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レポート「AI vs 弁理士 商標調査対決」—法と実務のプロはAIにどう勝ったのか

次々に生まれるリーガルテックの中で、人間を代替する最有力分野とも言われる「商標調査」の世界。リーガルバトルイベント「AI vs 弁理士 商標調査対決」で見せたAIの脅威と人間の底力をレポートします。

人間が底力を見せた白熱の勝負

2019年10月10日、Toreru&東京カルチャーカルチャー&弁護士ドットコムクラウドサイン共催によるイベント「AI vs 弁理士 商標調査対決」が無事閉幕。

商標調査実務での戦いは、20問中13問正解させたAIに対し、14問で正解した人間の勝利 という結果となりました。

ご観覧者、出場してくださった選手(志賀国際特許事務所 岡村太一先生、Markstone知的財産事務所 中村祥二先生、セトマキ国際特許商標事務所 瀬戸麻希先生)のみなさま、株式会社 Toreru / 特許業務法人 Toreruの宮﨑超史様CEO・土野史隆先生、協賛くださいました特許業務法人IPX様・株式会社イーパテント様、そして会場共催の東京カルチャーカルチャー様、誠にありがとうございました。

大会総合優勝の岡村太一先生とToreru戸田様・宮崎CEO
大会総合優勝の岡村太一先生とToreru戸田様・宮崎CEO

下馬評では、特許庁の商標審査結果という「教師データ」を入手しやすいこの分野において、AIは人間を圧倒的に凌駕するのではないか? と言われていました。Toreruの宮崎CEOも大会冒頭、「通常であれば6〜7割の正解は出せる」とおっしゃっており、その数字通りの性能は発揮していたと言えます。しかしそれを僅差の1ポイント差、14ポイントで志賀国際特許事務所 岡村先生が上回り、プロが経験と感性をもってAIに勝利 した形となりました。

もう一つの見どころが、100人を超える会場参加者も同時にAIとバトルできる会場参加型のイベントであった点です。これは昨年の「契約書タイムバトル AI vs 人間」でも実現できなかった試みでした。参加者の40%強が法律業界に所属されているとアンケートにご回答いただいた参加者の中で、にょんたか さん(Twitter:@DUXROLL)がAIと同点の13ポイントを叩き出し、会場最優秀賞をゲットされました。

この試合の様子は、togetterのまとめ AIは弁理士を超えるのか⁉︎ AI vs 弁理士 商標調査対決 でもご覧いただけます。

AIがついに実用化段階に達した2019年

会場も大盛り上がりで終わった一夜が開け、冷静に振り返って見ると やはりAIが脅威であることは間違いがない ということも実感します。それを端的に言い表してくださっていたtweetがこちら。

https://twitter.com/chizatamago/status/1182270861434212352 2019年10月11日最終アクセス
https://twitter.com/chizatamago/status/1182270861434212352 2019年10月11日最終アクセス

私も実況者として解説の土野先生と一緒に問題に取り組んでいましたが、問題作成にご協力くださったIPTech特許業務法人さまが繰り出す設問の絶妙な難しさの前に、20問中10〜11問正解がせいぜいのところかなという感触でした。

ほとんどの人間よりも安定的に、予定通りの正答率で仕事を淡々とこなすAIの凄み。しかも、実況ではあえて触れませんでしたが、Toreruチームはほとんどの問題で一瞬で答えを出し回答時間を余らせてもいました。プロと遜色ない仕事の成果を、プロよりも圧倒的に早く出せるAIは、少なくともこの商標分野に関しては実用化段階に達している と言って間違いないことも、この大会で実証されたと言えます。

大会中に公開されたToreruの商標類否判定計算プロセス
大会中に公開されたToreruの商標類否判定計算プロセス

司法のデータ解放が引き起こす大変化

情報公開に対し前向きな特許庁の姿勢のおかげもあって、教師データが入手しやすい環境下にある知的財産の世界では、こうして人間並みの成果を人間以上のスピードで出せるようになりました。Toreruの宮崎CEOによれば、ここまでにおよそ4年で到達をしたとのこと。

そうなると、次に迎えるだろう変化は、データの公開にあまり積極的とは言えなかった司法の世界の変化です。今日本では世界に遅れを取るまいと、内閣官房のリードのもと、裁判手続きのIT化に向けた動きが活発化しています。中でも注目は、教師データとしての裁判例の公開 です。米国ではこれは当たり前のように行われており、昨年にはハーバード大がついに無償で判例DBを公開するまでに至りました。

ハーバード大、600万件超の判例DBを無償公開

5年間に及ぶ作業の末、米国の判例およそ650万件弱が、オンラインで無料で閲覧できるようになった。
ハーバード・ロー・スクール図書館の「図書館イノベーション研究室(Library Innovation Lab)」は 「判例法アクセス・プロジェクト(Caselaw Access Project)」を完了させた。このプロジェクトは、1600年代から2018年夏までに公表された州と連邦の全訴訟事例(4000万ページ超)をスキャンし、デジタル化する取り組みだ。

特許庁公開情報を教師データにした知的財産の世界で実際に実用化フェーズに至ったことに鑑みれば、裁判手続きのIT化で予定通り裁判例がデータとして解放されれば、その4〜5年後には司法のAI化も実現される ことでしょう。その時の人間の役割とは何かを整理しておく必要はありそうです。

(橋詰)

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