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「中止」ではなく「延期」となった東京2020チケットの払戻し条件


中止の可能性も囁かれていたオリンピックは、『東京2020』の名称のまま来年2021年夏までに延期して開催されることが決定されました。ところでこの場合、購入済みのチケットはどうなってしまうのでしょうか。

オリンピック東京2020大会は2021年夏まで延期に

新型コロナウイルスの影響拡大を受け、日本時間3月24日夜 IOC会長のバッハ氏と安倍首相・小池都知事らが電話会談を実施し、その内容がIOCの臨時理事会でも承認され、オリンピック開催の延期が正式に決定 しました。

IOCとの会談の内容については、日本の大会組織委員会から公表されています。

組織委員会が電話会談の内容を発表 東京五輪・パラ延期確認(NHK NEWS WEB)

決まったのは3項目です。
まず、大会の中止は選択肢にないこと。
アスリートおよび観客の安心安全を確保することが最も重要で、現在の世界の状況が悪化していることに鑑み、予定どおりの開催や年内の開催は不可能であり、延期とせざるをえないこと。
そして、関係者が一体となり、遅くとも2021年の夏までの実施に向けて具体的に検討していくことで一致したということです。

あわせて、大会名称を『東京2020』のままとすることも決定。2020年を超えての延期は、先日特集した 開催都市契約 においてもまったく想定されていない、IOCによる異例の超法規的措置 といえます。

延期と中止では大きく異なるチケット規約上の払戻しの取扱い

この重要な局面において、IOCとの確認事項のトップが「大会の中止は選択肢にない」から始まっているところに、さまざまな思惑が表れています。

その一つが、販売済みチケットに関する払戻し条件の適用と取扱い についてです。あらためて、東京2020チケット購入・利用規約 を確認してみましょう。

まず、今夏のオリンピック中止を想定した条文はないものの、セッション(=大会競技)の中止と同義と捉えると、チケット購入者へ払戻しを行う旨が39条3項に定められています。

しかし、今回の措置はあくまで 「中止」ではなく「延期」であり、従って39条3項の払戻し条件には該当しない ことになりそうです。

ついで、37条1項にも注目です。ここでは、延期によってチケット購入者に発生する損害については、組織委は責任を負わないことが明文化 されています。

このような免責条件は消費者契約法上問題となる可能性はありますが、2021年の新日程に合わせたホテル・航空機移動手段等の再手配で発生する費用・手数料・キャンセルフィー等のコストは、チケット購入者の自己負担となります。

なお、38条はセッションの「遅延」について記載されています。38条3項では「セッションが中断され、実質的にも完了していないと当法人が判断し、さらに、当初から予定されていた既存のセッションとは異なる新規セッションが設定された場合」に限り、組織委の判断により、

  1. チケット保有者が元のチケットを使用して新しいセッションを観覧
  2. チケット購入者に対する払戻し

のいずれかの措置をとることが定められています。しかしこの38条でいう遅延は、セッション(=大会競技)がいったんはじまってからの「中断」が最初の要件となっています。まだ 大会そのものがはじまっていない中では、この38条に基づく払戻しは行われない でしょう。

これらの条文を読むと、大会組織委員会にとっては、会期がどれだけ後ろにズレようとも「中止ではなく延期」の言質をIOCから獲得することが、チケットの払戻しを避けるための大きなポイントだった のであり、かろうじてそれは死守できたということになります。

IOCと大会組織委員会が「中止は選択肢にない」にこだわり続けた理由

ここにいたるまで、IOCや大会組織委員会から幾度となく繰り返されてきた「中止は選択肢にない」という言葉。そこには、こうしたチケット規約上の取扱いに関する経済上の損失回避だけでなく、東京都との開催都市契約を有効なまま継続すること、出場選手の選考やり直しを回避することなど、さまざまな思惑と事情が背景に秘められていたものと推測します。

延期にかかるチケット取扱いの正式な対応については、規約37条に基づき追って購入者に対し大会組織委員会からアナウンスがなされる ことになります。すでに東京2020のチケットに当選し購入済みの方々にとっては、通知をしばらく待たなければならない日々が続きます。

組織委としても、払戻しよりも事務的に複雑となるはずのチケットの処理はもちろん、会期の調整、会場の確保、それらに伴う追加発生費用の負担等、悩ましい問題が続くことになります。

画像:東京2020オリンピック・パラリンピック観戦チケットデザインを発表 2020年3月25日最終アクセス

(橋詰)

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