取締役会議事録を電子化する際の定款・社内規程変更チェックポイント

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経営トップの同意を得て、取締役会議事録を電子化することになりました。最初のタスクは、電子化に向けた社内規程の確認と必要に応じた変更作業です。どの規程をどう変更・改定すべきか、筆者の取組みをご紹介します。

議事録電子化スモールスタートの理由

取締役会議事録について、将来的には、全グループ会社で完全な電子化を目指す」というのがトップからの指令ですが、手始めに、子会社の取締役会議事録からスモールスタートで着手することとしました。

所属先が取締役会議事録のハンコ集めに苦労していることは、以前にご紹介しました(関連記事:電子契約サービスは取締役会議事録にも応用可能―脱「ハンコ集め」)。ハンコ集めの負担が大きいのは、社外役員がいる上場企業(親会社)のほうです。したがって、電子化のメリットを最も享受するには、親会社の取締役会議事録を登記申請に使うものまで完全に電子化すべきでしょう。

しかしながら、次の理由により、子会社の定例取締役会から移行することに しました。

理由1:社外役員などに説明が必要

一つめは、社外役員や年配の役員に導入の理由や効果、使用方法を説明するために、率直な意見を聞くことができる子会社で十分なシミュレーションをしたほうがよいと考えた ためです。

普及している電子契約サービスは、誰でも直感的に利用できるようにUI・UXが設計されており、一度試せば便利さを実感できます。しかし、筆者の所属先には「PCは使わない」という役員もいるため、使い方の十分な説明が必要です。

また、社外役員には(年配の)弁護士もいるので、理論武装もしなければなりません。説明自体は今すぐ可能ですが、「よそはどうなの?」と言われる可能性が高いので、サービス提供事業者からの情報収集も必要でしょう。

理由2:商業登記電子証明書等の取得が必要

2点目の理由は、取締役会議事録のすべてを完全に電子化しようとすると、所定の電子証明書の取得が必要 なことです。

具体的には、代表取締役の変更登記申請に添付する取締役会議事録を電子化する場合に、所定の電子証明書の取得が必要です。「所定の電子証明書」は、以前は商業登記電子証明書一択でしたが、2021年2月の商業登記規則の改正により、マイナンバーカードなどにも選択肢が広がっています(関連記事:改正商業登記規則と法務省通達によるクラウドサイン登記の拡大)。

選択肢が広がったことはとても好ましいですが、筆者の所属先の場合は、次の理由から商業登記電子証明書を取得するほうがよいように感じています。

自社の代表者であることを証明してくれる 自社で保管や取得のコントロールができる(マイナンバーカードの場合、代表者本人に携帯・更新してもらわないといけない)

所属先は取締役の任期が1年であり、毎年代表取締役の変更登記申請が発生するので、次回までに取得するつもりです。

商業登記電子証明書の取得もなかなか一筋縄ではいかないと聞き億劫でしたが、最近はその面倒な部分をリーズナブルな価格で代行してくれるサービスもあるので心強いです(関連記事:印鑑証明書とは?印鑑証明書取得実務と効率化の方法)。

理由3:議事録の共有範囲の検討が必要

3点目の理由は、電子署名された後の取締役会議事録の共有範囲を慎重に検討したいため です。

電子化する場合、事務局が申請者となって出席役員を電子署名者に設定し、順次電子署名していきます。そして、クラウドサインであれば、全員の電子署名後、申請者を含む電子署名を行った全員に完了の通知が届き、電子署名が施された取締役会議事録の閲覧・ダウンロードが可能です。

クラウドサインでは、申請者が所属するチームの書類管理者は、チームメンバーが申請した書類をすべて閲覧できます。したがって、適切にチームや管理権限を設計しないまま利用してしまうと、契約管理担当者など本来なら取締役会議事録を閲覧し得ない従業員の閲覧・ダウンロードを可能にしてしまいます。

また、書面であれば原本は1部しかないので、施錠可能なキャビネットに保存しておけば持ち出しを心配する必要はありません。しかし、電子化した場合には、電子署名者全員に取締役会議事録の原本が配布されるので、外部流出のリスクが理論上高まります。社外でダウンロードされたファイルがどのような環境に保存されるかを会社では把握しきれません。

申請者以外はダウンロードできないようにするとか、締結完了は申請者だけに通知して他の電子署名者にデータの共有をしないといった選択肢が増えると事務局としてはありがたいです。

その他の理由:書面を要求される可能性など

電子化を先送りすべき理由ではありませんが、そのほか、電子化への移行に当たって検討が必要な事項として、取引関係者が議事録のコピーを求めた場合の対応 があります。

クロスボーダーのM&Aでは、クロージングの引渡書類として、取引を承認し、クロージングの実行権限を代表取締役に一任する旨決議した取締役会議事録のコピーの提出が求められることがあります。

当然英訳が必要で、さらに慎重な相手方は、取締役会議事録のコピーとその英訳文にアポスティーユ認証を求めます。アポスティーユ認証はまだ電子化されておらず、書面でないと受けられないため、電子化移行後もそのような場合だけは書面で作成するといった対応が必要でしょう。

もちろん、いつあるかもしれないケースのために電子化を見送るべきではありません。

ほかにも、電子化するに当たって検討やクリアしなければならない課題が出てくるかもしれないので、やはり子会社からスタートしてシミュレーションするのが賢明だと考えました。

定款変更の必要性をチェック

『会社議事録・契約書・登記添付書面のデジタル作成実務Q&A 電子署名・クラウドサインの活用法』(日本加除出版, 2021)には、議事録の電子化に当たって、定款のチェックを薦めています。

定款において押印ルールを記載していないかも、念のため確認しておいたほうがよいでしょう。(31頁)

上場企業の多くが参照する全国株懇連合会の定款モデル(通称「株懇モデル」)には、取締役会議事録に関する押印の定めはありません。所属先本体の取締役会議事録も、押印に関する規定はありませんでした。

ところが、書籍の記載を参考に、念のため子会社の定款を確認してみると、次のようになっていました。

取締役会の議事の経過の要領及びその結果並びにその他法令で定める事項については、これを議事録に記載し、出席取締役及び出席監査役はこれに記名押印しなければならない。

電子署名が認められていない時代の定款は、このような記載が通常だったことが考えられます、現行会社法では電子署名が認められているので、意図せず会社法の要件を加重していることになります。

そのため、この定款の定めは親会社に合わせて削除を予定しています。

取締役会規程の変更の必要性をチェック

取締役会議事録の作成作法は、取締役会規程で定めるのが一般的です。多くの企業は、取締役会規程に上記のような定めを設けているのではないでしょうか。

筆者の子会社では、定款だけでなく取締役会規程にも同内容の定めがありました。定款とは異なり、電子化に当たって取締役会規程から議事録に関する定めをそっくり削除するのは違和感があるので、以下のように変更する予定 です。

取締役会の議事の経過の要領及びその結果並びにその他法令で定める事項については、議事録に記載又は記録し、出席取締役及び出席監査役はこれに記名押印又は電子署名しなければならない。(下線は上記からの変更部分)

取締役会規程の変更は、効力発生時期に特別の条件をつけなければ、取締役会で承認された時に効力を生じます。したがって、取締役会規程の変更を決議した取締役会の議事録から早速電子化できます。

その他議事録に関連する社内規程変更の必要性をチェック

定款と取締役会規程さえ押さえれば、取締役会議事録の電子化に向けた社内規程の確認は完了したといっても差し支えないでしょう。

とはいえ、念のため押印や書面の保存に関する社内規程も確認しておきましょう。

印章管理規程で押印を義務付けていないか

筆者の場合、印章管理規程には制限的な定めはありませんでしたが、厳格な印章管理規程(押印規程)を持つ企業では、自社で作成する公式な書類には以下のような規定を設けて押印を義務付けている場合がある そうです。

会社に権利義務を発生させる文書には、この規程に従い印章により押印しなければならない。

一見、議事録の電子化のためには変更が必要そうですが、書面で作成している現在も、議事録は印章管理規程の射程外といってよいと考えます。

というのも、一般的な印章管理規程では、議事録に用いるべき印章について特段の定めはなく、部門長を兼任する役員も部門長印ではなく認印を議事録に押捺することが一般的だからです。したがって、取締役会議事録を電子化するためだけに印章管理規程を変更する必要まではないといえそうです。

もっとも、電子契約の導入も見据えるならば、印章管理規程の変更は検討すべきでしょう。以下の記事では、電子署名に対応した規程の作成ポイントやサンプルを入手することができます。

関連記事:電子署名管理規程の作り方—サンプル規程Wordファイル付き

文書管理規程の保存場所・保存期間はどうなっているか

取締役会議事録は、会社法上10年間の本店備置義務があります(会社法371条1項)。

しかし、多くの企業では、文書管理規程で法定の10年よりも長い期間の議事録保存を義務付けているのではないでしょうか。筆者の所属先も、議事録はすべて「担当部署」で「永久保存」と定められています。

電子化すると「保存場所」の観念が難しくなりますが、担当部署においてディスプレイに表示できたり、印刷できたりすれば保存できていると解釈して差し支えないでしょう。

気になるのは保存期間です。電子署名の信頼性は高度な暗号化技術により成り立っていますが、技術の進歩により暗号の安全性が脅かされるリスク(危殆化リスク)があり、長期署名を施しても改変されていないことを確認できるのは10年が限界です。その後も10年置きに長期署名を施していくべきでしょうか。

10年間安全に保存すれば、法令上の備置義務は果たされるため、その後は改めて長期署名をしないという選択肢もあり得るでしょう。10年後には技術が様変わりしている可能性もあります。

紙ベースの業務を前提とした社内規程が議事録電子化のハードル

子会社の取締役会議事録の電子化は、定款や取締役会規程の変更が必要であるものの、登記申請など対外的な手続が必要になるわけではないので、作業負担はさほど重くはありません。

しかし、関連規程を改めてチェックしてみると、社内規程が紙ベースの業務を前提にしていることに、改めて気付かされる ことになるでしょう。

取締役会議事録の電子化に当たっては、それらの規程が取締役会議事録まで射程に入れているのか、厳格に捉えすぎずに柔軟に考えながら進めていくのがよいでしょう。

(文・イラスト:いとう)

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