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サルベージ条項規制とは?利用規約の免責条項を無効化する令和4年改正消費者契約法への対応

サルベージ条項規制とは?利用規約の免責条項・無効化する令和4年改正消費者契約法への対応

この記事では、令和4年改正消費者契約法によって規制される、利用規約の「サルベージ条項」について解説します。「法律上許される限り、当社は損害賠償責任を負わないものとする」…このような文言が改正法によって無効化されることが決まりましたが、今後どのような規定に変更すればよいのでしょうか。

1. 利用規約におけるサルベージ条項とその規制

1.1 サルベージ条項とは

サルベージ条項とは、利用規約や契約書の条文中に免責の範囲が不明確な(免責範囲が最大限広く解釈可能と読める)条項をあえて置くことで、消費者からの責任追求を回避する根拠とし、事業者らが本来負うべき責任を限定および最小化しようとする条項のことをいいます。

沈没した船を引き上げる「サルベージ船」などでも使われる英語の“salvage”「救い出す/回収する/復旧させる」にちなんで名付けられた、責任限定条項の通称です。

具体的な条項文例としては

「法律上許される限り、当社は損害賠償責任を負わないものとする」

といったものが挙げられます。

1.2 完全免責条項を無効化する消費者契約法対策としてのサルベージ条項

Webサービス・アプリサービスを利用するにあたり、必ず同意を求められるのが「利用規約」です。従来、そうした多くの利用規約において、サービス提供企業の責任を軽減、もしくはゼロにするための免責条項が定められてきました。

「ユーザーに損害が発生しても、当社は一切の責任を負わない」

と定めている条項は、いまだによく見かけるのではないでしょうか。

これに対し、企業から「何があっても事業者は責任を負わない」という契約を事実上強制されがちな個人ユーザーを守るため、消費者契約法に「事業者の故意・重過失による責任までをも一切免責とする規定は無効」というルールが定められ、これが一定の消費者保護を実現してきました(関連記事:モバゲー規約差止め判決—「一切責任を負わない」型完全免責条項の終焉)。

しかし、企業の現状は、ユーザーが注意深く利用規約を読まない・読んでも理解できないのをいいことに、できる限り契約上の免責範囲を拡大しリスクを回避しようという「知恵」を絞ります。そんな中で企業が編み出したのが、上述したサルベージ条項というわけです。

海難救助等で活躍するサルベージ船

2. 令和4年改正消費者契約法が利用規約に与える影響

2.1 不当条項規制が強化され、サルベージ条項すらも無効に

このようなサルベージ条項を利用規約に入れて消費者に対し免責を主張する方法は、企業の事業リスク最小化のための常套手段となっている側面があります。

しかし、令和4年改正消費者契約法により、消費者契約法8条3項が新設され、免責範囲が不明確なサルベージ条項が無効化されることとなりました。

改正消費者契約法第8条(1および2項省略)
3 事業者の債務不履行(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)又は消費者契約における事業者の債務の履行に際してされた当該事業者の不法行為(当該事業者、その代表者又はその使用する者の故意又は重大な過失によるものを除く。)により消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する消費者契約の条項であって、当該条項において事業者、その代表者又はその使用する者の重大な過失を除く過失による行為にのみ適用されることを明らかにしていないものは、無効とする。

特に注意したいのは、利用規約の中の責任限定条項がサルベージ条項と見なされると、その免責規定が丸ごと無効化され、本来であれば事業者に認められたはずの「軽過失による損害賠償責任の免責」の効果も得られなくなってしまう、という点にあります。

そのため、今回の消費者契約法の改正によるサルベージ条項規制の新設は、特にWebサービス・アプリサービスのような、個人を対象とするインターネット上の利用規約のあり方に大きな影響を及ぼします。

2.2 こんな利用規約の免責条項が無効化される

具体的には、以下のような利用規約の条文は、無効化される可能性が高いものと考えられます。

  • 「法律上許される限り、当社は損害賠償責任を負わない/免除される」
  • 「法律上許容される場合において、当社の損害賠償額は最大〇万円とする」
  • 「当社の責めに帰すべき事由により会員に損害が生じた場合、当社は◯万円を上限として賠償する。」
  • 「当社は、本サービスに関してユーザーが被った損害につき、当該ユーザーが当社に支払った対価の累計額を超えて賠償する責任を負わない」
  • 「当社は、ユーザーに発生した付随的損害、間接損害、特別損害、将来の損害および逸失利益にかかる損害について、賠償する責任を負わない」

現状の日本のWebサービス・アプリサービスの利用規約を見渡してみると、こうした責任限定文言が記載された利用規約は、決して少なくないことに気付かされます。

消費者庁「消費者契約法・消費者裁判手続特例法の改正(概要)」より

3. 改正消費者契約法の施行に備えて行うべき対応

3.1 免責条項の改定

利用規約等にサルベージ条項を定めている企業は、本改正法が施行される令和5年(2023年)6月1日までに、免責条項を修正する必要があります。

自社の責任限定条項がサルベージ条項に該当するか、該当するとしてどのような文言に修正するかなど、検討にあたっては専門の弁護士等への確認が必須ですが、基本に忠実な条文例としては、

「本サービスの提供にあたり当社が負担する損害賠償額は10万円を限度とします。ただし、当社の故意又は重過失による場合を除きます。」

のように、明確な記載が求められることになるでしょう。

なお、今回の改正経緯にも関係する消費者庁「消費者契約に関する検討会報告書」(令和3年9月)P19頁には、

仮に軽過失の場合に事業者の責任を一部に限定するのであれば、「当社の損害賠償責任は、当社に故意又は重大な過失がある場合を除き、顧客から受領した本サービスの手数料の総額を上限とする」等、具体的に8条1項各号の内容に沿った免責範囲を規定する契約条項とすることが期待される

との記載があり、参考になります。

3.2 改定・変更に関するユーザーの同意取得

加えて、現時点ではあまり論点として注目されていませんが、現行の利用規約にサルベージ条項を置いている企業が、その利用規約を改正法上適法なものに変更するにあたり、ユーザーの同意を得ることが必須かどうかは、大きな問題となります。

2020年に施行された改正民法548条の4では、定型約款を変更するにあたり、

  1. 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき(民法第548条の4第1項第1号)
  2. 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき(同第2号)

には、個別に相手方と合意することなく、変更について合意があったものとみなすことができると定められています。

しかし、事業者が改正法に対応せずに放っておけば免責条項が無効になるところ、利用規約を変更することにより一部免責が可能になると考えると、ユーザー目線ではこの変更が不利益変更(民法548条1項1号)にあたり、個別の同意を取り直す必要があるとの解釈も成り立ち得るからです。

事業者の反論としては、法改正は予測できず、サルベージ条項がなければリスク見合いで価格等他の条件を変更すべきところ、それをしないのだから合理的(同2号)との主張する余地もありそうです。

しかし、民法548条の4の定めによるみなし同意が確実に得られる保証がない以上、改定・変更に関するユーザーの同意取得は事実上必須となるでしょう。

3.3 施行日までのタイムリミットに同意を取り切れるか?同意を取れなかったユーザーを区分して把握できるか?

施行日である2023年6月1日までのタイムリミットは、あと数ヶ月。

改正法の施行日以降にサルベージ条項を改定すると、「無効な免責条項を、有効な免責条項に変更した」、つまり民法548条1項1号の要件を満たさない不利益変更との評価を受けやすくなる恐れがさらに高まるでしょう(同様の見解として、杉浦健二弁護士のツイート)。

すべてのユーザーが対象となると、タイムリミットまでにサービスにアクセスしない休眠ユーザーも存在するため、利用規約の変更同意を取り切ることは現実には困難です。そうなると、多数の既存規約同意ユーザーのうち、

  • 期限までに変更同意を取得したユーザー
  • 期限までに変更に同意しなかったユーザー

を間違いなく区分して管理できるかが、大きな課題となります。

こうした課題に対応できるよう、利用規約のユーザー同意情報管理を確実にできる基盤作りをしておくことが重要になっていくはずです。

→【規約・同意情報管理サービス「termhub(タームハブ)」ご紹介ページ

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この記事を書いたライター

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弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部リーガルデザインチーム 橋詰卓司

弁護士ドットコムクラウドサイン事業本部マーケティング部および政策企画室所属。電気通信業、人材サービス業、Webサービス業ベンチャー、スマホエンターテインメントサービス業など上場・非上場問わず大小様々な企業で法務を担当。主要な著書として、『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A』(日本加除出版、2021)、『良いウェブサービスを支える 「利用規約」の作り方』(技術評論社、2019年)などがある。

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