事業譲渡の承諾取得を電子化し確実に行う方法—クラウドサインを活用した効率化シミュレーション

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筆者の所属先では、年に数件の事業譲渡があり、毎回多数の契約上の地位を譲り受けます。契約上の地位の移転には、契約の相手方の承諾が必要ですが、すべて確実に取得することは容易ではありません。

そこで、承諾を得る作業をクラウドサインで電子化できないか、また、そうした場合、具体的にどのようなメリットがあるか考えてみました。結論としては、十分現実的な選択肢といえそうです。

契約上の地位の移転と承諾取得

契約上の地位の移転は、2020年改正前民法には定めがなかったものの、実務ではかねてから行われてきました。2020年の民法改正により民法539条の2が新設され、契約の相手方の承諾を必要とすることが明文化 されています。

第五百三十九条の二 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。

契約の相手方からすれば、契約上の地位の移転により取引相手が変わると、商品の品質、与信限度額、取引条件といった取引の重要事項に変化をもたらす可能性があるので、事前に説明を受けたいというニーズもあるはずです。

事業譲渡の承諾を全件書面で取得していますか?

では、契約の相手方から承諾を得るプロセスを厳格に履践している企業はどれくらいあるでしょうか。

将来のトラブルを予防するためには、書面など証拠に残る形で承諾を得るのが望ましいことはいうまでもありません。しかし、承諾が必要な取引先の数が多い場合、すべてを確実に行うことはかなり難しい です。

その理由は、書面で承諾を得ようとすると、承諾書や返信用封筒をすべての取引先に郵送するなど時間・労力・コストを要するためで、さらに回収の消込みもしようとすれば、想像するだけで暗い気持ちになります。

現実は(おそらく)かなり適当な承諾取得

結果、承諾は口頭で済ませたり、クロージング後も従来の条件で取引が継続されていることで黙示の同意があったと扱ったり することが多いのではと推測します。

所属先でも、事業譲渡の合意からクロージングまでの限られた期間内に、数百もの取引先から個別に書面の承諾を取り付けるのは現実的ではないため、譲渡人に、取引先から事業譲渡に関する承諾を得ていることを表明保証していただき、個別の承諾取得を省略するケースがあります。

個別の承諾を書面で得る場合も、クロージング前にすべてが完了したケースはないように思われます。

現場も法務も、気持ちとしては疑義のない形で進めたいものの、現実はこのように「適当」に済ませているケースが多いのではないでしょうか

契約上の地位の移転には契約の相手方の承諾が必要

承諾は書面である必要はなく電子化してもよい

「個別の承諾取得が現実的でない」というのは、書面で承諾を取り付けることが前提でした。しかし、民法上は、契約の相手方の承諾を得るのに手段の制限はありません。

契約書で別段の定めをしていない限り、電子化することも可能です。契約書で書面によることを義務付けている場合であっても、合意により修正できます。

法律上は口頭承諾や黙示の同意でも構わないものの、法務部門としては、将来の紛争を防止するため、承諾の記録を残しておきたい です。書面によらず記録を残す方法には、ファックスやメールも考えられますが、手間や信頼性を考えると良い選択肢に思われません。

そこで、クラウドサインのような電子契約サービスの利用 が考えられます。電子契約サービスであれば、誰が・いつ・どのような承諾をしたかを改変不能に記録できるので、書面で取得するのと同じように、あるいはそれ以上に安心できるからです。

承諾を電子化するメリット

さらに、承諾の記録を改変不能な状態で残せること以外にも、契約上の地位の移転で必要な承諾をクラウドサイン化することで次のようなメリットが期待できます。

クラウドサインなら一括送信できる

書面で承諾を得ようとする場合、個々の取引先の宛名を印刷し、承諾書と返信用封筒を封入して郵送しなければなりませんが、クラウドサインの一括送信機能を利用すれば、この手間はなくなります (スタンダードプラン以上であることが必要)。当然ながら、往復の郵送費も不要です。

さらに、統一のフォーマットでも取引先別に情報を変更したい部分がある場合(例:商号、所在地、契約書の特定)、クラウドサインであればcsvファイルから一括作成することも、空欄にして受け手側に記入を依頼することも可能です。

また、承諾を書面で取得すると、数が多い場合には保管場所に困りますが、電子化すればこの悩みもありません。

一括リマインドも可能

承諾の取得を電子化した場合、依頼が相手方のメールボックスに埋もれ、予定期間中に確認してもらえない可能性が考えられます。

クラウドサインなら、未対応の送信先に一括でリマインドを送信することも可能です。

書面で承諾書を取得しようとすれば、未返送の抽出だけでも相応の時間を要するでしょうが、クラウドサインならその手間はありません。

承諾ステータスの確認ができ黙示の同意にも対応

リマインドを行っても、すべての取引先が対応してくれるとは限りません。また、法的に必要な措置とはいえ、こちらの都合で取引先に押印や返送の手間をかけるのは申し訳ないという気持ちもあります。

そこで、書面で承諾を取得する場合には一定の期限を設け、それまでに返信がなければ承諾したものとみなす旨通知することで、返信がない場合には黙示の同意を得たと扱うことがあります。

クラウドサインの場合、開封確認ができるので、「●月●日までに意思表示がなければ承諾したものと扱う」として黙示の同意の構成をとることも可能 です。開封確認機能により、「受け取っていない」といった主張にも反論できるからです。

これは承諾取得に限ったことではありませんが、クラウドサインなどの電子契約サービスを使い慣れておらず、否定的な反応をされる取引先があるかもしれません。その場合は個別対応になりますが、そもそも口頭、黙示の同意あるいは省略で済ませていたプロセスなので、理解してもらえることが多いのではと推測します。

CoC条項の同意取得にも応用可能

ここまで、事業譲渡をはじめとする契約上の地位の移転における契約の相手方からの承諾を念頭に述べてきました。しかし、契約の相手方から承諾を必要とするのは、特定承継(当事者の合意による移転)に限られません。

取引基本契約、賃貸借契約、ライセンス契約といった当事者の経営状態・信用を基礎とする契約の場合、支配権変更が契約解除のトリガーになっていることがあります(Change of Control(CoC)条項)。

そして、大型のM&Aや組織再編の場合、重要契約にCoC条項があれば、契約の相手方から取引実行の承諾を取得するプロセスを厳格に行うことが多いでしょう。当該承諾が得られていることが、取引実行のクロージング条件になることも珍しくありません。

承諾の電子化は、特定承継でなく包括承継のクロージングにも応用できます

電子化する場合の留意点

承諾の電子化はいいことずくめのようですが、採用に当たって特に気をつけるべき点が2つあるように思われます。

です。この2点に対処するための、クラウド型電子契約を活用した実務について、考えてみましょう。

誰から送信するか—部署アカウントの活用

承諾の取得を電子化する場合、誰から送信すべきでしょうか。既存の当事者(売主)から相手方に送信するのが常識的でしょう。

もっとも、筆者の所属先の場合は、後継者不在を理由とする事業承継が多く、廃業しようとする売主にクラウドサインを新たに導入してもらうことは難しいかもしれません。そのような場合は、買主サイドから送信することもやむを得ません。

では、売主の中の「誰が」送信者となるべきでしょうか。理想的には、移転対象契約の締結権限がある人 といえます。通常は部門長以上になるでしょう。しかし、このクラスの方にクラウドサインの一括送信設定を頼むのは気が引けるというか、普通のビジネスパーソンにはできません。

書面の場合なら、承諾書に発信者の押印はないのが普通であり、電子化の場合も送信者は一担当者の名前でよいだろうという気もします。しかし、クラウドサインの場合、誰が送信したかは署名パネル上にしっかりと記録されるため、一担当者の名前で送信すると、受け手は承諾してもよいか不安になるおそれがあります。

この不安を解消するために、部署アカウントを作成し、ここから送信するというアイデアが考えられます。この場合、署名パネルには、「●●部契約担当」などと表記することで社印があるのと同じような印象を受け手に与えられます。

重要取引先など、より慎重な対応が必要なケースでは、部署アカウントから送信し、自社側決裁者を経由して承継先決裁者の承認を得て署名パネルに記録することも可能 です。この方法であれば、契約の相手方に安心感を与えることができます。

部署アカウントから送信することにより、書類が特定の担当者に紐づけずに一元的に保管することもできます。

誰の承諾を取得するか

検討すべきもう一つの点は、契約の相手方の「誰の」承諾を取得するか です。

一担当者の承諾では疑義が残るため、しかるべき方に承諾いただくべきですが、必ずしもその方のメールアドレスが把握できているとは限りません。事前に確認して適切な方に送信することも考えられますが、やり取りがひとつ増えて面倒です。

この点、クラウドサインには転送機能があり、送信者が決裁者のメールアドレスを知らなくても、受信した担当者が転送機能を利用することで、決裁者の電子署名を取得することが可能です。

まとめー事業譲渡の承諾の電子化はメリット大

事業譲渡などで、すべての契約の相手方から書面で承諾を取り付けることは難しいです。そして、これを電子化により確実に履践しようという動きもなく、曖昧にしてきたところがありました。

しかし、これまで検討したとおり、電子契約サービスを応用すれば作業効率が向上し、記録の残る形で承諾(黙示の同意を含む)を取得することができます。記録があれば将来の紛争は予防できますし、電子化はコスト削減にも貢献します。クラウドサインの利用は、十分検討に値するのではないでしょうか。

2021年中には、「クラウドサインで事業譲渡の承諾依頼があった」という日が来るのではないかと予想しています。

(イラスト・文 いとう)

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