【独自調査】学習支援業界の57.6%が「カスハラ」を経験―2026年10月の防止措置義務化を前に浮かび上がった契約書運用の課題

2026年10月、企業に「カスタマーハラスメント防止措置」の実施を義務付ける労働施策総合推進法の改正が施行されます。学習塾・予備校・英会話教室・EdTech事業者など、保護者や生徒と日常的に向き合う学習支援業も対象です。
弁護士ドットコム株式会社が学習支援業の経営者・教室長・現場スタッフ262名に実施した独自調査では、57.6%が直近1年でカスハラに該当する行為を受けたと回答。さらに調査を進めると、カスハラ経験者の9割以上が「この生徒(保護者)に退塾してほしい、契約を打ち切りたいと思ったことはある」と回答する一方、「契約書・重要事項説明書の運用の甘さ」などを理由に、退塾・契約打ち切りに踏み切れないという、課題が浮かび上がってきました。
本記事では、調査結果をもとに学習支援業界におけるカスハラの実態と、対策の起点となる契約書運用の課題と解決策を解説します。
なお、この記事は南 陽輔弁護士の監修を受けています。
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「関係性を壊したくない…」と教育・学習支援現場のカスハラ対策、後回しになっていませんか?本資料では、学習塾や語学・教養教室などの教育・学習支援業界に携わる262名を対象に行った独自調査をもとに、現場の実態をデータで解き明かします。現場のスタッフを守り、適切な契約業務へ改善するためのヒントとしてお役立てください。
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学習支援業の57.6%が直近1年でカスハラを経験
「直近1年間で、保護者・生徒・受講者からカスタマーハラスメント(カスハラ)にあたると感じた行為を受けたことはありますか」という問いに対し、「頻繁にある(月1回以上)」が13.0%、「ときどきある(年数回程度)」が28.6%、「1〜2回あった」が16.0%という結果になりました。これらを合計すると57.6%が、程度の差こそあれカスハラ被害を経験していることになります。

なお、回答者の事業形態は「学習塾・進学塾」39.3%、「教養・技能教授業(音楽・書道・そろばん等)」22.1%、「英会話・語学教室」10.3%、「予備校」9.2%、「オンライン教育・EdTech」4.2%と幅広く、業態を問わず同様の傾向がみられました。

精神的ストレスが5割超、講師の離職にもつながる深刻な影響
実際にどのようなカスハラを受けているのか、経験者(151名)に内容を尋ねたところ、以下の回答が上位を占めました。
- 授業内容・指導方針への過剰なクレーム・要求:47.0%
- 暴言・侮辱的な発言:33.8%
- 担当講師の変更・指名に関する過剰な要求:31.8%
- 長時間にわたる電話・メール・来訪でのクレーム:31.1%
- 解約・返金に関する脅迫的・過剰な要求:29.8%

こうした行為が現場に与える影響も深刻です。「精神的なストレス・疲弊」を挙げた回答が55.0%と最多となったほか、「業務時間の大幅な増加(クレーム対応・謝罪対応等)」が38.4%、「担当講師・スタッフが辞職・休職した」も31.1%、「他の生徒・受講者への対応が疎かになった」も25.8%にのぼりました。

カスハラは単なる一時的なトラブルではなく、講師の離職や指導品質の低下、さらには他の生徒への対応にも影響が波及する、経営リスクに直結する問題であることがわかります。「特に影響はなかった」との回答はわずか4.0%にとどまり、多くの現場が何らかの形で負の影響を受けていることが浮き彫りになりました。
学習支援業は、保護者という「サービスの対価を支払う顧客」と、生徒という「指導を受ける当事者」の両方に日常的に向き合う業態です。成績や進路といった保護者の切実な関心事が絡むぶん、クレームが感情的にエスカレートしやすい構造的な事情もうかがえます。
「契約書の根拠が曖昧で、退塾させたくてもできなかった」35.8%
今回の調査で特に注目したいのが、カスハラを受けた経験者に「この生徒(保護者)に退塾してほしい、契約を打ち切りたいと思ったことはあるか」を尋ねた設問です。

「(退塾してほしい/契約を打ち切りたいと)思ったことはない」という回答は6.6%にとどまり、実に9割以上が「この生徒(保護者)に退塾してほしい、契約を打ち切りたいと思ったことはある」と回答。
そして最も多かった回答は「思ったことはあるが、契約書・規約上の根拠が明確でなく実行できなかった」で35.8%。実際に退塾・契約解除に踏み切れたのは23.2%にとどまり、根拠不明確を理由に断念したケースがそれを上回りました。
カスハラへの対応方針をどれだけ現場で共有していても、契約書・重要事項説明書に「どのような行為があった場合に契約を解除できるか」が明記されていなければ、いざという場面で対応の拠り所を失ってしまいます。
「経営上の事情や保護者との関係を理由に実行できなかった」との回答も19.2%あり、契約書の不備だけでなく、関係悪化への懸念からも対応をためらう現場の苦しさがうかがえます。
カスハラ対策は、研修や相談窓口の整備だけでなく、契約書面そのものの見直しとセットで考える必要があるといえるでしょう。「何を根拠に契約を解除できるか」が現場で共有されていなければ、いざという場面で対応そのものをためらう要因になりかねません。
【南 陽輔 弁護士コメント】
契約書に解除事由を明記しておくことが、事業者を守る第一歩
カスハラを理由とした契約解除(退塾)を法的に有効とするには、契約書や重要事項説明書に「著しい暴言や過剰、不当な要求等により信頼関係が破壊された場合」といった具体的かつ妥当な解除事由をあらかじめ明記しておくことが不可欠です。
明確な規定がないまま口頭対応のみで解除に踏み切ると、受講者側から解除の無効や不当性を主張され、かえってトラブルが拡大するリスクがあります。「関係悪化が怖い」という現場の心理的ハードルに対しても、契約書上に「客観的なルール」として明確に定めておくことが、現場スタッフを守り、毅然と対応するための強力な法的根拠かつ心の支えになります。
カスハラ防止措置義務化に「対応できていない」が7割以上
2026年10月に施行されるカスハラ防止措置義務化について、対応状況を尋ねたところ、「内容まで知っており、具体的な対応を進めている」との回答はわずか23.3%にとどまりました。裏を返せば、7割以上が具体的な対応を進められていないことになります。
回答の内訳を見ると、「知っているが、具体的な対応はできていない」が37.4%と最多で、「知らなかった」も34.4%存在しており、認知の有無にかかわらず、法改正への対応が追いついていない教室が大半を占める実態が明らかになりました。

対策を進める上での課題としては「保護者・受講者との関係悪化が怖い」が20.7%、「何がカスハラにあたるかの判断基準が不明確」が19.3%と上位を占めました。

【南 陽輔弁護士コメント】
防止措置義務化で事業者に求められる対応とは
2026年10月施行の改正労働施策総合推進法により、全事業主にカスハラ防止措置が義務付けられます。求められる対応の最低ラインは「組織として毅然と対応する旨の方針の明確化、周知」「相談体制の整備」「適切な対応のためのマニュアル等の整備」の3つです。
未対応の事業者がまず着手すべき優先順位は、現場に一人で対応させないための相談体制の構築と従業員への周知です。どのような行為がカスハラに当たり、それにどう対処するのか具体例を盛り込んだ一次対応マニュアルの策定も行うべきでしょう。これらの対応を怠った場合、行政からの指導・勧告の対象となり、従わない場合は事業者名が公表されるリスクがあります。
契約書は今も「紙中心」が5割超、課題が解約・返金トラブルにも波及
こうした課題の根底にあるのが、契約書・重要事項説明書の交付方法です。
現在の交付方法を尋ねたところ、「すべて紙で交付している」27.5%、「主に紙で交付しているが、一部電子化している」24.8%と、紙を中心とした運用が合計52.3%を占めました。一方、「主に電子で交付しているが、一部紙で交付している」10.7%、「すべて電子で交付している」6.9%と、電子化が主体の教室は17.6%にとどまっています。

さらに、紙を中心に契約書を運用している教室(183名)に課題を聞くと、最も多かった回答は「保護者・受講者への説明・同意取得(郵送・押印・回収)に時間がかかる」の35.5%でした。次いで「紙の保管・管理が煩雑・属人化している」が29.5%、「書面の作成・更新に時間がかかる」が24.0%と続きます。

この負担は解約・返金トラブルにも波及しています。
直近1年での解約・返金トラブル経験者(130名)のうち、「契約時の不備等により解約・返金トラブルになったことがある」と回答した40名に詳しく原因を聞いたところ、「契約書・重要事項説明書の内容が不明確・不十分だった」55.0%、「口頭での説明のみで認識の相違が生じた」45.0%が上位を占めました。

契約内容が保護者・受講者に正しく伝わらず記録にも残らない、紙運用ならではの構造的な問題が、トラブルやカスハラの温床になっていると言えるでしょう。
電子契約導入企業が実感する効果は「コストの削減」と「トラブル防止」
一方、契約書を電子化している事業者(計161名)に導入の効果を聞くと、回答結果の上位は以下の通りです。
- 紙の保管・管理コストの削減:28.0%
- 解約・返金トラブルの防止・記録の明確化:21.1%
- 特定商取引法への対応:19.9%
- カスハラ対応の証拠保全・トレーサビリティの向上:18.6%
- 保護者・受講者の利便性向上:16.8%
契約内容を電子データとして残すことがトラブル防止や証拠保全につながるといえます。
<南 陽輔弁護士コメント>
契約書・重要事項説明書の記載不備は、事業者側に不利にはたらくリスクがある
学習塾等の特定継続的役務提供では、契約書面や概要書面の記載に不備があると特定商取引法違反となり、8日間のクーリング・オフ期間経過後でも契約解除に応じざるを得ない大きなリスクを負います。
口頭説明のみで認識の相違が生じた場合、裁判等の法的手続きでは「説明した事実」の立証責任を負う事業者側が極めて不利になります。
電子契約を導入すれば、説明・合意の事実や日時、同意内容が改ざん不可能な形で明確に残るため、トラブルを未然に防止し、万一の際も事業者の正当性を証明する強力な証拠となるでしょう。
まとめ:カスハラ対策の第一歩は「契約書の電子化」から
今回の調査から見えてきたのは、学習支援業におけるカスハラが決して一部の教室に限った問題ではなく、業界の半数以上が経験する日常的なリスクであるという実態です。そしてその対応力を左右する要因のひとつが、契約書・重要事項説明書の運用方法にあります。
- カスハラを理由に契約解除を検討しても、35.8%が「契約書上の根拠が不明確」で実行できていない
- 解約・返金トラブルを経験した教室の3割超が「契約時の何らかの不備」を原因に挙げ、その過半数が契約内容の不明確さによるものだった
- 紙中心の運用は、説明・同意取得や契約書の保管・管理に多くの工数を要している
- 電子契約を導入した教室は、トラブル防止やカスハラ対応の証拠保全に効果を実感している
カスハラ対策のために社内研修や相談窓口を整備することはもちろん重要ですが、それだけでは「いざという時に対応できない」というカスハラの根本課題は解決しません。
契約書・重要事項説明書の内容を明確にし、交付・保管・変更履歴までを電子データとして一元管理できる体制を整えることが、カスハラ対策の実効性を高める土台になるといえそうです。
なお、弁護士ドットコム株式会社が提供する電子契約サービス「クラウドサイン」は、契約締結から書面の保管、変更履歴の管理までをオンラインで一元化できるサービスです。
契約内容や同意取得の記録が明確に残るため、解約・返金トラブルの防止はもちろん、カスハラ発生時に契約上の根拠を持って説明する際の備えにもなります。
紙の管理・郵送対応にかかっていた時間を削減しながら、カスハラ対策の実効性を高める第一歩として、契約書の電子化を検討してみてはいかがでしょうか。
クラウドサインでは、はじめて電子契約をご検討される方に向けた資料も無料でご提供しています。気になる方はぜひ以下からダウンロードしてください。
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調査概要
| 項目 | 内容 |
| 調査名 | 教育・学習支援業界におけるカスタマーハラスメントの実態と 契約書・書面交付に関する課題の把握 |
| プレスリリース | <教育・学習支援業界におけるカスハラ・契約業務の実態調査>カスハラ経験者の約4割、「契約書の根拠がなく退塾させられなかった」<教育・学習支援業界におけるカスハラ・契約業務の実態調査>カスハラ経験者の約4割、「契約書の根拠がなく退塾させられなかった」 |
| 調査対象 | 学習塾・予備校・英会話教室・教養技能教授業等に勤務し、 経営者・教室長または現場講師・スタッフとして従事する担当者 |
| 有効回答数 | 262名 |
| 調査期間 | 2026年8月24日〜2026年8月28日 |
| 調査方法 | インターネット調査 |
| 調査企画・実施 | 弁護士ドットコム株式会社 |
| 調査レポート | 詳細なレポートはこちらからダウンロードできます。 |
この記事の監修者
南陽輔
弁護士
大阪大学法学部、関西大学法科大学院卒業。2008年弁護士登録、2021年独立開業(大阪弁護士会所属)。大阪市内の法律事務所に勤務し、民事訴訟案件、刑事事件案件など幅広い領域の法律業務を担当していました。2021年3月に一歩法律事務所を設立し、一歩法律事務所では、契約書のチェックや文書作成、起業時の法的アドバイス等、予防法務を主とした業務を取り扱っております。
この記事を書いたライター
弁護士ドットコム クラウドサインブログ編集部
電子契約サービス「クラウドサイン」を運営する、弁護士ドットコム株式会社の編集部です。電子契約・電子署名法・電子帳簿保存法のほか、契約管理、契約審査・レビュー、AIを活用した法務業務の効率化について解説しています。法令の解釈にかかわる記事で弁護士等の専門家による監修を受けている記事には、記事末に監修者名を表示しています。
