
会社に在職中の労働者(従業員)は、労働契約に付随する誠実義務の一環として競業避止義務を負うと解されています。たとえば、在籍している会社と同種の事業を自ら立ち上げて運営することや、副業として競合他社に雇い入れられることは競業避止義務違反に当たります。
なお、労働者が退職後に会社と競合する事業や取引を行うことを想定して、在職中にその準備をするケースはよく見られます。
準備行為が直ちに競業避止義務違反に当たるとは限りませんが、ほかの従業員の引き抜きを試みるなど、会社の利益を不当に害する行為をした場合は競業避止義務違反の責任を問われる可能性があります。
取引先に対して契約上の競業避止義務を負う者
取引先と締結している契約において競業を制限する規定が設けられている場合は、原則としてその内容に従って競業避止義務を負います。たとえば業務委託契約、業務提携契約、販売代理店契約、フランチャイズ契約などには、競業制限規定が設けられている例がよく見られます。
ただし、競業制限の内容があまりにも厳しい場合は、公序良俗違反によって無効となる可能性があります(民法90条)。競業制限規定の有効性は、対象となる事業・取引の範囲、制限される期間や区域などを総合的に考慮して判断されます。
退職後の労働者に競業避止義務を課すことの問題点
営業秘密の流出や不正利用を防止する観点から、企業が退職後の労働者に競業避止義務を課す例がよく見られます。ただし職業選択の事由との関係上、退職後の労働者の競業避止義務が認められる範囲は狭く限定される点に注意が必要です。
職業選択の自由との関係上、競業避止義務の範囲は限定される
日本国憲法22条1項では「職業選択の自由」が定められており、職業活動は公共の福祉に反しない限り自由に行うことができるのが原則です。
退職後の労働者に対して競業避止義務を課すことは、職業選択の自由を制限することを意味します。
民間企業と労働者の間の契約には、憲法上の規定は原則として直接適用されないものの、公序良俗(民法90条)などの一般条項の解釈・適用に当たって憲法の趣旨を反映させるべきであると解されています(=間接適用説)。したがって、職業選択の自由を過度に制限する競業避止義務は、公序良俗に反し無効であると考えられます。
退職後の労働者の競業避止義務が有効かどうかの判断要素
退職後の労働者に課された競業避止義務が有効であるか否かは、主に次の要素を考慮して判断されます。
営業秘密やこれに準ずる情報・ノウハウを保護するなど、企業の利益を守る目的が必要です。次の(b)~(f)の要素は、その目的に照らして義務の内容が合理的な範囲にとどまっているかという観点から検討されます。
(b)従業員の地位
企業側の守るべき利益と密接に関わる重要な業務に携わっていた従業員については、一定の競業避止義務を課すことが認められやすい傾向にあります。
これに対して、末端の従業員などに対して課す競業避止義務は無効と判断される可能性が高いです。
(c)地域的限定
対象地域が広範であるほど、職業選択の自由に対する制限が強度であるため、競業避止義務が無効と判断される可能性が高まります。
(d)期間
対象期間が長いほど、職業選択の自由に対する制限が強度であるため、競業避止義務が無効と判断される可能性が高まります。特に競業避止義務の期間が1年を超えると、無効となるリスクが高いと考えられます。
(e)禁止行為の範囲
競合他社への転職を一般的・抽象的に禁止するなど、禁止行為の範囲が広範である場合は、競業避止義務が無効と判断される可能性が高いと考えられます。
これに対して、業務内容や職種などを合理的に限定していれば、競業避止義務が有効と認められやすくなります。
(f)代償措置
退職金の上乗せや、競業制限期間に応じた補償金の支給などの合理的な代償措置が講じられていれば、競業避止義務が有効と判断される可能性が高まります。
競業避止義務を理由に、労働者の副業を制限することの問題点
前述のとおり、会社に在職している労働者は、労働契約に付随する誠実義務の一環として競業避止義務を負うと解されます。
そのため、会社の事業と競合する内容の副業を制限すること自体は問題ありません。たとえば、次に挙げるような副業を制限することは有効と考えられます。
・競合他社の役員に就任する
・競合他社に従業員として雇用される
ただし、従業員が行おうとしている副業が会社の事業と競合するかどうかは、その具体的な内容を検討したうえで判断する必要があります。会社の事業との関連性が薄いにもかかわらず副業を制限すると、過度な制限として公序良俗違反に当たると判断され得るので要注意です。
厚生労働省が公表している「モデル就業規則」でも、勤務時間外であれば原則として副業を認める旨が明記されています(70条)。副業を柔軟に認めることは、労働者の職場に対する満足度の向上に繋がるので、制限するとしても最小限の範囲内にとどめましょう。
競業避止義務を実効性あるものにするための書面化のポイント
企業が退職する労働者に対して競業避止義務を課す際には、公序良俗違反による無効を避けられるように、前述の考慮要素を踏まえて義務の内容を慎重に検討しなければなりません。
そのうえで、競業避止義務の内容を明記した誓約書などを労働者に提出させましょう。
競業避止義務に関する誓約書の内容については、特に次の事項などを検討してください。
| 検討すべき事項 | 誓約書へ記載する際の注意点 |
| 企業側の守るべき利益 | ・競業避止義務を課す目的を明記する
(例)「営業秘密ならびにこれに準ずる情報およびノウハウの流出を防ぐため……」 |
| 従業員の地位 | ・すべての退職者に競業避止義務を課すのではなく、重要な職務に就いていた者に限定する
・競業避止義務の内容は、在職中の職務内容や地位に応じて決定する |
| 地域的限定 | ・競業避止義務の対象となる区域を明記する
(例)「当社の本店所在地の市区町村及びその隣接する市区町村において……」 ・過度に広範な区域を設定することは避ける |
| 期間 | ・競業避止義務の対象となる期間を明記する
(例)「退職後1年間は……」 ・長すぎる期間を設定することは避ける(特に1年を超える場合は要注意) |
| 禁止行為の範囲 | ・競業避止義務によって禁止される行為を具体的に明記する
(例)「……次に掲げる行為をしてはならない。 ①会社と競合する事業を自ら営み、または第三者をして営ませること ②会社と競合する事業を営む事業者に雇い入れられ、またはかかる事業者から業務を受託すること ③会社の役員もしくは従業員、または会社の顧客に対し、会社との契約関係または潜在的な取引関係を終了させるための働きかけをすること ・過度に広範な禁止行為を定めることは避ける |
| 代償措置 | ・代償措置を講じる場合は、その内容を明記する
(例)「本書に基づく競業避止義務の代償措置として、会社から補償金○○円を受け取ったことを確認する。」 |
電子契約による誓約書・合意書の締結・管理
退職する労働者との間で競業避止義務に関する誓約書を締結する際には、電子契約サービスを活用することも効果的です。
競業避止義務の有効性が実際に争われるのは、多くの場合、誓約書を締結してから一定期間が経過した後、退職者が競業行為に及んだ時点です。そのため、誓約書がいつ、誰によって、どのような内容で締結されたのかを、後になってから正確に示せることが重要になります。
電子契約サービスを利用すれば、電子署名によって本人が誓約書の内容に同意したことを、タイムスタンプによって締結日時とその後内容が改ざんされていないことを、それぞれ証明できます。

クラウド型電子契約サービスを用いた電子契約のイメージ図
紙の誓約書を保管する場合と比べて、締結から長期間が経過した後でも締結の事実や内容を確認しやすい点は、競業避止義務の実効性を確保するうえで役立つでしょう。
また、退職者が多い企業では、誓約書の締結・管理を電子契約サービス上で一元的に行うことで、締結漏れを防ぎやすくなるほか、必要な時に該当者の誓約書をスムーズに検索・参照できる点も実務上のメリットといえます。
なお、当社の提供する電子契約サービス「クラウドサイン」の詳しい機能や導入メリット、料金体系がわかるサービス紹介資料は、以下のフォームより無料でダウンロードいただけます。電子契約による業務効率化を進めたい方は、ぜひお気軽にダウンロードしてご活用ください。
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まとめ
競業避止義務は営業秘密などの流出を防ぐために重要である一方、過度に厳しい競業避止義務を課すと無効になるおそれがあります。
特に退職後の労働者に対して競業避止義務を課す場合は、職業選択の自由との関係に十分注意しなければなりません。在職中の職務内容や地位を踏まえつつ、地域・期間・禁止行為の範囲を合理的に限定するなどして、競業避止義務が無効と判断されるリスクを防ぎましょう。
この記事を書いたライター
阿部 由羅
弁護士
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。