建設業法で規定された電子契約の技術的基準に関するガイドラインとは?令和7年9月30日から施行された新ガイドラインも解説

働き方改革関連法の適用拡大に伴い、建設業界では業務効率化と生産性向上の必要性に迫られており、建設工事の請負契約における電子契約の導入が加速しています。
建設工事の請負契約は、建設業法第19条により、書面による締結と相互交付が原則とされていますが、所定の要件を満たした場合に限り、情報通信の技術を利用する方法(電子契約など)による契約締結が認められているためです。
国土交通省は、この規定について、契約当事者間の紛争を防止し、安全な電子商取引の実現を図る観点から、電子契約による運用を明確にするための技術的基準に関するガイドラインを定めてきました。このガイドラインは、法改正と技術の進化に合わせて今般刷新されております。
本記事では、建設業で電子契約が可能になった経緯と、旧ガイドライン(平成13年策定)が刷新されるに至った背景、そしてその核心となる3つの技術的基準(見読性、原本性、本人性)について解説します。
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目次
そもそも建設業で電子契約は利用できるのか?
ガイドラインの説明に入る前に、そもそも建設業で電子契約は利用できるのかどうかを確認しておきましょう。結論から言うと、建設業で電子契約を利用することは可能です。平成13年4月の建設業法改正により、建設工事における請負契約について電子契約で締結できるようになりました。
これは、民間における商取引に関する書面の交付義務等を電磁的措置に置き換えることを認めた「IT書面一括法」の施行に伴うものであり、建設業法第19条も改正されたという経緯です。

建設業で電子契約が可能になった背景や押さえるべき要件を知りたい方は「建設業で電子契約を利用できるのか?法律や要件などのポイントを解説」も確認してみてください。
技術的基準に関するガイドライン
上記のとおり、建設業法第19条の改正により、建設工事における請負契約について電子契約(電磁的措置)により締結できるようになりましたが、その電磁的措置は、建設業法施行規則の規定により、一定の技術的要件に適合するものであるを要求されていました。その当時、施行規則により要求されていた技術的要件は、具体的には以下の2点です。
- 見読性の確保:電子データを保存したシステムから、必要な時に速やかに閲覧・印刷できるようにすること
- 原本性の確保:請負契約書が原本であり、改ざんされていないことを証明できる措置を講じること(例:タイムスタンプの付与)
そして、安全な電子商取引を促進する観点から、国土交通省により、技術的基準について解説する「建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する「技術的基準」に係るガイドライン」が平成13年3月30日付で定められました。このガイドラインは令和7年9月30日に施行された新しいガイドラインの登場により廃止されたため、本記事では「旧ガイドライン」として解説します。
ガイドライン制定と刷新の経緯:技術的基準への「本人性の確保」追加
旧ガイドラインが廃止され、新しいガイドラインが制定されるに至った大きな要因として、建設業法施行規則における技術的基準の追加が挙げられます。
平成13年の導入以降、情報通信技術の進化、特に電子署名サービスの普及が進む中で、電子契約の信頼性をさらに高める必要が生じました。そこで、2020年10月1日に見直された建設業法施行規則により、建設工事における電子契約の技術的基準の要件に、従来の「見読性の確保」「原本性の確保」に加えて、「本人性の確保」が追加されました。
これにより、電磁的措置が満たすべき技術的基準は規則第13条の4第2項において、以下3つの要件となりました。
- 見読性の確保(同項第1号)
- 原本性の確保(同項第2号)
- 本人性の確保(同項第3号)
新たな技術的基準の要件「本人性」の確認方法
電子契約の技術的基準の要件のひとつである「本人性の確保」とは、当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていることを指しています。
この点、2022年に入ってから新たに申請された建設業グレーゾーン解消申請に対する回答(令和4年3月14日)においては、「本人であることを確認することができる措置」の具体的なやり方として以下4つの方式が認められています。
| 方式 | 名称 | 概要 |
| 1 | 当事者署名型電子署名 | ID、パスワードを用いたログイン認証(1要素認証)を行い、認証局が本人確認を行い発行する電子証明書、タイムスタンプにて署名する電子署名 |
| 2 | 事業者署名型電子署名(2要素認証) | ID、パスワードを用いたログイン認証、及びSMSでのパスコード入力(2要素認証)を行い、事業者の証明書、タイムスタンプにて署名する電子署名 |
| 3 | 事業者署名型電子署名(1要素認証) | ID、パスワードを用いたログイン認証(1要素認証)を行い、事業者の証明書、タイムスタンプにて署名する電子署名 |
| 4 | 電子捺印 | ID、パスワードを用いたログイン認証(1要素認証)を行い、印影イメージ(名前、会社名、スキャン画像など選択可)、タイムスタンプを付与する方式 |
出典:新事業活動に関する確認の求めに対する回答の内容の公表(令和4年3月14日)
この回答により、電子署名法上の厳密な電子署名を利用しない、いわゆる「電子印鑑」や「電子サイン」と呼ばれる簡易な電子契約サービスにおいても、建設業法上適法な電子契約が締結できることが確認されました。
なお、建設業における電子契約の適法性についてより詳しく知りたい方は「建設業法グレーゾーン解消制度による電子契約の適法性確認—建設工事請負契約の電子化がさらなる規制緩和」も参考にしてみてください。
新ガイドラインの策定(令和7年9月30日施行)
これまでみてきた通り、建設業法下における適法な電子契約の締結の仕方については、特に2020年10月の技術的基準への「本人性の確保」の追加、そしてその後のグレーゾーン解消制度による解釈の明確化がなされてきました。
国土交通省は、電子契約に関する規定の内容を明確化し、また電子契約の普及に向けた環境を整備することで、建設業全体の生産性を高め健全な発達を促進する観点から、従来の「建設業法施行規則第13条の2第2項に規定する「技術的基準」に係るガイドライン」(平成13年3月30日付)を廃止し、新たな「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」を定めることとしました。
この新ガイドラインは、令和7年9月30日から施行されています。ガイドラインの刷新は、電子契約を巡る法的・技術的進展を反映し、建設業界により安全で利用しやすい電子契約環境を提供することを目的としているため、今後ますます建設業における電子契約の推進・浸透が進むと考えられます。
新ガイドラインが定める3つの技術的基準の詳細
新ガイドラインでは、現行の法令(建設業法施行規則第13条の4第2項)が定める「見読性」「原本性」「本人性」の3つの要件すべてについて、具体的な措置を解説しています。
ここでは、建設業法第19条第3項に基づく電磁的措置が満たすべき3つの技術的基準について、新ガイドラインでなされている解説の概要を紹介します。
1.見読性(規則第13条の4第2項第1号関係)
見読性とは、契約の相手方がファイルへの記録を出力することによる書面を作成することができるものであることを指します。
電子化された契約事項等(電磁的記録)それ自体は人の知覚では認識できないため、システム側で、当該記録をディスプレイや書面等に速やかかつ整然と表示できるように整備しておく必要があります。また、記録を迅速に取り出せるよう、適切な管理や検索機能の実装を行うことが望ましいとされています。
2. 原本性(規則第13条の4第2項第2号関係)
原本性とは、ファイルに記録された契約事項等について、改変が行われていないかどうかを確認することができる措置を講じていることを指します。
建設工事の請負契約は、契約金額が大きく、期間が長期にわたることが多いため、紛争防止の観点から契約書について改ざんされていないことの確認ができることが重要とされています。このため、電子契約を締結する場合は、以下のいずれかの措置を利用する必要があるとされています。
- 公開鍵暗号方式による電子署名
- タイムスタンプ(時刻認証業務の認定に関する規程第2条第1項に規定するもの)
- 上記と同等の効力を有すると認められる方法
公開鍵暗号方式を利用する場合、「本人性の確保」の観点からも、公開鍵基盤(PKI)を利用した方式を用いることが望ましいとされています。
また、契約サービス提供事業者の署名鍵等を用いる「事業者署名型(立会人型)」方式の電子署名サービスを利用する場合、原本性との関係で、「技術的・機能的に見て、サービス提供事業者の意思が介在する余地がなく、 利用者の意思のみに基づいて機械的に暗号化されたものであることが担保されていると認められる」サービスを用いることによって、電子署名法上の要件を満たす必要があるとされています。
3. 本人性(規則第13条の4第2項第3号関係)
本人性とは、当該契約の相手方が本人であることを確認することができる措置を講じていることを指します。
電子契約では当事者が対面しないため、第三者によるなりすましを防ぐための措置が必要です。
- 公開鍵暗号方式による電子署名を使用する場合、特定認証業務(電子署名法第2条第3項に規定する業務)を行う事業者等の第三者機関が発行する電子証明書を添付することが望ましいとされています。
- 特に、契約サービス提供事業者の署名鍵等を用いる「事業者署名型(立会人型)」方式の場合、契約当事者が自ら電子署名を付与するわけではないため、当該電子署名が真の契約当事者により適切に付与されていることを証明する対応策として、2要素認証等を利用することが望ましいとされています。
契約締結における事前承諾の要件
新旧ガイドライン共通の重要な前提として、電磁的措置を用いて電子契約を締結する際には、あらかじめ契約の相手方から事前承諾を得る必要があります(建設業法施行令第5条の5第1項)。事前承諾を得る際には、以下の事項を相手方に示さなければなりません。
- 講じる電磁的措置の種類:規則第13条の4第1項に規定する措置のうち、どの措置(電子メール、クラウドサービス、CDなど)を講じるかを示すこと。サービスの名称を示すことが望ましい。
- ファイルへの記録の方式:契約当事者間でどのような方式で記録するのかを示すこと。具体的には、契約書の電子データの形式(PDFなど)、使用するソフトウェアの形式やバージョン、そして電子署名やタイムスタンプの形式(または同等の効力を有する方法の詳細)を示すことが望ましい。
事前承諾は、書面または電磁的方法(電子メール、クラウドサービス、電磁的記録媒体)によって取得する必要があります。
実務で多用される「注文書・請書」形式を電子化する際のポイント
建設工事の請負契約は、建設業法第19条第1項により、所定の事項を記載し、署名または記名押印をした書面を相互に交付することが義務付けられています。
しかし、実務においては、この書面契約を「注文書及び請書の形態」により行うケースが多くあります。この実態を踏まえ、国土交通省は、注文書及び請書による契約締結が法第19条第1項に違反しないとされる要件を定めた「注文書及び請書による契約の締結について」(最終改正 令和7年9月30日)を策定しています。
ここでは、「注文書・請書」を電子化する際におさえておきたいポイントを解説しているため、注文書・請書の形式で契約締結している事業者の方は参考にしてみてください。
注文書・請書形式と署名・記名押印の原則
国土交通省による「注文書及び請書による契約の締結について」(最終改正 令和7年9月30日)では、法第19条第1項に違反しない注文書・請書による契約締結方法として、
(1)基本契約書を締結した上で具体の取引については注文書・請書の交換による場合
(2)注文書・請書の交換のみによる場合(ただし、注文書・請書のそれぞれに基本契約約款を添付する)
の2つの場合が提示され、それぞれの場合についての必要な要件が定められています。
とくに重要な点として、注文書には注文者が、請書には請負者がそれぞれ署名または記名押印することが原則とされています。
ただし、上記(1)の「当事者間で基本契約書が締結されている場合」に該当するケースについては、以下の全ての事項を満たす場合に限り、注文書及び請書への署名または記名押印は必ずしも必要としないとされています。
- 注文者が消費者ではないこと(消費者契約法上の「消費者」でないこと)
- 基本契約書の締結時に、発注者・請負人が、対等なパートナーシップに基づく関係にあることを相互に確認していること
- 基本契約の締結時に、発注者・請負人が、両者の間で反復継続的な取引実績が蓄積されていることを相互に確認していること
また、仮に前述の署名または記名押印が不要となるための事項を全て満たした場合であっても、その注文書及び請書を電子的措置を用いて相互に交付する場合には、建設業法第19条第3項の規定が適用されることが明記されています。
これは、注文書・請書に関して、署名または記名押印が不要となるための事項を全て満たしていても、相互交付を書面ではなく電磁的措置で行う場合には、建設業法施行規則第13条の4に定める電磁的措置の要件(技術的基準(見読性、原本性、本人性)を含む)を別途満たす必要があることを意味しています。
したがって、建設業者が電子契約システムを導入する際は、建設業法施行規則第13条の4に定める 電磁的措置の要件を満たしているかを確認することが不可欠です。
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令和7年9月30日に施行された国土交通省「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」は、平成13年に策定された旧ガイドラインを廃止し、これに代わるものです。
この刷新は、2020年10月1日の法改正により、電子契約の技術的基準に「本人性の確保」が追加されたこと、そしてその後の実務的な解釈がグレーゾーン解消申請によって明確化されたことを受けて、現行の法規制の内容を広く明確化し、電子契約の普及を促進するために行われました。
適法な電子契約の運用には、引き続き、以下の三つの技術的基準への適合が不可欠です。
- 見読性の確保
- 原本性の確保
- 本人性の確保
建設業者は、これらの基準を踏まえ、電子契約サービスを選定し、導入を進めることが求められます。
この記事を書いたライター
弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部
