「デジタルファースト」を加速するための電子署名法・商業登記法等の規制緩和の必要性

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2020年5月12日に開催された内閣府規制改革推進会議に出席し、電子契約普及のための電子署名法等の改正に関する提言を行いました。

内閣府規制改革推進会議に出席

クラウドサインにリーガルデザインチームを立ち上げてから2年。特に2020年4月以降は、テレワークの必要性の高まりを背景とした公共政策に関する発信を活発化させています。

その一環として、弊社取締役橘とともに 5月12日の内閣府規制改革推進会議成長戦略WGに出席し、電子契約普及のための法改正に関する提言を行いました

https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/meeting/wg/seicho/20200512/agenda.html 2020年5月18日

内閣府ウェブサイトでも公開されたプレゼンテーション資料から、弊社の主張をかいつまんでお伝えします。

電子署名がハンコの壁を乗り越えられなかった理由とは

電子署名を支える暗号技術が1970年代に誕生してから約50年。電子署名の効力を法的に認める電子署名法が2001年に施行されてから20年。これだけの月日と実績を重ねたにもかかわらず、電子署名の普及がすすまなかったのはなぜか?

この問いに対して、よく「日本はハンコ文化が根強いから」という答えが返ってきます。

事実、企業に電子署名を採用しない理由についてアンケートを取ってみると、社内外への説明コストの高さ を指摘する回答が5割を超えていることからも、その根強さを垣間見ることができます。

たしかに、これまでハンコで行ってきた社内業務フローや取引先との商慣習を、電子署名のためにコストをかけてわざわざ変えるのは誰にとっても面倒です。

しかし、パソコンやスマホで文書を作成するのが当たり前の現代において、それこコストと手間をかけて紙に印刷し・製本し・郵送してしまっているこの実態は、単に「文化」や「説明コスト」で片付けられるべきではない、れっきとした理由があります。

ずばり、現行の日本の法制下では、ハンコのほうがかんたんで、かつ安心だから です。

電子署名法の欠陥—押印と比較しあまりに厳格・硬直的すぎる電子署名の要件

日本では電子署名よりもハンコのほうがかんたんかつ安心と聞くと、「本来は逆で、アナログよりデジタルのほうが便利なはずでは?」と驚かれるかもしれません。

この逆説的な事実を理解するためには、民事訴訟法を電子の世界に拡張するために立法された“はず”の 電子署名法等や商業登記法等関連法が、現実には、(電子契約事業者ではなく)利用者に対してさまざまな規制を課している、という事実 を把握しておく必要があります。

以下、必要以上に厳しい規制のもと運用されている日本の電子署名のポイントを、規制がまったくと言っていいほど無いハンコによる押印と対比しながら整理 してみました。

押印 電子署名
対象文書 限定なし 個別法で厳格な書面性を要求する文書には利用できない
例: 定期借家契約(借地借家法)、重要事項説明書(宅建業法)、契約内容書面(特定商取引法)、派遣個別契約(派遣法)、取締役会議事録等の登記申請添付書類(商業登記法)など
推定効 法人・自然人の限定なく得られる 民間認定事業者の電子証明書で推定効が得られるのは自然人のみ。同法上は、住民票等を確認して行う自然人の認証業務のみを規定(法6条、施行規則5条)。法人格の存在・代表権の存在・法人代表者としての本人性等を証明する機能は、法務局が商業登記に基づく認証業務により提供(商業登記法12条の2)。
必要となるもの 印章のみ
印鑑証明書がなくとも、法的な有効性とは無関係。
「符号及び物件」として、秘密鍵・電子証明書を格納したICカード・磁気ディスク・PC等、が全当事者に必要(電子署名法3条括弧書き)
入手手段 ハンコ店、文房具店、百円ショップ、ネット通販等どこでも購入可 認証事業者から発行を受ける必要あり(法4条以下)。
代替手段 あり
手書き署名による代替が可能
なし
品質基準 なし 「特定認証事業」が採用すべき暗号方式を法定し(電子署名法施行規則2条)、主務大臣による認定制度あり(同法4条以下)。なお商業登記の申請は代表者の電子署名を法務局の認証によるものに限定し、電子署名法に基づく民間認証では不可(商業登記法12条の2、商業登記規則36条ほか)
有効期間 なし 5年以内
「電子証明書の有効期間は、五年を超えないものであること。」(施行規則6条1項4号)と規制されている。これを乗り越えるためには、長期署名と呼ばれる技術を適用する必要がある。
代理の方法 条文上で代理が想定されていることに加え、本人の印章にアクセスできれば押印代理も可。 条文上本人行為性が強く求められており、代理は想定されていない(cf電子委任状法)。

ハンコを用いて行う押印は、煩雑な手書き署名に代わって本人の意思表示をあらわす便利な手段として広まり、それが慣習化し、時代時代にあわせてそれを追認する形で、法的効力を推定する法律が制定されてきた歴史を持ちます(参考記事:ハンコによる契約を「規制」してきた法令とその変遷)。

そして、ハンコを売る事業者に対する規制や特別な手続きも特に定められず、いまや街中の百円ショップやネット通販サイトからだれでもハンコをかんたんに手に入れることができ、文字通りスタンプのようにかんたんに押せ、それでいて法律上の推定効が与えられる極めて便利な道具となりました。

一方 電子署名は、上記表のとおり電子署名法および商業登記法という硬直的な法律の規制によってその効力が限定され、提供事業者や提供方法も限定され、利用しようとする当事者全員に対しても、多大な手間・コスト・不便を強いるツールになってしまっています。

解決策としての事業者署名型電子契約とその課題

署名当事者全員が電子証明書を入手しなければならないなど、準備に手間がかかり、しかも効力が限定的という理由によって、普及がすすまなかった電子署名。

そんな中、これらの課題の大部分を解決し、誰でも・いつでも・どこでもかんたんに電子ファイルに付与できるようにしたのが、2015年以降普及しはじめたクラウド型の電子契約サービス です。

クラウド型の電子契約サービスには、それまでのローカル署名型サービスの不便さを乗り越えるためのいくつかのブレイクスルーがありました。たとえば、

  1. 事業者が電子署名するため、利用者は秘密鍵・電子証明書が格納されたICカードやソフトウェア等を事前に準備する必要がない
  2. 二要素認証や長期署名技術により、企業が求める実務レベルの安全性が低コスト担保できる
  3. 電子署名だけでなく、その前後の契約書の作成・管理システムと統合したSaaSとして、低コストで利用できる

といった点です。これにより、特に企業間の契約の世界では、スピーディさと安全さが両立したクラウド型電子契約サービスの普及が進み、グローバルスタンダードになりつあります。

しかしながら、前時代的な電子署名法の硬直的な条文は、こうしたクラウド事業者署名型の電子契約サービスを想定できていませんでした

電子署名法を管轄する官庁は総務省・法務省・経済産業省の3省となっていますが、特に法務省を中心に「サーバー上にある秘密鍵と電子証明書を用いたリモート署名は『符号及び物件』の要件を満たさない」という硬直的な条文解釈をし、加えて電子署名の実施者にも厳しい本人性を要求してきました。

このような、新しい技術やアイデアに順応せずにこれまでの印鑑行政を維持しようとする規制体質が、大企業によるクラウド型電子契約サービスの採用を躊躇させているのみならず、全世界がテレワークを余儀無くされるという未曾有の事態への対応をも困難にさせています。

デジタルファーストに向けた電子署名関連法の改正提言

以上見てきたように、現行の電子署名法は、必要以上の無謬性を求めたことで、時代の変化や昨今の危機的状況にもそぐわない法律 になっていると言わざるをえません。

日本では2019年に「デジタルファースト法」が制定され、2021年から法務局への実印登録なしに法人設立が可能とされる予定になっています。しかし、そうして設立だけ印鑑なしにできても、その後の企業活動の場面で結局行政から印鑑が求められる今の状態が変わらなければ、「デジタルファースト」の意味はまったくありません。この観点からも、電子署名法は速やかにその原則レベルから見直されるべき法律です。

たとえば米国のe-Sign法では、その冒頭に「形式が電子的だというだけの理由で法的効力を否定してはならない」という原則をはっきり定めています。欧州のeIDAS規則も、ほぼ同様の文言で原則が明記されています。彼らにとって、電子署名は手書きサインをおそるおそる代替するものではなく、サインと同等な手段なのです。

日本において、電子署名法3条を民事訴訟法228条4項の特別法としていること自体、デジタルファースト時代にそぐわない状態と言えます。裁判手続きのIT化も進む中、電子署名法や商業登記法の見直しにとどまらず、民事訴訟法をはじめとした押印ありきの法制度全体を見直すべきタイミングを迎えていると考えます。

画像: kash* / PIXTA(ピクスタ)

(橋詰)

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