電子契約の運用ノウハウ

電子契約未導入なのに取引先から電子契約を依頼されたときのチェックポイント

電子契約を自社でも導入したい。そう思っても、いざ実装するには長い道のりがあります。

自社が導入に至っていない状況で、「取引先から電子契約で締結したいと言われたが応じてよいか」と相談があった場合、法務部門はどう回答すべきでしょうか。本記事では、電子契約未導入なのに取引先から電子契約を依頼されたときのチェックポイントを解説していますので、電子契約を受信した方は参考にしてみてください。

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各種ルールに照らして電子契約が受け入れ可能か確認する

電子契約での締結を打診されたら、各種ルールに照らし、それが受け入れ可能かを確認します。

ここでいう各種ルールとは、法令はもちろんのこと、社内規程等自社で定めるルールを含みますが、その中でも特にチェックしておくべきポイントについて挙げてみたいと思います。

法令上電子化が可能か確認

まずは法令上電子化が可能か確認します。わずかですが、電子化が認められていないものがあるためです。

  • 電子化できない契約関連文書
  • 電子化に当事者の承諾等が必要な契約関連文書

については、本メディアの過去記事でもまとめられています(関連記事:電子化に規制が残る文書と契約類型のまとめリスト)。

電子契約の利用が打診されている以上、取引先の法務部門が検討してクリアしているはずですが、念のため 自社事業の所管法令を確認 しておきましょう。

社内ルール上問題がないか確認

続いて社内ルールと対象となる契約の性質を確認します。

いくら 電子契約が効率的で、法的にも有効と認められたとはいえ、社内ルールを破ることは内部統制上問題 です。そこで、電子契約の利用が社内ルールに反しないかをまず確認します。

筆者の所属先はどうなっていたかというと、「押印するときはこうする」というルールはあるものの、「契約は書面でしなければならない」というルールはなかったので、電子契約は許容されると判断しました。もっとも、文書の保存期間や方法を定める文書管理規程は紙文書のみを想定しており、「契約書は施錠可能なキャビネットに保管する」というようなルールなので、電子契約の場合はどうするのか?という問題は残ります。

いずれにせよ、今後電子契約を受信する機会は増えていく一方ですので、早期に社内規程を定めておくことは必須です。

重要度、締結権限の観点から契約の性質を確認

電子契約が禁止されていないことが確認できれば、次に、電子契約で締結しようとする契約の内容を、重要度、締結権限等の観点からチェックします。

先進的な企業では、電子契約への完全移行を目指すと宣言されているところもありますが(関連記事:緊急事態宣言を受けハンコ廃止&電子契約へ全面移行宣言した企業まとめ)、自社の方針が決まるまでは、重要度が特に高い契約や、相手方の契約締結権限の信頼性に確信が持てない契約 については、利用を控えたほうがいいというのが筆者の考えです。

具体的には、以下のようなケースが相当します。

  • これまでも代表者名義の実印を押印して印鑑証明書を添付していたような厳格な契約
  • 取引期間が浅いなど、信頼関係がまだ完全には構築されていない取引先との契約

契約期間がどれくらいか確認

その 契約がどれくらい存続することが想定されるか を確認します。取引基本契約などでは、10年以上存続することも想定されるからです。

現在の電子契約は暗号化技術によって支えられていますが、数年後には技術が進歩して暗号が破られるおそれ(アルゴリズム危殆化リスク)があります。「誰が」電子署名をしたかを証明する電子証明書の有効期間は、長くても3年程度であり、電子証明書の有効期間経過後は「誰が」電子署名したかを証明することが難しくなります。

この問題を解消する方法に長期署名があり、クラウドサインのように長期署名が施されていれば、電子署名後10年間は危殆化を心配する必要はありません(関連記事:電子契約と電子署名の有効期限を延長する「長期署名」の仕組み)。

しかし、10年以上存続する契約は再び長期署名を施す必要がありますので、10年以上存続することが見込まれる契約には、社内で長期署名の管理体制を構築するまでは利用を控えたほうがよい、というのが筆者の考えです。

利用する電子契約サービスの詳細を確認する

法的にも、社内的にも、性質的にも電子契約の利用に支障がないと判断できれば、次は利用する電子契約サービスの詳細を調査します。

電子契約での締結を打診される場合、「●●サインを利用したい」と特定の電子契約サービスを指定されるので、その電子契約事業者のウェブサイトやヘルプセンターのQ&Aを確認し、以下挙げる点について情報を収集します。

「当事者署名型」なら電子証明書の取得費用と必要な手続きを確認

現在の電子契約サービスは、

  • 当事者署名型
  • 事業者署名型(立会人型)

に分類され、どちらを利用するかによって必要な準備や手順が変わります。

「当事者署名型」の場合、事前に締結者の署名鍵と電子証明書を準備する必要があります。取得にあたっては身元確認のプロセスがあり、費用も発生します。筆者の経験では、電子証明書の取得費用は取引先が負担してくれましたが、確認が必要です。

定評ある電子契約サービスであれば、基本的には問題ないと信じたいところですが、電子証明書の信頼性が高いといえないものもあります。当事者署名型を標榜していても、「認証」とは名ばかりで、契約の相手方がWebフォームに入力した情報が、特に審査等もなく電子証明書としてそのまま入力されてしまうサービス もあります。

法務としては、電子証明書発行の手続きを確認し、懸念がある場合には、契約相手・内容や締結プロセスを総合的に検討して、発行される電子証明書の信頼性・なりすましリスクが排除できているか確認すべきでしょう。

「事業者署名型」なら締結者のメールアドレスの開示可否を検討

他方、「事業者署名型」の場合は、上述のとおり 締結者のメールアドレスが相手方に開示されるので、その是非を検討 する必要があります。

代表者名義の契約の場合は、原則として代表者のメールアドレスを利用することになり、ためらいを覚える企業が多いのではないでしょうか。中には、締結専用のメールアドレスを設けて個人のメールアドレスの公開を回避される企業もありますが、本格導入に至らないうちはこの方法も選択しにくく、上述のとおり代表者名義の契約を電子契約とすることは難しいように思われます。

文献の中には、電子契約サービスの使い勝手を確かめた方がよいと指南するものもあります。しかし、使い勝手は実際に使ってみないとわかりませんし、次の理由から筆者はあまり気にしていません。

  • 最近のリーガルテックに耐えられないほど使いにくいUI・UXのサービスはないはずだという期待
  • 自社で本格的に利用するサービスを選定するわけではないという気楽さ

むしろ、相手方の立場を経験する「お試し」のよい機会と捉えています。

認定タイムスタンプが付与されることを確認

電子契約を安心して利用できる理由は、「誰が」「何に」「いつ」合意したかが改ざん不能な形で記録されるからです。

電子署名は、「誰が」「何に」を確かに記録するもので、その文書が「いつ」作成されたものかを確かに記録するのは、タイムスタンプの役割です。中でも認定タイムスタンプは、総務大臣から認定を受けた事業者(時刻認証局:TSA)が発行するもので信頼性が高く、認定タイムスタンプがあれば、税務上電子データ保存に求められる真実性の確保を満たすことも可能です(電子帳簿保存法施行規則8条1項1号又は2号)。

したがって、できれば認定タイムスタンプが付される電子契約サービスを利用するのが望ましいのですが、認定タイムスタンプという制度は日本独自のもので、外資系の電子契約サービスでは標準装備されていない ようです。

自社がその電子契約サービスのアカウントを持たない場合、電子契約の作成時期の立証が困難になる可能性があるので、この点からも重要な契約や長期間存続する契約には認定タイムスタンプがあるほうがよいでしょう。

契約書の文言が電子契約に合っているか確認する

社内ルール上も契約の性質上も問題がなく、指定された電子契約サービスが安心して利用できそうなものだと確認できれば、提案どおり電子契約により締結してよさそうです。では、契約書の内容は普段どおりでよいのでしょうか。

結論としては、紙の契約書の同じ内容のままで大きな問題はないと考えます。

しかし、紙から脱却して電子契約にする趣旨を考えると、「書面による事前の承諾がない限り」「権限ある代表者が記名押印した書面によらない限り」といった文言がある場合には、修正を検討 してもよいかもしれません。

「本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙記名押印の上各1通を保管する。」といった契約書の後文も同様 に修正を検討します。

合意締結証明書も保存

「事業者署名型」の電子契約サービスには、誰がどのメールアドレスを用いて電子署名したかを事業者が証明する証明書発行サービスがあり、クラウドサインの場合は、「合意締結証明書」がこれに当たります。

クラウドサインの場合、PDFファイルの署名パネルに多くの情報が記録され、誰が電子署名したかも締結したPDFファイルを見れば確認でき、合意締結証明書がなくてもあまり問題になりません。一方、電子契約サービスによっては、合意締結証明書(呼称は事業者により異なります。)を確認しなければ、誰がどのメールアドレスから電子署名したのかがわからないものがあります。

そこで、合意締結証明書により適切な権限者・メールアドレスにより電子署名されていることを確認した上で、電子契約ファイルと合意締結証明書をセットで保存しておきます。電子契約サービスのアカウントを作成すれば、いつでもクラウドからダウンロードできることが多いようですが、その電子契約サービスのアカウントに将来にわたってアクセス可能とは限らない ためです。

筆者は、過去、どの電子契約サービスも署名パネルを見ればクラウドサインのように何でもわかると思い込んでおり、とある有名な電子契約サービスの利用を許可したとき、この保存の指示を忘れるという失敗をしました。結果、その電子契約は、締結権者と思しき署名画像はあるものの、自社も相手方も誰が電子署名を施したのか不明のままです。

慣れないうちは紙に印刷して保存

さらに、ちょっとばかばかしいのですが、私の所属先では、紙の契約書と同様に電子契約を合意締結証明書とともに印刷して保存しておいたほうがよいと判断しました。

理由は2つあり、ひとつは、紙の契約書と電子契約が混在していると、「あの契約書はどこにある?」と捜索が難航することが予想され、当面は紙の契約書の保管ルールに寄せるほうが無難なためです。

もうひとつは、電子帳簿保存法との関係です。電子契約をデータのままで保存するには、電子帳簿保存法が求めるいくつかの要件を満たす必要があります。導入準備が整っていない段階では、真実性の確保や検索性の確保といった要件を満たせない可能性があります(関連記事:契約書の「データ保存」と電子帳簿保存法—電子契約データ保管の注意点)。

電子契約に慣れないうちは、印刷して紙の契約書とともに保管しておくことが無難です

まとめー重要ポイントさえ抑えれば案ずるより産むが易し

以上のとおり、「電子契約で締結したい」と取引先から依頼があった場合でも、抑えるべきポイントさえ法務部門が抑えておけば、基本的には前向きに検討することで問題ない というのが筆者の考えです。

実際に複数の電子契約サービスを利用してきましたが、今のところトラブルになった事例はありません。

自社にふさわしい電子契約を選定するためにも、お試しで応じてみるのは一案ではないでしょうか。

(イラスト・文 いとう)

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