リーガルテックニュース

「包括的データ戦略」が示すデジタル庁の電子署名政策


本記事では、2021年6月に閣議決定された「包括的データ戦略」から、デジタル庁がこれから整備するトラストサービスの全体像と、電子署名および契約の未来を読み解きます。

日本のトラストサービスの未来を占う「包括的データ戦略」が閣議決定

デジタルガバメント閣僚会議の下、2020年10月よりデータ戦略タスクフォースで議論されていた日本のデータ戦略が、「デジタル社会の実現に向けた重点計画」として取りまとめられ、2021年6月18日に閣議決定されました。

この中の別紙に定める 「包括的データ戦略」は、日本としてのデータ戦略の全体像が初めて明文化されたものです。

2021年9月に設置されるデジタル庁がこれから取り組む各政策の論点がまとまっており、電子署名やタイムスタンプをはじめとする日本のトラストサービスの未来を覗き見ることができる文書 となっています。

https://www.digital.go.jp/posts/ZlptjPro 2021年7月16日最終アクセス
https://www.digital.go.jp/posts/ZlptjPro 2021年7月16日最終アクセス

「包括的データ戦略」を読み解くポイント

57ページにわたる大部な文書となった「包括的データ戦略」の中から、特に契約のデジタル化の未来にも関わる部分について、ポイントを以下3つに絞って取り上げてみます。

「日本の遅れ」の再認識

2020年は、コロナ禍における各種給付金対応の遅れや、脱ハンコ騒動に代表されるように、IT先進国を目指していたはずの日本のデジタル化が遅れていることを、ビジネス・生活両面でいやがおうにも実感させられる年となりました。

「包括的データ戦略」冒頭部においても、当然にこの問題意識は強く反映されており、冒頭の「総論」パートでは、

  • 米国
  • 欧州
  • 中国
  • インド
  • その他(シンガポール・イスラエル)

など各国のデータ戦略と現状を概説した上で、

日本社会全体でのデータに 係るリテラシーの低さ、プライバシーに関する強い懸念等から、データの整備、データの利活用環境の整備、実際のデータの利活用は十分に進んでこなかった。

と、世界から見た日本のデータ利活用の遅れを率直に認め ています。

特に、先進国以外でデジタルIDの急速な普及を実現したインディア・スタック / 生体認証付き個人識別番号制度アーダール(Aadhaar)の成功は、マイナンバー政策強化で巻き返しを画策する日本の政府に対して大きな危機感を与えていることが、本文書からも伝わってきます。

https://uidai.gov.in/ 2021年7月16日最終アクセス
https://uidai.gov.in/ 2021年7月16日最終アクセス

「日本全体が参照すべきアーキテクチャ」を定義

続いて、理念・ビジョン・行動指針を示した上で、包括的データ戦略の具体論を述べるパートに入ります。

9ページ以下では、そのビジョン等の実現に向けて、

データに関わる我が国の全てのプレイヤーが我が国全体のデータ構造=「アーキテクチャ」を共有しそれぞれの取組の社会全体での位置付けを明確化、連携の在り方を模索するとともに、無駄な重複の排除、欠落部分の補完を行っていく必要がある。(中略)そのため、皆が共有すべき我が国のデータアーキテクチャを基本的に7つの階層及び2つの階層横断的要素からなる構造とし、それを図3のとおり示す。 本戦略の策定、実践は常にこのアーキテクチャを踏まえて行うものとする。

と述べ、今後の日本のデータ戦略のベースとなるキーチャートとして「包括的データ戦略のアーキテクチャ」を図示します。

https://www.soumu.go.jp/main_content/000756398.pdf 2021年7月16日最終アクセス
https://www.soumu.go.jp/main_content/000756398.pdf 2021年7月16日最終アクセス

このチャートが、行政やIT企業等のサービス提供者だけでなく、そのユーザーにとっても、自身が扱うデータに関する議論がこの7階層のどこに位置するものなのか、現在地を確認する道標となります。

あわせて、この図の中で、「重点的に取組むべき分野」として

  • 健康・医療・介護
  • 教育
  • 防災
  • 農業
  • インフラ
  • スマートシティ

といった個別テーマが具体的に挙げられている点も、目を引きます。

この6項目がどのような経緯で選ばれたのかについては説明がなく、若干の唐突感もあるものの、これまで官民連携で検討してきた分野ごとのプラットフォーム構築の議論を、この包括的データ戦略においても追認しようということのようです(P21以降参照)。

トラストサービスの現状と課題の確認

クラウドサインのような電子署名サービス、さらには契約のあり方の未来を占う上で重要となるのが、包括的データ戦略のアーキテクチャ第5層に位置付けられた「トラスト」のルール検討 となります。

本文書では、サイバー空間で求められるトラストの3要素として

  1. 「主体・意思」:意思表示の証明
  2. 「事実・情報」:発行元証明
  3. 「存在・時刻」:存在証明

が重要であると述べたうえで、トラストサービスの認定スキームと基盤を創設すること、その認定基準の検討においては国際的な相互承認が得られるよう、海外規格の動向を踏まえて行う必要性があること がうたわれています。

こうした議論の下地は、令和3年4月8日より5月18日まで、政府データ戦略タスクフォースのもと開催されたトラストに関するワーキングチームが策定した、「トラストの枠組みに関するとりまとめ」がベースとなっています。そのため、同WT委員らが運営する認証局サービス運営企業の問題意識が色濃く反映されたものとなっているのが特徴です。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/trust_wt/dai3/shiryou3.pdf 2021年7月16日最終アクセス
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/trust_wt/dai3/shiryou3.pdf 2021年7月16日最終アクセス

この方向性がユーザが真に解決したい課題・ニーズに根ざしたものと言えるかは、検証が必要です。

「包括的データ戦略」に見る電子署名と契約の未来

以上、政府が閣議決定した「包括的データ戦略」について、ポイントをかいつまんで紹介しました。

デジタル庁はトラストサービスのあり方をどのように整理していくのか? クラウド型電子署名サービスが実態として普及する中、電子署名および契約の未来との関係では、以下が議論のポイントとなっていく ものと考えます。

  • 2001年電子署名法で法定されたものの、ユーザーには活用されなかった認定認証制度との違いをどのように打ち出すか
  • トラストアンカーとなるマイナンバー・商業登記・gBizIDなど、複数存在する公的認証制度の整理は必要ないか
  • 日常の電子メールなどを含めた意思表示のデータにまで、印鑑証明書に相当するような厳格なトラストの裏付けを求めていくのか

理想と現実とをすり合わせた上で、実効性ある枠組みの確立が望まれるところであり、デジタル庁の手綱捌きに注目が集まります。

(橋詰)

契約のデジタル化に関するお役立ち資料はこちら

こちらも合わせて読む

電子契約の国内標準
クラウドサイン

日本の法律に特化した弁護士監修の電子契約サービスです。
さまざまな外部サービスと連携でき、取引先も使いやすく、多くの企業や自治体に活用されています。