白紙委任状とは?悪用のリスクや注意点などを弁護士が解説

委任する事項や代理人の氏名などの一部を空欄にしたまま作成する委任状は、一般的に「白紙委任状」と呼ばれています。
白紙委任状を他人に渡すと、空欄に意図しない内容を書き込まれ、勝手に契約を締結されるなどのリスクがあります。白紙委任状が悪用されても本人に契約の効果は及ばないのが原則ですが、表見代理によって本人が責任を負うこともあるので注意が必要です。
本記事では白紙委任状について、概要や悪用のリスク、作成時の注意点などを弁護士が解説します。
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「白紙委任状」とは、記載すべき事項の一部を空欄にしたまま作成・交付する委任状です。
委任状は、本人が他人に一定の行為を委任する際に作成します。たとえば、契約書への署名押印を他人に任せる場合などには、その代理権を証する書面として委任状を作成し、代理人(受任者)に交付します。代理人は必要に応じて、相手方に委任状を提示して代理権を与えられていることを証明します。
委任状には通常、委任者と受任者の氏名、委任事項(=受任者の権限)の範囲などを記載します。これらの記載の一部を空欄にしたものが白紙委任状です。
白紙委任状は通常、受任者が空欄部分を補充したうえで相手方に提示します。補充の内容が委任者の意思に沿っていれば問題はなく、補充された委任状は有効と考えられます。
ただし、白紙委任状を交付すると、空欄に委任者が意図しない内容を書き込まれる危険性があります。委任状を渡した相手が、さらに別の人物へ書面を渡してしまう可能性もあるため、安易に白紙委任状を交付すべきではありません。
白紙委任状の具体例
契約上のトラブルを招きやすい白紙委任状のパターンとしては、次の例などが挙げられます。
委任者が想定していなかった人物が受任者として記載され、その者によって委任状が悪用されるおそれがあります。
②委任事項を空欄にした白紙委任状
委任者が想定する範囲を超えた委任事項が記載され、予期していない契約が締結されてしまうおそれがあります。たとえば、不動産の登記手続きを依頼する目的で委任事項を空欄にした白紙委任状を渡したところ、受け取った人物が「不動産の売却に関する一切の権限」などと委任事項を書き込み、勝手に不動産を売却してしまうケースなどが挙げられます。
白紙委任状が悪用されたらどうなる?
白紙委任状が悪用され、本人の意図に反する契約が締結されても、その効果は本人に帰属しないのが原則です。ただし「表見代理」が成立すると、契約の効果が本人に帰属してしまうので注意を要します。
無権代理の効果は、本人に帰属しないのが原則
代理権を持たない人物が、他人の代理人と称して法律行為をすることを「無権代理」といいます。代理権を与えられていない人物が白紙委任状を悪用して代理人と称したケースや、代理人が白紙委任状の記載事項を不正に書き込み、与えられた権限を超えて契約を締結したケースなどには無権代理の問題が生じます。
無権代理によって締結された契約は、原則として本人が追認しなければ、本人に対して効力を生じません(民法113条1項)。「追認」とは、本人が無権代理による契約を後から承認することです。本人が追認すると、別段の意思表示がない限り、契約時にさかのぼって契約の効力が生じます(民法116条)。
たとえば、AがBに不動産の管理だけを任せるつもりで白紙委任状を交付したのに、Bがその白紙委任状を悪用し、Aの代理人としてその不動産を売却したとします。Bには売却の代理権が与えられていないため、Bの行為は無権代理に当たります。したがってAが追認しなければ、原則として売買契約の効果はAに帰属しません。
表見代理が成立すると、本人に効果が帰属してしまう
ただし、無権代理であっても「表見代理」が成立すると、本人に契約の効果が帰属してしまいます。
「表見代理」とは、実際には代理権がないにもかかわらず、他人から見ると代理権があると信じてしまうような外観が存在する場合に、一定の要件のもとで本人に法律行為の効果を帰属させる制度です。代理人に権限があると信頼して取引を行った相手方を保護するため、民法によって次の3つの表見代理が定められています。
②権限外の行為の表見代理(110条)
③代理権消滅後の表見代理等(112条)
白紙委任状が悪用されたケースでは、特に民法109条や110条、またはその組み合わせによる表見代理が成立することがあります。表見代理が成立すると、本人が承認していない契約でも、その効果が本人に帰属します。
ただし、白紙委任状が提示された場合でも、必ず表見代理が成立するわけではありません。表見代理が成立するのは、その種類に応じた要件(相手方の善意無過失や、代理権があると信じたことについての正当な理由など)を満たす場合に限られます。
表見代理の成否を検討する際には、本人の意思や代理人が補充した事項、取引の内容、相手方の認識などを詳細に分析する必要があります。
白紙委任状を悪用した無権代理人が負う責任
白紙委任状を悪用した無権代理人は、契約の相手方や本人に対して次の法的責任を負う可能性があります。
無権代理人が自らの代理権を証明できず、本人の追認も得られなかった場合、相手方の選択に従って履行または損害賠償の責任を負います(民法117条1項)。ただし、相手方が無権代理であることを知っていた場合などには、例外的にこれらの責任を負いません(同条2項)。
②本人に対する責任
無権代理によって本人に損害を与えた場合、本人に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負うことがあります(民法709条)。また、本人と代理人との間で委任契約が締結されていれば、債務不履行(契約違反)による責任も問題になり得ます(民法415条1項)。
③刑事責任
白紙委任状を悪用した方法によっては、有印私文書偽造罪・偽造有印私文書行使罪・詐欺罪などの責任を問われることがあります。
白紙委任状と表見代理が問題になった裁判例
白紙委任状が悪用され、表見代理の成否が問題となった最高裁判例を2つ紹介します。
②最高裁昭和45年7月28日判決
最高裁昭和39年5月23日判決
白紙委任状を受け取った人物からさらに別の人物へ書面が渡り、その書面が悪用された事案です。
Aは、Bから金銭を借り入れるに当たって自ら所有する不動産に抵当権を設定するため、Bに白紙委任状や登記関係書類などを交付しました。しかし、それらの書類は別の人物へ順次渡り、最終的に書類を取得したCがAの代理人を装って、Aの不動産にCの債務を担保するための根抵当権を設定するなどの取引を行いました。【裁判所の判断】
表見代理の成立を否定しました。登記手続きのために交付された書類は、通常、別の人物へ転々交付されることまで予定されたものではありません。したがって、誰が使用してもよいという趣旨で交付したなどの事情がなければ、書類が転々流通して悪用されたことをもって、当然に本人が代理権を与えた旨を表示したとはいえないと判断しました。
最高裁昭和45年7月28日判決
山林の所有権移転登記手続きのために白紙委任状などの書類を交付したところ、その書類が悪用されて山林の交換契約が締結された事案です。
Aは、自ら所有する山林をBに売却し、その登記手続きに必要な白紙委任状や売渡証書などをCを介してBに交付しました。その後、Bから白紙委任状などを再度交付されたCが、Aの代理人を装い、第三者との間で山林の交換契約を締結しました。【裁判所の判断】
第三者がCの代理権の存在を信ずべき正当の事由があれば表見代理が成立し得るとして、原判決を破棄して審理を控訴審へ差し戻しました。
最高裁は、書類が複数の人物を経由していても、その受渡しが本人の信頼する特定の関係者の間で行われていた事情などを重視しました。そのうえで、本人による代理権授与の表示があると評価でき、取引相手が代理権を信じたことについて正当の事由があれば、表見代理により本人が責任を負う余地があると判断しました。
白紙委任状はリスク大、すべての事項を記載すべき
白紙委任状を作成すると、空欄を悪用されて本人の意図しない契約が締結されるおそれがあります。表見代理が成立すれば、本人が承諾していない契約についても責任を負う可能性があるので要注意です。
このようなトラブルを避けるため、委任状には代理人の氏名・住所、委任する行為の内容や範囲、作成日などの必要事項を漏れなく記載し、空欄を残さないことが重要です。取引の性質によっては、価格などの契約条件の範囲や、委任状の有効期間なども明記しておきましょう。
「一切の権限を委任する」などの包括的な表現を安易に使用せず、権限の範囲を具体的に定めることも大切です。また、委任状を悪用しないと信じられる人を受任者に選びましょう。
すでに白紙委任状を渡した場合は、返却を求めるとともに、必要に応じて代理権を撤回する旨を通知しましょう。書面が第三者に提示されるおそれがある場合は、その第三者への通知も検討してください。
白紙委任状が悪用された疑いがある場合には、受任者や取引の相手方との連絡内容を保存し、早めに弁護士へ相談することをお勧めします。
白紙委任状についてよくある質問(FAQ)
白紙委任状は法的に有効ですか?
白紙委任状は、空欄となっている受任者や委任事項などの必要事項を補充することによって、有効な委任状として機能することがあります。
空欄を補充する際には、委任者の意思に従う必要があります。委任者の意思に沿って補充された場合、その内容に応じた代理権が認められるため、代理人による法律行為の効果は本人に帰属します。
一方、委任者の意思に反する内容が補充され、代理権のない行為がなされた場合は無権代理となります。無権代理による法律行為の効果は原則として本人に帰属しませんが、本人が追認した場合や、表見代理が成立する場合は本人に効果が帰属します。
詳しくはこちら:白紙委任状が悪用されたらどうなる?
白紙委任状を悪用され、意に反して契約を締結されました。契約を無効にできますか?
白紙委任状を悪用して締結された契約については、本人に効果が及ばないと主張できる場合があります。
代理権のない人物が勝手に契約を締結した場合、本人が追認しなければ、原則として本人に契約の効果は帰属しません(民法113条1項)。
ただし、本人が契約を追認した場合(民法116条)や表見代理が成立する場合(民法109条、110条、112条)には、契約の効果が本人に帰属します。表見代理の成否は、本人の意思や代理人が補充した事項、取引の内容、相手方の認識などを踏まえ、民法上の要件に基づいて判断されます。
まとめ
白紙委任状は、代理人の氏名や委任事項などを空欄にしたまま作成する委任状です。空欄に意図しない内容を書き込まれ、勝手に契約を締結されるなどの危険があるため、安易に白紙委任状を作成・交付すべきではありません。
白紙委任状の悪用によって締結された契約の効果は、無権代理であるため本人に及ばないのが原則です。ただし、本人が無権代理を追認した場合のほか、表見代理が成立する場合には、本人に契約の効果が帰属してしまいます。予期せず契約上の責任を負うような事態を防ぐため、委任状を交付する際には必要事項をすべて記載しましょう。
この記事を書いたライター
阿部 由羅
弁護士
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。