ドイツ裁判所によるリーガルテック違法判例 —その教訓と対策

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ドイツの法曹協会が、Q&A形式で法律文書を自動作成するリーガルテック企業を相手に、法律サービス業法違反で勝訴しました。世界のリーガルテック業界はこの判決をどう受け止めるべきでしょうか。

大手法律出版社が運営する文書作成リーガルテックに対する違法判決

オランダ発の法律出版社として著名なWOLTERS KLUWERが運営する法律文書自動作成リーガルテックのSmartlawが、ハンブルグのハンザ法曹協会より弁護士以外が法的サービスを行うことを禁止するRDG(Act on Out-of-Court Legal Services)に違反するものとして訴訟を提起され、敗訴するという事件が発生しました。

EUの中でも最大の経済圏を誇る国で、リーガルテックが業法観点から真正面から否定されたセンセーショナルな判決 ということで、海外の専門メディアが驚きをもって速報しています。

LegalTech On Trial – Regional German Bar ‘Wins Ban’ On Contract Platforms

The Bar claims that tech-based platforms like this cannot provide sufficient legal certainty for a client as they rely on an automated Q&A expert system to fill in a contract or other legal document template. In short, unless you have lawyers involved in contract creation then it should not be allowed, they say.

The full written judgment of the regional court has not yet been made public, but in theory, this could potentially prevent companies such as RocketLawyer, LegalZoom, as well as others that use an expert system to complete contracts without a lawyer, from operating in the region.

上記Artificial Lawyerが報じているとおり、Q&Aに答えていくだけで契約書を自動作成してくれるエキスパートシステム的なサービスは、今回敗訴したSmartlawだけでなく、RocketLawyerやLegalZoomをはじめとして既にたくさん生まれています。

その中でも、WOLTERS KLUWERが直接提供しているという点で比較的筋の良いことが想像されるこのSmartlawが見せしめ的に取り締まられたことで、欧州のリーガルテック市場にはかなりの衝撃をもって受け止められています。

Smartlawの実態に対するハンザ法曹協会の主張内容とは

今回、原告となり裁判にうって出たハンザ法曹協会は、勝訴判決が公になったことを受け、プレスリリースを出しています。

https://www.rak-hamburg.de/mitglieder/mitgliederservice/meldungen/id/90 2019年10月15日最終アクセス

以下、ドイツ語をGoogle翻訳にかけているため、少し不自然で文意が取りにくい日本語となっている点はご容赦ください。

ハンザ同盟弁護士会は、このプロバイダーの提案「スマートロー」で、RDGに違反する製品のプロトタイプを見ました。弁護士は、契約ジェネレーターが提供できない比較的小額のサービスで販売されています。それにもかかわらず、プロバイダーの広告におけるこのパフォーマンスは、法的アドバイスに代わる(より良い、より安価な)選択肢として提示されています。

指摘の1つめは、この 「弁護士より良いサービスをより安価に」という広告表現 についてです。

たしかに、Smartlawのウェブサイトの広告表現には「弁護士が提供するよりも高品質でより安価なサービスである」ことが述べられていました。必要以上に法曹協会や弁護士らに対して攻撃的な表現を使ってしまったようにも見えます。

https://www.smartlaw.de/ をGoogle翻訳 2019年10月15日最終アクセス

さらにプレスリリースの続く部分には、ハンザ法曹協会からのさらに重要なメッセージが込められていました。以下再び同プレスリリースのGoogle翻訳より。

このようなケースバイケースの法的検査は、締結する契約の枠組みで契約の権利と義務をまとめるときに特に必要です。法的に安全で利益に基づく契約を起草する場合、通常、クライアントと協力して関連する事実を明確にし、契約の起草に関してクライアントが提示した質問が実際に事実を使い果たしているかどうかを確認する必要があります。それはコンピューターでもいい 質疑応答システムでは、契約の望ましい起草についてさまざまな質問をした後、回答を考慮してコンパイルされた契約を提出します。彼は、ユーザーの回答の価値と真実性に疑問を呈することはできず、ユーザーの利益のために提供される質問が尋ねられないかどうかを判断することもできません。コンピュータがこの製品に「人工知能」を持たないという点で、それが何であれ、それは議論の余地がありませんでした。
(中略)そのような「契約ジェネレーター」は、法的職業に認められていない、またはRDGの下で合法化されていない企業によって運営されるべきではありません。これは、会社が契約条件を書いている場合でも適用され、法的助言を提供するのではなく、出版製品のみを提供します。顧客は、サンプルのコレクションに基づいて自分の契約をまとめるだけだと理解していないためです。

ここを読むと、ハンザ法曹協会の今回の主張は 「一方通行のQ&A回答を元に法律文書を吐き出す簡易な文書作成システム」を「弁護士品質」とうたったことに問題の対象を限定している ようにも見えます。

どのような主張・結果となったでしょうか。

世界のリーガルテックが選択を迫られる日

本稿執筆時点では本判決の全文は公開されていないため、詳細な分析はできませんが、少なくともハンザ法曹協会のプレスリリースを見る限り、広告表現と実際のサービスの乖離に着目した訴訟であったことがわかります。

ところで、日本の弁護士とその依頼者を守るための法律である弁護士法では、こうした文書作成テックに対してどのような解釈がなされうるのでしょうか。

この点、AI契約書レビューサービスを運営するGVA TECH株式会社がウェブサイトに掲載している「本サービスと弁護士法等について」と題する文書は、日本の弁護士会が警戒心を持つであろう視点から記述されており、参考になります。

5 検討の結果、弁護士法72条に違反しないと判断した理由は何ですか?

その理由は多岐にわたりますが、第1の理由は、「他人性」が存在しないことです。弁護士法72条は他人の法律事件に関する法律事務の取り扱いを禁じております。したがって、自分の債権を自分で回収するような場合、すなわち自分自身の法律事務の取り扱いを規制するものではありません。
本サービスは、利用者の入力のみに基づいて、あらかじめ定められた結果を返すものです。したがって、独自に判断や鑑定などを提供しておりません。利用者が利用者自身の法律事務を行なうにあたり、その補助を行なっているだけとなります。したがって、本サービスは、自己の法律事務を取り扱うだけであるので、弁護士法72条に違反しないものと考えます。

「他人性がないこと」という理由に次いで、「入力に対してあらかじめ用意された回答を機械的に返すだけなので違反しない」という考え方が示されています。

この日本において、

・淡々と文字通り機械的に、弁護士らしい領域に踏み込まない回答を返そうとするサービスであること
・より深く事実を確認し具体的な法的見解を出力する、利用者の真の利益に近づけようとするサービスであること

その どちらが模範的な文書作成テックとされていくのか?

ドイツや日本だけでなく、世界の文書作成テックが同じような選択を迫られる日が近づきつつあるように思われます。

(橋詰)

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