電子契約を拒絶する取引先への対応策

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せっかく当社が電子契約を採用しても、契約の相手方が書面と印鑑による契約の締結にこだわり、いつまでたっても電子契約に一元化できない…。そうした取引先との折り合いのつけ方・落とし所についてアドバイスします。

電子契約時代に向かう過渡期ならではの苦しみ

法令により書面が必要とされるごく一部の例外を除き、今後契約書が電子契約に置き換えられていくことは時間の問題です。しかしながら、現状の日本では、契約相手である取引先に電子契約を拒絶・不安視され、書面に印鑑を押すこれまでどおりの契約方式を強く求められるケース がまだまだあります。

せっかく当社が電子契約を提案しても、「申し訳ないですがウチは書面でお願いします…」と突き返されてしまうケースも

こうした取引先が紙と印鑑にこだわり電子契約を受け入れようとしないのはなぜか?さまざまな事情はあると思いますが、その主な理由をまとめると、以下2つに集約されるはずです。

理由1:手間や費用がかかるから
理由2:電子契約について判例がないのが不安だから

このうち、理由1については、クラウドサインのようにプラットフォーム事業者が電子署名を施すクラウド型電子契約なら、受信者(取引先)には電子証明書取得にかかる手間・コストがかからないものがほとんど。したがって、現状はすでに解消された課題と言えます。

一方、理由2についてはやや複雑です。取引先が自社の顧問弁護士に聞いても、「たしかに、電子契約でも民事訴訟法上の準文書として証拠になるとはいえ、まだ判例がない以上リスクがないとは言えない。念のため印鑑をもらっておいたほうが安全でしょう」と言われてしまい、会社として受け入れてくれない。これが電子契約推進派にとっての一番のネックとなっています。

電子契約を拒絶する取引先に対応する3つのアイデア

そうした取引先が現れ、電子契約や電子署名の利便性・安全性について説明してもどうしても受け入れていただけない、でも当社はできるだけ電子契約システムへの一元化をしたい…。そんなとき、どのように対処すればよいでしょうか?

ここでは、3つの対応策をご提案します。

対応策1:取引先が保管する原本は紙契約で、当社が保管する原本は電子契約で、それぞれ1通ずつ締結

最も王道・正統派な対応がこちら。取引先のご要望に素直に従い、紙の契約書を作成し押印もして渡すという方法です。ただし、紙の契約書は1通だけ作成し、その1通は「取引先保管分の原本」として取引先にお渡し します。

では当社分はどうするのか?当社は、同じ契約書の電子ファイルを電子契約で送信して同意してもらい、「電子契約はあくまで自社保管分の原本」とする のです。

取引先から「書面への押印でないと、ウチとしては証拠として認められない」と言われると、反射的に「2通とも紙の契約書でなければならない」と早とちりしてしまいがちです。しかし、落ち着いて考えてみれば、原本として当社の押印(印影)が欲しいのは当社ではなく、取引先です。取引先のために契約書を書面で作成し残してあげれば、そのニーズは満たすことができる わけです。

取引先のニーズには正面から素直に応えた上で、(電子契約について懸念をしていない立場である)当社分の原本については電子契約で締結していただく、という考え方です。

この場合、契約書末尾に記載する契約文言としては、

「本契約の成立を証するため、本書の書面および電磁的記録を作成して各自記名押印および電子署名を施し、甲(取引先)が書面を、乙(当社)が電磁的記録を保管する。」

としておくことが考えられます。

対応策2:押印した契約書面をPDF化し電子契約で送信、取引先はそのプリントアウトに押印し原本として保管

もう一つの対応策が、当社が紙の契約書に押印し、押印した契約書面をスキャンしてPDF化した電子ファイルを電子契約で送信する という方法です。

取引先には、当社印影がスキャンされたPDFをプリントアウトしていただき、それに取引先の印鑑を押印して原本として保管 していただきます。

印影が画像であっても、印鑑証明書と同一であることを確認でき、自社分を紙で保管できればよいという取引先ならば、こうした方法で受け入れていただけるケースがあります。実際外国企業との契約では、お互いの代表者の自筆サインをスキャンしてPDF化し、それを電子メールで交換することで契約締結することがありますが、これと同じ考え方です。

ただし、印影をスキャンした画像は、厳密には「印影のコピー」です。対応策1と比較すると、取引先が当社の印影について証拠としての真正性を争うような事態になった際には、裁判所からネガティブな評価をされる可能性は否定できません。

対応策3:紙契約書を原本として1通作成し締結、当社はコピーをPDFで電子保管

対応策1をアレンジした最もカジュアルな対応策がこちら。原本を書面で1通作成し、両者が押印した後、当社はそのコピーをPDFで電子保管し、紙の原本は取引先に保管していただく という方法です。

この方法を採用した場合、当社に残るのはコピーとしてのPDFファイルだけ。電子署名付きの電子ファイルも朱肉印影付きの書面も残らないため、厳密な意味での原本は契約の相手方である取引先にしかない、という状態になります。

しかし、取引相手に原本があるのであれば、訴訟等紛争の際には相手方に契約書を提出させればよいではないかという、究極に割り切った考え方です。

もちろん、取引先が契約書を紛失してしまったり、いざというときに(本当は持っているはずの)契約書の存在を否定されるリスクはあります。しかし、契約内容にもよりますがそうした主張は訴訟上当社だけでなく、相手にとっても不利な状態。そう考えると、紙にこだわる相手に契約書を保管していただくのも一考です。

契約方式の自由と証拠としての契約書作成

以上、電子契約を受け入れようとしない取引先が現れたときの対応策について、整理してご紹介しました。

あらためてこの話を整理してみると、

・取引先が保管する契約の証拠
・当社が保管する契約の証拠

の2つを分けて考えることがポイント であることがわかります。

そもそも、改正民法521条に「契約方式の自由」が明記されているとおり、契約の成立に書面は必要ないという大原則があります。

第522条 (1項省略)
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

では 契約“書”は何のために作成するのかといえば、万が一契約相手方と紛争になってしまった際に備え、両者が契約をしたことおよびその内容について、証拠を残すため のものです。合意内容をお互いに確認する目的は、紙でなく電子ファイルでも可能だからです。

証拠を書面で保管することにこだわる取引先のせいで、電子契約を受け入れてもらえないという事態が発生しているわけですが、逆に言えば、その取引先にとっての書面による証拠保管ニーズさえ満たしてしまえばよい のです。当社にとっての証拠の残し方や保管方法についてまで、取引先から指図をされるいわれはなく、それに従う義務もありません。たとえが大げさかもしれませんが、仮に契約書を書面で2通作成したとしても、調印した翌日に自社保管分をシュレッダーしてしまうことすら当社の勝手なのと同様です。

書面での証拠保管にこだわる取引先には、その要望度合いに応じ、対応策1〜3を選択して相手の証拠としての書面の作成に協力する。その代わりに、当社が保管する証拠については、取引先にも電子契約で一元管理をしたい当社の都合をご理解いただく。

電子契約が普及する過渡期だからこそ、こうした冷静かつ合理的な対応について相互理解を広め、普及促進を図っていければと考えています。

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(橋詰)