婚姻届では足りない、二人が暮らすためのルールと合意

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家族となり、暮らしを支えあい、どちらかが墓に入ったときに相手を思い涙を流す。そんな時を迎えるために、婚姻届を提出するだけで終わらせない合意のベストプラクティスについて、考えてみたい。

なぜ前もって話し合わないのか

死が二人を分かつまで、愛し合うと神に誓いますか」なんてチャペルで神父が言うセリフを、これまでカメラのファインダー越しに何度ともなく聞いてきた。

数年も経つと、カッコ()を使って名字を併記していたLINEのアカウント名が元に戻り、状況を察する。つい先日撮影したばかりの二人の写真を破棄するよう、求められたこともある。世の中は複雑だ。

曰く「浮気された」

曰く「住宅購入資金を無断で投資に使っていた」

曰く「幸せは倍に悲しみ半分にと言うけど、倍になったのは家事だけで、悲しみも半分にはならなかった」

曰く「結婚して恋人が旦那になったと思ったら、幼児だったことに気が付いた。旦那ではなくもはや長男」

と、バラエティに富んでいる。なるほど、名字が戻るまでに何が起こったか、なんとなく想像がつく。付き合っている期間がある程度あれば、予想できそうなものもあるのだが。

僕自身、過去のパートナーとの関係を振り返ってみても、なんであんな酷いことを許して(時には許されて)いたんだろうと、思うことは多々あった。喧嘩の理由でさえ、ほんの些細なことで起こっていて、そこにはちょっとした感情の起伏が影響していることもあった。

人と生きるのはとても難しい。

何かを約束しているようで実は何も約束していない婚姻届

かなり昔に付き合っていた当時のパートナーが、結婚情報誌とともに婚姻届を送ってきたことがあった。

今回、そんな直接的だけど遠回りなアプローチされて以来、久しぶりに婚姻届を見た。本人の署名以外にも父母の名前、本籍、証人など様々な項目があったけれど、二人の間の約束ごとといった項目は見当たらない。

婚姻届自体、昭和や平成の初期と異なり、各自治体のホームページからダウンロードできるようになった。昨今の押印廃止の流れを受けて、法務省の上川陽子大臣が婚姻届や離婚届の押印を廃止する方向で動くとの発言もあった。「ご当地婚デザイン婚姻届」「オリパラ公式マスコット入り婚姻届」「ラブラブな二人におすすめの婚姻届10選」なども、話題になる。

しかし、それらは 婚姻の事実を行政に届け出るペーパーを煌びやかにしたり、デジタル化したりしただけ だ。婚姻に関する合意のあり方は、何も変化していない。欲しいのは二人の未来に向けたルールを定める取り決めだ。

ハートフルな装飾でその時の気分が盛り上がったり、デジタルで一瞬に行政手続きが完了したとしても、長期にわたる二人の関係がよりよくなるわけではないよね。

婚前契約は堅苦しいだけのものか

結婚生活のルール作りとして思いつくのは、婚前契約だ。

民法754条では、

夫婦間でした契約は、婚姻中、いつでも、夫婦の一方からこれを取り消すことができる。ただし、第三者の権利を害することはできない。

とある。だからこそ、婚前に契約する必要がある。

多くの人は婚前契約と言うと身構えてしまうだろう。資産家がするものというイメージもあるかもしれない。

実際にAmazonのジェフ・ベゾスのパートナーであるマッケンジー・ベゾスは、離婚により4兆円の株式分与がありアマゾンの株式4%を保有することとなった。なお、議決権は手放しているという。

芸能人で婚前契約を公言している中には、自分たちにとっても比較的身近な内容が含まれている。例えば、タレントの橋本マナミさんは

  1. 女優OK
  2. グラビアOK
  3. 朝の見送りなし

という3か条を婚前契約として結んだ。国民の愛人という攻めたキャッチワードを持つ橋本さんの個性を消さないような契約内容になったそうだ。

また歌手のシルバさんは、自身の婚前契約書をメディアを通じて公開している。婚前契約書は4000文字を超え、ワード4ページ分のボリュームとなった。

なんて、SNSでよく炎上しているネタについても触れている。

それぞれの内容についての賛否やその総量については、様々な意見はあるだろう。けれど 本人たちがお互いの意思をもって共同で作り上げた 点が重要なポイントだ。

本当に必要なのは、こっちなんじゃないか。

人生観や価値観は、後からすり合わせようとしても遅い

冒頭で紹介した以外にも、僕自身の周囲で結婚したカップルの中には、

「子供が欲しい。欲しくない。」

との話し合いがもつれて、結果的に離婚したカップルもいる。子供ができた後、育て方一つでも、これまで歩んできた人生観が出るだろう。

この理由での離婚は、世の中には割とあることなのか、わからない。個人的な意見として事前に話さないものなのか。あるいはその理由は”ついで”かもしれないけれど。そこは最初から抑えておく内容ではないのか。

宗教の問題だってあるかもしれない。お互いが同じ宗教に入信していれば良い。一方が宗教に入信していること隠していたりすると、厄介な問題に発展することだってあるだろう。

揉めるにしても、事前のすり合わせがあるかないかで、大きく負担は変わる。

事前に話しあうことをせず、お互いの関係が最悪のときに、こうした人生観そのものに触れるようなテーマについて冷静に対話できるのか? 少なくても僕にはできそうもない。

家族の形の多様化によって高まる、二人の合意をサポートするサービスへのニーズ

婚姻届に欠けているもの、それを埋めるための婚前契約について述べてみた。

最近では、家族のあり方が、昔と比べて多様性に富んだものになってきた。婚約はしているけれど夫婦別姓を求めて実現するまで結婚はしない、という事実婚カップル。最近では最高裁が法的保護を認めた同性の事実婚カップルもいる。東京都渋谷区と世田谷区を初め、今では様々な自治体が法的な位置づけは異なるものの「パートナーシップ制度」を導入している。

婚姻関係にある夫婦とは異なるため、任意後見契約を行っていることもあるようだ。婚姻が法的に認められていないからこそ、二人で生きていくためのルール作りを慎重に行う。そう考えると、男女間は婚姻届があの形態であるからこそ、二人の合意が疎かになっているのではないだろうか

婚前契約のアドバイザーは、誰なら務まるのかという問題もある。それぞれに代理人をつけるというより、それこそ、どちらにも肩入れしない第三者的なAIに向いている領域かもしれない。AI契約書レビューサービスというと、交渉を少しでも有利にする側面ばかりが目的になるけれど、そうした胃が痛むような状況とは全く違う婚前契約のようなシチュエーションで、双方の価値観をクリアにしすり合わせるためのAI、なんてものがあると良いだろう。

理想的な契約条件、パートナー間で絶対に守るべき普遍的ルールなど、婚前契約においてはないはずだから、ビジネス契約をサポートするAIよりも、もっと高度なサービスレベルが求められるんじゃないだろうか。

(写真・文 宗田)

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