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契約実務

【無料ひな形付き】吸収分割契約書とは?主な記載事項や注意点を弁護士が解説

M&Aの手法の一つである吸収分割を行う際には「吸収分割契約書」を締結します。会社法によって規定が義務付けられている事項を含めて、取引の条件を明確に定めましょう。

本記事では吸収分割契約書について、主な記載事項や注意点などを弁護士が解説します。

また、弁護士監修による吸収分割契約書のひな形は下記のリンクからダウンロード可能です。ただし、実際に吸収分割契約書を作成する際には、ひな形をそのまま用いるのではなく、取引条件の反映などの調整を行ってください。

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吸収分割契約書とは

「吸収分割」とは、株式会社または合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を分割し、他の会社に承継させることをいいます(会社法2条29号)。

吸収分割を行う際には、その条件などを定めた「吸収分割契約」を締結します。「吸収分割契約書」は、吸収分割契約の内容を明記した書面に当たります。吸収分割は大規模な取引なので、吸収分割契約書によって条件を明確化することがきわめて重要です。

吸収分割契約書の主な記載事項|例文も紹介

吸収分割契約書には、主に次の事項を定めます。

①吸収分割をする旨
②承継する権利義務に関する事項
③承継する株式に関する事項
④吸収分割の対価に関する事項
⑤増加する資本金及び準備金等に関する事項
⑥吸収分割会社の新株予約権の取り扱い
⑦吸収分割の効力発生日
⑧吸収分割承認総会
⑨実行前提条件
⑩表明保証
⑪遵守事項
⑫その他

株式会社同士の吸収分割を想定し、各事項について例文を示しながら解説します。

吸収分割をする旨

(例)
第1条 (吸収分割)
甲は、効力発生日(第7条で定義する。以下同じ。)において、その経営する事業のうち、○○に係る事業に関して有する一切の権利義務を乙に承継させ、乙はこれを承継する(以下「本分割」という。)。

当事者を示したうえで、吸収分割をする旨を明記します。上記の例では、甲が自社の事業を切り出す側(=吸収分割会社)、乙が切り出された甲の事業を吸収する側(=吸収分割承継会社)に当たります。

承継する権利義務に関する事項

(例)
第2条 (承継する権利義務に関する事項)
甲が本分割により乙に承継させる資産、負債、契約その他の権利義務(以下「分割承継権利義務」という。)は、別紙1(分割承継権利義務)記載のとおりとする。分割承継権利義務に含まれる債務は、乙が免責的にこれを引き受ける。別紙1(分割承継権利義務)
本分割により、乙が甲から承継する権利義務は、次に掲げるものとする。ただし、従業員の具体的な処遇については、甲乙の協議によって別途定める。① ……
② ……
③ ……

吸収分割によって切り出し、承継させる権利義務の内容を明記します。

承継の対象となるもの例としては、資産・負債・契約などが挙げられます。これらを具体的に特定するか、または範囲を指定することによって特定します。

承継する株式に関する事項

(例)
第3条 (承継する株式に関する事項)
本分割に関し、乙は、甲又は乙の株式を承継しないものとする。

吸収分割承継会社が、吸収分割会社の株式または吸収分割承継会社(=自社)の株式を承継する場合は、その承継に関する事項を定める必要があります。

上記の例では、乙は甲または乙の株式を承継しないものとしています(承継しない旨の規定は必須ではありませんが、念のため定めています)。

吸収分割の対価に関する事項

(例)
第4条 (本分割の対価として交付する金銭等に係る事項)
1. 乙は、本分割に際して普通株式〇株を発行し、効力発生日の前日における最終の甲の株主名簿に記載された株主に対し、その所有する甲の株式1株につき、乙の株式〇株の割合をもって割当交付する。
2. 乙は、吸収分割登記の完了後遅滞なく、効力発生日の前日における最終の甲の株主名簿に記載された株主に対し、その所有する甲の株式1株につき○円の金銭を支払う。

吸収分割会社の株主に対して、吸収分割の対価を交付する場合は、その内容を定めます。

上記の例では、1項で株式の交付、2項で金銭の支払いを定めています。対価を株式のみとすることや、金銭のみとすることも可能です。また、対価を交付しないこともできます(=無対価分割)。

増加する資本金及び準備金等に関する事項

(例)
第5条 (増加する資本金及び準備金等に関する事項)
本分割により増加する乙の資本金、資本準備金、利益準備金及び任意積立金その他の留保利益の額は、次のとおりとする。
① 資本金
○円
② 資本準備金
○円
③ 利益準備金
○円
④ 任意積立金その他留保利益
○円

吸収分割に伴い、吸収分割承継会社の資本金・資本準備金・利益準備金・任意積立金その他留保利益の額が増加する場合は、増加額を記載します。会計上の検討に当たっては、公認会計士や税理士に相談してください。

吸収分割会社の新株予約権の取り扱い

(例)
第6条 (甲の新株予約権の取り扱い)
【乙の新株予約権を交付する場合】
乙は、本分割に際して新株予約権〇個を発行し、効力発生日の前日における最終の甲の新株予約権原簿に記載された新株予約権者に対し、その所有する甲の新株予約権1個につき、乙の新株予約権〇個の割合をもって割当交付する。なお、当該新株予約権の内容は別紙2(新株予約権要項)によって定める。
【金銭を支払う場合】
乙は、吸収分割登記の完了後遅滞なく、効力発生日の前日における最終の甲の新株予約権原簿に記載された新株予約権者に対し、その所有する甲の新株予約権1個につき○円の金銭を支払う。

吸収分割会社が新株予約権を発行しているときは、その取り扱いについて定めます。

吸収分割会社の新株予約権者に対しては、吸収分割承継会社の新株予約権を交付するか、または金銭を支払うのが一般的です。上記の条文例を参考にしてください。

吸収分割の効力発生日

(例)
第7条 (効力発生日)
本分割が効力を生ずる日は、○年○月○日とする(以下「効力発生日」という。)。ただし、吸収分割手続きの進行に関する必要性その他の事由によりやむを得ないときは、甲乙協議のうえで効力発生日を変更することができる。

吸収分割の効力発生日を定めます。会社法上の手続きなどを踏まえて、余裕をもったスケジュールを設定しましょう。

吸収分割承認総会

(例)
第8条 (吸収分割承認総会)
甲及び乙は、○年○月○日にそれぞれ臨時株主総会(以下「吸収分割承認総会」という。)を招集し、本契約の承認その他の吸収分割に必要な一切の事項に係る決議を求めるものとする。ただし、吸収分割手続きの進行に関する必要性その他の事由によりやむを得ないときは、甲乙協議のうえで吸収分割承認総会の招集日を変更することができる。

吸収分割を行う際には原則として、吸収分割会社と吸収分割承継会社の双方において、株主総会の特別決議で承認を得なければなりません。吸収分割契約書では、株主総会の招集日を記載しておきましょう。

なお、簡易分割や略式分割の要件を満たしている場合は、株主総会決議は不要です。

実行前提条件

(例)
第9条 (実行前提条件)
本分割の効力は、効力発生日までに、次に掲げる条件すべて成就していることを停止条件として生じるものとする。
① 次条第1項に基づく甲の表明及び保証に係る事実が、重要な点においてすべて真実かつ正確であること。ただし、乙は自らの裁量により、当該表明及び保証の全部又は一部を免除することができる。
② 次条第2項に基づく乙の表明及び保証に係る事実が、重要な点においてすべて真実かつ正確であること。ただし、甲は自らの裁量により、当該表明及び保証の全部又は一部を免除することができる。
③ 甲の吸収分割承認総会において、本契約の承認その他の吸収分割に必要な一切の事項に係る決議がなされており、当該決議が記載された議事録の写しを乙が受領していること。
④ 乙の吸収分割承認総会において、本契約の承認その他の吸収分割に必要な一切の事項に係る決議がなされており、当該決議が記載された議事録の写しを甲が受領していること。
⑤ 前各号に掲げるもののほか、本分割に必要な一切の手続きが完了していること。
⑥ 前各号に掲げるもののほか、甲及び乙が相手方に関する重要な書類をすべて受領していること。
⑦ ……

吸収分割の効力発生日までに充足すべき前提条件を明記します。

主な実行前提条件の内容は、表明保証の真実性・正確性、吸収分割に必要な手続きの完了、重要な書類の交付などです。また、デューデリジェンスによって懸念事項が生じた場合は、吸収分割会社側の実行前提条件としてその是正などを定めます。

表明保証

(例)
第10条 (表明及び保証)
1. 甲は乙に対し、本契約締結日及び効力発生日時点において(ただし、別途時点が明示されているときは当該時点において)、以下の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。
① 甲は日本法に準拠して設立された株式会社であり、本契約を締結及び履行するために必要な能力を有している。
② 効力発生日時点において、本分割に必要な一切の手続きのうち、甲において履践すべきものがすべて完了している。
③ 甲による本契約の締結及び本契約に基づく義務の履行は、甲を当事者とする契約及びいかなる法令等にも違反せず、必要な一切の許認可等の取得が完了しており、かつ甲を拘束する判決、命令、裁定その他の処分に違反しない。
④ 甲は、本契約を締結し、又は本契約上の義務を履行することにより、甲の債権者を害する意図その他の不当又は不法な意図を有していない。
⑤ 甲は、破産、民事再生その他類似の倒産手続の開始を申し立てておらず、かつ、第三者によるかかる手続きの申立ても行われていない。甲は、支払不能若しくは支払停止又は債務超過の状態に陥っておらず、本契約上の義務の履行によってこれらの状態に陥ることもない。
⑥ 甲の株主は、甲が乙に対して別途交付する株主名簿のとおりである。当該株主には、名義株主、他人名義の株主又は暴力団員等(第15条で定義する。以下同じ。)が含まれていない。
⑦ 甲が乙に対して交付した甲の財務諸表の内容は真実かつ適正であり、貸借対照表に計上されていない簿外債務は存在せず、その他の不適切な会計処理も行われていない。
⑧ ……
2. 乙は甲に対し、本契約締結日及び効力発生日時点において(ただし、別途時点が明示されているときは当該時点において)、以下の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証する。
① 乙は日本法に準拠して設立された株式会社であり、本契約を締結及び履行するために必要な能力を有している。
② 効力発生日時点において、本分割に必要な一切の手続きのうち、乙において履践すべきものがすべて完了している。
③ 乙による本契約の締結及び本契約に基づく義務の履行は、乙を当事者とする契約及びいかなる法令等にも違反せず、必要な一切の許認可等の取得が完了しており、かつ甲を拘束する判決、命令、裁定その他の処分に違反しない。
④ 乙は、本契約を締結し、又は本契約上の義務を履行することにより、乙の債権者を害する意図その他の不当又は不法な意図を有していない。
⑤ 乙は、破産、民事再生その他類似の倒産手続の開始を申し立てておらず、かつ、第三者によるかかる手続きの申立ても行われていない。乙は、支払不能若しくは支払停止又は債務超過の状態に陥っておらず、本契約上の義務の履行によってこれらの状態に陥ることもない。
⑥ 甲の株主は、甲が乙に対して別途交付する株主名簿のとおりである。当該株主には、名義株主、他人名義の株主又は暴力団員等が含まれていない。
⑦ 甲が乙に対して交付した甲の財務諸表の内容は真実かつ適正であり、貸借対照表に計上されていない簿外債務は存在せず、その他の不適切な会計処理も行われていない。
⑧ ……

当事者双方が相手方に対し、自社の契約締結能力、財務、経営などに問題がないことを表明・保証します。吸収分割会社側の表明保証には、デューデリジェンスの結果を反映することも大切です。

遵守事項

(例)
第11条 (遵守事項)

甲は、本契約締結日から効力発生日までの間、以下の事項を遵守するものとする。ただし、事前に乙の書面による承諾を得た場合は、この限りでない。
① 善良なる管理者の注意をもって、自らの業務の執行並びに財産の管理及び運営を行う。
② 重要な財産を流出させるなど、自らの財務に重大な悪影響を及ぼす行為をしない。
③ 役員を交代するなど、自らの経営に重大な影響を及ぼす行為をしない。
④ ……

吸収分割の実行に悪影響が及び得るような行為をしてはならない旨を定めています。吸収分割契約書においては、吸収分割会社の財務や経営を健全に維持するための遵守事項を定めることが重要です。

その他

吸収分割契約書には上記のほか、次の事項などを定めます。

(例)
・吸収分割条件の変更及び契約の解除
→吸収分割の条件の変更や契約の解除ができる場合、およびその手続きについて定めます。・解除条件
→当事者の株主総会で承認が得られなかった場合や、関係官庁等の承認が得られなかった場合には、吸収分割契約が効力を生じない旨を定めます。・損害賠償
→契約違反による損害賠償責任の範囲を定めます。・反社会的勢力の排除
→暴力団員等に該当しないことや、暴力的な要求行為をしないことなどを表明・確約します。・合意管轄
→契約トラブルが生じた場合に、訴訟を提起する裁判所を合意によって定めます。

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なお、実際に吸収分割契約書を作成する際には、ひな形をそのまま用いるのではなく、取引条件の反映などの調整を行ってください。必要な事項の抜け漏れや、不適切な条項の混入などを防ぐためにも、弁護士などの専門家に確認してもらうことをおすすめします。

吸収分割契約書を締結する際のチェックポイント

吸収分割契約書を締結する際には、特に次のポイントに注意してください。

①法定記載事項がすべて定められているか
②実行前提条件・表明保証の内容は適切か

法定記載事項がすべて定められているか

吸収合併契約では、会社法の以下の条文に掲げられている法定記載事項をすべて定める必要があります。

株式会社に権利義務を承継させる吸収分割契約:会社法758条
持分会社に権利義務を承継させる吸収分割契約:会社法760条

法定記載事項は上記のとおり、吸収分割承継会社が株式会社か持分会社かによって決まります。漏れがないことを必ず確認してください。

実行前提条件・表明保証の内容は適切か

実行前提条件と表明保証の規定は、吸収分割の実質的な条件に関わるため特に重要度が高く、重点的に内容を確認する必要があります。

吸収分割会社側としては、自社の負担が重くなり過ぎないようにすることが大切です。吸収分割承継会社側としては、デューデリジェンスの結果を適切に反映することが重要となります。

吸収分割契約書に収入印紙は必要?

吸収分割契約書を紙で作成する際には、収入印紙を貼る必要があります。これに対して、電子契約であれば収入印紙は不要です。

紙で締結する場合は収入印紙が必要(第5号文書)

紙で作成された吸収分割契約書は、印紙税法上の「第5号文書」に当たるため、収入印紙を貼る必要があります。
貼付すべき収入印紙の金額は、原本1通当たり4万円です。原本を2通作成する場合は、合計で8万円の収入印紙が必要になります。

電子契約なら収入印紙は不要

電子契約によって吸収分割契約を締結する場合は、収入印紙を貼る必要はありません。電子契約で締結した契約書のPDFファイルは、印紙税法上の課税文書に当たらないためです。

たとえば、紙の場合は原本2通で8万円の収入印紙を要するところ、電子契約にすればそのコストがゼロになります。相手方と協議し、実務上の支障がないことを確認できたときは、電子契約での締結を検討してみましょう。

まとめ

吸収分割契約書には、会社法上の法定記載事項を漏れなく定めることに加えて、実行前提条件や表明保証などを適切に定めることが重要です。金額の大きな取引であることも踏まえて、締結する前によく内容を確認してください。

吸収分割契約書は、電子契約によって締結することも可能です。電子契約は収入印紙が不要で、業務の効率化にも繋がるので、積極的に導入をご検討ください。

なお、当社の提供する電子契約サービス「クラウドサイン」は、契約書はもちろんのこと、発注書・発注請書や申込書等の電子化が可能なクラウド型の電子契約サービスです。クラウドサインを導入することで、「紙と印鑑」を「クラウド」に置き換え、契約作業をオンラインだけで完結できます。

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この記事を書いたライター

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阿部 由羅

弁護士

ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。

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