法的効力とは?契約書やその他の書類について解説
契約を結ぶうえで重要なのが「法的効力」です。法的効力は、単なる口約束などとは異なり、契約の内容が法律上の拘束力を持ち、当事者がその義務を履行しなければならないということを意味します。
法的効力がなければ、約束を守らなくても法的に責任を問えず、トラブル時に泣き寝入りとなる可能性もあります。
契約書を作成することで、合意内容を明確にし、契約の存在と内容を証明する強力な証拠として残すことができます。
ここでは、法的効力や法的拘束力の意味、法的効力があることを証明する契約書などについて説明します。
目次
契約締結により発生する法的効力とは
まずは、法的効力の言葉の意味や、混同されやすい法的拘束力の違いについて説明します。
法的効力とは
法的効力とは、契約や法律行為に対して法的な効果が認められることを意味します。
たとえば、売買契約が有効に成立すれば、「代金を支払う義務」や「商品を引き渡す義務」といった法的な効果が発生します。
当事者間の合意が法的に有効であれば、その内容に対して法的な責任が生じます。
法的効力と法的拘束力の違い
法的効力と法的拘束力は似た意味で使われることが多いですが、厳密には異なります。
法的効力は、ある行為や合意が法律上の効果が発生することを指し、法的拘束力はその法的な効果に基づき、当事者がその契約内容や法律の規定に従わなければならない義務を負っていることを指します。
売買契約の場合の具体例を紹介します。
- 法的効力:契約により売買が成立し、所有権が売主から買主へ移転するといった法律上の効果が生じる
- 法的拘束力:上記の法的効力の結果、売主は商品を引き渡す義務を負う。もしも売主が商品を渡さない場合、買主から損害賠償請求をする権利を持つ
このように、法的効力は効果、法的拘束力は義務、と考えるとわかりやすいでしょう。
契約書そのものには法的効力はない
契約は、必ずしも書面がなければ成立しないわけではありません。 定期建物賃貸借契約(借地借家法第38条第1項)のように、契約書の作成が法的に義務付けられている契約などのような例外を除き、当事者間の意思表示が合致すれば口頭でも契約は有効に成立します。
そして、契約書は契約の法的効力を生み出すものではなく、合意があったことを証明するための書類にすぎません。
しかし、口約束の場合、後日「言った・言わない」といったトラブルが発生しやすく、合意内容を証明することが困難になるケースが多くあります。契約書は、まさにこの「合意の存在とその内容」を明確に証明するための非常に重要な証拠となります。契約書を作成することで、当事者間の認識の齟齬を防ぎ、万が一のトラブルが発生した時に自らの権利を守る助けとなるのです。
まとめると、「契約自体は口頭でも成立し、当事者間の合意があれば法的効力は発生するものの、トラブル時に契約書がある(契約の成立や内容を証明するための重要な証拠となる文書がある)ことで、法的効力を認めてもらいやすくなる」ということです。
法的効力が発生する契約の条件3つ
契約に法的効力が生じるためには、いくつかの基本的な条件を満たしている必要があります。以下では、代表的な3つの条件を解説します。
1)当事者同士が合意していること
契約の大前提は、当事者間で自由な意思に基づく合意があることです。
どちらか一方が脅されたり、重大な勘違い(錯誤)をしていた場合には、契約が無効になる可能性もあります。
また、形式的に署名や押印がされていても、実際には同意していなかったり、内心では契約するつもりがまったくないことを相手方が知っていた・知ることができたであろう場合には、契約が成立しないこともあります。
しっかりと契約内容を理解し、納得したうえで合意することが、法的効力を持つ契約の第一条件です。
2)契約内容が違法でないこと
契約は、法律や公序良俗に反しない内容である必要があります。
たとえば、麻薬取引や暴力行為の依頼、脱税を目的とした契約などは、たとえ当事者が合意していても無効です。
また、反社会的勢力との取引契約や、違法賭博に関する契約なども、法的に保護されることはありません。
契約が有効となるためには、正当な内容であることが欠かせない条件です。
3)当事者に契約する能力があること
契約を結ぶためには、当事者がひとりで契約行為をおこなう能力があることが前提となります。
たとえば、未成年者や成年被後見人などは、法律上、自分だけで有効な契約を結ぶことができないとされています。
未成年者が契約を結ぶには、原則として親権者など法定代理人の同意が必要です。
もし無断で契約を結んだ場合、後で取り消される可能性があるため注意が必要です。
契約方法の種類とメリット・デメリット
契約は、当事者同士の自由な意思による合意で成立しますが、その合意をどのような手段で取り交わすかによって、リスクや利便性に違いが生じます。
ここでは、代表的な契約方法である「口約束・書面契約・電子契約」それぞれの特徴や、メリット・デメリットを解説します。
口約束の場合
口頭での合意だけでも、民法上は契約として成立します。特に小規模な取引や親しい間柄でのやり取りでは、手軽さとスピード感がメリットです。
ただし、証拠が残らないため、後から「言った・言わない」のトラブルになりやすく、立証も困難です。
たとえば、工事の依頼や報酬額を口頭で決めた場合、内容が食い違っても記録がないため、法的な紛争に発展する可能性があります。
重要な取引や継続的な契約では、口約束で済まさないことが重要です。
書面契約の場合
書面による契約は契約内容を明文化できるため、後の紛争予防や証拠保全に大きな効果を発揮します。
文面を通じて内容を確認できるため、当事者同士の誤解を防ぎ、法的な効力を主張しやすくなります。
一方で、契約書の作成やチェック、保管には一定の手間がかかります。
たとえば、契約書を印刷して署名・押印し、郵送でやり取りするケースでは、時間もコストも発生します。また、保管のためにオフィスのキャビネットを用意したり、倉庫を利用するための保管料が発生したりするなど、保管のコストも見逃せません。
それでも、契約内容が物理的な書面として残るという点では非常に信頼性が高い手段です。
電子契約の場合
電子契約は、パソコンやスマートフォンなどによりオンライン上で契約を締結できる方法です。ペーパーレス化やDX化に伴い、近年ビジネスの現場で急速に普及しています。
電子契約を利用した場合、契約書のやり取りが郵送ではなくインターネット上での電子データによる受け渡しになるため、契約書の送信から締結までを即時に完了できます。
また、電子契約の場合は印紙税が不要になるため、コスト削減のメリットがあります。
また、電子署名やタイムスタンプで法的効力も担保されており、安全性も高いのが特徴です。
ただし、高齢者や一部の企業では紙文化への根強い信頼から電子契約の受け入れに抵抗を示すケースもあるため、導入にあたっては、取引先の理解を得ることが重要です。
電子契約について詳しく知りたい方は、下記記事もご一読ください。
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ダウンロードする(無料)契約書や覚書などの書類を作成する理由
口約束だけでも契約は成立しますが、時間が経つにつれて記憶が曖昧になったり、お互いの認識にズレが生じトラブルにつながることがあります。
ここでは、なぜ契約書や覚書などの書類を作成すべきかという点について改めて解説します。
合意があったことを証明できるから
契約書や覚書を作成する最大の目的は、当事者間に合意があった事実を明確に証明できるようにするためです。
たとえ口頭で契約が成立していたとしても、後日その事実を証明するのは困難です。
書類として残しておくことで、合意の有無や条件を客観的に示すことができます。
記憶違いや「言った・言わない」を防止できるから
時間が経つと、どんなに重要なやり取りでも人の記憶はあいまいになります。
特に口頭だけで交わされた約束は、「言った・言わない」の認識のズレが生じやすく、トラブルの原因になります。
書面があれば、事実関係を明確に立証できます。
契約の細部や詳細を整理できるから
契約には金額や納期、責任範囲など、細かい条件が複数含まれることが一般的です。
これらを口約束ですべて取り決め、記憶しておくのは難しく、誤解を生む原因になります。
書面化することで、双方が合意した内容を整理し、抜けや漏れのない形で明文化できます。
社内・法務・監査・税務処理の証憑となるから
契約書は、社内決裁の根拠や、監査・税務調査の際に必要な証憑資料にもなります。
契約の存在が確認できなければ、費用計上や売上認識が否認されるリスクもあります。
社内外における取引の透明性や信頼性を担保するためにも、書面作成は重要です。
ビジネスでよく使われる契約書と法的効力の内容
ここからは、ビジネスで普段よく使われる契約書と、締結することにより発生する法的効力や法的拘束力について説明します。
業務委託契約書
業務委託契約は、業務の遂行を外部の個人や法人に依頼する際に締結する契約です。
委託する業務の範囲や報酬、納期などを明記し、履行義務や責任範囲を明確化します。
たとえば納期遅れなど、契約に違反すれば損害賠償請求の対象になるなど、強い法的拘束力があります。
業務委託契約書について詳しく知りたい方やひな形を探している方は下記記事もご確認ください。
売買契約書
売買契約書は、商品の売買に関する条件を定める契約書です。
商品名や数量、金額、納品日、代金支払条件などを明記し、売主には引渡義務、買主には代金支払義務が発生します。
商品の個数や契約の規模によっては口約束でも十分ですが、書面化することで法的トラブルを防ぎやすくなります。
売買契約書とはどんな契約なのかや書き方を詳しく知りたい方は下記記事をご確認ください。
秘密保持契約書(NDA)
秘密保持契約書(NDA)は、取引先などと情報を共有する際、漏えいを防ぐために締結します。
秘密の定義や保持期間、違反時の損害賠償などを定め、受領者には秘密情報の第三者への漏えい禁止という法的義務が生じます。
秘密保持契約書について詳しく知りたい場合は下記記事をご覧ください。
取引基本契約書
取引基本契約書は、継続的な取引を行う前に、契約全体のルールや枠組みを定めておくための契約書です。
支払い方法や納期、瑕疵対応、契約解除条件などを網羅的に定め、個別契約のベースとなります。
将来の紛争回避や解決に向けた重要な法的基盤となります。
基本契約書について詳しく知りたい方は下記記事をご一読ください。
雇用契約書
雇用契約書は、従業員を雇用する際に労働条件を定める契約書です。
勤務時間、給与、業務内容、解雇条件などを明記し、労働基準法に基づいて締結されます。
雇用主には労働条件の遵守義務があり、契約違反があると労働審判や訴訟の対象となる場合もあります。
雇用契約書について詳しく知りたい方は下記記事も参考にしてみてください。
ライセンス契約書
ライセンス契約書は、特許・著作権・商標などの知的財産権を他者に使用させる契約です。
使用範囲、対価、期間、独占性の有無などを明確にし、ライセンスを受けた側には使用権が発生します。
不正使用があれば契約解除や損害賠償責任を問われる可能性があります。
誓約書
誓約書は、当事者が特定の行動を誓約する意思を示す文書です。
法的拘束力は内容によりますが、業務上の秘密保持、反社会的勢力との関係否定などが記載されていることが多く、違反があれば損害賠償などの責任が問われる場合があります。
誓約書について詳しく知りたい方は下記記事も確認してみてください。
証拠力のある契約書を作るためのポイント
証拠力のある契約書を作るうえで重要なことは、トラブルが生じた際に、契約内容や期間などを明確に証明できるようにしておくことです。ここでは証拠力のある契約書を作るためのポイントを解説します。
契約の当事者を正確に記載する
契約書では、契約を結ぶ当事者の名称や住所を正確に記載することが大前提です。
法人であれば正式な会社名と本店所在地、個人であれば氏名と住所を記載します。
表記ミスや略称の使用は、契約の当事者を特定できない原因となり、後にトラブルに発展することもあります。
また、屋号と法人名を混同しないよう注意が必要です。
契約内容(義務・対価)を明確に記載する
契約書では、「誰が・何を・どのように行うか」「何を受け取るか」といった義務と対価を、できる限り具体的に記載する必要があります。
たとえば「あらゆる業務を行うものとする」では業務範囲が曖昧で、何を依頼できるのか明確になりません。
また、「納期は1か月くらいとする」といった記載では、遅延時に契約違反を問えるか不明確です。
「○月○日までにAという成果物を納品する」「対価として税込○円を指定口座に振り込む」といった具体的な表現を用いることで、認識のズレを防ぎ、トラブルを未然に防げます。
契約の開始日・終了日・有効期間を明記する
契約書には必ず、効力が生じる日(契約開始日)と終了日、または有効期間を記載しましょう。
とくに継続的な契約では「自動更新するかどうか」などの条件も明記する必要があります。
期間が不明確だと、契約がいつまで有効なのかで揉める可能性があります。
双方が署名・押印する
契約が当事者の合意に基づいて締結されたことを証明するためには、署名や記名押印が必要です。
これにより、契約内容に同意したという意思を文書に明確に示すことができます。
現在では電子契約の普及により、電子署名をもって押印と同等の効力を持たせることも可能になっています。
どちらの場合でも、確実に本人が確認した証跡を残すことが大切です。
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まとめ
契約には法的効力と法的拘束力が伴い、当事者には契約内容や法律の規定に従わなければならない義務が発生します。
契約は口約束でも成立しますが、後々のトラブルを防ぐためには契約書で証拠を残すのが基本です。
契約書には契約内容を正確・具体的に記載することによって、認識のズレなどから発生するトラブルを未然に防ぐことができます。
そのため、契約書を作成することが求められますが、従来のような紙で契約書を締結する際には、契約書を印刷し、必要に応じて製本し、署名捺印のために相手方へ郵送し、そして返送してもらうといった一連の作業が発生します。この作業には、時間だけでなく郵送費や印刷費、人件費といったコストもかかります。このような紙の契約における手間やコストを削減できるのが電子契約です。
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2008年関西学院大学大学院情報科学専攻修了。法科大学院を経て、2011年司法試験合格、2012年弁護士登録、2022年Adam法律事務所設立。現在は、青年会議所や商工会議所青年部を通じた人脈による企業法務、太陽光問題、相続問題、男女問題などに従事する。趣味は筋トレやスニーカー収集。岡山弁護士会所属、登録番号47482。
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