ブックレビュー 辺見紀男、武井洋一『法務担当者のための契約実務ハンドブック』

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この3月で事実上タイムリミットを迎える契約書の民法改正対応。自社で使っている契約書のどこをどう直せばいいのか?または直さないままでも本当に大丈夫なのか?そんな法務担当者の疑問と不安をすっきり解消してくれる本です。

書籍情報

法務担当者のための契約実務ハンドブック
  • 著者:辺見紀男/編集 武井洋一/編集
  • 出版社:商事法務
  • 出版年月:20190306

契約実務担当者向けの『一問一答民法改正』副読本

法律業務に何らか携わっている方にとっての必携本に、『一問一答民法(債権関係)改正』(商事法務、2018)があります。同書については、昨年末の特集「契約法務のためのブックガイド2019)」でもご紹介しました。

そこで挙げられている200を超える改正ポイントの中から、企業の契約実務に関する重要な論点だけを取り出し、現行の契約書をどのように・どこまで改めるべきかまで含めて具体的に解説してくれる副読本のような一冊が、こちらの『法務担当者のための契約実務ハンドブック』です。

辺見紀男、武井洋一『法務担当者のための契約実務ハンドブック』P106-107

本書執筆に参加されたM弁護士よりご恵贈いただき、発売日前に拝読することができましたので、一足お先にご紹介をしたいと思います。

契約類型別分類でいま必要な知識をピンポイントに見つけて理解できる

本書の大きな特徴の一つとして挙げられるのは、章立てが契約類型別になっている ことにより、求めているQ&Aを探しやすいという点。

裏面帯より

民法に定められた典型契約をベースに分類しつつも、販売店・代理店契約やリース契約といったBtoB企業で特にボリュームの多い非典型契約についても、10章と11章にそれぞれ独立して章立てされています。さらに、請負と準委任の要素が混在する業務委託契約や製造物供給契約についても、6章の「その他の労務提供契約」の中で取り上げられています。

『一問一答民法(債権関係)改正』では、どうしても「法改正の趣旨」から解説がなされるため、座学用の教科書となってしまいがち。実戦の中で契約書と格闘しながら必要な知識を抑えていくには不向きな構成です。

それに対し本書は、幅広い分野に渡る大量の民法改正論点を、所属企業で取扱いの頻度が高い契約類型に関わる論点だけに絞って、重点的にポイントを抑えることができるのがよいところです。

また、建てられたQuestionに関し、具体的な契約条文例を例示したうえで論点を解説 してくださっていて、契約条項の修正場面で問題となるシーンがイメージしやすくなっているのは、まさに実務的です。

辺見紀男、武井洋一『法務担当者のための契約実務ハンドブック』P126

たとえば、成果完成型の委任契約であるソフトウェア設計契約で、設計業務が途中で終了した場合を想定した報酬請求権条項をどう直すべきかといった論点にも、以下のようにケースを分けて明快に回答します。

改正前民法下では、準委任が受任者の責めに帰することができない事由によって履行の中途で終了したときに、受任者は、すでにした履行の割合に応じて報酬を請求することができるとされていました(改正前民648条3項)。しかし、改正民法下では、成果完成型の場合、請負類似の関係として、改正民法648条の2第2項により改正民法634条が準用され、①受託者が成果を得られなくなった場合または成果を得る前に解除された場合において、②すでにされた事務の履行の結果が可分であり、かつ、可分な給付によって委託者が利益を受けるときは、その部分については得られた成果とみなして、受託者は利益の割合に応じた報酬を請求できます。
そこで、設計者(受託者)の立場からは、成果が達成される前に解除される場合がありうることも想定して、報酬の条項において期間や設計検討段階ごとに割合的な報酬を定めたり、途中終了の報酬および費用の扱いについて別の規定を設けたりすることが望ましいでしょう。(P126-127)

対応必須度の高低がクリアにわかる

全編を通じてのAnswerの明快さも特筆しておきたい点です。

Answerパートの冒頭の1〜3行目の書き出しパターンを整理してみると、おおよそこの5つに大別されます。

このように、とりあえずAnswerの冒頭を読むだけで、対応必須度の高低がクリアに読み手に伝わるように意識して書かれている というわけです。

ダメな法律の実務書にありがちな「対応が法的にマストなのかベターなのかが分からず、結局全部マストのように見えて何の役にも立たない」というストレスを読み手に与えないよう、編者・著者のみなさんが相当に意識された様子が、こんなところに伺えます。

改正民法対応のタイムリミットにはまだ間に合う

改正民法の施行は2020年4月。一見すると対応準備にはまだあと1年あるように見えて、事業を継続的に支えている重要な契約書は、1年ごとの自動更新となる場合が少なくありません。

そう考えると、締結済みの契約書の条件見直しや、社内に展開するひな形の見直し期限としては、この3月が事実上のタイムリミットと考えたほうがよいでしょう。契約類型別に整理され、かつ対応必須度もわかりやすく配慮された本書は、そんな時間の無い法務担当者に救いの手を差し伸べてくれます。

民法改正をそれなりにフォローはしてきたつもりだが、対応にヌケモレがないか実はちょっと不安といった法務担当者にも、施行直前期のチェックリストとして役立つものと思います。

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(橋詰)