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「デジタルファースト」から「デジタルトランスフォーメション」へ—行政手続オンライン化の進捗と課題がわかる1枚のチャート


行政手続きから紙と押印を無くしオンラインを原則とする、デジタルファーストの動き。

経産省にデジタル・トランスフォーメーションオフィスが設立されるなど、順調に進行しているかのように見えますが、その一方で、中にはいまだ慎重な姿勢を崩さない省庁もあるようです。

そんなことが読み取れる1枚のチャートをご紹介します。

2020年度に補助金申請・法人設立・社会保険の3つの分野でオンライン化を実現

そのチャートが、こちらの「行政手続簡素化の取組に関する工程表(PDF)」です。

行政手続簡素化の取組に関する工程表 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/katsuryoku_kojyo/choujikan_wg/dai4/siryou3.pdf より
行政手続簡素化の取組に関する工程表 http://www.kantei.go.jp/jp/singi/katsuryoku_kojyo/choujikan_wg/dai4/siryou3.pdf より

第4回中小企業・小規模事業者の長時間労働是正・生産性向上と人材確保に関するワーキンググループ 議事次第」の中でひっそりと公開されていた資料で、私はしばらく気づいていなかったのですが、とある情報提供者から教えていただきました。

  • 補助金
  • 法人共通認証基盤
  • 社会保険

この3つの分野について、今年度に予算要求をし、来年度は実証実験を、そして2020年度にはオンライン・ワンストップ化を実現する、というタイムラインが示されています。思っていたよりもスピーディかつ順調に、行政のオンライン化の準備が進んでいることがわかります。

特に、このメディアのテーマである“契約の未来”との関係においては、
法人共通認証基盤の実現に注目しているところ。これまでの社会保険や税の手続きでは必須とされてきた印鑑や電子証明書方式による申請を廃し、「ID/パスワード方式による簡単なオンライン申請」を採用することが、ここでも明記 されています。

印鑑を用いた手続きが行政からなくなれば、これまで押印を捨てられなかった民間企業におけるペーパーレス化への障壁も、グッと下がることが期待できます。

経産省は「デジタル・トランスフォーメーションオフィス」を設置

法人共通認証基盤を推進する経済産業省では、今夏、その名も「デジタル・トランスメーションオフィス」という組織を正式に発足 しています。

経済産業省Webサイト http://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/article01.html より
経済産業省Webサイト http://www.meti.go.jp/policy/digital_transformation/article01.html より

同オフィスの紹介ページには、発足にあたっての決意表明が掲載されています。

政府全体では行政手続きは年間数億件行われており、その「電子化」はこれまでも進められてきた。しかし、多くの場合は電子化で紙からPC画面になっただけで、情報の整理、入力、確認など作業の本質は何も変わらず、行政サービスを利用・申請する企業や国民にとっても、これを受け取る職員にとっても、いわゆる“お役所手続き”によって大きな負担が強いられてきた。そのような状況を一新すべく、経産省がDXによる変革として位置づけるのは、デジタルによる「オペレーションの最適化」である。

たとえば、DXによってどんな変化が今後もたらされるだろうか。異なる手続きで同じ情報を何度も入力する必要があったものが一度の入力で良くなる「ワンスオンリー」や、関連する手続きが一括で終わる「ワンストップ」に。手続きにかかっていた手間・時間が圧倒的に少なくなる。民間サービスとも連携することで、行政手続きのためにわざわざ書類を作成しなくてよくなる。申請時の添付漏れや記載ミス等はシステムで自動的にわかり、窓口での面倒なやりとりがなくなる。

「お役所手続きからの解放」をお役所自らが宣言 しているあたり、非常に頼もしい組織となりそうです。

他省庁でも一気に進む手続きと契約の電子化

さて、冒頭ご紹介したチャートには、関係省庁として、規制室・IT室・経産省・総務省・厚労省・番号室・再生本部の7つが明記されています。他の省庁はどうなっているのか、気になるところです。

そんな折、ちょうど時を同じくして、国税庁でも動きがありました。

個人番号カードなしで電子納税へ 来年1月から、自宅で申告(共同通信)

国税庁が来年1月から、マイナンバーカード(個人番号カード)を持っていなくてもインターネットで税金の申告、納付手続きができる新方式を導入することが8日、分かった。自宅パソコンからの申告時は現在カードが必要だが、普及が滞り、電子納税の個人の利用が伸び悩んでいるためだ。さらにスマートフォン申告の導入も順次進め、使い勝手を高めて電子化を推進する。

マイナンバーカードに内蔵される電子証明書を用いる方法を諦めたわけではないとはいうものの、こちらもID/パスワード方式を採用することは間違いないでしょう。

また、公共工事の入札においては国土交通省・農林水産省・防衛省・内閣府が参加する電子契約システムの導入も始まっています。各省庁ともに電子化を推進しようとしていることがわかります。

慎重な姿勢を崩さない法務省の存在

一方で、このデジタルトランスフォーメーションの動きに対し、唯一の慎重派とも言えるのが、ここまで全く出てきていない法務省 です。

冒頭紹介したチャートにある「法人設立時の登記後手続きのオンライン・ワンストップの実現」にも、厚労省・番号室・再生本部の3つの組織しか登場しておらず、所管省庁であるはずの法務省が登場しません。

登記手続きにもかかわらず、肝心の法務省の名前が見られない
登記手続きのデジタル化にもかかわらず、肝心の法務省の名前が見られない

それもそのはず、法務省は、会社設立登記の前提となる定款認証において、公証人に対面で反社チェックを行う役割を担わせるべく、公証人法施行規則の改正を図っている、非オンライン派の立場 だからです。上記のチャート拡大部分をよく読むと、「法人設立のオンライン・ワンストップ」ではなく「法人設立時の登記後手続きの〜」となっており、設立登記のプロセス自体はオンライン化の対象外としている ことが読み取れます。このチャートを取りまとめた方々の苦労がしのばれます。

なぜ法務省がこのような立場を取るのか、そしてそれは妥当なのかについては、「法人設立手続オンライン・ワンストップ化検討会」の座長も務めた中央大学法科大学院の大杉謙一教授が2018年7月4日付の自身のblogで公開されていたパブリックコメント(案) をお読みいただけると、問題の所在がよくわかります。

せっかく日本のお役所が自ら変わろうとしている今、多くの民間企業もかかわる手続きを所管する法務省も一体となった、真の改革の実現を切に望みます。

(橋詰)

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