電子契約を支える法令と技術—宮内宏『改訂版 電子契約の教科書』

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電子契約を導入するにあたり知っておくべき知識をコンパクトにまとめた入門書が改訂。電子署名法や電子帳簿保存法等の法律知識に加え、タイムスタンプ・リモート署名・長期署名といった技術的知識も網羅します。

書籍情報

改訂版 電子契約の教科書 ~基礎から導入事例まで~
  • 著者:宮内宏/著
  • 出版社:日本法令
  • 出版年月:20190628

電子契約導入に当たって知っておきたい知識がコンパクトにまとまった入門書

クラウドサインをはじめとするクラウド型電子契約が普及しはじめたことで、

など、契約書の電子化を可能とする法律についての解説ニーズが急激に高まっています。

しかしながら、以前このメディアでご紹介した『電子署名と認証制度』のブックレビューでもふれたように、20年前の古い法律を今研究し解説しようという学者・実務家は少ないのが実情。その需要に供給が追いていない状況です。

本書は、そんなニーズに応えようと出版された入門書の改訂版。160ページ弱のコンパクトサイズに、図表をふんだんに用いて、最新の電子署名技術や税務対応の注意点、さらには導入事例までまとめられている のが特徴です。

宮内宏『電子契約の教科書』P42-43

本改訂版では、新たに2018年1月に施行された電子委任状法の解説、EUのトラストサービス関連法(eIDAS)に関する解説、大手銀行のネット住宅ローンサービスの事例に関する記載が追加されています。

著者は技術に明るい元エンジニア弁護士

電子契約に詳しい専門家が限られている中、最近、電子契約の法律解説が求められる場面でかならずといっていいほどお名前を拝見するのが、本書の著者 宮内宏弁護士です。

元NECのエンジニアとして25年以上の長きにわたり電子署名技術に携わり、弁護士でありながら情報セキュリティやトラストサービスの技術に明るい という強みを生かして各所で活躍。

総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」の構成員も務め、また2018年11月末に東京で開催されたリーガルテックイベントでも、電子契約の法的有効性についての講演を担当されていらっしゃいました。

リーガルテック展2018「電子契約の法的有効性」 https://youtu.be/ktSAMx2DoxM より

電子契約普及期に重要となる「長期署名」のような応用知識も抑えられる

これまで本メディアでご紹介してきた電子契約関連の書籍と比較した本書ならではの特徴は、タイムスタンプ・リモート署名・長期署名といった、今後の電子契約の活用・拡大フェーズに向けてますます重要になってくるであろう技術的知識の解説にもページを割いている 点です。

特に、電子契約サービスの選択において盲点となりがちなのが、長期署名の問題です。

宮内宏『電子契約の教科書』P83

電子署名を法的な証拠として有効に維持するためには、

  1. 電子署名が電子証明書の有効な期間に生成されたこと
  2. 電子署名生成の時点で電子証明書が失効していなかったこと

の2点を将来に渡って証明できるようにしておく必要があります。

ところが、電子契約ユーザーでも知らない方も少なくないのですが、実は電子証明書には有効期間があり、通常1〜3年、最長でも法令により5年で終了します(電子署名及び認証業務に関する法律施行規則5条4項)。電子証明書の有効期限がひとたび切れてしまえば、その署名の有効性を検証することはできなくなってしまいます。

長期署名とは、この期間を超えて電子署名の有効性を長期的に担保するための技術の通称 です。電子署名の検証情報を都度最新の「保管タイムスタンプ」で繰り返し包んでいくことで、10年以上の長期間有効性を延長していくという仕組みです。電子署名の検証情報を重ねてハッシュ化していくのは、ブロックチェーンの発想にも似ています。

クラウドサインの有償プラン(スタンダード/ビジネス)はこの長期署名に対応していますが、電子契約サービスの中には長期署名に対応していない(対応可能でもユーザー自身が別途対応しなければならない)サービスも あるため、実務上は注意が必要です。

普及期を迎え、電子契約による合意を求められるケースも増加の一途を辿っています。電子署名法の条文知識だけでなく、技術的側面からもその法的効果を理解し検証できるよう、本書レベルの知識はマスターしておきたいところです。

(橋詰)