利用規約への「同意疲れ」—その原因と対策

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日経新聞や総務省の研究会でも取り上げられるほどの社会課題となっている、利用規約に対する「同意疲れ」問題。この問題を解決するアイデアとして、「デジタルクーリングオフ」と「試用に基づく追認」制度の2つについて、考えてみました。

総務省までもが口にし始めた「同意疲れ」問題

ウェブサービスでは、あらかじめ用意した利用規約やプライバシーポリシーをユーザーに読ませ、同意ボタンを押させることで契約したこととするのがふつうです。このような契約方式が普及したことから、2020年4月に施行される民法改正では、「定型約款」としてその法的な位置付けも明らかにされました。

一方で問題となっているのが、長文を読ませられる負担に加え、同意対象の規約の数の多さから、自分がいつ・どんな規約に同意したのかすらわからなくなってしまうという「同意疲れ」の問題 です。日経新聞の児玉記者による記事より引用します。

その「同意」有効ですか?消費者の反発避けるには

利用者からとる同意について、課題を指摘する声が広がっている。多くの人は内容を詳細に読まないが、利用者に一方的に不利な取り決めや思いがけない内容が含まれていたり、説明不足だったりする場合は、形式上得た同意が意味をなさなくなるリスクが高まっている。説明や手続きを見直す企業も増え始めた。
(中略)
企業のデータ利用が進むにつれ、その説明も複雑になる。さらに、様々なサービスで同じような同意手続きが繰り返されるなかで、よく分からないまま同意してしまう「同意疲れ」の問題も指摘され始めている。
—日本経済新聞 電子版 2019年10月9日

この「同意疲れ」問題、法務やプライバシー問題に携わる専門家の間では長らく注目されていた話題ではありましたが、総務省で有識者を集めて開催されている 「プラットフォームサービスに関する研究会」が11月29日に公表した資料の中で、ついにこのフレーズが一般名詞化して取り上げられ るほどの社会課題になっています。

プラットフォームサービスに関する研究会(第16回)配布資料「論点整理(案)」P37より

電子消費者契約法が「同意疲れ」をエスカレートさせる

詐欺的な同意ボタンをクリックしてしまい、契約が成立してしまった…。そんなトラブルから消費者を守る法律として、電子消費者契約法 があります。

第三条 民法第九十五条ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(略)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
一 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
二 消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。

ざっくりと要約すると、「確認を求める措置」として、契約時に同意ボタンを複数回押させるよう求めた法律 です。企業がこれに違反した場合、消費者はその契約の無効を主張できます。

経済産業省「電子商取引及び情報財取引等に関する準則(平成30年7月)」P9より

しかし皮肉なことに、法律で要求されたこの「確認を求める措置」によって、画面上での同意クリックの回数を増やしているのも事実であり、「同意疲れ」を助長する一因になっている ともいえます。

「デジタルクーリングオフ」制度の是非

インターネットで手軽に商用サービスが利用できるようになった以上、消費者が契約を締結する頻度・回数が増えるのは当然です。そして、コンピュータへの指示入力方法がキーボード入力やマウスクリックであるかぎり、契約の手法もそれらを押下する方法とせざるを得ません。同意クリックそのものを批判するのは、的外れな批判というべきでしょう。

とはいえ、長い利用規約を読まないユーザーがほとんどなのは、さまざまな研究で明らかになっています。加えて、クリックした後は目の前から通り過ぎてしまうために、自分がどんな契約に同意したかを一覧できないという問題もあります(クラウドサインで同意されていれば、クラウド上で一覧化することも可能なのですが…)。

そこでひとつ考えられるアイデアが、特定商取引法のクーリングオフの発想を拡張し、ウェブサービスも対象とする 「デジタルクーリングオフ」制度を落としどころにするというアイデア です。

クーリング・オフの沿革一覧表(独立行政法人国民生活センター「国民生活」No.16 http://www.kokusen.go.jp/pdf_dl/wko/wko-201311.pdf より)

消費者による「すぐに・気軽にウェブサービスを利用したい」というニーズに応えるため、いったん利用規約が有効であることを前提にクリックによる契約を成立させます。ただし、その後(たとえば)3日間を、消費者自身による事後的な契約内容検証期間とするのです。

3日以内に「よく読んだらやっぱり受け入れられない内容だった」ならば、所定の手続きを経て、すでに提供したサービス相当分の支払いと原状回復を条件に、ノーペナルティで解除できるようにします。

難しいのは、消費者のプライバシーや著作者人格権等の権利利益に関わる同意だった場合 です。特にプライバシーは、同意にをもとに企業が処理をすすめてしまうと、回復不能なダメージが発生する可能性があります。こうしたものについては、デジタルクーリングオフ期間が経過するまで、企業側は処理を進めず保留するような自制的な対応が求められます。

「試用に基づく追認」のデファクト化

そこで、もう一歩アイデアを進めて、「試用に基づく追認」制度をウェブサービスのデファクトスタンダードにする ことはどうかと考えています。

消費者と事業者が、信頼できそうな相手かどうかをお互いに見定めるためのサービス試用期間を(たとえば)2週間と設定し、その期間については、

交換します。その試用期間内にどちらかが拒絶をしなければ、本契約への仮の同意を追認したものとみなすというものです。お互いに当初の取引の規模を最小限度に限定しておくことにより、信頼関係が築けなかった場合の被害も最小化する ところがポイントです。

考えてみれば、ウェブサービスがある時期から多用しはじめた「フリーミアム」がこれに近いものとして存在します。クラウドサインにも、月5通まで無料でご利用いただけるフリープランがあります。それを広告・マーケティング手段としてではなく、契約の大前提である相手方との信頼関係構築のプロセス・手段と捉え直す わけです。

なにも大げさに法制度として導入を義務付けるまでもなく、利用規約同意型の契約方式に対する納得感を醸成し、現実のトラブルを防止するために、企業や業界団体が上に述べた「冷却期間」「信頼関係構築期間」を任意の制度として自発的に設ける ことを検討してもよいのではないでしょうか。

画像:CORA / PIXTA(ピクスタ), camera_papa / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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