「労働条件通知書 兼 雇用契約書」を電子契約化する方法【Word版ひな形ダウンロード付】

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雇用契約書・労働条件通知書を電子契約化するメリットと、その際の注意点を解説します。雇用契約と労働契約との違い、労働条件通知書の交付義務を踏まえて電子化のポイントを抑えます。Word版ひな形もご提供します。

1. 雇用契約と労働契約の違い

企業とそこで働く従業員が労働条件に関して合意し締結する契約を、「雇用契約」と呼んだり、「労働契約」と呼んだりします。

Googleでキーワード検索すると、2019年5月現在では

雇用契約 107,000,000 件
労働契約  77,900,000 件

と「雇用契約」のほうが検索ボリュームが大きく、実際企業が作成する契約書のタイトルにおいても、「雇用契約書」と題されている事例を多く見かけます。

この二つの語は、法律上どう定義され、どのような違いがあるのでしょうか?

1.1 「雇用契約」は民法で定義

まず雇用契約については、民法第623条にその定めがあります。

第六百二十三条 雇用は、当事者の一方が相手方に対して労働に従事することを約し、相手方がこれに対してその報酬を与えることを約することによって、その効力を生ずる。

労働に従事した分相手に報酬を与える契約が、雇用契約である、とあります。淡々とした条文ですが、雇用主と労働者が対等である関係を前提としている点や、「報酬」を金銭と限定していない点が特徴的です。

1.2 「労働契約」は労働契約法で定義

一方、労働契約については、労働契約法第6条に以下のように定められています。

第六条 労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する。

「労働者/使用者」、「賃金」という語句にもあらわれているように、事業者が個人を金銭を対価として労働に従事させる 前提の条文です。

このように、雇用契約と労働契約の細かな定義の違いはあれど、労働契約イコール雇用契約と考えて差し支えないというのが、法律上の取扱いとなっています(森戸英幸『プレップ労働法[第6版]』(弘文堂,2019)P14)。

1.3 労働法が民法に足りない「労働者保護」要素をカバー

ところが、民法の条文を見ていくと 雇用する者と労働に従事する者が完全に対等な立場にあるという前提から、労働者に不利な条文が存在 しています。

たとえば、民法627条には、

第六百二十七条 当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

とあり、契約期間を定めず無期雇用している企業は、2週間前に予告すれば、ペナルティなく労働者との契約を解除できることになっています。これでは、労働者が急に解雇され、急に次の職場を探したり引っ越しも必要となるなど、安定的な生活を営むことはできません。

そこで、明治29年に定められた一般法としての民法の原則を労働者の立場からカバーすべく、昭和29年に労働基準法が、平成19年に労働契約法がそれぞれ特別法として施行され、民法に定められた原則を2つの労働法が上書きし、労働者をより手厚く保護 しています。

とはいえ、一般法としての民法の原則は、労働基準法や労働契約法によって上書きされた特別な条件を除いて現在も生きています。そのため、通称としては「雇用契約」や「雇用契約書」という呼び方が現在でも使われている、というわけです。

2. 雇用契約書と労働条件通知書の違い

企業が労働者と雇用契約を締結する際、「雇用契約書」と「労働条件通知書」の2通を受け取ることがあります。これはなぜでしょうか。

 方法  関連法令 罰則の有無
労働条件通知書 書面・電子メール等で交付義務あり 労働基準法第15条1項他 罰則あり
雇用契約書 書面・電子メール等での締結義務なし 民法第623条 罰則なし

2.1 雇用契約書の締結は法的には必須ではない

雇用契約を締結する際には、民法の「契約の形式自由の原則」により、必ずしも企業(使用者)と労働者の双方が文書としての契約書を締結する必要はありません

なお念のため、民法の特別法としての労働契約法第4条には、

第四条 使用者は、労働者に提示する労働条件及び労働契約の内容について、労働者の理解を深めるようにするものとする。
2 労働者及び使用者は、労働契約の内容(期間の定めのある労働契約に関する事項を含む。)について、できる限り書面により確認するものとする。

とあり、契約内容の「確認」を「できる限り書面」で行うことが推奨されていますが、それでもなお法的にはマストではありません。

2.2 労働条件通知書は書面・電子メール等による交付が必須

一方、労働基準法第15条1項および同施行規則第5条には、企業(使用者)は、労働条件のうち一定の事項について書面または電子メール等で明示する義務があります。この義務には、違反した際の罰則もあります(労働基準法第120条1項)。

この定めにより企業が労働者に対し労働条件を通知する書面を、一般に「労働条件通知書」といいます。

民法上雇用契約書の形式は自由であるが、労働条件通知については決まった形式で書面・電子メール等で交付が必要。こうした背景から、雇用契約書と労働条件通知書が2通に分かれていることが多くなっています。

2.3 労働条件通知書の交付義務とは

労働条件通知書の書面・電子メール等交付義務について、もう少し詳しく見て見ましょう。労働基準法第15条1項の条文を確認します。

第十五条 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示 しなければならない。

そして、この条文でいう「厚生労働省令」が、労働基準法施行規則第5条のことを指しています。

第五条 使用者が法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件は、次に掲げるものとする(略)。
一 労働契約の期間に関する事項
一の二 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
一の三 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
二 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
三 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
四 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
(四の二〜十一 略)
2 使用者は、法第十五条第一項前段の規定により労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならない。
3 法第十五条第一項後段の厚生労働省令で定める事項は、第一項第一号から第四号までに掲げる事項(昇給に関する事項を除く。)とする。
4 法第十五条第一項後段の 厚生労働省令で定める方法は、労働者に対する前項に規定する事項が明らかとなる書面の交付 とする。ただし、当該労働者が同項に規定する事項が明らかとなる次のいずれかの方法によることを希望した場合には、当該方法 とすることができる。
一 ファクシミリを利用してする送信の方法
二 電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(略)の送信の方法(当該労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができるものに限る。)

ここに列挙された雇用契約の期間・就業場所・就業時間・賃金・退職の条件といった基本的事項は、紛争のポイントともなりがちであるため、証拠として残りやすくするよう、書面または電子メール等で交付するよう義務付られています(なお、パートタイマーは別途明示義務事項の追加があります)。

3. 労働条件通知書の一般的な形式とひな形

労働条件通知書のひな形については、厚生労働省および各地方労働局が、WordファイルやPDFファイルの形式で様式集を提供 しています。

記入の要領も細かくファイルの中に記載されています。よほどの事情がない限りは、この様式集に従っておいたほうがよいでしょう。

厚生労働省 東京労働局 様式集 労働基準法関係 https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/hourei_youshikishu/youshikishu_zenkoku.html 2019年5月17日最終アクセス

4. 雇用契約書の一般的な形式とひな形

雇用契約書の形式はさまざまですが、大きく分けて以下の3パターンがあります。

パターン1:「労働条件通知書」の交付のみ

労働条件通知書は交付するが、雇用契約書は(法的義務がないことから)とくに文書化しない、というパターンです。こうした企業は、実は少なくありません。

とはいえ、後述するように労働紛争の発生確率の多さから考えても、本人が確かに労働条件について自ら確認し、就業規則を含めて契約に合意したという証拠は、何らか形に残しておくべきでしょう。

パターン2 :「労働条件通知書」と「雇用契約書」の2つを別々に締結

厳密なコンプライアンスを追求する企業では、労働条件通知書を送付の上、通知書および就業規則の中で特に重要なポイントを抜書きした契約書を別途作成 しています。

しかしながら、この方式を採用してしまうと、結果として雇用契約を締結するたびに2つの書類を作成することとなり、書類作成・押印等の事務処理の手間も2倍になります。

パターン3:「労働条件通知書兼雇用契約書」としてまとめて締結

効率化を追求しつつ、労働条件の確認も徹底する方法はないものでしょうか?

その実務上の工夫の一つに、「労働条件通知書」と「雇用契約書」の2つを一体の文書としてまとめ、労働条件通知書の末尾に以下のような文言を加えて労働者に記名押印(または署名)させる方法があります。

労働条件通知書の末尾に加えて記名押印(または署名)させる方法

この方法によれば、書面が1通で済むだけでなく、

という法的な契約成立プロセスにも即しており、きわめて合理的な方法と考えられます。

5. 雇用契約書を電子化する場合に注意すべき3つのポイント

「労働条件通知書兼雇用契約書」として文書を1通にまとめたとしても、契約書を締結しようと思うと印刷・製本・押印・郵送…と面倒がつきまとうものです。

ここで、これまで紙と印鑑で締結していた 雇用契約書を電子契約に切り替えれば、毎月入社者が発生するたびに契約書の製本、双方の押印、郵送等最低でも1〜2週間はかかっていた契約事務処理のスピードを、大幅に短縮 することができます。

またスピード面だけでなく、郵送や印刷にかかっていた費用も削減 でき、またクラウド上で原本を保存するため、書類のファイリングや検索といった管理の事務処理もスリム化 することができます。

ただし、電子契約化によるメリットは多い一方で、注意しなければならない点が3つあります。

ポイント1:証拠力の確保

その一つが、契約としての証拠力をいかにして確保するかという点です。大変残念なことではありますが、雇用契約は、企業が締結する契約の中でも特に紛争が発生しやすい契約の一つ だからです。

労働政策研究・研修機構「労働関係民事通常訴訟事件と労働審判事件」 http://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/html/g0703_01.html より

万が一にも労働者との間で労働審判や訴訟などになった際に備え、双方の合意内容が法的証拠として問題なく用いられるものであることが重要です。

そのためにはたんなる電子メールの交換やサーバー上での同意記録だけではなく、改ざんが防止でき原本性が主張しやすい電子署名が付与されている サービスを選ぶべきでしょう。

ポイント2:電子帳簿保存法への対応

2つめが、データ保存義務です。電子契約によって雇用契約を締結した場合、契約の原本としての電子データを、電子帳簿保存法第10条および財務省令の要件を満たす形式で保存する義務がある ことにも注意が必要です。

第十条 所得税(源泉徴収に係る所得税を除く。)及び法人税に係る保存義務者は、電子取引を行った場合には、財務省令で定めるところにより、当該電子取引の取引情報に係る電磁的記録を保存 しなければならない。ただし、財務省令で定めるところにより、当該電磁的記録を出力することにより作成した書面又は電子計算機出力マイクロフィルムを保存する場合は、この限りでない。

この条文にいう「財務省令で定める」方式の詳細は、電子帳簿保存法に関する解説記事(契約書の「データ保存」に関する法務と税務 —電子契約をデータとして保存する場合)をご覧いただければと思いますが、主な要件として、

  1. 真実性の確保(認定タイムスタンプまたは社内規程の定め)
  2. 見読性の確保(納税地で画面とプリンターで契約内容が確認できること)
  3. 検索性の確保(主要項目を範囲指定および組み合わせで検索できること)

があります。

特に1の「真実性の確保」は、認定事業者による認定タイムスタンプを付与しない簡易な電子契約サービスでは要件を満たさないケースもあるため、注意が必要です。

クラウドサインの有料プランでは、電子署名に加えてこの認定タイムスタンプをすべての文書に付与しています。

ポイント3:労働条件通知書の交付

前述したとおり、労働条件通知書は一定のフォーマットに従って書面・電子メール等で交付する義務 があります。

あくまで「交付」が義務ですので、両者が押印する契約書のような手間はありませんが、電子メール等電磁的方法で交付する場合は、労働基準法施行規則の定めにより本人の希望を確認 する必要があります。

この本人希望の確認の具体的方法については、平成31年4月厚生労働省労働基準局「改正労働基準法に関するQ&A」において、以下のように記載されています。

(Q)労働者が希望した場合には、ファクシミリや電子メール等で労働条件を明示することができるようになりますが、口頭により希望することも認められますか。また、労働者の希望の有無について、明示をするときに個別に確認する必要がありますか。
(A)則第5条第4項の「労働者が(中略)希望した場合」とは、労働者が使用者に対し、口頭で希望する旨を伝達した場合を含むと解されますが、法第 15 条の規定による労働条件の明示の趣旨は、労働条件が不明確なことによる紛争を未然に防止することであることに鑑みると、紛争の未然防止の観点からは、労使双方において、労働者が希望したか否かにつ いて個別に、かつ、明示的に確認することが望ましいです。

従い、労働者との間で明示的に「確認した」という文言を含む記録を作っておくことがベターとなります。

6. 無料でダウンロードして使える「Word版 労働条件通知書 兼 雇用契約書ひな形ファイル」を公開

サインのリ・デザイン編集部では、厚生労働省による労働条件通知書ひな形をベースとして、

書式として作成した「労働条件通知書兼雇用契約書ひな形」を、下記リンクからダウンロードできるようにしました。

労働条件通知書兼雇用契約書の例(厚生労働省/クラウドサイン)(Word形式:53KB)

厚生労働省のひな形をベースとした「労働条件通知書兼雇用契約書」の例(厚生労働省/クラウドサイン)

本人の希望を確認の上労働条件通知を電子メール等で送付し、労働条件通知書記載の条件に従い雇用契約を締結する旨本人が記名押印(電子署名)するという2段階のプロセスを、1つの電子ファイルにまとめた構成となっています。

このファイルに必要事項を記載し、電子メール等で送信の上労働者に記名押印(または署名)していただくことにより、労働条件通知と雇用契約の締結が完了できます。電子契約クラウドサインをご利用いただければ、さらにかんたん・スピーディに雇用契約締結のすべての工程を電子化できます。

画像:happyvector071 / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

参考文献

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