契約実務

契約書のバックデートとは?意味やリスク、遡及との違いを解説

契約書や稟議書などに、実際とは異なる過去の日付を記載するのが「バックデート」です。ビジネスの現場では、手続きの遅れを調整するために用いられることもありますが、対応を誤ると重大な法的リスクやコンプライアンス違反につながるおそれがあります。たとえば、税務や会計処理の整合性がとれなくなったり、タイムスタンプや登記情報との齟齬が発覚したりすると、企業の信用にも影響しかねません。

この記事では、バックデートの意味や目的、遡及との違い、想定されるリスクや実務上の注意点を解説します。契約書作成や文書管理を担当する方は、法的リスクを回避するための判断軸としてぜひご活用ください。

なお、当記事で解説するバックデートのリスクは、電子契約を活用し、契約書の管理体制を見直すことで根本から対策ができます。特に、タイムスタンプ機能で作成日時が客観的に証明される電子契約は、意図しない不正や改ざんを防ぐための有効な手段です。安全な契約業務を実現するために、ぜひ検討をしてみてください。当社では、「電子契約の基礎と始め方」を確認できる資料をご用意しておりますので、無料でダウンロードしてご活用ください。

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バックデートとは?

契約書の日付は、税務や会計処理、法的効力に直結する重要な要素です。中でもバックデートは、扱い方によってはリスクを伴う場面もあります。

契約書などに実際の日付よりもさかのぼった日付を記載すること

バックデートとは、契約書などにおいて、実際の日付よりも過去の日付を記載することを指します。契約の有効性や税務・会計処理にも関わるため、正確な扱いが求められます。

たとえば、契約の合意が4月10日だったにもかかわらず、書面に「4月1日」と記載するようなケースが該当します。

こうした行為は、書面上の形式を整える目的で行われることもありますが、状況によっては法的リスクを伴います。

バックデートが違法なケース

バックデートが直ちに違法とされるわけではありません。しかし、記載された日付が実体と異なることで、取引先や税務署、監査機関などを欺く意図があると評価されれば、私文書偽造罪(刑法159条)などに問われる可能性があります。

また、虚偽記載によって税務申告や会計処理に誤りが生じれば、脱税や粉飾決算とされるおそれもあります。企業の社会的信用を大きく損なう結果にもなりかねません。

バックデートが合法なケース

一方で、バックデートが必ずしも違法になるとは限りません。たとえば、当事者間ですでに合意があり、実際の取引や履行も行われていた場合、その事実にあわせて後日書面を作成することがあります。

実態と書面の日付が一致していれば、私文書偽造には当たらないと判断されるでしょう。ただし、事実と異なる日付を記載する場合は、慎重な対応が求められます。

なお、電子契約における締結日について詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。

バックデートと遡及の違い・言い換えは?

似たような場面で使われる「バックデート」と「遡及」ですが、意味や使い方は異なります。混同すると誤解を招くため、それぞれの違いを明確にしておくことが大切です。

バックデート:行為や書類を過去の日付に設定すること

バックデートとは、実際の作成日や締結日とは異なる過去の日付を、書類や契約書に記載することを指します。たとえば、実際には4月10日に契約したにもかかわらず、契約書に「4月1日付」と記載するような場合です。

これは“書類の作成日や効力発生日をさかのぼって設定する”という点が特徴であり、行為そのものを過去に行ったように装う意図が含まれるケースもあるため、注意が必要です。

遡及(そきゅう):過去の時点にまで効果・影響を及ぼすこと

遡及とは、制度や契約の効力を、将来ではなく過去のある時点にまで及ぼすことを意味します。たとえば、法律の改正が「2025年4月1日までさかのぼって適用される」といった場合、その改正内容は改正前の期間にも適用されることになります。

遡及はあくまで“効力が過去に向けて及ぶ”という概念であり、行為が起こった日の日付を変えるという意味ではありません。この点がバックデートとの大きな違いです。

バックデートの直接的な言い換え表現

「バックデート」という言葉は、状況に応じてより具体的な表現や丁寧な言葉で言い換えられることがあります。ただし、バックデートという「日付を記載する行為」そのものを指す言葉と、その「効果や目的」を指す関連用語は意味が異なります。バックデートという行為自体を指す、またはそれに近い意味で使われる表現には以下のようなものがあります。

日付をさかのぼる/過去の日付とする

シンプルで分かりやすい表現です。「この契約書の日付は、実際の業務開始日に合わせてさかのぼってください」のように、口頭での指示や社内文書で使われます。

過去日付処理(かこひづけしょり)

主に経理や総務などの実務で使われる用語です。会計システムへの伝票入力や経費精算など、事務処理として過去の日付を用いて作業を行う際に「過去日付処理をする」といった形で使われます。

混同されやすいが「言い換え」ではない関連用語

以下の言葉はバックデートと関連して使われることがありますが、意味が異なるため「言い換え」ではありません。

遡及(そきゅう)/遡及適用(そきゅうてきよう)

これは、法律や契約の「効力」を過去のある時点にまで及ぼすことを指す言葉です。バックデートは、この「遡及適用」を実現するための一つの手段として行われることがありますが、言葉の意味は全く異なります。日付という「記載」ではなく、効力という「効果」の話をしている点が大きな違いです。

効力発生日を定める

これは、契約書のリスク管理で用いられる正当な手法です。契約書に「締結日」と「効力発生日」を明確に分けて記載し、効力が始まる日だけを過去に設定します。締結日自体を偽るバックデートとは異なり、契約の経緯が明確になるため、実務上推奨される方法です。「本契約は2025年8月20日に締結するが、その効力は2025年8月1日にさかのぼって生じる」といった条項がこれにあたります。

バックデートの目的

バックデートは、単なる形式の問題に見えるかもしれませんが、ビジネスの現場ではさまざまな目的で用いられることがあります。ここでは、その代表的なケースを紹介します。

契約の効力をさかのぼって契約したいとき

実際の取引や業務の開始日が契約書の作成日より前である場合、契約の「効力発生日」を実際の取引開始日に合わせるためにバックデートが用いられることがあります。

たとえば、業務委託契約において4月1日から作業を始めていたにもかかわらず、契約書の締結が4月10日になった場合、書面上の契約日を「4月1日」と記載することで、契約上の効力をさかのぼらせるケースがあります。

このように、実体に合わせて日付を調整することは、必ずしも違法ではありませんが、取引先との事後的な整合性の確保が前提となります。

税務や会計処理上の都合で行う

特定の取引や支出を、ある会計期間に計上したいという理由でバックデートを行うこともあります。

たとえば、年度末の売上や費用を前倒しまたは後ろ倒しすることで、利益の調整を意図するケースです。

ただし、税務署に対して誤解を与えるような処理は、脱税や粉飾決算とみなされるリスクがあり、極めて慎重な対応が求められます。会計処理の正確性や監査との整合性も重要なポイントです。

報酬や権利の発生日を調整するため

株式報酬や役員報酬、退職金、インセンティブ制度などにおいて、起算日や権利発生日を有利な日付に調整する目的でバックデートが使われることがあります。

ただし、社内規定や金融商品取引法などの法令との整合性を欠く場合、不適切な利益操作と判断されるおそれもあります

契約上のトラブル回避・形式を整えるため

すでに口頭やメールなどで契約内容が合意されている場合、後から書面を作成して形式を整えることがあります。

その際、実際の合意日や業務開始日に合わせて契約書に過去の日付を記載する、という対応も見られます。

これは、形式を後から補完する行為とも言えますが、日付をめぐる誤解や齟齬が発生すると、契約内容の有効性を巡ってトラブルになるリスクがあります。

制度変更前の権利を得るため

補助金や税制優遇などの制度では、「改正前までに申請されたものに限る」といった条件が付くことがあります。

こうした場合、本来より前の日付で書類を作成し、旧制度の適用対象であるかのように装うケースも見られます。

しかしこれは、公的機関を欺く行為と判断される可能性が高く、重大な法令違反に発展するおそれがあります。

バックデートにより発生するリスク

バックデートは状況によっては実態に即した合理的な対応と見なされることもありますが、対応を誤ると重大なリスクを招くおそれがあります。ここでは主な5つのリスクを整理します。

法的リスク

契約書の日付を意図的に過去に設定することで、書面の真正性が疑われる可能性があります。たとえば、契約が成立していない時点を「締結日」として記載した場合、後に契約自体の有効性が争点となることがあります。

また、虚偽の内容を記載したと判断されれば、私文書偽造罪(刑法159条)や公正証書原本不実記載罪(刑法157条)に問われるおそれもあり、場合によっては刑事責任を問われる可能性も否定できません。

税務上のリスク

取引や契約の日付をさかのぼることにより、税務処理上の整合性が崩れる場合があります。たとえば、消費税や法人税の課税対象となる取引の時期が不明確になると、税務調査で否認されたり、修正申告や追徴課税を求められたりする可能性があります。

また、売上計上時期の操作などが粉飾と見なされれば、税務署から不正処理と判断されるおそれもあります。

社会的信用の喪失

バックデートが不適切な対応であったと外部に認識された場合、企業の信頼性が損なわれる可能性があります。とくに上場企業や監査法人による会計監査を受ける企業では、形式と実態の乖離は重大なコンプライアンス違反とされます。

取引先や投資家からの信頼を失い、企業ブランドや評判に長期的な影響を与えるリスクも無視できません。

労務・雇用関連のトラブル

雇用契約や労働条件通知書などにおいても、日付の取り扱いには細心の注意が必要です。たとえば、実際の入社日より前の日付で雇用契約を締結したと見なされると、労働保険や社会保険の加入義務が前倒しになるほか、未払賃金や残業代の請求につながることがあります。

また、解雇や試用期間のトラブルに発展することもあるため、労働関係の書類には実態に即した記載が不可欠です。

保険・年金・社会保障関連のリスク

健康保険や厚生年金、雇用保険などの加入日をさかのぼって申請した場合、不正と判断されるおそれがあります。たとえば、退職後にさかのぼって就労契約があったかのように見せることで、失業手当や傷病手当金の不正受給と疑われるケースもあります。

年金記録の誤りや保険料未納が発覚した場合、将来的な給付制限や手続きの差し戻しにつながる可能性もあります。

バックデートが問題になるのはどんなとき?

バックデートはすべてが違法というわけではありませんが、記録や証言との不一致が生じると、信頼性が損なわれる可能性があります。以下のようなケースでは、特に注意が必要です。

取引記録と契約日がズレているとき

契約書に記載された日付と、実際の取引開始日や請求書・納品書などの記録が一致しない場合、契約の有効性や税務処理の正当性を疑われる可能性があります。とくに税務調査や監査の際には、時系列の整合性が重視されるため、ズレがあると不正処理と見なされるおそれもあります。

電子契約でタイムスタンプが残っているとき

電子契約では、文書の作成日時や締結日時がタイムスタンプとして自動的に記録されます。書類上の日付とタイムスタンプが一致していないと、後からの改ざんを疑われる原因になります。

電子契約サービスでは改ざん防止のための仕組みがあるため、バックデートは実質的に困難です。

関係者の証言と食い違ったとき

契約当事者や関係者の証言と契約書の日付が一致しない場合、契約の成立時期や内容についての争いが生じるリスクがあります。

特に紛争時や裁判では、当事者の証言や客観的資料との整合性が重視されるため、日付の不一致は信用性を大きく損なう要因となります。

バックデートに関する実務上のポイント・注意点

バックデートを避ける、あるいは整合的に扱うには、社内外の記録や制度との連携が不可欠です。契約書の日付をバックデートすると、社内外の記録との間に矛盾が生じ、思わぬリスクに繋がることがありますので、以下の実務上のポイントを押さえておきましょう。

社内稟議・取締役会議事録と整合性を保つ必要がある

契約書の日付が、社内稟議書や取締役会の議事録と一致しない(社内稟議書や取締役会議事録の日付よりも前になっている)場合、不自然な経緯として内部統制上の不備を指摘される可能性があります。

書類の日付だけでなく、意思決定のタイミングとの整合性を重視することで、後の説明責任を果たしやすくなります。

電子契約のタイムスタンプは改ざんができない

電子契約サービスでは、署名した正確な日時がタイムスタンプとして記録されます。このタイムスタンプは証拠としての信頼性が非常に高く、改ざんは極めて困難です。だからこそ、契約書面に記載した日付とタイムスタンプの日時が大きく異なっていると、バックデートの明確な証拠となってしまいます。意図的な日付操作を疑われないよう、契約内容の合意後、速やかに締結する運用を徹底しましょう。

印紙税の課税時期や登記日との矛盾に注意する

契約日が実態と異なる場合、印紙税の課税時期や登記申請における日付との整合性に問題が生じる可能性があります。

税務・法務関連の手続きに影響するため、形式上の記載だけで判断せず、実際の発生時点と記録を合わせることが重要です。

バックデートに関するよくある質問

バックデートに関する疑問は、契約実務の現場でも頻繁に挙がります。ここでは、特に多く寄せられる4つの質問について簡潔に解説します。

バックデートは違法?

すべてのバックデートが違法とは限りません。実態に即した記載であり、当事者間で合意されていれば違法性を問われることは少ないと考えられます。

ただし、第三者を欺く意図がある場合は、私文書偽造などの法的リスクが生じる可能性があります。

バックデートはコンプライアンス的にOK?

社内規程や取引先のガイドラインによっては、バックデートを一切認めていないケースもあります。とくに電子契約や監査対象の文書では、改ざんと見なされるリスクが高く、原則として避けるべきとされています。

バックデートという言葉の使い方は?

「この契約書は4月1日付でバックデートしてください」といった表現がされることがあります。

ただし、実務では「過去日付で記載する」「さかのぼって効力を持たせる」といった婉曲表現が使われることも多いです。

バックデートは英語で表すと?

英語では “backdate” がそのまま使われます。文脈によっては不正操作を含意するため、慎重な使い方が求められます。

まとめ

バックデートとは、契約書などの文書において、実際の日付よりも過去の日付を記載することをいいます。すべてが違法とされるわけではなく、実態に即した整合的な処理であれば問題とならないケースもあります。

一方で、第三者を欺く意図がある場合には、私文書偽造などの法令違反に問われる可能性もあるため注意が必要です。実務では、契約の締結日や効力発生日を正しく記録し、社内稟議やタイムスタンプとの整合性を確保することが、信頼性ある文書管理につながります。

バックデートのリスクを回避し、信頼性の高い文書管理を実現するためには、プロセスの見直しが必要になります。当記事で解説したポイントに加え、電子契約システムを導入することで、契約締結の透明性を高めることができます。

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