モバゲー規約差止め判決—「一切責任を負わない」型完全免責条項の終焉

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ソーシャルゲームプラットフォーム「mobage(モバゲー)」の利用規約に定められた、「当社は一切損害を賠償しません」の免責文言。これを消費者契約法違反であるとして、さいたま地方裁判所および東京高等裁判所が差止め命令を下した判決が確定しました。

控訴審判決確定で利用規約の「一切責任を負わない」完全免責条項が禁句に

ウェブサービスではもはや見慣れてしまった感もある、「一切責任を負わない」旨の利用規約 の定め。著名なサービスの利用規約に定められていたこの 完全免責条項を消費者契約法違反とはっきり認めた事件について、控訴審判決が確定 しました。

本訴訟は埼玉の適格消費者団体「埼玉消費者被害をなくす会」が提起したものであったため、消費者契約法39条1項の定めに基づき、この結果が消費者庁ニュースリリースによって周知されています。

埼玉消費者被害をなくす会と株式会社ディー・エヌ・エーとの間の訴訟に関する控訴審判決の確定について

東京高等裁判所は、令和2年11月5日、原判決の「事実及び理由」欄の「第3当裁判所の判断」を一部改めて引用の上、以下のイのとおり判断を付加して、控訴人の控訴を棄却する判決を下した。なお、控訴人は、上告期間内に上告及び上告受理申立てを行わなかったため、控訴審判決が確定した

同団体のウェブサイトでは、提出した訴状、訴訟の過程、判決文がそれぞれ公開されています。

http://saitama-higainakusukai.or.jp/topics/180709_01.html 適格消費者団体 埼玉消費者被害をなくす会 2021年1月8日最終アクセス

複雑な条文構造の「隙」を見逃さなかったクレバーな原告

さいたま地裁で争われた第一審で、同団体は、モバゲー会員規約の4つの条文(第4条・第7条・第10条・第12条)が、消費者契約法8条1項1号・3号に抵触すると主張。4条および10条についてはDeNA自ら訴訟中に変更・削除し、残る主な争点についても同団体の主張がほぼ認められたかたちとなりました。

「埼玉消費者被害をなくす会」が公開したさいたま地裁第一審判決文

この訴訟に至るまで、本利用規約を作成したDeNAが消費者契約法を意識していなかったはずはありません。その証拠に、原告に問題視された 第12条4項とそれに続く5項を見ると、消費者契約法を意識していた ことが伝わってきます。

しかし 原告は12条4項に存在する法的な「隙」を見逃しませんでした。そして訴状において、以下のように鋭く指摘・主張しました。

(4)本件利用規約12条4項
同項「本規約において当社の責任について規定していない場合」は、「当社の責めに帰すべき事由によりモバゲー会員に損害が生じた場合、当社は 1万円を上限として賠償します。」旨が規定されている。
同項は、善解すれば、被告に軽過失がある場合において生じた損害については1万円を上限として賠償する旨の規定と読める。
しかしながら、同項は、「本規約において当社の責任について規定していない場合」との条件を付しており、そうすると、本件利用規約内で責任を規定している条項、すなわち「一切責任を負わない」と規定している上記条項(同4条3項、7条3項、10条1項)1万円の賠償対象とならないと解釈できる。
したがって、同項はその前段部分「本規約において当社の責任について規定していない場合」について、消費者契約法8条1項1号、3号に抵触する。

なお、この複雑な条文構造によって生まれた「隙」の詳細については、STORIA法律事務所 杉浦健二先生が「モバゲー利用規約に対して差止訴訟。もはや消費者契約法に違反する利用規約を定める時代ではない」と題する記事で詳しく解説してくださっています。

東京高裁では契約文言の平易化配慮義務が強調される結果に

DeNA側の控訴により舞台を東京高等裁判所に移した第2審においても、結果が翻ることはなく、DeNAが敗訴しました。

「埼玉消費者被害をなくす会」が公開した東京高裁判決文

この高裁判決で注目すべきは、消費者契約法3条1項1号「消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものになるよう配慮すること」に定められた、契約文言の平易化配慮義務に関する言及 です。

事業者と消費者との間に、その情報量、交渉力等において格段の差がある中、事業者がした客観的には誤っている判断が、とりわけ契約の履行等の場面においてきちんと是正されるのが通常であるとは考え難い。控訴人の主張は、最終的に訴訟において争われる場面には妥当するとしても、消費者契約法の不当条項の解釈としては失当である。(中略)事業者は、消費者契約の条項を定めるに当たっては、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容が、その解釈について疑義が生じない明確なもので、かつ、消費者にとって平易なものとなるよう配慮すべき努力義務を負っているのであって(法3条1項1号)、事業者を救済する(不当条項性を否定する)との方向で、消費者契約の条項に文言を補い限定解釈するということは、同項の趣旨に照らし、極力控えるのが相当である。

DeNAは、「一切損害を賠償しません」と書いたのは法律上損害賠償責任を負わないと判断されるケースを前提に確認的に規定したものにすぎない、という弁明をしましたが、裁判所はこれを一顧だにせず、事業者が合理的だと一方的に主張し合理性のない不法行為・債務不履行をなしうる点が問題だと断じたうえで、このように述べています。

この契約文言の平易化配慮義務については、第一審でも言及があった点ですが、控訴審判決ではより具体的に事業者を諭すような内容となりました。

利用規約を定める企業がそれでも全部免責条項を残そうとする理由

DeNA社は、2016年12月の裁判外の申入れから訴訟を提起される2018年7月まで、1年半以上の交渉期間で和解せず、さらに訴訟においても裁判上の和解の道を選ばず、控訴審判決まで戦い抜いています。

DeNAほどの会社が消費者契約法上無効とされるリスクを承知で「一切免責」の文言を何とか残したかったのは、規約に違反し・第三者に迷惑をかけ・運営に過度な要求をしてくるモンスターユーザーに対し、会社として唯一実効性のある対抗手段・ペナルティ策が「そのユーザーのアカウントを停止する」手段しかない という、フリーミアムベースの個人向けWebサービスならではの事情もあります。

フリーミアムベースの個人向けWebサービスでは、アカウント停止がほぼ唯一のペナルティ

同社が訴訟の最後まで「一切の責任を負わない」文言を残すことにこだわったmobage会員規約7条を見ると、ユーザーの会員資格を取り消す措置について述べた条文になっています。これは、アカウントが使えなくなったユーザーからのクレーム対応において、「これまで利用していたアカウントの財産的価値を補償せよ」と要求してくるユーザーをいさめる際、しばしば活躍する規約条項でもあるのです。

形のないサービスをしかもフリーミアムベースで提供するWebサービスの運営者として、規約に基づくユーザーアカウントの生殺与奪権だけは守り抜きたい と考えたからこそ、判決まで戦ったのだと思われます。

完全免責条項の本格的終焉

近年、「一切責任を負わない」型完全免責条項が話題になった事例に、コインチェック事件があります。この事件と利用規約変更の顛末は本メディアでも追いかけていましたが、訴訟前に最終的に「一切の」の文言を削除して同法に対応しました(関連記事:コインチェック利用規約の改訂と利用規約における全部免責条項の未来)。

こうした時代の要請を反映し、私も共著者として参加する『【改訂新版】良いウェブサービスを支える「利用規約」の作り方』(技術評論社, 2019年)に収録したひな形でも、「一切責任を負わない」型完全免責条項をすべて削除する変更を講じた経緯があります。

DeNA社がこの条文を大切に維持してきたように、ユーザー対応を容易にするツールとしての利用規約の重要性は看過できません。しかしながら、本判決が確定したことにより、従来のレピュテーションリスクの側面に加えて法的リスクの側面からも、「一切責任を負わない」型完全免責条項を削除する方向での見直しが求められていく ことになるでしょう。

画像:mobage AppStore掲載画像, Macrovector / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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